第147話




 その日、王都の外でクーデター軍が村の幾つかを襲撃し、『クーデター活動への協力』として、その村にあった食糧を奪い取ったと報告を受け、護衛部隊を率いて急行したが、当然、クーデター軍は既に去った後で、無残に破壊された村だけが残されていた。

 村人と一緒に片付けをし、食糧を渡して何とか立て直しを約束するが、此処最近、同じ事の繰り返しだ。

 クリファレスは広大な領土を持っているが、クーデター軍は神出鬼没で、此方が急行するまでに逃げてしまう。

 しかも、王都周辺では活動をせず、必ず、急行しても数日かかる村だけを狙っている事から、此方の内情が相手に漏れているのは確実だ。

 だからと言って、誰が内通者なのかなんて分からず、こうして無駄だとは分かっていても部隊を送って救援作業をしているという訳だ。


 王都へと戻り、城下町にある宿舎で一休みをしてから簡素な食事を済ませる。

 食糧は救援物資として送ってしまっているので、王族でもない限りは食事も簡素になっている。


「進藤様、クーデター軍の動きなのですが、最近更に増えましたね」


 そう言ったのは、俺が率いる護衛部隊の副隊長を務めている『フェイリス』と言う男で、年齢的には30代と俺達の倍くらいあるのだが、平々凡々と言う実力で隊長にはなれないが、かと言って平兵士にしては強い為、他の部隊では居心地が悪かったらしく、俺の部隊に引き抜く際、喜んでいた。


「困った事にね……しかも、此方の嫌がるような場所を狙ってくるから、始末が悪い」


「それと、指示されていた勇者の探索ですが、手掛かりすら見つかりませんし、やはり何処かで……」


 フェイリスの言葉を手で制する。

 バーンガイアから帰還した際、誠一郎が戻っていないと報告を受けて、ずっと探索させていたのだが、未だに目撃情報すら出てこない。

 流石に飲まず食わずで王都に戻るなんて事は、ずば抜けて身体能力が高い誠一郎でも不可能な事であり、必ず何処かで立ち寄っている筈なのだ。

 それに、あの性格なら立ち寄った所でトラブルを起こした筈だから、簡単に手掛かりが見付かるかと思ったんだが、未だに手掛かりすら見付からない。

 コレは確実に、何処かで匿われている為だと思うが、誠一郎が大人しく匿われているのか、それとも何かしらの魔道具なりを使用して拉致されているのか……


「あの誠一郎が簡単にやられる事はないだろうし、大人しくしているとも思えない」


「ですが、ここまで何も見つからないとなると……」


 フェイリスの言う事も理解出来るが、俺にはどうしてもあの誠一郎が死んでいるとは思えない。

 悩んでいたら、城の方からドーンッと何かが爆発する様な音が響き渡った。

 慌てた様にフェイリスが急いで窓を開け、見える範囲を見回すと、王城の方から煙が上がっているのが見えた。

 急いで壁に掛けてある剣を手に取り、フェイリスには部隊を急いで纏めて貰って急行するように指示を出す。

 俺自身は、それよりも先に王城へと駆けて、何が起きているのかを確認しなければならない。

 当たり前の事だが、王城で爆発なんて起きる筈がない。

 魔術の実験や、俺達から得られた科学知識で科学実験もやる事はあるが、危険だから王城から離れた場所に専用の研究所があるので、爆発しても王城に被害は少ない。

 つまり、何かが起きたという事だ。

 道では王城の爆発で混乱した人の往来があり、流石にここを駆け抜けるのは時間が掛り過ぎる。

 なので、一足飛びで屋根に跳び上がり、屋根の上を駆けて行った。



「何があった!?」


 王城内は混乱の極みにあった。

 複数の兵士や騎士が入り乱れて斬り合い、メイド達が悲鳴を上げて部屋に逃げ込んでいる。

 そこに俺が現れた事で、一部の兵士達がギョッと驚いている事から、驚いている側の兵士は敵なのだろう。

 ただ、その兵士の身に着けている鎧は、クリファレス軍で使用されている物で、彼等も身内と言う事なのだが……


「剣聖覚悟ぉっ!」


 思考の混乱で立ち止まってしまっていたら、横手から剣を腰溜めに構えた兵士が突っ込んできた。

 その兵士に対して、ほぼ無意識に剣を振り抜いて、その剣を弾き飛ばし、左の拳で殴り飛ばしていた。

 最も、その兵士が持っていた剣では、俺の新しい鎧には傷一つ付かないとは思うのだが、もしも隙間とかを突かれたら流石に耐えられない。

 それを見て、兵士の一部が俺目掛けて一気に襲い掛かってくるが、その動きは、ルーデンス卿にもレイヴンにも遠く及ばない。

 兵士達の攻撃をよく見て、危険な攻撃のみ剣で弾き飛ばし、当たっても問題無い攻撃は鎧で受け、冷静に対処して兵士達をどんどん無力化していく。


「進藤様、助かりました!」


「礼は良い、それよりも一体何があったんだ、先程の爆発も……」


 助けた騎士の一人が、剣を鞘に戻しながら礼を言ってくるが、俺が知りたいのは今の状況だ。

 外から見た限りでは、ただ爆発が起きただけだが、こうして見る限り、明らかに異常事態。

 倒れている騎士達はメイド達と協力して部屋に運び込み、息がある者は応急処置が行われている。


「それが我々にも……部屋の一つが爆発したと思ったら、この兵士達が現れ、我々の停止命令を無視して襲い掛かって来たので対処していたのですが……」


「隊長! コイツ等、全員ジャックス様の兵士の様です!」


 俺達が話し合っていると、別の騎士が縛り上げた兵士を引き摺ってくる。

 そして、その兵士が腰に下げていた短剣を外すと、その柄を俺達に見せてきた。

 そこにあったのは、剣に巻き付いた薔薇の紋章であり、コレは第二王子が紋章として使用されている物だ。

 他の兵士達の持っている短剣も、全部同じ紋章が付いており、此処にいる兵士達は全員、第二王子の私兵と言う事になる。

 当然、この紋章は偽造出来るのだが、王族の紋章を偽造すれば、如何なる理由があろうとも死罪だ。


「……まさか、爆発があった部屋は隠し通路がある部屋で、そこから彼等が入り込んだ?」


 王城には、王族だけが知っている隠し通路があり、もしもの時はそこを通って逃げる、なんて事があるという話だが、もしもそれを逆手に取れば、外から王城に入り込む事も簡単だ。

 もしもこの考えが正解だとすれば、第二王子であるジャックス様が、国家転覆を狙うクーデター騒ぎの首謀者と言う事だ。

 だが、ジャックス様がクーデターを成功させる為には、陛下と王太子殿下、更に二人を守る俺を倒さねばならない。

 俺が遠く離れた時に王城に侵入すれば良いのに、何故、俺達が戻って来てから騒ぎを起こしたのか……


「全員、陛下達の護衛に迎え! 彼等の狙いは陛下達だ!」


 俺の指示を受け、この場にいた騎士達が全員『ハッ!』と声を上げる。

 俺は命令権を持ってないから、本来は越権行為になるのだが、緊急事態である以上、彼等が文句を言う事は無く、全員が速やかに走ってその場から移動する。


 いや、移動しようとした。


「ソイツは困るんだよなぁ」


 そんな声がしたと思ったら、全員の目の前に黒い何かが天井から落ちて来た。

 そして、ザリッと音がして、その黒い物体が騎士達の間をすり抜けていく。

 ほぼ咄嗟に俺が剣を構えた瞬間、その黒い物体が振り抜いた剣を受け止め、騎士達の首から夥しい血が噴き出した。


「チッ、相変わらず勘の良い野郎だな!」


「お前、まさか……」


 受けた剣は禍々しい赤いオーラを放っているが、それよりも、この黒い物体は……

 そう思った瞬間に、腹部に衝撃を受けて後ろに吹っ飛ばされた。

 その勢いも利用して、その黒い物体が身に着けていたを掴んで引き剥がす。


「……やっぱり、せい………ろ………?」


 全てを剥ぎ取れなかったが、半分以上のローブを失って、現れたのは誠一郎、によく似た青年。

 何故似ているのかと言えば、肌の見えている所には無数の血管の様な物が浮き上がり、その肌の色も若干、色を失って青白っぽくなっている。

 何よりも、その眼の色は赤く染まっていた。

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