第157話
美樹の言葉に、サーダイン様が考え込む。
確かに、言われてみる限り、ゴーレムの脅威と言うのは、その防御力と力による物で、平均以上の相手ともなれば、簡単に対処出来る。
それが巨大化しとはいえ、基本的な所は変わっていないだろう。
それこそ、サーダイン様が言ったように、強力な金属製の縄を使って拘束し、威力の高い攻撃を叩き込めば良いだけだ。
しかし、美樹の指摘は、それを分かっているのに使ってくるという事は、何かしらの対策をして絶対の自信があるからだ、と言う物だ。
もしも、対策済みの状態で、それを知らずに同じ対処法をやっていれば、痛い目を見る事になる。
だが、そうなるとどうやって倒せば良いんだ?
「相手がそう言った物に対策していたとしても、効果のある方法を使います」
美樹がそう言うと、その場にあった机に紙を広げて何かを書き始める。
あー、なんだコレ?
でかいスライムか?
そう思ったんだが、どうやらゴーレムを描いたらしい。
「まず、相手が魔法対策をしていた場合、魔法攻撃によるダメージは殆ど無い、とは思いますが、それは直接的な事だけで、発生する間接的な効果までは防げない筈です」
「どういう意味ですか?」
「例えば、『
美樹の言う通り、爆発するダメージだけに意識が向きがちだが、『火球』には爆発した際の炎にもダメージがある。
だから、火災の心配がある森の中や、逃げ場のない閉鎖空間では『火球』を使う事は厳禁と言われている。
偶に、それを無視したり忘れたりする奴がいない訳じゃないが、大抵は酷い目にあって思い知ることになる。
「それと同じで、『
「『岩の壁』にそんな使い方があるとは……壁を作って攻撃を防ぐ為の物にそんな使い方があるという事は、他にも色々と使い道はありそうですね」
マルクス様が美樹の言葉を聞いて考え込んでいる。
まぁ俺達の魔法を利用する知識は、師匠と美樹がアレコレやっていた結果だ。
美樹は言ってないが、本来は相手を囲んだ後、上から水を流し込んだり、下から火を付けたりと、かなりアレな事をやれば効果的じゃ、なんて師匠は言っていた。
「取り敢えず、結局はどう対処すれば良いのですかな?」
「基本は、サーダイン公爵様が言った通りでも良いんですが、まず不用意に近付かない事、拘束に成功したら、少し離れた所で待機してください。 それだけで勝てる筈です」
サーダイン様が美樹に聞いているが、帰って来た答えは意外な物だった。
美樹が言っているのは、相手を捕まえたら放置するだけで良いと言っているのと同じだ。
普通ならそんな事をしても意味が無いんだが、相手がゴーレムともなれば話が変わる。
その言葉の真意が分からず、サーダイン様が困惑したが、マルクス様は理解した様だ。
「……成程、マナの自然消費ですか」
そう、『強化外骨格』の製作時にも試された事で、巨大化させればさせるだけ、マナの消費量は増えていく。
そして、師匠曰く『強化外骨格であれば2m前後』が最適な大きさで、それ以上になっていくと消費量がどんどん増えていく。
報告にあった巨大ゴーレムであれば、マナが満ちている迷宮ならともかく、マナが比較的希薄な自然界では、そこまで長時間動けるとは思えない。
本来なら1日動くだけでマナは尽きてしまうだろうが、何かカラクリがあるのだろう。
「報告の大きさだと、一日も動き続ければ動けなくなる筈なんですけどねぇ……魔石でも多く積んでるんでしょうか?」
カチュアがそんな事を言ってるが、それにしたって長過ぎる。
「では、拘束して監視に留めれば良い、と言うのだな?」
「一応、私も同行しましょう。 もしもの時は、さっきの『岩の壁』戦術で足止めは出来る筈です」
サーダイン様の言葉に美樹達が頷き、マルクス様が同行する事で、コレからの動きが決まった。
まず、大型魔獣を拘束する金属製の縄を使って拘束し、マルクス様率いる魔法師団の一部が、もしもの時の為に待機。
更に、王城には養父と俺達が待機しておく。
もしもサーダイン様達が突破されたら……
「美樹殿、申し訳ないが、もしもの時はこれ等を使っても良いだろうか?」
養父が美樹に『強化外骨格』を防衛に使う事の許可を願っている。
元々『強化外骨格』は対魔獣用として開発した物で、美樹も協力する際に『対人』で使う事を渋っていた。
ここで使用すれば、必ず対人用として使おうとする貴族連中が現れるだろう。
そうなれば、今以上に美樹達の価値が上がり、狙われる事になるだろう。
「それは……」
「勿論、美樹殿の思いも分かっているが、此処でもしもグリアム殿達が負けるか、予想外の場所から襲撃を受け、王都が陥落してしまえば、バーンガイアという国自体が無くなってしまう。 そして、負けてしまえば待っているのは……」
「勝者による搾取と蹂躙ですね」
養父の言葉に続いたのはカチュアだ。
元々、
そして、従属を強いられた後、その技術や力で国に協力する代わりに、範囲を限定されたが生活する事を許されていた。
その間、エルフ達の多くが奴隷狩りと称して、違法奴隷にされていたという。
「美樹ちゃん、もしもここで負ければ、この国の貴族の多くは見せしめとして粛清されますし、私達は捕らえられて、この技術も、本当に戦争の道具にされるでしょう」
最も、魔女様達が許さないでしょうが、とカチュアが呟くが、確かに、師匠辺りが本気で暴れれば、国の一つでも壊滅させる事は出来るだろう。
それに、黄金龍の件もあるから余計だが、あの師匠は気分屋でもあるから、面倒になって何処かへと逃げる可能性も無い訳じゃない。
「前に話しましたよね? その時が来ただけです」
「……分かりました。 でも、出来る事なら防衛の為だけに使って欲しいです」
「それは当然だ。 今回だけ特例として使用するが、コレが終わったら正式に『対魔獣用』として採用して、対人用にはせぬと『契約』をしよう」
陛下がそう言っているが、『契約』と言うのは重要な約束とかで交わされる魔法を使った物であり、コレをどちらかが破ったりすると、破った方に罰が下る。
その際の罰も事前に決める事も出来るが、一番重い物では『破れば死ぬ』と言う物だが、コレは相当重要な『契約』でなければ滅多に書かれる事は無い。
それを受け、『強化外骨格』を持っている全員が門の近くにて待機する事になった。
ただ、ムっさんだけは重犯罪奴隷である為、他からは見えない様に外套を着用し、到着した後、出撃が決まるまでは、門に併設されている詰所の中で監視付きで待機となる。
王都防衛の為にサーダイン様達が出発した後、門は防衛の為に固く閉じられた。
だが、その閉じられた門に近付いてくる人影があった。
その人物はそのまま門を通り過ぎ、王都を守る壁を見上げた後、周囲を見回して何かを手に付けると、垂直の壁なのに一気に駆け上っていく。
そして、壁を越えるとそのまま街の中へと降り立ち、そのまま何処かへと姿を消した。
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