第145話
皆、理科の実験でカエルの足に微弱な電気を流すと、ピクンピクンと動くという実験を見た事はあるじゃろう。
あれは、電流によって筋肉を動かしておると言う事で、逆に外部から電流を流せば疑似的に筋肉を動かせるのじゃ。
ワシが微弱な雷魔法を流して確かめたかったのは、この手が本当に生身の手であるかどうかと言う事じゃ。
何せ、使えぬ筈の魔法を使っておったり、切断面から血の一滴すら出ておらぬとすれば、実は精巧に作られた義手や、魔道具の様な物では無いか、と思ったからなんじゃが……
パチッと音がした瞬間、ビグンッと手が跳ね上がり、網目結界の中で激しく暴れ始めたのじゃ。
そりゃもう、箱罠に掛かった小動物が如く、凄まじい暴れっぷりなのじゃ。
「キモッ!?」
「なんだとっ!」
その暴れっぷりに、全員が驚いて思わず全員が机から離れる。
その中で、兄上が渡しておいた鉄串を勢い良く、暴れ回る手に突き刺して、机に張り付けにしたのじゃが、それでも相変わらず暴れまくっておる。
それでも、切断面や鉄串が刺さった部分からも血が出ておらん。
「で、コレは一体どういう事だ?」
「いや、ワシにも何が何やら……ただ、少なくともコレは普通の人の手では無い、と言うべきじゃろう」
そうして話し込んでおると、次第に手の動きは遅く、弱くなっていき、最終的にピクリとも動かなくなったのじゃ。
取り敢えず、結界はそのままにし、鉄串で触れてもう一度微弱電流を流してみたのじゃが、これ以降、動く事は無かったのじゃ。
「普通の人の手では無い、と言う事は、勇者は人族では無い、と?」
「いや、現段階ではそうとも言えんのう……実は勇者のフリした魔獣じゃったとか、精巧に作られた魔道具の義手なのかもしれん。 詳しくは解剖してみん事には断言出来ぬ、と言う訳で、ドミニク殿はちと協力して欲しいのじゃ」
本当なら医学にも深い知識があるニカサ殿が居れば良いのじゃが、ニカサ殿は王都におるし、今から呼んでも時間が掛り過ぎるのじゃ。
ドミニク殿なら『賢者』じゃし、そこ等辺の知識も持っておる筈じゃ。
瑠璃殿達が使っておる水晶鏡を使えれば良いのじゃが、アレはあくまでも瑠璃殿達が天界から来る事を前提に作った物じゃから、地上同士で使う事は考えておらん。
似たような物で、ワシ等のアイテムボックスや収納袋を応用して転移門の様な物を作れぬか考えたのじゃが、遠く離れてしまうと、片方の口が使えなくなって断念したのじゃ。
ワシと兄上でアイテムボックスを共有化しておらぬのも、この辺りが原因なのじゃ。
コレはワシの考えじゃが、ワシ等のアイテムボックスは『亜空間に物を保管する事が出来る』のではなく、『自身の周囲に亜空間を創り出して物を保管している』と言う事ではなかろうか。
じゃから二人で共有化しても、相手から遠く離れてしまうとその亜空間にアクセスする事が出来なくなり、互いに共有化が出来ぬのじゃ。
転移門の場合、互いの座標が分かれば空間を曲げて繋ぐ事は出来るんじゃが、コレが非常に難しいのじゃ。
ぶっちゃけ、設置位置が1ミリ、角度が1度でもズレると繋がらぬ。
まぁ無理矢理に繋ぐ事は出来るのじゃが、下手に使うと全然違う所に出てしもうたり、『いしのなかにいる』なんて事にもなってしまう危険性があるのじゃ。
実際、転移門の研究中にそう言う事故が多発し、危険過ぎるという事で表向きは人体実験は行われておらん。
「確かに、俺もある程度の知識はあるが、詳しくは分からねぇぞ?」
「ワシだってそこまで詳しくは無いが、流石に訳の分からん物じゃから、知恵は多い方が良いのじゃよ」
当然、もしもの場合に備えて、兄上とノエルも同席してもらうのじゃが、どうなるかのう……
そうしておったら、
と言うのも、クリファレスのクーデターについて陛下に報告をしてもらう事になっておるからじゃ。
グリフォンに乗っておるから、第三王子のアレス殿達より早く到着するじゃろう。
ついでに、ワシからニカサ殿宛に手紙を書いて渡して貰うのじゃが、『手』の解剖結果も合わせて記しておいたのじゃ。
その『手』の解剖じゃが、恐るべき事が分かったのじゃ。
まず、手の甲からメスを入れて皮膚を切り取り、脂肪、筋肉、骨と調べていった中に、謎の黒い糸の様な物があったのじゃが、それが全ての指先まで伸びておる。
それを取り除き、白い紙の上にピンセットで伸ばしてピン止めし、虫眼鏡で見たのじゃが……
思わず『うげっ』と声が出てしもうた。
___________________________
名前:改良マナワーム(末端)
品質:低(劣化)
状態:栄養失調・餓死
___________________________
『鑑定』を使用した所、この糸の様な物は所謂寄生虫。
しかし、ただの寄生虫では無く、その甲殻は魔道具などにも使われる程、良くマナを通すのじゃが、本来はここまで長く、途中で枝分かれして成長はせぬ。
自然界では精々が5cm程度で、基本的に他の昆虫に寄生しておる。
地球で言う所の『ハリガネムシ』みたいなモンじゃ。
じゃが、コレは何者かの手により改造され、サイズも生態も変化しておる。
違うのはサイズ以外にも、寄生した相手の血液を吸って生きておるようで、解剖した手の中には一滴も残っておらんかった。
他にも、ドミニク殿が言うには神経が見当たらないらしいのじゃが、もしかしたらとワームの先端部を虫眼鏡で見た所、ムカデの様な頭部が付いておった上に、胴体部にも小さいが足が無数に生えておった。
それを見た瞬間、鳥肌が立ったのじゃ。
つまり、このワームが本来ある筈の神経を喰って成り代わっておったから、大暴れしたんじゃな。
しかし、末端と言う事は、本体はまた別の場所にあるという事なんじゃが、魔法回路に成り代わっておる以上、本体は恐らく胸の魔法回路の大元にいるんじゃろう。
一番分からぬのは、それでどうやって魔法を使う様に指示を出しておるかじゃ。
やはり、勇者本人をしばき倒してとっ捕まえて、全身を調べねば分からぬのう。
後、瞬時に部位欠損を治したという話じゃが、こっちは、ちょっと嫌な予想をドミニク殿と立てたのじゃ。
それは、マナワームの様な寄生虫に寄生されておると言う事は、他にも寄生されておるのでは?と言うものじゃ。
此処にある右手の筋肉や骨は普通の物じゃったが、再生したのは本当の右手では無いじゃろうなぁ……
浅子殿は剣聖殿の看病をしたいと言っておったのじゃが、今回の件では速やかに報告をせねばならぬ以上、移動に使用するグリフォンに細かい指示が出せる浅子殿にしか出来ず、浅子殿だけでは王都の方角や場所も分からぬし、例え王都に到着しても直ぐに入る事が出来ぬので、ヴァーツ殿に同行してもらうのじゃ。
それ以外にも、ヴァーツ殿は浅子殿の護衛も兼ねておるし、他にも、ヴァーツ殿は『強化外骨格』の報告を陛下にする予定もあったから丁度良いのじゃ。
その為、説明するのに設計協力者として美樹殿とカチュア殿、協力者としてバートとノエル、後は一応ムっさんも連れて行くのじゃ。
兄上はもしもの時の事を考えて『シャナル』でワシと留守番なのじゃ。
そもそも、剣聖殿は呪いの影響で、しばらくは目を覚まさぬし、目を覚ましてもリハビリをせねば戦線復帰は難しいのじゃ。
そう言う訳で、速やかに報告をしてきて欲しいのじゃ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます