第156話




 決着が付いた後、サーダイン公爵様達と訓練場の隣に併設されている休憩所で待機する事になる。

 養父ヴァーツの予定では、この後は陛下達と少し話をして、『シャナル』に戻る予定になっている。

 と言っても、今回はクリファレスの報告をしに来たついでだったのに、模擬戦するなんて本来は予定には無かったんだが……

 俺用の『強化外骨格』を専用の収納袋に収納する前に、マナを溜めた魔石がどの程度消耗したかをチェックする。

 アレだけ動いて、半分以上残っている。

 カチュア達の調整で、想定以上に効率は良くなっている様だ。


「よし、コレなら自然回復でどうにかなるな」


 『強化外骨格』を収納袋に収納し、休憩所に向かう。

 この収納袋、俺以外には使えない様に専用登録がされているが、『強化外骨格』を与えられた全員が同じ物を持っている。

 流石に『強化外骨格』を普通の馬車で運ぶ訳にもいかないからな。

 師匠は言ってなかったが、この収納袋にもエゲつない罠が仕掛けてあるんだろうな……


「流石だな、二人だけだと侮っていた」


 そう最初に言葉を発したのはサーダイン公爵様。

 まぁそう思うのは無理はないだろうな。

 師匠曰く、世間での魔道具の性能は、多少、生活を便利にする程度で、対人用の魔道具としても、そこまで脅威の物は少ない。

 その考えが根底にある状態で、『強化外骨格』を相手にしていれば、あっさりと瓦解するのも当然だ。

 恐らく、サーダイン公爵様も、師匠が製作に参加していると聞いて、多少は強い物だと考えていたんだろうが、こんなの想定外も良い所だろう。


「いえ、最後の方は流石としか言えませんでした」


 そう言ったのはノエル。

 確かに、降参する前の二人は恐ろしく強かった。

 俺の相手をしていた方は、俺が剣の扱いに慣れていない事を見抜いて、盾によるシールドバッシュをしにくい方向へと動き続け、突きで肩や足を狙って来た。

 まぁ別に木剣を使えない訳じゃないから、斬り飛ばされるのを覚悟で相手の真剣を迎撃し、一気にシールドバッシュで吹っ飛ばした。

 ノエルの方も、巧みに剣と盾を使う相手に苦戦していたが、最終的に剣を弾き飛ばして撫で斬っていた。

 圧倒的な防御力と力があっても、もっと大勢で攻められたらこっちが負けていただろう。


「双方、訓練とは言え良く戦ってくれた」


 陛下がそう言って入ってきたので、その場にいた全員が膝を突いた。

 唯一膝を突いていないのは、吹っ飛ばして怪我をした騎士の治療をしている治癒師だけだ。

 流石に重傷では無いが、無傷にするのは無理だったんだよ。

 数人が、地面に落ちた時に足を捻挫したり、盾で防御した時に、腕の骨に罅が入るか折れている。


「さて、グリアムよ、実際に戦ってみてどうじゃった?」


「ハッ、二人とはいえ、流石としか……いえ、正直な話を言えば、アレならば対処自体は可能かと」


 陛下の視線に耐えられなかったのか、サーダイン公爵様がそんな事を言っている。

 そして、サーダイン公爵様が『強化外骨格』の対処方法を話し始めた。


「まず、見た限りでは動きはそこまで早い訳では無いので、魔法による拘束が出来ないとしても、物理的に拘束する事は可能と言う点ですな。 力の強い魔獣を拘束する際に使用する金属の縄で拘束すれば、動けなくする事は可能でしょうし、逆に足場を不安定化させればソレだけで動きを制限する事も出来るでしょう。 他にも、魔法による直接の攻撃は無力化出来ても、それによる衝撃や影響は受けるでしょうから、それで制限する事も可能でしょう」


 サーダイン公爵様の言葉に絶句する。

 言われた通り、指摘された事は間違いない事で、『強化外骨格』は強いが、別に無敵になる訳じゃない。

 物理的な拘束は出来るし、魔法のダメージは受けないとしても、それで吹っ飛ばされない訳じゃない。

 コレの開発中にムっさんが師匠と戦った事があったらしいが、文字通り、魔法で吹っ飛ばされまくってお手玉状態になって何も出来なかった事があるらしい。

 まさか、一度の模擬戦でそこまで分かるなんて、流石、軍のトップだ。


「ですが、もしも知らずに対処した場合、大被害が出るでしょうな」


「それは私も感じました。 コレは私達のには無い発想です」


 近衛魔法師団の副団長でもあるマルクス公爵様がそんな事を言っている。

 師匠の知識の出所は良く分からない。

 いつの間にか知らない物をポンポンと作っている。


「魔女様の話では、デュラハンやリビングメイルを参考にしたという話ですが……」


 養父がそう言うが、その二種から『強化外骨格』が出来るとは思えないんだが、敢えて言う事はしない。

 そうしていると、訓練場の外の方が何か騒がしくなってきた。

 今日は急遽俺達が使う事にしてしまったが、中止の連絡が行かなかった奴等が来たのか?

 そんな事を思っていたら、休憩所の扉が勢いよく開いた。


「グリアム隊長! 緊急事態っ……陛下!? 失礼しました!」


 飛び込んできた兵士がその場にいた陛下に気が付いて、慌てて膝を突いている。

 その兵士の肩には、この国では伝令を表す『鳥の片翼』があしらわれている紋章が付いている。


「よい、何やら緊急なのだろう。 そのままでの報告を許す」


「ハッ! シュトゥーリア領より緊急の伝令が届きました! シュトゥーリア領内の王都に近い場所で謎の巨大ゴーレムが出現し王都へと進行中! 迎撃に当たったシュトゥーリア領の防衛部隊が壊滅! 至急、防衛準備を行われたし、との事です!」


 陛下が発言の許可を出すと、伝令兵が報告したのだが、その内容はある意味で最悪の報告だった。

 シュトゥーリア領はこの王都に近く、そのシュトゥーリア領の王都近くで謎のゴーレムが現れたと言うのも不可思議な事だ。

 しかも、シュトゥーリア領の防衛部隊と言えば、兄貴ドラーガが率いる部隊だ。

 魔法においては強力な魔法を使う兄貴がいて、壊滅するなんて何が……


「陛下、直ぐに防衛準備を行います!」


「ちょっと待ってください!」


 サーダイン公爵様が陛下に一礼した後、慌てて伝令兵と共に部屋を飛び出そうとしたのを止めたのは、以外にも美樹だった。

 全員の視線が彼女に集中する。


「伝令兵さん、まず確認させてください。 その巨大ゴーレムって言うのは、二足歩行? それとも多脚ですか?」


「報告では……恐らく二足歩行かと」


「では、次にマルクス様、私の知識ではゴーレムと言うのは、岩とかの魔法生物だったり、魔法で作ったりする物ですが、あっていますか?」


「……迷宮で誕生するゴーレム以外では、錬金術等の知識があれば製作可能ですので、その知識でほぼあっていますね。 あの辺りには迷宮は無い筈ですが……」


 マルクス様の答えを聞いて、美樹が考え込んでいる。

 こうしている間も、その謎のゴーレムは王都へと向かっているのだから、待たせた理由くらいは話して欲しいんだが……


「それじゃ最後の質問です。 グリアム様、もしも対処する場合、どのような作戦を考えていますか?」


「相手の体躯にもよるが、まずは騎馬を使って大型魔獣を拘束する為の金属の縄で足を拘束し、攻城兵器で横倒しにした後、槌などで間接や継ぎ目から破壊する、と言う物だが……」


「………まず、私のいた世界では、巨大二足歩行兵器って言うのは、あまり戦闘には向かないって言われているんです。 大きくなればそれだけで的になりますし、大きいという事は、その分、重量もあるから自重もあって鈍重になるし、関節だって耐えられない」


 そこまで言って、美樹が息を整える。

 そして、全員を見回した。


「つまり、迷宮で自然発生した物では無く、誰かの手により作られた物である以上、その巨大ゴーレムには、的になっても問題無い、もしくは鈍重にならないだけの、何かしらのがされている筈です。 従来の方法では倒せないと思って行動した方が良いと思います」

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