第126話




 ワシの自宅の前に、ヴァーツ殿とバート、ノエルがやって来たのじゃ。

 剣聖殿は町の方でゴゴラ殿達と、爪を使った武具の話し合いをしておるので、この場にはおらぬ。


「さて、それでは説明しようかのう」


 揃った面々を地下室に案内し、そこで行われておる秘密実験を遂に公開じゃ。

 と言っても、別にやましい事をやっておる訳じゃないんじゃけどね。

 ヴァーツ殿達は、空間拡張がされておる地下室を見て驚いておるが、これから見せる物で更に驚くじゃろうな。

 取り敢えず、驚く面々を引き連れて、美樹殿達が待っておる場所に行くのじゃ。

 ヴァーツ殿達が来る前に、ワシが動けるようになった事は伝え済みじゃが、まぁ大変じゃった。


「と言う訳で、コレがワシがこっそり研究開発、美樹殿とカチュア殿が協力しておった物じゃ」


 そこにあったのは全身鎧と呼ばれておる鎧じゃ。

 ただ、そのサイズはヴァーツ殿が普段使っておる鎧よりも一回り以上大きい。

 そして、既にボロボロになっておる。


「ただの全身鎧?」


「随分とボロっちいが……」


 ノエルとバートがそれをジロジロと見ておるが、ワシが関わっておるのじゃから、唯の鎧の訳が無いのじゃ。

 そう言う訳で、ちょっとヴァーツ殿には協力して欲しいのじゃ。


「ふむ、ただ押すだけですか?」


 そそ、互いに全力で押し合って欲しいのじゃ。

 互いに手を組合い、美樹殿の『始め』と言う掛け声を受けて、全力で押し合ったのじゃが、ヴァーツ殿の全力でも、全身鎧の方はビクともせず、逆にヴァーツ殿の方をジワジワと押し始めておる。

 うむ、此処までは予想通りじゃな。


「……成程、この鎧、強化されてる訳か」


 流石は兄上じゃが、強化しとる訳じゃないんじゃよ。

 まぁそろそろ種明かしをするとしよう。

 と言う訳で、二人共その辺でもう止めて良いぞ?


「凄まじい力ですな、まさか押し負けそうになるとは……」


 いや、あそこまで耐えられるヴァーツ殿の方が凄いんじゃが……

 普通なら、あっさりと押し負けてしまうくらいの出力があるんじゃよ?


 と言う訳で、この全身鎧は『強化外骨格』と言う物で、対魔獣用にワシが考えた魔道具の一つじゃ。

 着込めば、あらゆる能力を倍以上に引き上げてくれる優れものなのじゃ!


「聞けば聞く程、凄い物だが……なんで今なんだ? 出来てたならこの前の龍騒ぎの時に使えば……」


「あー……バートの言う通りなんじゃが、実はあの時点ではまだ完成しておらんかったのよ」


 もっと言うなら、実は今もはしておらん。

 まだ、いくつかの問題点があるのじゃ。


「取り敢えず、制作を始めた頃は、とてもでは無いが常人が使える様な物ではなくてのう、どうしたもんかと悩んでおったのじゃが、丁度良い所にどうなろうが心が痛まぬ奴がおっての」


「心が痛まない奴?」


「うむ、まぁ今も中に入っておるんじゃが……」


 そう言っておると、全身鎧からプシューッと空気の漏れる音がして、膝を付いておる。

 あ、稼働限界になった様じゃのう。

 丁度良いから、一旦休憩させるのじゃ。

 全身鎧の後ろ側がバカンッと開き、中におったのが転がり出て来たのじゃ。


「クソあちぃ! 全然冷却が追い付いてねぇじゃねぇか!」


「これでも駄目ですか~……そうなると、もう『冷却』の魔法陣じゃなくて、『凍結』の方が良いかもしれませんねぇ」


 カチュア殿が改良点を書き留めておる。


「と言う訳で、この者が人体じっ……協力者の、ムっさんじゃ」


「誰がムっさんだ! このクソガキ!」


 うむ、相変わらず元気じゃのう。

 その様子を全員が見ておるが、まぁ知っておる面々は分かるじゃろ。

 元盗賊の頭で、ワシが叩きのめし、現在は重犯罪者奴隷としてこの町の建設に駆り出されておったが、ワシが見付けて、実験に丁度良いと言う事で預かっておる。

 名前? ムっさんじゃろ?


「まぁ初期の頃は兎に角、怪我が絶えぬ状態じゃったからのう…」


「何が『怪我』だ! 普通に毎回死に掛けたわ!」


 腕を曲げたら勢いが付き過ぎて、そのまま折れたりモゲたり、踏み出した瞬間に加速してスッ転んで全身骨折しただけじゃろ。

 それも、ちゃんと直ぐに治してやったじゃろ?


「そう言う問題じゃねぇ!」


「……それで、儂等に協力して欲しい、と言うのは?」


「聞けよ!」


「うむ、この『強化外骨格』なんじゃが、ムっさんの尊い犠牲により基礎部分は出来たのでな、後は複数人で調整する段階なんじゃよ」


 後ろの方で『まだ死んでねぇよ!』って文句が聞こえて来るが、無視じゃ無視。

 残された問題点じゃが、まずはムっさんも言っておる通り、冷却問題があるのじゃが、これはより強力な魔法陣を使う事にしたのじゃが、コレでマナの使用量が増えてしまう。

 他には、稼働時間があり、使用者のマナを使う以外に魔石に貯めたマナを使っても、現状では緩慢な動きで1時間程度しか持たぬ。

 後は、やはり咄嗟の動きに追従出来ぬ為に、若干動きが遅くなってしまっておる。

 大きい問題点はこのくらいじゃの。


「と言う訳で、各々で考えて欲しいのじゃ」


 ワシの方は、どうにか稼働時間を延ばす方法を考えねばならぬ。

 まぁ単純にマナを貯め込む魔石の純度を上げたり、自然に放出されておるマナを吸収する魔法陣を刻めば良いのじゃろうが、純度を上げられるのはワシだけじゃから、技術を改良して誰でもやれるようにしなければならぬのう。

 動きが遅れるという問題も、一応、改良案はあるのじゃが、実現するには技術的にクリアする部分があるのじゃ。

 現状、この強化外骨格は使用者の神経に流れておる僅かな電気信号を感知してから、関節にマナを送っておる関係で、どうしてもワンテンポ遅れてしまうのじゃ。

 つまり、感知してから関節にマナを送るまでのタイムラグを減らせば良い、と言うのが解決案なのじゃが、これがまぁ難しい。

 今は強化ミスリルを配線に使っておるが、それでも遅いのじゃ。

 実はこっそりと強化オリハルコンでも試したのじゃが、僅かに早くなる程度で、費用に対して得られる効果が小さ過ぎたのじゃ。

 なので、もっとマナ伝導率が高い物で安価な物があれば一番良いのじゃが……


「取り敢えず、全員の体型から組み上げるのでな、コレから作るのは各員の専用になるじゃろ」


「ふむ、実際に着てみぬ事には何とも言えませんが……もし実現したら、相当に有用な物になるでしょうな」


 ヴァーツ殿の言う通り、完全に完成すれば、必要以上に魔獣に怯える事は無くなるのじゃ。

 ただ問題は、魔獣に使えると言う事は、当然対人にも使えると言う事で、美樹殿の希望もあり、そこ等辺をヴァーツ殿と陛下に話し合って貰いたいのじゃ。

 まぁ無理なんじゃろうが、出来れば対人戦では使って欲しくは無いと言うのが、開発者であるワシ等の考えじゃ。


 それ以外にも、ゴゴラ殿達に依頼してあった専用の巨大な剣やら盾やらも見せておくのじゃ。

 将来的には一般兵用に簡易版を作り、それの数を揃えてスタンピードを無事に乗り切ったり、一般向けに作業機械の様に使ったりと、完成すれば選択肢は増えるのじゃ。


 カチュア殿と美樹殿が、全身鎧を作る為に必要な情報を集め、ワシが各員の体型に合わせたメインフレームを予備の物から用意しておく。

 まぁコレも最終的にサイズ別に作れるようになると良いんじゃが、まぁ最初のうちは仕方無いのう。


「そう言えば、魔女様は御自身用に作らないんですか?」


 ノエルにそう聞かれたのじゃが、最後の問題点がそこなんじゃ。

 実は、効率を考えると150以下は不向きなんじゃよ。

 小さくなればなるほど、魔法陣を刻むスペースが小さくなり、電池代わりの魔石を嵌められる場所も限られてしまう為に、最低でも150が小型化の限界じゃったのよ……

 まぁ将来的には身長も伸びるじゃろうから、その時考えるのじゃ。

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