第133話




 ふむ、ドミニク殿の失った右足のう……

 アレくらいならワシの作ったポーションで治せるとは思うんじゃが、それを提案しようとしたら、兄上から待ったが掛ったのじゃ。

 理由としては、兄上としてはドミニク殿が信用出来ぬと言う事らしいのじゃが……

 ヴァーツ殿に対応を任せ、ワシと兄上は別室に移動したのじゃ。


「まず、俺の直感だが、アイツは嘘を付いていると思う」


「嘘とな?」


 開口一番、兄上がそんな事を言っておるが、どこら辺が嘘なんじゃろうか?

 ワシが聞いた感じでは、何処か変だとは思えぬのじゃが……

 少なくとも、貴族を嫌って性格が捻じ曲がっておるが、別に悪人と言う感じでもない。


「……あの男、俺に『鑑定』を使って来た感覚がある」


 咄嗟に護符を使って防いだが、抜かれたかも知れん、と兄上が言っておるが、ワシとしては、護符を使ったという点に驚いておる。

 職業やそれに連なるスキルと言った情報は、どんなに些細な物でも付け込む隙に出来るのじゃ。

 その為、ワシや兄上は常に偽装スキルで情報を書き換えてあるのじゃが、それでも抜かれる可能性があると考えて、使い捨てじゃが『偽装の護符』を作って持っておる。

 コレを使うと、使用者の情報の一切を滅茶苦茶な情報に書き換え、鑑定を欺くのじゃ。


「……バートの話じゃと、確か『中位魔術師ミドルマジシャン』じゃったよな? 出来ると思う?」


「だから、そこが嘘だと思う。 確かめるにはこっちも『鑑定』を使う必要があるが……」


「んー……いや、確かめるだけなら、その必要はないのじゃ」


 兄上が言う通り、ワシが『鑑定』を使えば一発で分かるじゃろうが、もしも兄上の偽装を抜くような技量の相手じゃったら、ワシでも気が付かれる可能性が高い。

 じゃが、相手の技量を確かめるだけなら、ワシに考えがあるのじゃ。

 それに使う小道具をアイテムボックスから取り出して、部屋に戻ったのじゃ。


「のう、バートの家庭教師をしておったのなら、ちょっと聞きたいんじゃが」


「あ? なんだチビ助」


 うむ、この言い方は間違いなくバートの教師じゃな。

 まぁそこは今は良いのじゃが、持っておった数枚の紙を机に置いたのじゃ。

 ヴァーツ殿が何か言いたそうじゃが、兄上が肩を叩いて部屋の隅に連れて行っておる。


「実はこの魔方陣が起動せんで困っておるのじゃ、ちょっと意見を聞きたいのじゃよ」


「コイツはチビ助の自作か?」


「そんな所じゃ」


 ワシが取り出したのは、とある炎魔法を発動させる為の魔法陣が書かれておる紙じゃ。

 それをドミニク殿が手に取って魔法陣を見ておるが、一枚目を見ただけで机に戻してしもうた。

 ほう?


「ハッ、いかにもガキが考えた魔法陣だな、コレで起動する訳がねぇ」


「ほほう、どこら辺が問題なんじゃ?」


「この部分を削りゃ起動はするだろうさ、まぁその瞬間に死ぬがな」


 ドミニク殿が魔法陣の一部を指差し、そう言っておるが、その削る部分と言うのが、使用者を守る為の『防護』の部分じゃ。

 攻撃魔法の魔法陣には、こういった使用者を守る為の文言が組み込まれておる。

 つまりドミニク殿は、この魔方陣を発動させる場合、使用者を守る為の『防護』を無効化しろ、と言っておるのじゃ。

 ふむ、一応、理由も聞いておくかのう。


「死ぬとは物騒じゃの?」


「あのな、大量のマナを収集して圧縮、撃ち出して着弾地点で全開放を起こして大爆発させる、なんて考えてる方が物騒だろ、しかもこの魔方陣じゃするしな」


 まさか一枚目を見ただけでそこまで読み取ったか。

 こりゃ兄上の言う通り、ドミニク殿は嘘を付いておるな。

 実はドミニク殿の言う通り、この魔方陣は『じゃ。

 何せ、発動する場所を自身の胸部、マナが集約しておる場所にしておるんじゃもん。

 もし発動したら、自身の心臓部近くで圧縮されたマナが撃ち出され、そこで大爆発を起こすって事じゃから、確実に使用者は死ぬ。

 じゃが、それを分からぬ様にちょこちょこっと弄っておるので、瞬時にコレを見抜けるのは相当に知識が必要なのじゃ。


「ふむ、ドミニク殿、『中位魔術師』と言うのは嘘じゃな?」


「……どういう意味だ?」


「この魔法陣、実はが、それを見抜くのも相当な知識が必要なんじゃよ。 それを瞬時に、しかも一枚目で見抜くなんてのは、無理なんじゃ、『中位魔術師』程度じゃ到底出来ぬのよ」


 ワシの言葉を受けて、ドミニク殿がガリガリと頭を掻いておる。

 その度にフケが飛んでおる、ちょっとばっちぃのう……

 後で風呂に入れて全身丸洗いさせる様に、話す必要があるのう。


「……チビ助、テメェ何モンだ?」


「ワシか? ワシは『魔女』じゃよ」


 駆け出しじゃがの。

 そう言うと、ドミニク殿が腕を組んで天井に顔を向けておる。


「……クソ、まさか魔法陣が罠だったとはな……」


「で、実際の所、ドミニク殿の職業はなんなのじゃ?」


 まぁ兄上の偽装を抜く上に、高度に隠した魔法陣の問題点を見抜ける時点で、大体の予想は付くのじゃが、本人の口から聞いた方が確実じゃろう。

 しばらくの沈黙の後、ドミニク殿がヴァーツ殿の方に視線を向けておる。


「ここで聞いた事は絶対に他言すんな、もしバレたら、例え『龍殺しアンタ』でも刺し違える覚悟をしておけよ」


「……良いだろう、儂達は誰にも話さんと誓おう」


「……まず、一応言っておくが、そこの坊ちゃんの家庭教師をしてた時は、本当に『中位魔術師』だったぜ、その後、例の宿屋で素寒貧になって、教会の敷地でちと眠っちまったんだが……」


 そこまで言って、ドミニク殿が言葉を切って、この場の全員を見回しておる。

 そして、溜息を一つ吐いて呟くようにこう言ったのじゃ。


「……起きたら『賢者』になっていた……」


「マジかよ……」


 それを聞いたバートが驚いておるが、見ればヴァーツ殿も十分に驚いておるようじゃな。

 そもそも、『賢者』と言うのは、魔術と魔導に精通し、何十年とも研鑚をした者がなれると言われておる職業じゃ。

 まぁ実際には、クラスアップが中々出来ぬ状態になっておるからなんじゃが、ソレでも『賢者』になるには相当な努力が必要になる筈じゃ。

 ドミニク殿が『賢者』になれたのも、本人の口や態度は悪いが、真面目にやっておったからじゃろうな。


「それを言えば、引く手数多じゃろうに、何故に言わぬのじゃ?」


「ハッ、こちとら平民の孤児だったんだぜ? そんな奴が『賢者』になったってバレたら、他の貴族連中が黙ってる訳ねぇだろ」


 貴族の中には、平民から高い職業が現れるのを嫌う派閥もいるとは聞く。

 そう言った貴族からすれば、ドミニク殿が『賢者』になったと聞けば、あらゆる手を使って引き摺り落そうとするじゃろう。

 しかも、五体満足であるなら撃退も逃走も出来るじゃろうが、ドミニク殿は片足を義足にしておる関係で、どうしても逃げる事が遅くなってしまう。

 撃退するのも、数で攻められたら最終的に負けるじゃろう。 

 しかも、魔法に対しては魔道具で防御する事が出来るから、余計に厳しい。


「……それで借金生活しておったら、どの道意味が無いと思うんじゃが……」


 ワシの言葉に、ドミニク殿が『うぐっ』と言っておったが、まぁ、やはり悪い男では無い様じゃの。

 取り敢えず、ドミニク殿にはしばらく『シャナル』で生活して貰って、仕事に関してはミアン殿と相談じゃな。


 まぁその前に、バート達と風呂屋に行って全身丸洗いしてくるのじゃ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る