第134話




 さて、今回は気になる事が出来たので、ワシは天界へと来ておる。

 と言うのも、黄金龍殿が言っておった、『巫女』と『神獣』の関係と、神獣の『盟約』に付いて聞いておかねばならぬからじゃ。

 その為、今回はワシ以外にベヤヤも来ておる。

 ベヤヤのサイズでは部屋には入れぬから、ワシ等は庭に面した縁側に座っておる。


「端的に言えば、私は『巫女』は送ってないわよ」


 童女神殿がそう言いながら、ワシの手土産であるコワの実クッキーを齧っておる。

 童女神殿曰く、神獣の『巫女』と言うのは、時代の節目や大災害が起きた時、『神獣』を従えて世界を安定させる役割を担う重要な役割なのじゃと言う。

 なので、神々も滅多な事では『巫女』を送る事はせぬらしい。

 しかし、黄金龍殿はワシの事を『巫女』と呼んでおったし、ベヤヤの事も『神獣』と呼んでおった。

 コレは一体どういう事なのじゃ?


「まず、ベヤヤみたいに魔獣から神獣になる、なんて事は、本来は有り得ないのよ」


 『神獣』とは、神が創り出した特別な存在であり、『魔獣』と言うのは、簡単に言えば地上におる獣が淀んだマナに当てられ、変質した存在じゃ。

 『神獣』は死しても『器』を用意して、それに魂を移しておるから、実は同一の個体であり、黄金龍殿の場合、死んでも『器』があるので、再び黄金龍殿として復活出来るのじゃ。

 なので『器』を失った『神獣』の場合、『死』=『消滅』となってしまい、再び童女神殿が新しい『神獣』として、創り出しておるのじゃ。

 そして、『神獣』と『魔獣』の見分け方として、単純なのが『神力』と呼ばれるマナを持っておるかどうかじゃ。 

 『神力』は『どの属性にも染まっておらぬマナ』の事であり、本来は誰であっても、何かしらの属性に染まっておる。

 では、何故にワシやベヤヤは『神力』を持っておるのか、と言う事じゃが……


「アナタの行動を最初から振り返ってみたのよ、原因は直ぐに分かったわ……」


 他の転移者達は比較的、直ぐに異世界人と接触して食料を手にしておったのに対し、ワシが最初に口にしたのはじゃった。

 当たり前の話じゃが、地球人であるワシ等は本来、どの属性にも染まっておらず、言うてしまえば、産まれたばかりの赤子と同じなのじゃ。

 そして、この世界の人間は産まれたばかりの段階では、どの属性にも染まっておらぬが、母親の母乳を繰り返し飲む事で属性が固定化されていくのじゃ。

 母乳は元々血液じゃからのう、血液にマナが溶け込んでおるから、様々な属性も持っておる訳じゃ。

 同じ様に、この世界の食糧にもマナが含まれており、転移者である美樹殿達も摂取した事で属性に染まった訳じゃ。

 では、ワシは?

 思い出しても見て欲しいのじゃ、ワシがこの世界に来て一番最初に飲んだポーションは

 それこそ、『使用者の見た目を任意の姿に変化させる』と言う、所謂『変身ポーション』。

 コレを飲んだ事により、ワシの姿は今の姿になった訳じゃが、同時に、どの属性にも染まっておらぬマナが全身を巡って変化させた訳じゃ。

 その後も、儂は短時間で大量のポーションを飲んでしまった為に、ワシの体内マナは、どの属性にも染まる事が無いまま固定されてしまったのじゃ。


「で、そっちのベヤヤだけど、アナタのマナを詰め込んだ魔石が原因だとは思うんだけど、よく分からないわね」


 ベヤヤは定期的に、ワシがマナを注ぎ込んでおった魔石を喰っておるんじゃが、その魔石はワシのマナで満タン状態になっておる。

 そんな物を大量に喰った事で、体内のマナが飽和状態になり、存在が書き換えられたと言う事なのじゃろうか?

 しかし、そうなると、ベヤヤは正式な『神獣』と言うよりは『神獣(仮)』と言った所なのかのう?


「まぁ今更魔獣に戻れなんて言っても無理だけど、『盟約』をどうするかよね……」


「今から教えるのは無理なの?」


「無理って言うか、やった事無いもの」


 黄金龍殿が言っておったけど、本来は創り出された時に魂へと刻み込まれる物じゃから、後から刻み込むのは難しいじゃろう。

 しかし、それでも一応は試す事になったのじゃが……


「……駄目ね、やっぱり刻み込むのは出来ないわ」


「そうなると、一つずつ教えて行くしか方法は無い、と言う事かの?」


「それしかないけど、記憶したとしても多分忘れると思うわよ?」


 まぁ年月が経過すればそうなるじゃろう。

 しかし、今回の様に別の『神獣』に襲われた際、ベヤヤが対応してしまうと『盟約』に違反してしまって、相手の『神獣』が大変な事になってしまう可能性が高いのじゃ。

 なので、最低限の事だけでも知っておかねばならぬ。

 しばらくの間、ベヤヤは最低限の『盟約』を覚える為に、神社で童女神殿と水晶鏡越しに何度も面談する事になったのじゃ。




 地下室では、遂に完成した全員分の強化外骨格が並べてあるのじゃ。

 と言っても、ムっさんが使っておるテスト用の試作機と違って、今回用意したのはツルリとした見た目で、まぁ言うてしまえば、マネキンみたいな感じじゃな。


「随分と見た目が違うようですが……」


 ヴァーツ殿がそう言いながら、自分用じゃと言われた強化外骨格の胸の部分を叩いておる。

 まぁそうじゃな。


「皆の前にあるのは、強化外骨格……の中にある『めいんふれーむ』なんじゃよ、で、コレに外装を装着することで、見た目や装備を変える事が出来るんじゃ」


 取り敢えず、実際に試してみようという事で、バートがメインフレームの後ろに立って、背中側にある開閉ボタンを操作すると、背中パーツが開いてバートが着込む。

 それを確認して、パンパンと手を叩くと、小屋の中からワラワラと外装を持った者達が現れたのじゃ。

 その全員がそれぞれ、簡易的な鎧の様な物を着込んでおる。

 彼等は全員、元『黒血の牙』の面々で、着込んでおるのも、物資運搬用に作っておった『エグゾスーツ』なのじゃ。

 強化外骨格はムっさんが実験台だったのじゃが、エグゾスーツはまた別の実験台が必要になるので、ヴァーツ殿に頼んで、彼等を招集した訳じゃ。

 その者達が持っておる外装パーツをバートのメインフレームに装着して固定していき、大きめの全身金属鎧姿になったのじゃ。


「さて、問題は無い筈なんじゃが」


『……あぁ、意外と重くも無いし、動きにくいって訳でも無いんだな……』


 バートが言いながら、体を動かしておる。

 そこ等辺は、ムっさんが頑張って調節しておったからのう。

 後は個人の希望で外装を変える事が出来るので、美樹殿やカチュア殿と相談じゃの。


「所で、魔女様、この強化外骨格ですが、防御力はどの程度なのですかな?」


「まぁそこは気になるじゃろうから、実際に試してみると良いのじゃ」


 ヴァーツ殿の疑問は最もな事じゃ。

 なので、試作機の一つを台座に固定し、ヴァーツ殿に剣を手渡したのじゃ。

 この試作機は、外装を外した状態のメインフレーム調整用に使っておったもので、防御力と言う点は同じ能力じゃ。

 それ目掛け、ヴァーツ殿が全力で剣を振り下ろしたのじゃが、甲高い音を響かせて剣の方が砕け散ったのじゃ。

 前に使った剣が砕け散る、とは聞いておったのじゃが、実際に砕け散っておるのを見る限り、凄まじいパワーじゃのう。

 じゃが、メインフレームには肩辺りに僅かな傷が付いただけじゃ。

 このメインフレームの表面装甲は、強化ミスリルに僅かなアダマンタイトを添付した物を使っておる。

 アダマンタイトは何処から手に入れたって?

 少し前、馬鹿がアダマンタイトを使っておった剣を捨てていったじゃろ?

 兄上がちゃんと剣聖殿に渡したのじゃが、持ち帰ったのは柄部分だけで、折れた剣先は此方に残していったのじゃ。

 それを削って添付しただけで、防御性能が凄まじく高くなったのじゃ。

 アダマンタイト自体の防御力も凄まじいのじゃが、コレを圧し折ったベヤヤのパワーも凄まじい物じゃな。


 実際、殴打に対しての防御性能も確認しようと、ベヤヤにでぶん殴って貰った所、ワシの『マルチ・ロックウォール』と言う厚さ30センチ程ある岩の壁を出現させる魔法を、10枚中8枚を貫通して9枚目にめり込んで止まったのじゃが、ぶん殴った胸部が完全に陥没しており、もしも中に入っておったら致命傷になったじゃろう。

 例外過ぎてアレかもしれんが、コレは一応対策を考えておいた方が良いかもしれんのう……

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