第124話
取り敢えず、『器』を探さねばならぬのじゃが、ワシが寝ていた一ヶ月の間にヴァーツ殿が兵士を総動員して強制捜査をしたらしく、全ての家屋を調べたのじゃが、結局発見は出来なかったそうじゃ。
町の危機である為に拒否権は無く、流石に教会も拒否し切れずに協力しておったらしい。
黄金龍殿に聞いたのじゃが、大きさ的にはヴァーツ殿が余裕で入れる程の大きさらしいので、隠すのも難しいじゃろう。
つまり、もうここに『器』は存在せず、何処かに持ち去られた後、と言う事になるのじゃが、一体何処に持ち去られておるのかは分からぬ。
ワシのマナが神力に近いのであれば、協力出来るかもしれんと言う事をベヤヤ経由の念話で黄金龍殿に送り、ヴァーツ殿達には黄金龍殿に盟約の事を聞く為と言う名目で、近くにテントを張る許可を貰い、アイテムボックスにある柱と布で簡易テントを作って、周囲の目隠しを行うのじゃ。
これでワシの方は準備完了になるのじゃが、黄金龍殿が『器』を用意するのに一晩ほど必要じゃと言うので、この場で待機じゃな。
「あ、そうじゃ兄上よ、飛べる従魔の事を聞いて見たらどうじゃ?」
龍に賠償と言う概念は無いじゃろうが、今回の件では相当量の被害は出ておるし、町の方では倒した地竜や飛竜から得た素材を売り、遺族への見舞金を作ったらしいが、一番きつかったワシ等には何も無いみたいじゃからのう。
それなら、兄上は飛竜の一匹でも手に入れるのも良いのでは?と思ったのじゃが、兄上曰く、この一ヶ月の間に交渉済みじゃった。
そして、結論と言えば、飛竜を従魔にするのは不可能、と言う事が黄金龍殿から言われたそうじゃ。
随分とケチ臭いのう、と思ったのじゃが、コレは従魔の仕組みに問題があるのじゃ。
まず、この世界の従魔の仕組みじゃが、主となる契約者と、それに従う魔獣側、双方にメリットがあり、例えば、兄上の様に飛べる従魔であれば、主は従魔に乗る事で移動速度を飛躍的に上げられ、従魔側は食糧や安全な寝床と言った保障がされるのじゃ。
そして、互いに納得した状態で従魔契約をする場合、互いの間にマナの繋がりが出来て、信頼関係が強固になるに連れて、太くなっていくのじゃ。
そして、飛竜を含む竜全体なのじゃが、全て神獣である黄金龍殿の眷族となり、従魔契約を結んでおる様な状態なのじゃ。
そして、今回の場合、黄金龍殿と契約しておる飛竜と、兄上が新たに従魔契約を結ぶ場合、『力の引き合い』が起きるのじゃ。
まぁ簡単に言えば、マナによる綱引きじゃな。
それに勝利出来れば、従魔を奪い取る事が出来るのじゃが、まぁ普通に無理じゃ。
これが普通の
そんなのに挑むなど、ただの自殺行為じゃ。
因みに、それを無視して挑んだ場合、太過ぎる繋がりに逆に引き込まれて、全身のマナを吸い取られて死ぬ危険性があるので、従魔師ギルドでは、他人の従魔を奪おうとする行為は、例え誰であろうとも禁止事項として厳しく処罰しておる。
ただ、竜種を従魔にする事自体は不可能では無く、条件は厳しいが可能なのじゃ。
その条件と言うのが、孵化する前に黄金龍殿の目の届かない場所へと運び、黄金龍殿が眷族化する前に従魔契約を結べば良いのじゃ。
まぁ竜山の奥深くに侵入し、子育て中の気の立った竜達に気が付かれず、その竜が守っておる卵を盗み出す、なんて神業が必要なんじゃがの。
そして、契約せずに貸し出したとしても、言葉が通じぬので息の合った行動が取れぬし、危険になったら、契約しておらぬので普通に逃げてしまう。
じゃから、飛竜に限らず竜種は契約出来ぬ、と言う事が分かったのじゃ。
この事は、後でヴァーツ殿経由で国に報告し、そこから従魔師ギルドへと報告されるのじゃ。
しかし、残念じゃのう。
『迷惑を掛けた相手には何かを与える、と言うのが人間では普通の事であったか』
黄金龍殿がそんな事を言っておるが、まぁ人と龍では認識が違うのじゃからその認識で良いかの。
少し悩んでおるが、表向きはコレで終わりじゃな。
この後、ワシとベヤヤはテントで寝泊まりして、盟約に付いて教えて貰う、と言う事になっておる。
本当の所は、黄金龍殿が用意した新たな器に、ワシのマナを流し込む為の目隠しなんじゃがの。
取り敢えず、悩んでおる黄金龍殿は放置し、ワシ等は晩御飯じゃな。
と言っても、ワシの晩御飯はコワの実を使った山菜粥に、佃煮などの胃に優しい物ばかりじゃ。
早く肉が喰いたいのう。
一晩ぐっすり眠った後、黄金龍殿の元に行くと、その手に薄い輝きを放つ半透明の卵が握られておった。
うむ、形状は鶏卵、サイズ的にはワシが抱えられる程度より多少大きいくらいかの?
「黄金龍殿、おはようなのじゃ」
『巫女よ、コレが我等神獣が作る事が出来る『器』となる』
「ふむ、確かに卵じゃのう……」
大きかったり、光っておったりするが、形状は卵じゃな。
ただ、半透明で中身が見えるのじゃが、黄身とかが無いように見えるんじゃが、本当の卵では無いからかのう。
『この『器』に我等は長い時を掛けて神力を流し込むのだが……本当にやるのか?』
「駄目元じゃよ、まぁ流石にいきなりはやらんがの」
もし間違えてしまったら、黄金龍殿の器を駄目にしてしまうからのう。
『器』をベヤヤに持ってもらい、テントに運んでから慎重に調べる。
まずは、ワシの手持ちの虹色魔石を取り出し、『器』のマナ波長と比べてみたのじゃが、黄金龍殿の言う通り、虹色魔石と波長がほぼ同じじゃな。
つまり、この虹色魔石に充填されておるマナは、他の属性が混じっておらぬと言う事じゃな。
ならば、同じ手順で注ぎ込めば良いかの。
そう思って、ワシは『器』に手を置き、ゆっくりとマナを注ぎ込むのじゃ。
ふむふむ、これは中々難しいのう、魔石と違って漏れる場所は無いのじゃが、どんどんワシのマナを吸収しておる。
気を付けねば、あっという間にマナを搾り取られて危険じゃのう。
まぁワシの場合は瞬時に回復していくから、いくらでも注ぎ込めるんじゃがの。
『巫女よ、余り無茶は……』
黄金龍殿が心配そうにテントの入り口から見ておるが、この程度ならば問題は無いのじゃ。
ギュンギュンとワシの体内マナが減っては増えてを繰り返し、どんどん『器』にマナを注ぎ込んでいくのじゃが、なんかこの卵大きくなっておらぬか?
地面に直置きしておったから、ちょっとグラつき始めておるし……
「グァ(おっと)」
ベヤヤが転がり掛けた『器』をガッチリと受け止めてくれたのじゃが、うむ、間違いない。
最初の時と比べて、二回りほど大きくなっておる。
が、変わらずにワシのマナをどんどん吸収しておるんじゃが……
まるで底なしじゃのう。
よし、この勝負、受けて立つのじゃ!
『み、巫女よ? もう十分じゃからそろそろ……』
黄金龍殿が何か言っておるが、まだまだワシのマナを吸っておるんじゃから、まだまだ充填出来るじゃろう。
それに、足りぬよりマシじゃろう。
「ガァ、グウァウ(こうなったら、諦めろ)」
ベヤヤが黄金龍殿に何か言っておるが、まだまだいけるのじゃ!
そうしてどんどこマナを注ぎ込んで、最早これ以上は無理じゃなーと思って止めたのじゃが、結果、『器』は最初の倍以上のサイズとなり、その輝きも眼が眩むほどになったのじゃ。
……ちとやりすぎたかのう?
黄金龍殿が唖然と見ておるが、まぁ、後で『足りなかった』と言うよりはマシじゃろ!
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