第127話
そもそも、この『強化外骨格』じゃが、テスト当初からムっさんがあれだこれだと文句を言ってくれたお陰で、随分と改良が進んでおる。
最初は腕を曲げた瞬間に、勢い良く曲がり過ぎたせいでグキッとなったり、体を捻じった瞬間に捩じ切れそうになったり、背を伸ばそうとした瞬間に鯖折り状態になったりと、色々と大変じゃったのう……
その度にワシや美樹殿達が回復させて、今では基本的な動きをするのに問題は無くなっておる。
そして、先程言っておった『冷却』の魔法陣を『凍結』の魔法陣に書き換え、魔石にマナを充填して流すマナの量を調整しておく。
この部分を間違えると、中身が凍り付いてしまうからのう。
「さて、ここにあるのが、この外骨格の肝である骨組みになるのじゃ」
見た目は文字通り骨の様な物だが、体の動きを阻害せぬ様に、若干複雑な構造となっておる。
「パワーアシストスーツとか、エグゾスーツとか、海外映画に出てくるアイア〇マンみたいな感じですね」
美樹殿がそんな事を言っておるが、強ち間違いでは無いのじゃ。
元々は映画のアレがアイデアの元じゃし。
じゃが、異世界でそんなの作っても面白くないので、この強化外骨格はリビングメイルや、デュラハンを参考にしておるのじゃ。
アレ等は鎧がアンデッド化した物じゃが、鎧自体に魔法陣を刻み、マナの通り道を作って動くギミックを仕込めば良い。
と言うか、メインフレームは、まんまアイアン〇ンで、それに外装パーツを装着して出来上がったのが、この『強化外骨格』なのじゃ。
「それじゃコレで大丈夫じゃと思うから、また頼むのじゃ」
「……マジで大丈夫なんだろうな?」
「『凍結』の魔法陣を出力を弱くしてあるから、大丈夫じゃよ。 …………多分」
「オィィッ!? マジで大丈夫なんだろうな!?」
ムっさんが恐る恐ると言った感じで、背中側から強化外骨格に入り込むと、バシャンと背中が閉じる。
そして、少し体を動かす。
「どんな感じじゃ?」
『……まぁさっきよりかはマシになったか?』
ギュインギュインと音を出して動いておる。
そして、いつもの動作テストを開始するのじゃ。
軽く全身を動かした後、駆けたり跳ねたり木剣を振ったり、盾を構えて丸太を受け止めたりといった事をしておる。
そして、コレが終わった後は、ぶっ壊す事をメインに考えてのフルパワー運転を行っておる。
凄まじいパワーで動く事になるのじゃが、さっきはこの際の排熱を冷却するのが追い付かず、中身が灼熱になってしまっておったのじゃ。
ワシの前で、凄まじい勢いで、強化外骨格が盾を構えた状態で走り抜けていく。
うむ、凄まじい速度を出せておるのう。
「魔女様、全員分の測定終わりましたよ~」
「む、ありがとうなのじゃ」
カチュア殿から、全員分の測定した物を書き留めたメモを受け取り、メインフレームを一人一人調整していくのじゃが、コレでは性能に差が殆ど無くて面白くないのう。
そう言えば、黄金龍殿がマナは個人で得意な属性があると言っておったな。
と言う事は、この強化外骨格にも、操縦者の得意属性を伸ばせる様にすれば面白くなるのでは?
基本システムを弄る訳では無いから、再テストする必要も無いし、追加機能として追加するのは問題無い。
そうなれば、全員のマナ属性を追加で調べねばならぬが、まぁ取り敢えずは問題点を一つずつ解決せねばな。
「最後の問題は、咄嗟の動きに追従する方法じゃなぁ」
ここが問題じゃ。
この強化外骨格、普通の全身鎧と違って骨となるフレームがあるので、若干引っ掛かりがあるのじゃ。
力で無理矢理に動かす事も出来ん事も無いのじゃが、筋力があるムっさんでも出が遅くなる。
「それなら、首にある感知器を腕とか足にも付けたらどうです?」
どうしたもんかと悩んでおったら、ノエルからそんな提案が出たのじゃ。
ふむ、確かにセンサーを増やすのはアリじゃな。
それなら、手首と足首にセンサーを付けた腕輪や足輪を作り、強化外骨格側にもセンサーを増やせば良いのう。
ノエルの提案を受けて、従来の設計図に新しい機能を描き込んで行く。
そして、美樹殿とカチュア殿を呼んで、新しい設計図を見せて意見を聞く。
「つまり、鎧側にもセンサーを増やすって事ですね?」
「そうすると、感知する事は出来ますが、魔法陣を刻む作業が若干難しくなりますね」
「しかし、コレなら咄嗟の動作にもほぼ対応出来る様になるのじゃ」
ワシ等三人でアレだコレだと言っておるが、最終的にノエルの提案が採用されたのじゃ。
そして、後日、ムっさんの試作機でテストしたのじゃが、咄嗟の動きにもほぼ対応出来たので、コレで本決まりになったのじゃ。
後は各員の得意属性を調べて、それぞれに特徴を持たせる事にしたのじゃ。
ヴァーツ殿と美樹殿が土属性、バートが火、ノエルが水、カチュア殿とムっさんが風、兄上は……ごちゃごちゃじゃったが強いて言うなら雷じゃな。
こんな感じじゃったので、それぞれの属性に合わせた機能を試してから追加するのじゃ。
例えば、土なら足元の土を壁の様に盛り上げたり、逆に一部だけを尖らせて伸ばしたり出来る様にしてみたのじゃ。
まぁかなり難しいが、此処は慣れじゃのう。
他にも、外装部分は個人で弄れるようにしたのじゃ。
「そう言えば、聞きたいんだが、小さくするのは無理だとしても、大きくするのは出来るのか?」
バートがそんな事を聞いて来たのじゃが、巨大化のう……
「一応、巨大化は出来ん事は無いのじゃが、多分、ヴァーツ殿のサイズがギリギリかのう……」
そう言ったヴァーツ殿用の強化外骨格のフレームを見上げたのじゃが、その大きさは2m程になっておる。
実は、これ以上大きくなると、マナの消費量が跳ね上がってしまって、運用するのが難しくなるのじゃ。
一応試したのじゃが、このサイズを超えた辺りから、マナの消費量が増えてしまって、稼働時間が極端に短くなってしまったのじゃ。
『マナ吸収』の魔法陣を刻める最大サイズで刻んでもみたのじゃが、吸収量より消費量の方が多くて焼け石に水状態じゃった。
なので、強化外骨格では2mくらいがサイズの限界じゃな。
もしも、これ以上に大きくする場合、『重量軽減』の魔法陣を随所に刻み、使い捨てを覚悟して、外付けで魔石を大量に付けるか、極めて短時間で相手を倒すしか無いのじゃ。
まぁそんな贅沢な事は出来んので、巨大化させるのは、現状では無理じゃな。
「デカくすれば、この前みたいに龍が来ても殴り倒せるかと思ったんだが……」
あー……
地竜とか飛竜くらいなら対応出来るじゃろうが、真なる龍クラスになると多分じゃが、かなり難しいと思うぞ?
ちょっと聞いたのじゃが、ブレスの切れ端で教会が張った結界を消し飛ばしたんじゃろ?
あんな威力じゃなくとも、ブレス一発に耐えられれば良い方じゃよ。
後は、強化外骨格の外装を防御重視にすれば何とかなるかのう……
「まぁあんな事は早々ないじゃろうが、ある程度対応出来るとしても、実用性は低いのう」
元々は普通の魔獣対策用の物として作っておるし、地竜とかに対応出来たとしても、黄金龍殿の様な相手には玩具じゃろうな。
取り敢えず、皆に用意した物は試作機でもあるんじゃから、後は兎に角、動かして問題点を洗い出して欲しいのじゃ。
後はそうじゃのう……
完成したら、陛下辺りには早目に話を通した方が良いかのう?
「まぁそれはそうですな。 コレが話通りの性能でも大量生産は出来ぬとしても、話をしておかねば、謀反を起こそうとしていると疑われてしまうでしょうな」
ヴァーツ殿が言う通り、コレを大量生産出来るかは別としても、足を引っ張る様な貴族じゃと『あそこは謀反を起こす為に、新しい魔道具を作っているから、協力して潰した方が良いだろう。 その魔道具が手に入れば、自分達の戦力も強化出来るし』と考えるじゃろうし、その陛下が乗るとは思えぬが、臣下の大半が言えば、拒否出来ぬじゃろう。
そうならぬ様に、ヴァーツ殿には先手を打って貰って、陛下には強化外骨格の話を通して貰い、完成したら御披露目する様にしておいた方が良いじゃろう。
まぁ今の所、基礎部分の改良を優先はするのじゃが、ムっさんの尻を叩いても一ヶ月は掛かるじゃろう。
それ以外にも、基本武装に個人個人で武装を付ける予定じゃから、ゴゴラ殿達にも協力して貰わねばならぬのう。
やはり、どうしてもテスト要員が足りぬし、ここはヴァーツ殿にちょっと頼んで協力願おうかの。
のんびりとは言わぬが、まぁ頑張るのじゃ。
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