第140話




 マルクス殿からの爆弾発言を受け、ちょっと頭の中が混乱しておるが、取り敢えず、まずそれは有り得ぬ事じゃ。

 何せ、ワシ自身は元々が地球からの転移者であり、この姿も、元々は昔やっておったオンラインゲームのキャラの姿を再現したものじゃ。

 じゃから、マルクス殿の子であるなどと言う事は有り得ぬ。

 しかし、どうしてそんな事を思ったのか、疑問があるのじゃ。


「最初に確認したいのだが、どういった理由で?」


「理由はいくつかありますが、最大の理由はその髪です」


 マルクス殿がワシの髪を指差した後、マルクス殿自身の髪を指差す。

 そう言えば、此処まで透き通った銀髪と言うのは珍しいのう。

 そんな事を考えておったら、マルクス殿が説明してくれたのじゃ。


 この異世界でも頭髪の色は家系の中で遺伝していくのじゃが、銀髪と言うのは珍しく、確認されておる銀髪が産まれるのは、過去にエルフの血が混ざった者だけなのじゃと言う。

 そして、ワシ等のように透き通った銀髪ともなると、相当に珍しい部類で、マルクス殿の母親がハーフエルフであり、その母親の母、つまり祖母がエルフで同じ様に透き通った銀髪だったらしいのじゃ。

 つまり、マルクス殿はクォーターとなる訳じゃが、その子ともなれば、同じ様に透き通った銀髪になる可能性が高いという訳じゃ。


 そう説明され、コレまで見た事がある人々の髪の色を思い出してみるのじゃが、確かに、ワシ等の様な透き通った銀髪はおらぬし、何なら、銀髪自体見掛けた覚えも無い。

 まぁこればっかりは分からぬのだから仕方無いのじゃが、マルクス殿からすれば他にも理由があるらしいしのう。

 他の理由も聞いたのじゃが、ワシの目の色がその女性の色と同じなのと、この身に宿した魔力量が常人離れしておる事も上げられたのじゃ。

 と言うか、何故にワシがマルクス殿の娘なのかと思ったのじゃが、どうにも、マルクス殿の愛した女性と言うのが平民であり、子が出来た際にその女性はマルクス殿の身分を考え、身を引いて何処かへと引っ越してしまい、長期任務から帰還してそれを知ったマルクス殿が、近衛魔法師団の副団長に就任して早々に長期休暇を申請し、方々を探し回ったのじゃという。

 結局、女性は見付からず、遠方の教会でマルクス殿が女性に送った先程のアミュレットが発見され、その付近に立ち寄ったのは確実と思ったらしいのじゃが、そこで小規模のスタンピードが発生しており、いくつかの村が全滅しておったらしい。

 生存は絶望的、そう考えておったら、シュトゥーリア家が引き起こした裁判沙汰で、陛下に連れられて裁判所にやって来て、ワシを見て絶句したのじゃと言う。

 マルクス殿自身、自分と同じような銀髪を持っておるのは、祖母以外では見た事は無いらしいのじゃ。


 奇跡的に偶然が重なってしまっておるのう。

 コレは完全否定するのも難しいのじゃ。

 王家にあった『選定の剣』の様な物があれば、ハッキリと他人と分かるのじゃが、この世界では親子の証明をするのは相当に難しいのじゃ。

 何せ、魔法によって科学技術が発展しておらぬから、DNA鑑定みたいなものは存在せぬし。

 『魔力阻害症』の際に、親子であればマナパターンが似通っておるかと思って。サーダイン親子を調べたのじゃが、親子であってもマナパターンは似ておらんかった。

 こうなれば、後は兄上の口八丁でどうにか言い包めるしかないのじゃが……


「まず、その女性とマルクス殿には失礼な話だが、コイツは確実に無関係だ」


 兄上が丁寧に一つずつ否定していくのじゃ。

 目と髪色に関しては、偶然じゃろうが、体内マナの量が多いのは先代から鍛えられ、しばらく前から『流転法』で鍛え続けているからであり、何より、先代がワシ等を拾ったのは、クリファレスとバーンガイアの国境付近で、現在はクリファレスとヴェルシュとの紛争地帯になっておるのじゃ。

 それに、ワシと兄上は確実な兄妹じゃし。


「……ですよねぇ……分かってはいるのですが、確かめずにはいられないもので……」


 それを聞いて、マルクス殿が急にぐったりとしてしまったのじゃ。

 元々、十年近く探し続けておったのに発見出来なかったのに、急に現れたら逆に怪しいものじゃ。

 と言うより、実は『マルクス殿の子』として、過去にも何人か現れたらしいのじゃ。

 その際は、子供の髪を脱色したりしておったらしいのじゃが、引き取る前に調査をしたら、全員孤児だったりして、マルクス殿と親しくしておる貴族が引き取って育てておる。

 連れて来た貴族連中の目的じゃが、副団長となったマルクス殿と繋がりが欲しかったようじゃが、当然、全員厳しく注意が行われたのじゃ。

 今回の場合は、陛下やヴァーツ殿と面識がある以上、詐欺ではないだろうとは思っていたが、此処まで特徴が揃ってしまうと、逆に気になってしまっておったらしい。

 そんな時に、ワシが瀕死になったと報告があり、急いで来たかったらしいのじゃが、副団長としての仕事もあり動けず、何とか動けるように仕事を終えたが、どういう名目で会えば良いのか悩んだ所、ワシと懇意にしておるエドガー殿が見舞いに行くという事で、護衛兼今回の調査と言う事でやって来たのじゃと言う。

 少し可哀想な気もするが、此処でワシが『マルクス殿の子』として振舞い、もしも本当の子が発見されたら、その子が憐れ過ぎるのじゃ。

 コレは後で童女神殿に聞いてみようかのう……

 まぁ答えてくれるとは思えんのじゃけど。


「取り敢えず、ワシと兄上は確実に兄妹の筈じゃし、もしも、ワシがマルクス殿の子であったとしても、申し訳ないが、親子として歩むのは無理じゃろうのう」


 此処はハッキリとさせておかねばならぬ。

 ワシは別に貴族の子女になって、華やかな場所にいたい訳では無いのじゃ。

 ワシはのんびりゆったりと過ごしたいのじゃ。

 最近、アレコレ手を出して忙しいが、コレで後々、のんびりできる様になればと思えば、今も頑張れるのじゃ。

 それに、貴族社会と言うのは面倒そうじゃしのう……


「そこは分かっています。 流石に十年近く離れていたのに、急に『私が父親だ』なんて言っても、逆に信用されないでしょう」


 マルクス殿の言葉を聞くに、どうやら本人は吹っ切りたいようじゃな。

 マルクス殿の実家であるアマノリア家は、マルクス殿の下に弟がおり、アマノリア家としては弟が継いだので、このままマルクス殿が新たに結婚せずとも問題は無いらしい。

 そうして、マルクス殿との親子疑惑は晴れたのじゃが、貴族社会ではワシとの関係を疑う者もおるらしい。

 そう言った輩が接触して来るかもしれぬから、注意しておくように言われたのじゃ。

 もしも接触してきたら、適当に話を合わせておいて、直ぐに王都へと報告する事を約束しておいたのじゃ。

 結果的に言えば、ワシの所に来る者はおらんかったのじゃが、実はヴァーツ殿とミアン殿がそう言った輩が来たら、先に潰しておったからじゃったそうな。

 それを察知するのも、『賢者』であるドミニク殿が設立した秘密部隊が町の酒場などで情報を集め、それを精査した後、ミアン殿やヴァーツ殿に報告していたかららしいのじゃ。

 なんだかんだ言いつつも、ドミニク殿はちゃんと仕事はしておる様で、最初は秘密部隊である暗部の運営にも否定的じゃったが、それならばと、情報収集を専門に行う者達を育成する事にしたのじゃ。 

 彼等は戦闘行為は最低限、噂話や町の雰囲気から情報を持ち帰る事を優先しておる。

 現在は、この町と領都周辺でしか運用しておらぬが、将来的にはクリファレスや他の領にも送る事を考えておる。

 この部隊が安定して運用出来る様になれば、兄上を説得してからになるが、ドミニク殿にも義足くらいは送っても良いかもしれんのう。

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