第129話
外見はボロッちい要塞に来てから一ヶ月くらいは経過した。
第二王子の私兵だと言ってた奴等は、俺が国に帰ると王の奴等によって奴隷にされる、何て言ってやっがったから、安全な隠れ家って話でここに来たが、飯は不味い、女もいねぇってんで直ぐに飽きた。
俺は勇者だぞ?
何で奴隷になんかされなきゃならねぇんだよ!
「………で? 俺はいつまでここにいなきゃならねぇんだよ」
目の前にいるのは、ここに俺を案内した兵士の一人。
なんでも、王都にいる第二王子に俺の要望を伝える為に、此処と王都を何度も往復しているんだが、殆ど要求が通ってない。
最初に飯の改善を要求したが、この国の飯のレベルは低く、普段俺が喰ってる不味い飯でもそれなりに高いレベルらしい。
それなら女を連れて来い、と要求したのだが、身を隠す必要がある以上、娼婦ですら送るのは難しく、第二王子が動かせる私兵の中にいる女兵士は、全員後方所属だからってんでここに送るのは無理だと言われた。
イライラが募る毎日だったが、今日に限っては、それすらも吹き飛ぶ報告が兵士から報告された。
「魔法が使えるようになるってのはマジか!?」
「報告では魔法が弱い者に投与した所、魔法の威力が飛躍的に向上したそうで、理論上、魔法の通り道を作るか増やす効果があるのではないか、と、ただ副作用もあるらしく・・・・・・」
「その副作用ってのは、適合しなかったら死ぬとか寿命が短くなるとかってのか?」
「いえ、そう言う副作用では無く、何でも違和感があるとか……」
なんだよ、そんなレベルなら問題ねぇだろ。
そんな事より、コレがその『魔法が使えるようになる薬』か。
兵士が机に置いたのは、小瓶に入った黒い錠剤の様な薬。
別に違和感がある程度、魔法が使える様になるのに比べりゃ些細な事だろ。
そして、コレを一日に1個飲めばいいらしい。
「んで、コイツはいつまで飲めば良いんだ?」
「説明だと、最低でも一週間、それ以降は自由にしても良い様です」
よし一週間な。
取り敢えず、水を用意させて、瓶から錠剤を一つ飲み込む。
……別に何ともねぇぞ?
「流石に、錠剤ですからポーションと違って飲んで直ぐに効果が表れる、と言う訳ではなさそうですね」
チッ……
まぁ良いか、コレで後は魔法が使える様になりゃ、俺は正しく無敵になれるだろ。
そうなったら、あのクソドラゴンを倒して、素材で専用の装備を作らせたり……
って、そうだよ、俺の剣!
「俺の剣はどうなったよ?」
「それですが、『剣聖』が破損した物を持ち帰ったそうです」
ふっざけんなよ!?
最強じゃないにしても、俺用に作らせた剣だぞ!
それがぶっ壊されたなんて、何考えてんだよ!
こうなりゃ、新しい剣を作らせるしかねぇが、アレ以上の剣ってなると……
「アレ以上の剣をどうにかして探し出せ」
「それは……かなり難しいかと」
「俺の命令だぞ! 最優先でさがs……」
兵士が反論しようとしたから、それを遮る様に言おうとした瞬間、急な眩暈が起き、机にぶっ倒れた。
一体なんだってんだ!?
「勇者様!? 誰か来てくれ!」
慌てた兵士が何か言ってるが、俺が覚えてるのは此処までだ。
気持ちわりぃ……
吐き気もするが、別に吐きそうになる訳でもなく、酷い頭痛もする上に、全身が何か突き刺されるような痛みもする。
ベッドの上で胸の辺りや腕を掻き毟る。
まさか、コレがあの兵士が言ってた副作用って奴か!?
だが、コレさえ我慢すりゃ、俺だって魔法が使える様になるんだ!
そう思っても、この吐き気と痛みはかなりキツイ。
兵士の一人が、ベッドで呻いている『勇者』を見てから、溜息を吐いた。
「相当にキツイ副作用みたいだな」
「我儘勇者様はやっと寝たか?」
「……あぁ、しかし面倒な注文もしてくれたがな」
勇者様が失った剣の代わりの剣を探すなんて……
ここで潜伏している兵士の数は最低限で、勇者様の身の回りの世話をさせる為の従者も、兵士が一人しかない。
その為、剣を探そうにも、そこまで兵士を回す余裕が無いというのが現実だが、そんな事を馬鹿正直に言えば、この勇者様の事だからまた暴れだすだろう。
潜伏しなけりゃいけないってのに、暴れさせる訳にもいかない。
ジャックス様に報告して、何とか探して貰わねばなるまい。
「勇者様の使ってたのって、あのゴゴラが作ったって剣だろ? あんのか?」
「分からんよ、だが、探すしかないだろ?」
コレをジャックス様に報告するのも、頭が痛いぜ。
勇者様を保護した兵士から、逐一上がってくる報告を受けて頭を抱えた。
食事に関しては、我々と同じ様な物を提供しているのだが、勇者様の口には合わない様で、何とか改善させるように指示は出しているが、改善にはまだ時間が掛るだろう。
娼婦に関しては、口が堅い上に信用が置ける様な娼婦でなければならないが、娼婦と言うのは娼館で管理されているから、下手に連れて行く事も出来ない。
俺の私兵部隊にいる女性兵士にしても、後方支援部隊にいる非戦闘兵だから、勇者様を匿っている放棄されている筈の要塞なんかに送れば、そこから匿っている事がバレる可能性がある。
本当なら、こうして逐一報告を受けるのも危険な事だが、あの馬鹿親父とクソ兄貴を出し抜くには危険な事も多少は許容しなけりゃならん。
そして、今回受けた要求だが、勇者様が使える剣を探せと言うのは、かなりの無茶な要求だ。
そもそも、勇者様が使っていた剣は、あの名匠ゴゴラが作った剣であり、アレを超える剣となると……
「何か良い手掛かりは無いものか……」
仰け反ると、ギシッと椅子の背が音を立てる。
普通の兵士であれば、そこそこの腕を持った鍛冶師に打たせた剣を与えれば良いが、相手はあの勇者様だ。
そんな剣では満足してくださることは無いだろう。
「……そう言えば……」
少し考えていたら、まだ俺が小さい頃、あの馬鹿親父からこの城にある伝説と言うか、伝承と言うか、そんな眉唾な話を聞いた覚えがあった。
なんでも大昔、ここら辺を支配していた魔獣を当時の英雄が倒し、その英雄が初代国王となったのが、このクリファレスの始まりであり、その際、使用していた剣がこの城の何処かに封印されているのだという。
何故、代々の王に手渡されないのかと思って聞いた際、馬鹿親父は、その剣はすさまじく強力過ぎて、新たな争いの種になる可能性があるとして、何代か後の王が封印を命じ、その場所は誰も知らぬのだという。
つまり、今でもこの城の何処かには、強力な剣が封印されている可能性がある。
それが何処にあるのか、今でも残っているのかは不明だが、何もしないよりはマシだろう。
何より、今まで誰も探さなかった訳では無く、探したが手掛かりすら見付からなかったのだから、相当見付けにくい場所に隠されているのだろう。
ただ、この探索をクソ兄貴に知られる訳にはいかない。
なので、あくまでも秘密裏に調べる必要があるが、城の中は何処にいても人の目がある。
「こうなれば、教会を頼るべきだろうな……」
元々、あの放棄された要塞も、教会の奴等が改修して拠点にしていた所だ。
此方に一切気が付かせずにやり切っている以上、何かしらの手はあるのだろう。
そう考え、兵士の一人にガレリィ枢機卿への協力要請の手紙を持たせて走らせた。
後は、時間との勝負になる。
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