第139話




 『アイテムボックス』の魔本。

 習得すると、大型馬車数台分の容量と、通常の半分程度の時間遅延効果を持った特殊空間を創り出す事が出来る様になる、という空間魔法の一つじゃが、どっちかと言うと、魔法と言うより『スキル』に近いのじゃ。

 今でこそ、収納袋と言う魔道具が普及しておるが、コレが普及する前は、この魔法やスキルを習得しておるだけで人生勝ち組と言われておったくらいじゃ。

 まぁ今でも商人とかが求めて止まぬ物じゃから、コレを何処で入手したかにもよるのじゃが、大量に流入した場合、市場が大混乱してしまう事になる。


 それでイクス殿にそのあたりの事を聞いたのじゃが、入手したのはヴェルシュに比較的近い『ケイシャル』と言う町で発見された迷宮らしき場所。

 何故、迷宮なのかと言えば、この迷宮、どうにも転移者が関わっておる感じがプンプンするのじゃ。

 なんでも、発見された時はただの洞窟で、いくつかの部屋があり、壁にコインのマークが描かれた穴があり、そこに鉄貨から金貨までのお金を自由に入れると、穴がある部屋にスライムが投入した貨幣の数だけ現れ、それを倒すと何かしらのドロップ品を残すのじゃが、大抵は大して高価でも無い日常品ばかり。

 じゃが、偶にこうして超高額品がドロップする事があるのじゃ。

 そして、投入する金額によって高額品がドロップする確率は高くなるらしく、こぞって冒険者から兵士、果ては商人に至るまで、迷宮へと足を運んでおるらしい。

 そして、一人が一日に挑戦出来る回数と投入出来る金額も決まっており、一日一回、同じ貨幣で10枚までなのじゃ。


 冒険者達が検証した事じゃが、一人が挑戦した際、鉄貨を10枚入れると10体のスライムが現れ、それを全て倒すと11個のドロップ品を残し、その内8個が何の効果も無い『たわし』で、2個が『中品質ポーション』、1個が魔道具の『先端に灯りを灯す事の出来る短杖』じゃった。

 別の冒険者が金貨で試した所、同じ様に10体のスライムが現れ、倒した所、11個のドロップ品が残り、5個が『たわし』で、5個が色々な効果を持った魔道具で、1個が着ておるだけで体内のマナを活性化させて魔法の効果を引き上げる『増強ローブ』と言う物じゃった。

 他にも投入金額が上がれば、所謂『』が多くなりやすい、と言う事が冒険者ギルドと商業ギルドが協力した事で分かったのじゃ。


 もうこれアレじゃろ、『ガチャ』じゃろ。

 投入金額によってレア度が排出されやすくなっておったり、10回で1回オマケになっておったりするなんて、モロにガチャのシステムを真似ておるじゃろ。

 つまり、迷宮主に協力しておるのか、迷宮主そのものが転移者の可能性が高いと言う事じゃ。

 コレは後で、この世界での迷宮主についても調べぬとイカンのう。

 取り敢えず、今の所は悪さはしておらぬようじゃし、気に留めておくくらいで良いじゃろう。

 もしも、放置してヤバそうな相手じゃったら、ヴァーツ殿と陛下に相談した上で、許可が出たらワシとベヤヤと兄上(強化外骨格使用)で殲滅すれば良かろう。


 魔本については即使う様な事はせずに、厳重に封印を施して調査する事にし、最近の王都の事を聞いたのじゃ。

 まず、ワシが関係しておったシュトゥーリア家についてじゃが、貴族の奥様ネットワークは恐ろしいのう。

 エドガー殿が美容パックを販売しておる貴族の奥様方から仕入れた情報じゃが、シュトゥーリア家はあの魔道具での失態が響き、更に小麦の病害が発生して、対応の為に借金塗れになってどんどん立場が悪くなっており、最近では領民にギリギリ重税にならぬレベルの税を掛けておるらしい。

 王宮に出入りしておる次男も何やら色々と動いて、どうにか金を工面しておるが、それでも最近ではヤバい事になっておるらしく、徐々に領民も逃げ出す雰囲気が出ておるとの事。

 今の所は大丈夫じゃが、このままじゃとシュトゥーリア領は借金で倒れる事になりそうじゃの。

 しかし、情報提供をしてくれた貴族の奥様方には感謝じゃのう。

 これは美容パックだけじゃなく、『化粧水』も作って渡しても良いかのう。

 地球にいた頃、ワシは肌が弱くて冬場の乾燥でひび割れをよくしており、どうにかしたいと思って保湿クリームやら色々と試しておったのじゃが、最終的に、自分で『保湿化粧水』を作って使っておった。

 そもそも『化粧水』というのは、単純に水とアルコールがあれば簡単な物は作れるのじゃ。

 そこにアレコレと添付していくのじゃが、今回は水とアルコール以外にドライハーブを使うと良いじゃろう。

 ドライハーブにしても、エルフ達が作っておるし、簡単に入手出来るじゃろう。

 エドガー殿に、奥様方のお礼として寝る前のお肌のお手入れに、と言う感じで『化粧水』を作って手渡す事にしたのじゃ。



 さて、エドガー殿達は退室したのじゃが、問題はこっちじゃのう。

 バーンガイアの近衛魔法師団の副団長でもある、『マルクス=エル=アマノリア』殿。

 何やらワシに用があるとかで、エドガー殿と共にやってきたのじゃが、ワシの方に心当たりはないんじゃよなぁ……

 裁判時に両家の魔法陣を調べてもらったが、シュトゥーリア家の魔法陣はワシの物を簡素化した物で、ワシ等の方は一応、美樹殿とカチュア殿が作った物じゃから、ワシ自身は関係は無い。

 他には……まぁ色々とやってはおるが、近衛魔法師団が関わる様な事はしておらんと思うが……


「さて、こうして改めて話す事になった訳ですが、まず確認したい事は、貴方が言っている『先代の魔女』についてです。 その『先代の魔女』とは血の繋がりはあるのですか?」


 マルクス殿が姿勢を正して話し始めたのじゃが、どうやら『先代の魔女』について確認をしに来た様じゃな。

 まぁ『先代』と言うのは存在せんのじゃけど、流石にここでバラす訳にもいかぬ。

 取り敢えず、ワシ自身の設定じゃと、先代に拾われたのは赤子の頃じゃから、ワシには分からぬ。

 チラリと兄上の方を見ると、溜息を吐いておる。


「冒険者上がりな上に、貴族との付き合いが殆ど無いから、言葉遣いは勘弁してくれ。 『先代』の婆さんに拾われた時、妹はまだ赤子だったから代わりに答えるが、多分、血の繋がりは無い筈だ」


 兄上も元々はワシと同一の存在じゃから、ワシ自身の設定は覚えておる。

 まず、ワシ等の設定上、絶対に辿れぬ様にしておらんと矛盾が生じてしまうので、無理のない範囲で追えぬ様にしておく訳じゃ。

 設定上、先代に拾われる前に元住んでおった場所が全滅し、ワシ等二人で逃げた所、偶々近くにおった先代に拾われ、そこからは他者と係わり合いにならぬ様に過ごしておった、と言う事にしておる。


 兄上が、ワシ等のカバーストーリーを説明しておる。

 因みに、もしも虚偽判定の魔法や魔道具があったとしても、は反応する事は無いのじゃ。

 何せ、兄上は元々が存在せぬ存在であり、過去が無いのじゃから、ワシ等が作ったと認識しておれば、騙す事が出来るのじゃ。


「それで、何でそんな事を聞くんだ?」


 兄上の言葉でマルクス殿が頷くと、懐から何かを取り出し机に置いたのじゃ。

 そこにあったのは、随分と古ぼけた銀のアミュレットであり、表には青い宝石が埋め込まれておる。

 そして、それを裏返すと、そこには一房の葡萄が彫り込まれておった。

 コレは一体?


「コレは元々、私がとある女性に送った物であり、私の一族が受け継いでいる物です」


 そこまで言って、マルクス殿が改めてワシの方を見る。


「もしかしたら、貴方は私と彼女の間に出来た子かもしれない、と考えてこうしてやってきた訳です」


 マルクス殿の口から、とんでもない爆弾発言が飛び出してきたのじゃ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る