第130話




 町の建設もほぼ終わり、住民の移住が始まっておる。

 住民の受け入れなのじゃが、本来はもう少し先じゃったのじゃが、建設にドワーフ族が参加し、コワの実等による食事改善に、作業員の衛生改善によって、体力面が底上げされた事により、工事速度が飛躍的にアップした結果、想定より早く住民受け入れが可能になったのじゃ。

 まだ未完成の段階で、冒険者ギルドや商業ギルドは入っておったが、商業ギルドは作業員相手の商売をする為であり、冒険者ギルドは建設作業に係わる雑務を、駆けだし冒険者にやらせる為に入っておるのじゃ。 

 今回受け入れた住民で町の半分程度が埋まる予定で、此処で住民の受け入れは一旦止める予定じゃ。

 理由としては、町の土地が住民ばかりで埋まってしまったら、商店や酒場と言った商業施設が作れなくなってしまうのじゃ。

 なので、ある程度の店が入るか、時間経過で住民を再度受け入れる予定となっておる。

 まぁそこら辺のタイミングは町長が考えるじゃろう。

 その町長じゃが、住民受け入れを開始する一週間前に、ヴァーツ殿と一緒にやって来て、顔合わせは済んでおる。

 まぁその際にちょっとトラブルもあったのじゃが、概ね、問題無く受け入れは進んでおる。

 この町の特色としては、ドワーフ族の技術、エルフ族による薬草や果樹、そして、それを利用した物を提供する事にしたのじゃ。

 後はどう発展するか、楽しみじゃのう。




 そして、夜になり、ワシ等の住んでおる小屋に、二人の来客が来たのじゃ。

 一人はヴァーツ殿であり、もう一人は、この町の町長となった『ミアン=ラーダリア』と言う40代程の女性じゃ。

 ラーダリアと言う子爵家の長女で、結婚して子もおるのじゃが、今回はその手腕を買われて町長の職に就任する事になったのじゃ。

 まぁちょっと厳しい性格をしており、それが原因でトラブルになってしもうたのじゃが……


「魔女様、やはり、あの男には厳正なる処罰が必要かと思われます」


「処罰と言ってものう……別にワシは気にしておらんし、他の所では平気なんじゃろ?」


「気を付けてはいるようですが、気を抜いた所で出てしまうようです」


 ミアン殿が問題視しておるのは、まぁバートの事じゃ。

 バートは出会った当初から乱暴な口調なのじゃが、ワシは『まぁ若いのじゃし、こんなもんじゃろ』って気にしておらんかったのじゃが、ミアン殿はコレを『大問題』として指摘しておる。

 ヴァーツ殿も気にはしていたのじゃが、他家の子息であったから口出しは出来なかったが、養子となったので、気を付ける様に言っておったのじゃが、気を抜くと出てしまうようじゃ。


「しかし、改めて考えてみると不思議な事じゃの」


「どう言う事ですか?」


 ワシの呟きにミアン殿が反応したのじゃ。

 考えてみれば、貴族であるバートには可笑しい所が多いのじゃよ。


「バートは3男じゃが、大貴族であるシュトゥーリア家の出じゃろ?」


 ワシの言葉に、二人が頷いておる。

 ミアン殿も、バードラムが元シュトゥーリア家のバートである事は、ヴァーツ殿から事前に説明されて知っておる。

 その上で、それを秘匿するという事を、魔法で契約してあるので、他言する事は出来ぬ様になっておるので、こうして秘密の会話も出来るのじゃ。

 まぁそれにしても、ラーダリア家はヴァーツ殿の派閥の貴族なんで、心配する事は無いんじゃけどね。


「そんな大貴族の出なのに、どうしてあんな状態になっておるんじゃ?」


「それは……」


 ワシの疑問にミアン殿も答えられぬようじゃ。

 そう、いくら妾の子であるとしても、貴族の子息として生活しておるなら、ちゃんと貴族の振る舞い方を教える為の家庭教師が付いておった筈じゃ。

 読み書き算術が出来ておるから、家庭教師がおらぬ、と言う訳でも無いじゃろう。

 じゃが、バートの振る舞い方は貴族と言うより、何と言うか、貴族と言うモノを外から聞いた状態で教えた、と言う感じなのじゃ。

 何というか、凄くなんじゃ。


「もしもじゃ、バートが他の大貴族の前で、いつもの様にやっておったら、いくら大貴族の子息と言えど、無礼打ちされても可笑しくないじゃろ? いくら愚か者のシュトゥーリア家でも、それすら分からぬ筈はないのじゃ」


「そう言われれば、確かに妙ですな……最近のシュトゥーリア家は落ち目とはいえ、貴族の中でもまだ発言力は強い貴族、そこの子息の問題であれば、敵対しておる貴族家からすれば絶好のチャンスになりますな」


 何処の世界でも相手の足を引っ張る者はおるのじゃ。

 特に、貴族であればそれも苛烈じゃろうから、他家に弱みを見せる事はせぬ筈じゃ。

 それで考えると、明らかにバートは可笑しい。

 まるで、問題になっても良い、とさえ感じてしまうのじゃ。


「………もしかしたら、考え方が違うのかもしれませんね……シュトゥーリア家は彼を貴族社会に出すつもりは無かったのかもしれません」


 ミアン殿がワシ等の話を聞いておったのじゃが、そんな事を言い始めたのじゃ。

 しかし、出すつもりが無いとはどういう事じゃ?


「完全にシュトゥーリア家の考えを理解する事は出来ませんが、彼の境遇を考えれば、いくつか分かる事があります」


 ミアン殿が指摘したのは、シュトゥーリア家にはバート以外に正妻の子が二人おり、そのどちらもが優秀とは言われておるが、もしも、バートがそんな二人を超える優秀な成績を出してしまったらどうなる?

 当然、正妻としてはそんな事は認められぬし、息子達だって認められぬじゃろう。

 となれば、一番簡単なのは廃嫡してしまう事じゃが、そんな簡単に廃嫡などしてしまっては、シュトゥーリア家には満足に子供を育てる事すら出来ぬ等と言われてしまう事になるのじゃ。

 ならばどうすれば良いのか、と言えば、廃嫡するだけの理由を作ればよいのじゃ。

 妾の子じゃから、と言うのはあまり理由にはならぬが、他家の大貴族に対しての問題行為ならば、責任を取らせて廃嫡するのは有り得る事じゃ。

 となれば、バートの家庭教師は相当にランクが低いか、逆にそう命じられておった可能性が高いのう。

 しかし、今更それを調べてものう……


「取り敢えず、バートには新たに教師を付ける予定ですが、シュトゥーリア家もやはり調査した方が良いと思うのは儂だけでしょうか?」


「貴族であるのに、真面目に子息を育てていないというのは問題ですから、調べた方が良いとは思いますが……少なくとも10年以上前の事ですし、調べられるかどうか……」


 確かに、これが現在進行形で進んでおるなら、指摘して改善させれば良いのじゃろうが、10年以上前の事じゃしのう……

 ミアン殿も子がおるから、家庭教師選びには苦労しておったようじゃし、他人事では無いじゃろう。

 取り敢えずじゃが、シュトゥーリア家の調査をするのは賛成じゃな。

 前にワシがバートに渡した魔導拳を盗んだ上に、まるで自分達が開発したかのように国に対して売り込んでおったくらいじゃから、他にもやっておる可能性は高いのう。

 ワシにとっては、シュトゥーリア家の奴等は敵扱いじゃから、別にどうなろうと知った事ではないのじゃ。


「一応、バートからも話を聞いて、その家庭教師の事は調べてはみますが……」


「それに付いては、ワシ等に口出しする権利は無いからのう……」


 今のバートはルーデンス家の養子となっておるのじゃから、それを決められるのは当主であるヴァーツ殿だけじゃ。

 しかし、家庭教師を雇うとは言っておるが、バートはこっちでも生活しておるんじゃけど、どうするんじゃろうか?

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