第146話




 ヴァーツ殿達がグリフォンに乗って王都へと向かい、ワシ等は暇をしておる、と言う訳でも無く、ワシ等はクリファレスからやってくる難民受け入れの為のテント村を作る為、駆け回っておる。

 まずは、冒険者ギルドから追加で何名もの冒険者を受け入れ、テント村が出来る場所の周辺を調査し、危険な魔獣がおらぬか、毒草の類が無いかと調査をしてもらい、報告が来るまでに商業ギルドで丈夫な布を何枚も注文し、それにエルフの森から採取した防水用の樹液を薄めて塗布し、防水布を作って、簡易のテントを量産しておくのじゃ。

 と言うのも、この場にはまだ50名ほどしかおらぬが、浅子殿と第三王子であるアレス殿が言うには、クーデター軍により、田畑を焼かれてしもうた農民や村がいくつもあり、どんどん逃げて来るじゃろう、と説明されたからじゃ。

 もし使わんでも、防水布製のテントはそのまま冒険者ギルドに売買出来るので、そこまで損は起きておらぬ。

 まぁ必要にならないのが一番なのじゃが……



 そう思っておったのじゃが、願い虚しく、一週間もしたら難民は500人を超え、今も続々とやって来ておる。

 そこで、イクス殿達数パーティーにクリファレスとの国境まで行って調査を頼んだのじゃ。

 ワシや兄上が行くのが早いんじゃろうが、残念な事にワシは難民対策で動けず、兄上は兄上で冒険者を連れて魔獣狩りを行っておる。

 と言うのも、難民達を飢えさせる訳にもいかぬが、消費が一気に増えてしまった為に、急いで増やさねばならぬ。

 穀物はエルフ達の成長促進魔法で増やせるが肉は増やせぬ。

 なので、兄上達によって広範囲を探査し、可食可能な魔獣や動物を狩って貰っておるという訳じゃ。

 狙い目は、今は懐かし『パイクラビット』や、何処からともなくやってくる『オーク』じゃな。

 パイクラビットは繁殖力が凄まじく、あっという間に増えるんで、ワシ達が住んでおる山の麓にある村では、狩人だけでなく、男衆も定期的に狩っておるのに、未だに根絶されておらぬ。

 そして、オークに関してじゃが何処から来ておるかも分からぬ。

 いつの間にかやって来ては、小規模な群れを形成し、冒険者が襲われておる。

 この世界でのオークじゃが、お話に登場する様なエ〇オークでは無く、男女問わず食料にされる感じじゃの。

 今の所、食糧にされてしもうたという話は聞いておらぬが、そうなる前に叩いておる、と言う感じじゃ。

 それで入手した物は冒険者ギルドに持ち込まれ、ミアン殿が『シャナル』の予算で購入しておる。

 気になっておるじゃろうが、今回、購入する為に使用した分の予算は、国にちゃんと申請して補填して貰えるのじゃ。

 最終的にはクリファレス側に請求して支払って貰うのじゃが、まぁ払っては貰えんじゃろう。

 それに、今、クリファレスを支配しておるのは、あの勇者じゃし余計じゃろうのう。



 まぁそれはともかく、ワシ等の目の前には長蛇の列が出来上がっておる。

 ミアン殿が派遣した文官によって、難民の氏名や元居た村の名前を纏め、それが終わったら難民用としてドワーフ達に依頼して用意した腕輪を付けさせ、怪我や病気を持っておらぬかを、ワシやエルフ達によって診断と治療が行われ、その後、簡素な食事が提供されておるのじゃ。

 簡素な食事と言っても、ただのパンやスープでは無く、パンはベヤヤがエルフに指導して作らせた、クルミに似た木の実を炒り、養蜂が始まった事で手に入るようになった蜂蜜に漬けて甘くした物を混ぜて焼き上げた物で、非常に美味じゃ。

 スープも、パイクラビットの干し肉を出汁にして、野菜を増やし、ベヤヤが個人?個熊?的に作っておるハーブを使った物になっておる。 

 ただ、これ以上増えてしまうと、供給が追い付かぬ事になる。

 なので、どうにかして欲しいのじゃが、しばらくは苦労する事になるじゃろう。

 此処が踏ん張りどころじゃなぁ、なんて思いながら新たにやって来た難民を診断し、多少の栄養失調と擦り傷を診断書に名前と共に書いて、外におるエルフの一人に手渡し、傷用の軟膏を処方させておくのじゃ。

 それを終えた難民は、ドワーフ達によって建てられたテントに移動し、商業ギルドから提供されておる衣服や毛布等を受け取り、しばらくした後は、商業ギルドから簡単な仕事を熟す事で収入を得る事になっておる。

 今の所、主婦には糸紬や機織り、男衆には『シャナル』の周辺にある農村にて農作業や、林の植林や間伐作業をやって貰う事になっておる。

 この農作業に向かう男衆には、冒険者による護衛が同行する事が予定されており、駆け出し冒険者の腕上げも兼ねておるのじゃ。

 しかし、これが冬とかじゃなくて助かったのじゃ。

 もし、これが冬とかじゃったら、エルフの植物促進魔法が使えず、難民が餓死や凍死する危険性もあったからのう。

 まぁ何か考えんと、食糧の供給量が間に合わずに、餓死者が出てしまう危険性があるからのう……

 栄養価も保存性も高いコワの実があるんで、早々餓死者は出ぬじゃろうが、コワの実だけでは駄目じゃから、他にも何か考えるのじゃ。

 そう思って商業ギルドで資料を取り寄せ、ミアン殿とドミニク殿と一緒に考えた結果、ヴェルシュでは割とあり触れた植物じゃが、バーンガイアやクリファレスではあまり育てられておらぬ植物が見付かったのじゃ。

 それがジャガイモなんじゃが、こっちのジャガイモはサイズ的には小粒で、更に『毒があって獣人以外が食べると死にはしないが酷い事になる』と言われておるのじゃ。

 まぁ地球でもあった事じゃが、ジャガイモは変色した部分に毒を持つ為に、当初は『観賞用』として育てられ、食用になったのはかなりの期間が経過してからじゃ。

 異世界でも同じ様じゃが、獣人種は耐性があるのか強いんじゃな。

 ワシはミアン殿達にジャガイモの毒に付いて説明し、とても有用な植物である事を説明して、取り寄せて貰って、植え付けを行う事になったのじゃ。

 そもそも、バーンガイアでは観賞用として育てられておったから手に入ったが、その数はそこまで多くは無い。

 なので、エルフ達によって成長を促進させ、種芋を増やそうと計画したのじゃが、この成長促進魔法にもちょっと問題があるのじゃ。

 それが、元になる植物を無理矢理成長させる際に、土地の栄養をかなり消耗してしまう為、十分な栄養を補給出来ぬ場合、不毛の土地に変えてしまうのじゃ。

 土地の栄養枯渇に関しては、ワシが栄養剤をばら撒くので大丈夫じゃが、エルフ達も最初は使用を控えておったくらいじゃ。

 便利なんじゃが、便利な物ほど乱発したら大変な事になるのじゃ。


「それで、イモに関してじゃが、色々な料理にも使えるのじゃよ」


 食卓に置かれておるのは、茹で上げられたジャガイモなのじゃが、コレ以外にも蒸かしたり、揚げたり、焼いたり、煮たりと料理の幅は広いのじゃ。

 まぁ茹で上げて塩とかを付けて食べるだけでも十分じゃが、料理の添え物にもメインにもなるのが、ジャガイモの良い所じゃ。

 ミアン殿とドミニク殿以外にも、商業ギルドと冒険者ギルドの職員達に実際に食べて貰いながら、芋の万能性と、ちゃんとした保管方法を説明するのじゃ。

 そして、芋を茹で上げただけじゃが、意外と好評なようで、職員達も保管方法が比較的簡単なので、保存食の一つとして検討する事になったのじゃ。


 当然、そんな便利な食材を見逃す料理熊ベヤヤでは無く、ワシの説明で色々と料理を思い付いたのか、一抱え程あるジャガイモの入った籠を持って帰っておる。

 当然、代金はベヤヤが払っておる。

 この料理熊、自身の畑でエルフから分けて貰ったハーブを育て、それを複数調合したハーブティーを商業ギルドで売りに出しており、コレが意外と貴族の間で好評になっていて、それなりに稼いでおる。

 他にも、スパイスの調合もしておったり、ミルクの凝固作用がある木の実の苗を注文しておったりと、料理を心底楽しんでおる。

 コレはしばらくはイモ料理が続くかのう。


 そう考えておったら、ワシ等の所に、剣聖殿が意識を取り戻したと急報が届いたのじゃ。

 コレでクリファレスで何が起こったのか、詳しい話が聞けるのう。

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