第123話




 目覚めて最初に見たのは見た事が無い天井じゃ。


「……ぁ……ぅ……?」


 うーむ、上手く声が出ぬぞ?

 それどころか、体も上手く動かせぬ。

 取り敢えず、念話をベヤヤに飛ばしてみるのじゃが、返事がない。

 と思ったら、ドドドドと外から地響きが聞こえて来たのじゃ。


「グァ!」


 バァンと引き戸が凄まじい音を響かせ、ベヤヤが現れたのじゃ。

 その後ろには、兄上や瑠璃殿、ヴァーツ殿の姿も見える。

 どうやら、此処は神社に併設しておる瑠璃殿達の宿舎の様じゃな。


 ベヤヤには力一杯抱き締められて、本当に死に掛けたり、兄上にはクドクドと説教されたりしたのじゃが、まぁワシが心配を掛けたのじゃから、コレは仕方無いのじゃ。


「あまり心配を掛けさせるなよ……」


「……すまなかったのじゃ……」


 その中で分かったのじゃが、まず、ワシが倒れてから今日で一ヶ月が経過しておった。

 そりゃ体も動かぬし、声も出ぬな。

 その一ヶ月の間、ワシの身辺は瑠璃殿達が管理しており、食事に関しては前にワシが作った粥をベヤヤが参考にし、栄養価が高いコワの実で粥モドキを作り、それをベースにしてスープを作って飲ませておったようじゃ。

 その粥モドキも、コワの実を擂り潰して粉にして、複数の野菜を煮込んでブイヨンの様な物と合わせたりと、改良しておったらしい。

 そのお陰で、栄養不足になる事は無かったのじゃが、体を動かしておらんかったから、筋力が落ちておる。

 しばらくは筋トレじゃのう。

 声に関しては、流石に生活に困るのでポーションを使って治したのじゃ。



「それで、結局はどうなったのじゃ?」


 皆が昼食として焼かれた川魚や山菜のてんぷらを食べておる中、ワシだけは粥を食べておる。

 まぁ一応、ワシはまだ病人じゃからな。

 それでも一緒に煮込まれておる刻まれた野菜や、付け合わせの佃煮があるんじゃから、味は良いんじゃけどな。

 で、昼食を取りながら聞いた話なのじゃが、まず、黄金龍はワシ等が戦った所で待機しておるらしい。

 なんでも、ワシに話があるとか……なんじゃろ?

 それ以外じゃと、勇者関連の話じゃな。

 まず、勇者じゃが行方不明となっておる。

 剣聖殿曰く、あの戦いの最中に姿を消したので、クリファレスに逃げ帰ったのではないかと思ったのじゃが、国に戻った記録が無いらしいのじゃ。

 勇者の身体能力を考えれば、余裕で王都まで戻れるはずなのじゃが、何処にも記録が残っておらぬというので、何処かに潜伏しておる可能性が高い、と言うのが剣聖殿の考えじゃ。

 黄金龍が停戦してくれたので、部隊の大部分は帰国済みになっており、残っておるのも、勇者によって奴隷にされてしもうた冒険者達だけじゃ。

 そして、今回の件については、全権を勇者から剣聖殿に移されており、ゴゴラ殿達とも話し合いをしたのじゃが、結局、クリファレスには戻らぬ、と言う結論になったのじゃ。

 奴隷になった者達に関しては、明らかに違法に奴隷にされておるという疑惑が強く、瑠璃殿に調べて貰った所、全員、違法奴隷と判明したので奴隷解放をして貰ったのじゃ。

 しばらくは町の方で依頼を受けて金を稼いだ後、どうするかは個人の判断に任せるのじゃ。

 なお、美樹殿が生きておる事はバレたのじゃが、彼女の意思でこの場に残るという事を尊重し、国には報告せず秘密にしてくれるらしい。


 そして遂に、黄金龍と対面するのじゃが、普通に寝ておる。

 まぁ誰も通らぬ所じゃから別に良いんじゃが、これはどうすれば良いかのう。

 そう思っておったら、黄金龍の目がゆっくりと開いたのじゃ。


『……おぉ、巫女が起きたか……』


 ゆっくりと黄金龍が起き上がるのじゃが、やはり巨体じゃのう。

 この場におるのは、ワシと兄上以外にはヴァーツ殿に剣聖殿、ベヤヤだけじゃ。

 まぁ黄金龍と戦った面々じゃな。


 まずは、互いに改めて謝罪をし、コレからの事を話し合うのじゃ。

 ワシが助かった件については、黄金龍とベヤヤが協力した事で、ギリギリなんとか命が繋がったらしい。

 他には、魔法回路を強化しておった為、過負荷に耐えられた事も上げられるのじゃ。

 もしも強化しておらぬ状態だったら、あの瞬間に全身の魔法回路が焼き切れて、ショック死しておったらしい。

 それでも、一ヶ月も寝込んでしまったのは予想外じゃったが……


「所で黄金龍よ、その巫女と言うのは何なんじゃ?」


『巫女と言うのは、神獣と契約をする事が出来る唯一の存在だ。 巫女はそこの神獣と契約しておるのだろう?』


 黄金龍が指差しておるのは、ベヤヤなんじゃが、はて?

 ベヤヤは魔獣なんじゃが……

 その事を黄金龍に説明したのじゃが、不思議そうに首を傾げておる。

 なんでも、兄上が説明したのじゃが、そんな事は有り得ないと黄金龍から言われておったらしい。


「そうは言ってものう……ベヤヤは間違いなく魔獣なんじゃが……」


 ワシの鑑定でも、相変わらず魔獣じゃし。


『巫女よ、神力を持っておるのは神獣だけだ。 そこの熊は神力に満ちておる以上、魔獣では無く神獣である事は間違いない』


 神力とは、どの属性にも染まっておらぬマナの事であり、故に、どの属性にもなる事が出来るマナでもある、と説明されたのじゃが、つまり、無色透明と言う事かの?

 そう聞いてみたのじゃが、神力は無色透明では無く、全てのマナの色を持ち、虹色に輝いて見えるらしい。

 ……虹色に輝いて見える……バッチリ心当たりがあるのう……

 多分じゃが、ワシが定期的に作ってベヤヤに与えておった虹色魔石が原因じゃなかろうか。

 そう思って、アイテムボックスから虹色魔石を出して、黄金龍に見せたのじゃが、大変に驚いておった。

 何でも、この虹色魔石には神力がぎっしり詰まっており、このような物は長く生きて来ておる黄金龍も目にした事は無いらしい。

 他にも、神獣同士の争いの禁止を含む盟約も説明されたのじゃが、コレに関しては本来は世界に産み落とされた際、魂に刻まれる物なので、全てを説明するのは難しいらしいのじゃ。

 まぁコレは後で童女神殿に聞くと良いじゃろう。

 そして、この場を襲った原因の『器』じゃが、簡単に言ってしまえば、『卵』の様な物なのじゃ。

 龍の神獣である黄金龍は性別が無く、卵の様な物を創り出す事が出来るらしいのじゃ。

 本来は、長い時間を掛けて空の器に神力を貯め込み、今の体が朽ちた際、器に魂を移し、新しい体にする為の物らしいのじゃ。

 今回、十分に神力を貯めておった器を盗まれてしまった事で、新しく器を作ったとしても、神力を貯め切れずに相当弱くなってしまうだろう、と言うのが黄金龍の考えなのじゃ。

 ふむ、それならワシが協力出来るのでは?

 神力はどの属性にも染まっておらず、ワシが作った虹色魔石が神力に満ちておるというなら、その器にワシが虹色魔石を作る様にマナを充填すれば良いのではなかろうか。

 そう提案したのじゃが、膨大な神力を必要とするから不可能だ、と言われたんじゃが、ワシの場合、一度に使う量さえ間違わなければ、瞬時に回復するので問題は無いのじゃ。

 が、流石にこの場では事情を知らぬ剣聖殿の目もあるので、後でやるとするかのう。


「しかし、黄金龍殿はいきなり人里へと急襲しておるが、『人化』とかして情報収集とかはせんのか?」


『人化? なんだそれは?』


 よく、人よりも遥かに強い龍でも、人の営みに紛れて情報収集をする為に、人の姿を真似る様な魔法を使う、と言う話があるのじゃ。

 それを使えば、此処まで大事にならんかったのではなかろうか?


『巫女よ、体を大きく見せるのはマナを纏えば出来るし、小さく見せる事も空間魔法を駆使すれば出来るだろうが、我等の様な巨体が小さくなった所で、元からある重量は変えられぬから真面に歩けんし、体をマナに分解してしまったら、再構築の際に多くのマナを失う事になるだろう』


 つまり、小さくなった所で質量そのものが変えられる訳では無いので、小さくなっても重量は変わらぬから、接地面積が小さくなって、地面を常に踏み抜いて歩く事になり、質量を減らす為にマナに分解出来たとしても、それを再構築するには、当り前じゃが更にマナを消費する事になる。

 つまり、得られるメリットよりもデメリットばかりが多く、人化する意味も無いので、考えた事も無いらしいのじゃ

 それに、今までは竜山に人が来る事もほぼ無かったので、交流も無かった。

 まぁ確かにそう聞けばそうじゃのう。



 そして黄金龍曰く、前の巫女がおったのはかなりの昔らしく、ワシが巫女であるのならば、以降は戦闘をし掛けぬと言っておるのじゃが……

 一応、改めてワシは巫女では無く、ベヤヤも神獣に近いというだけで、純粋な神獣ではない事も伝えておいたのじゃ。

 後で、『我を騙したな! 死ね!』と襲われても溜まったものではないからのう。

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