第138話




 クリファレスにてクーデター勃発!

 ワシ等が団子を食べておった時に、そんな報告が入って来たのじゃ。

 コワの実の中で、若干もっちりした食感の物があったので、それで団子を試作して皆で試食しておったのじゃが、その報告でミアン殿が慌ただしく戻って行ったのじゃ。

 別の国の事と思うじゃろうが、クーデターが起きれば、当然、外縁部に住んでおる住民達は、身の安全の為に国を捨てて逃げ出す可能性が出て来るのじゃ。

 そして、人族至上主義であるクリファレスから、獣人至上主義であるヴェルシュへと逃げる事は無いじゃろう。

 そうなれば、逃げて来るのはバーンガイアとなる訳じゃが、無尽蔵に受け入れる事など出来ぬ。

 保護する為の土地もじゃが、それだけを支える食糧も無いのじゃ。

 食糧自給率はある程度は改善出来たが、まだまだ自国分の供給量を僅かに上回った程度なのじゃ。

 まぁ人道的には保護せねばならぬので、コレからミアン殿は冒険者ギルドと商業ギルドと協議するんじゃろう。

 冒険者ギルドは、クリファレスから逃げて来た者達を探し、見付けたら保護したりする為の面々を派遣してもらい、商業ギルドは単純に物資を融通してもらう事になるじゃろう。

 領を守る兵士達は、一時保護区を設営して護衛の為に駆け回る事になるのじゃ。

 何故、逃走してきた者達が此処を目指す事になるのかと言えば、ワシが死に掛けた黄金龍殿との戦いの際、大馬鹿勇者がやった事を思い出して欲しいのじゃ。

 本来、国を隔てておる関所がある為、逃げるにしてもそこで足止めされてしまうのじゃが、ルーデンス領とクリファレスの間にある関所は、大馬鹿勇者によって破壊され、まだ再建されておらず、未だに天幕を張って対応しておる状態なのじゃ。

 そんな所に、難民が押し寄せてきたら、どうやっても止められぬじゃろう。

 ワシ等の方に話が来たという事は、既にヴァーツ殿や陛下の耳にも入っておるじゃろうが、此方でも色々と準備はしておいた方が良いじゃろう。

 取り敢えず、低品質と中品質くらいのポーションと、軟膏を作っておくかのう。



 そうして準備しておったら、予想通り、クリファレスからの難民がやって来たのじゃ。

 ただ、その数は少なく、30人ほどしかおらぬのじゃが、ミアン殿が派遣した兵士が聞き取り調査をした所によると、彼等が住んでおった村はクリファレスでも有数の穀物を作っておる場所だったのじゃが、武装蜂起をしたクーデター軍らしき者達によって村を襲撃され、何とか逃げ出したのじゃが、逃げた先にクーデター軍が待ち受けており、大部分の難民は隠れ、体力のある者達が少人数で逃げて救助を頼む事にしたらしいのじゃ。

 ミアン殿としては、救助する理由は無いのじゃが、ちょっと問題があったのじゃ。

 なんでも、その難民の中に何故か第三王子と王女様達がおるらしい。

 王族が難民に混ざっておるなんてどういう事じゃ?




「で、兄上が救助応援に行く事になった、と?」


「高ランク冒険者に指名依頼だからな……拒否も出来ん事は無いんだが、今回は場合が場合だからな」


 兄上が旅支度をしながら答えてくれるが、確かに、Bランク冒険者じゃから仕方無いじゃろう。

 因みに、ちゃんとした理由があれば、指名依頼を拒否する事は出来るのじゃ。

 例えば、大怪我の治療中じゃったり、時間の掛かる依頼を先に受けておったりした場合じゃな。


 ただ、兄上一人で対応する訳では無く、今回は同行者としてイクス殿達と、エルフ族の数名が同行する事になっておる。

 イクス殿達が此処に来ておった理由じゃが、ワシが死に掛けておったのを聞き付け、エドガー殿と他数名と共に来ておったからじゃ。

 まぁこっちの面々は問題は無いんじゃが、同行しておった者達が若干問題じゃ。



 ワシの目の前には、ローブに護符やアミュレットを付け、長い銀髪を後ろで纏めた緑色の瞳を持った美丈夫が優雅に椅子に座っておる。

 『マルクス=エル=アマノリア』殿。

 バーンガイアの近衛魔法師団の副団長殿であり、シュトゥーリア家がワシに対して裁判を起こした際、両方の魔道具を調べて『別個の物である』と証明してくれた方じゃ。

 そんな人物が、何故か数名の護衛を連れて、エドガー殿達と一緒に来ておるのじゃ。

 一体、なんじゃろ?


「魔女様、御無事で何よりです」


「すまぬな、エドガー殿にも心配を掛けた様じゃの」


 そう言ったエドガー殿の表情には、若干の疲れが見えるのじゃ。

 話を聞いた所、ワシが倒れたと聞き、急いで向かおうとしたらしいのじゃが、運悪く、薬草を供給しておる町の代表である貴族との話し合いや、美容パックを売っておる貴族家から大口契約の話があり、すっぽかす訳にもいかなかったらしいのじゃ。

 そうしてそれらを一気に片付け、イクス殿達と共に来ようとしておったら、何故かマルクス殿達が同行する事になっていたのじゃという。

 で、マルクス殿がワシに会いに来た理由じゃが、調査したい事があるらしく、その為にこうして出向いて来たと言うのじゃが、自分の要件は最後で良いと言う事で、エドガー殿と話をしておるという訳じゃ。


「倒れられたと聞き、私も含め、工場の全員が驚きましたよ」


 エドガー殿が言うには、ポーション工場の工場長であるゴッズ殿やマリオン殿が心配のあまり、ポーションの一部を自費で購入し、ワシの為に送ろうと考えていたらしい。

 実際、エドガー殿が代表して会いに来るという事で、エドガー殿と相談した結果、工場で作れた最高品質ポーションを持って来てくれたのじゃ。

 ありがたく受け取ってはおいたのじゃが、遂に最高品質まで作れるようになったのか、と思ったんじゃが、どうにもコレは偶然で来たものらしく、狙って最高品質はまだ出来ぬらしい。

 まぁ最高品質は相当に難しいからのう。

 それ以外にも、イクス殿達からは『魔本』と呼ばれておる『魔法を覚える為の魔道具化された本』が渡されたのじゃ。

 魔法を新しく覚える場合、いくつかの方法があるのじゃ。

 一つは単純に、自分で魔法を組み立てる方法。

 ちゃんと発動する様に構築させるのは難しいんじゃが、その分、自由度は高いのじゃ。

 次に、魔法を習得しておる者に師事する事。

 まぁコレも正しい事なんじゃが、師事する相手がな相手じゃと、問題があるのじゃ。

 最後に、イクス殿達が持って来てくれた『魔本』と呼ばれる魔道具化した本で習得する方法じゃ。

 魔本による習得は、最後のページに魔法陣があり、そこに自身のマナを流すと、自動的に習得出来るのじゃ。

 コレが一番簡単なのじゃが、魔本による習得には一つの欠点があるのじゃ。

 それが、魔本で習得した魔法にはと言う点じゃ。

 魔法の効果は使用者によって、かなりの拡張性を持たせる事が出来るのじゃが、魔本で習得してしまうと、その効果が完全に固定されてしまうのじゃ。

 例えば『火球』じゃが、速度や爆発力を使用する術者によって細かく弄る事が出来るのじゃが、コレを魔本で習得をした場合、その速度や爆発力はどの術者が使っても一定になってしまうのじゃ。

 そして、魔本で習得した魔法を改良したくとも、使用者はその内容を明文化出来ぬのじゃ。

 コレは、魔本と言うのは魔法の使い方から発動までを『一つのセット』としており、それを使用者が覚えると、『火球とはこういう魔法である』と固定されてしまい、明文化しようとしても出来ぬのじゃ。 

 手軽に魔法を使いたいと思っておる場合なら、魔本を使うのが手っ取り早いのじゃが、魔本と言うのはそれなりの値段で取引がされておる。

 それこそ、珍しかったり、効果が高い物であれば、かなりの値段となる訳じゃ。


 で、イクス殿から渡された魔本じゃが、コレはちょっと拙い部類の魔本じゃ。

 魔本の表装は黒に魔法陣が金で描かれ、それなりの厚みを持っており、コレを使用した場合、『アイテムボックス』を習得出来るというモノじゃった。

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