第144話




 まずは兄上がやったであろうが、手持ちの上級ポーションを使ってみたのじゃが、火傷に掛けた瞬間、シュゥシュゥと音を上げて蒸発したのじゃ。

 傷口にも掛けたのじゃが、同じ様に蒸発したのじゃ。

 うむ、コレはただの火傷や傷では無いのう。

 少なくとも普通の火傷なら、上級ポーションなら傷跡も残さずに治せるのじゃ。


「取り敢えず『鑑定』なのじゃ」


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 名前:進藤 勝也


 職業クラス:剣聖


 種族:人


 状態:衰弱・裂傷(呪傷ジュショウ)・火傷(呪炎ジュエン

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 ふむ、ただの火傷や傷では無いとは思ったが、やはり呪い付きじゃったか。

 と言う事は、相手は相当な使い手じゃろうな。

 何せ、剣聖殿の使っておる剣や防具は、うちのドワーフやエルフの面々が手塩に掛けた、黄金龍殿の爪を使った物じゃから、相当に防御性能は高いのじゃ。

 寧ろ、そう言う防具だからこそ、生き残れたとも言えるのじゃが……

 コレが前のミスリルとかの防具や剣だったら、多分、道中で呪殺されておったじゃろう。


「治せるか?」


「うーむ、手段を選ばねば出来ん事は無いのじゃが、ちょっと神社に行って来るのじゃ」


 そう言ってから、神社へと向かった後、瑠璃殿に頼んで井戸から水を汲み、ポーションの小瓶数本に入れた後、そこにシオーネ殿が祝言を唱えて、所謂『聖水』へと変化させるのじゃ。

 言うのは簡単じゃが、祝言にマナを籠めておるので、『聖水』を作るのは相当に疲労するのじゃ。

 実際、『聖水』が出来上がった際、シオーネ殿の額には汗が浮かび、息も絶え絶えの状態になっておる。

 ありがたく『聖水』を受け取り、剣聖殿が寝ておる病室に戻ると、その聖水を火傷を負った右腕に少量掛けてみる。

 ジュゥゥゥゥと音がして、火傷が綺麗さっぱり消えて、綺麗な肌になったのじゃ。

 うむ、コレならなんとかなるのう。

 取り敢えず1本だけ残し、残り全てを使って傷を塞ぎ、火傷も顔と胸部を中心にして治しておくのじゃ。

 使わなかった一本じゃが、コレはちょっと今後の為に研究したいのじゃ。

 主に、この呪いを使用しておる相手対策。

 もしも、この呪いを自在に操り、大量に被害者が出てしまったら、シオーネ殿がぶっ倒れてしまうのじゃ。

 他にも、あの怪我が魔道具で付けられたのであれば、もしも模造品を増産されたら、手が付けられなくなってしまうのじゃ。

 そこでこの『聖水』を研究し、少しでも対応出来る手段を増やしておきたいのじゃ。

 シオーネ殿には後で追加の『聖水』を頼む予定じゃが、まずは剣聖殿の治療が優先じゃな。

 ぁ、ワシが作れば良いと思うじゃろうが、不思議な事にワシには『聖水』は作れんのじゃ。

 勿論、『聖水の様なポーション』を作る事は出来るのじゃが、『聖水』と『聖水の様なポーション』では、明確に効果が違うのじゃ。

 それに、ワシの能力ありきでは、将来困る事になるのじゃし。




「さて、コレで剣聖殿は大丈夫じゃろうが、一体全体何があったのじゃ?」


 ワシ等の目の前におるのは、あの時、勇者に隷属の首輪で強制的に従わされておった3人娘じゃ。

 彼女等は、ヴァーツ殿に投げ飛ばされた後、自害出来ない様に拘束されておったのじゃが、ワシがぶっ倒れて神社に運び込まれた後、黒鋼隊の副隊長と言うツルッツルでムッキムキの男が隷属の首輪を、解除魔法を使用して解除して物理的に外したらしいのじゃ。

 その為、彼女達は自由となり、勇者の自白で彼女達の依頼失敗に関する罰金は帳消しとなり、逆に冒険者ギルドが払ったであろう金額と同額の資金が払われ、賠償として追加の金額も払われておる。

 その後、治療を受けた後、剣聖殿達とクリファレスへと戻り、剣聖殿の元で訓練しておったらしく、今回、怪我を負った剣聖殿を救助したらしいのじゃ。

 そして、持っておったポーションを使ったが治療が出来ず、第三王子達が隠れておった場所へと合流し、マナが続く限り、交代で回復魔法を使い続けておったらしいのじゃ。

 そして、彼女達から聞いた話じゃが、要約すると、剣聖殿に大怪我を負わせたのは、あの勇者であり、剣聖殿と鍔迫り合いの際に使えぬ筈の魔法を使って不意打ちをして、右上半身に大火傷を負い、離れた瞬間に斬られたのだという。

 そして、トドメを刺されそうになったが、テイマーの浅子殿が王城の下水に隠れ住んでいたネズミ達と契約しており、大量に勇者達にけしかけて混乱している最中に、剣聖殿を浅子殿のテイムしておったグリフォンが一緒に脱出した後、王都の外周部で合流して逃走に成功したとの事。

 その浅子殿じゃが、商業ギルドに自身の事業を引き継ぐように依頼を出す為、途中で離脱しておるが、必ず合流すると言っておったらしい。


「あ、それとちょっと見て欲しい物があります」


 3人娘の一人、リーダーであるセキュア殿が荷物の中から何かを取り出し、机に置いたのじゃ。

 ふむ、これは随分小さいが収納袋じゃな?


「コレは元々は浅子様の持ち物ですが、剣聖様に渡されていた物で容量は小さい代わりに、中の時間は停止しています」


「それで、見て欲しい物と言うのはなんなのじゃ?」


 セキュア殿が収納袋を逆さにして振ると、ボテッと何かが机に落ちたのじゃ。

 ……コレはどう見ても人の右手じゃな?

 これが何かあるのかのう?


「コレは剣聖様が炎で焼かれた瞬間に斬り落とした、勇者の右手です」


「ふむ?」


「問題なのは、斬り落とした筈のんです」


「はい?」


 確かに部位欠損を治す方法はいくつかあるのじゃ。

 ワシもバートの両手を再生させた事もあるし、世の中にはそう言う魔道具もあるらしいのじゃ。

 じゃが、聞いた限りでは、勇者は斬り落とされた後、直ぐに再生したらしいのじゃが、戦闘中にそこまで再生速度が速いのは異常じゃ。

 それに、斬り落とされた手を繋げる方が楽なのに、それを無視して再生させるなんて非効率じゃ。


「ふむ、少し調べてみようかのう」


 流石に素手で触るのはアレなので、解体とかで使う皮手袋を使って直接触らない様にして、持ち上げるのじゃが、ブニブニしておってちょっと気色悪いのう。

 ……しかし、どう見ても普通の手にしか見えんのじゃが……


「……斬り飛ばした後、時間停止の収納袋に直ぐに入れてたんだよな?」


「剣聖様の話だと、斬り落としてから、そこまで時間は経過していなかった筈です」


 兄上の問い掛けに答えたのは、ミノア殿でその返答に兄上がワシの持っておった手を見る。

 そして、机の方に視線を向けたのじゃ。

 何か机にあるのかの?


「……何で切り口から血が出てねぇんだ?」


 そう言われて、ワシも机の上を見たのじゃが、そこには何もないのじゃ。

 それこそ、

 普通、ただ切断されただけなら、手に残っておる血液が噴き出し、持ち上げれば滴り落ちて机を汚した筈じゃ。

 切断面を見るのじゃが、別に骨と筋肉があるのが分かるだけで、別段、不自然な所は無いのじゃが、コレもおかしいのじゃ。

 この切断面には、ある筈の物が無い。


「……この手、血管とかが無いのじゃ」


 そう、灰色の骨と赤い筋肉はあるのじゃが、血液を送る筈の血管やリンパ管、神経と言った物が見当たらぬ。

 流石に、それらが一切見えぬという事は無いのじゃ。


「つまり、どういう事です?」


「この手自体が作り物か、もしくは……」


 ノエルが不思議そうに見ておるが、ワシは全員を下がらせ、兄上に一本の鉄串を渡しておき、持っておった手を机に置いたら、その周囲を小さい網目状にした結界魔法で覆う。

 ワシも鉄串を二本持つと、結界の網目から差し込んで手に添える。

 そして、兄上に視線を向けた後、微弱の雷魔法を手に流したのじゃ。

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