第119話




 ベヤヤへ念話を送り、遂に怒れる黄金龍へと挑む事になる。

 あの大馬鹿者勇者のせいで、話が纏まりかけておったのにとんだとばっちりじゃ。

 じゃが、もうどうにもならんから、全員が死なぬ様に立ち回って、黄金龍を戦闘不能にするしかない。


「兄上正面! ヴァーツ殿右翼! 剣聖殿左翼! 『マルチ・オールアップ』!」


 手短に指示を飛ばし、3人に全能力を底上げするバフを飛ばすのじゃ。

 これで多少はマシになるじゃろうが、それでも黄金龍と言う絶対者に挑むにはまだ足りぬ。

 なので、隙を見付け、ワシ必殺の『グラビトン・レールガン』をぶち込むしかない。

 まぁそれで無力化出来なかった場合、滅龍魔法を使うしかないじゃろうが、アレは威力が桁違いじゃから、確実に3人も巻き込まれてしまうじゃろう。


「喰らえ『風神閃』!」

「光よ!『シャープネス・ソード』!」

「竜の牙が如く噛み砕け!『アギト』!」


 剣聖殿の風を纏った剣と、ヴァーツ殿の光の剣が左右から迫るが、黄金龍は剣聖殿の攻撃を翼で弾き飛ばし、ヴァーツ殿の攻撃はなんと素手で掴み取って防ぎ、兄上の攻撃を尻尾で迎撃しておる。

 しかも、そうして3人を迎撃しておるのに、視線はワシの方を見据えておるので、隙を見て魔法を撃ち込む事が出来ん!


「『ライトニング・ヴォルテックス』!」


「ガァッ!」


 速度の速い魔法を試しに撃ち込んでみたのじゃが、あっさりと防御魔法らしきモノで迎撃されたのじゃ。

 ぐぬぬ、これじゃと3人に掛けたバフが切れて、余計に対処出来なくなってしまう。

 かと言って、これ以上ともなると、3人の邪魔になってしまうし……


「ただのイベントボスが何してくれてんだオラァァッ!」


 ワシが悩んでおったら、復活した大馬鹿がそんな事を言って、黄金龍に突っ込んでいったのじゃ。

 どうやら、尻尾の一撃を受ける瞬間、反射的に後方へと跳んでダメージを減らしたようじゃな。

 しかし、イベントボスて……

 この場合、ラスボスの間違いじゃろ。


「お前等、俺の見せ場を邪魔すんじゃねぇ!」


「誠一郎!?」


 剣聖殿を押し退けて、馬鹿が斬りかかっていく。

 が、斬りかかる瞬間、上から翼でベチンと叩き落とされ、地面に落ちた所に踏み潰されそうになっておる。

 流石に、踏み潰させる訳にもいかず、剣聖殿が左足に向けて全力の突きを放ち、何とかずらして、馬鹿は無事に逃げる事が出来たのじゃ。

 この馬鹿、本当に雑魚過ぎるのう……

 これ、ワシと同じEXランクの職業クラスなんじゃろうか……

 そんな疑問も吹き飛ばすが如く、馬鹿が『こんなハズじゃねぇ!』『ただのイベント戦のハズだろ!?』と喚き、そんな馬鹿を剣聖殿が何とか守っておる状態じゃ。

 その分、兄上とヴァーツ殿が猛攻を仕掛けておるが、片腕と翼だけで捌かれておる。


「あまり儂等を舐めるな!」


 ヴァーツ殿が足元で黄金龍の顔面目掛けて突きを放つが、明らかに届かぬ距離。

 じゃが、その瞬間、短杖から伸びる光の剣が一気に伸び、黄金龍の顔面に届いたのじゃ。

 これには流石の黄金龍も驚愕したのか、首を捻り、何とか回避した瞬間、その真横に兄上が跳躍しておった。

 そして、その左腕と両脚の踵に、黒いマナが纏わり付いておる。


「我が左腕は黒龍の腕が如く!『龍撃爪ドラゴン・クロー』!」


 纏っていた腕の黒いマナが変化し、兄上の左腕が黒々とした龍鱗輝く黒龍の腕の様な物となり、両足の黒いマナで固定され、黄金龍の顔面を捉えてドゴン!と凄まじい音が響き渡る。

 今じゃ、ワシのマナありったけ持っていけい!


「『グラビトン・レールガン』!」


 一瞬で空間にバレルを形成し、黄金龍目掛けて凄まじい威力の超圧縮岩塊を発射したのじゃ。

 狙いは胴体部と背中の翼の付け根辺り。

 もしも翼の根本を抉り取る事が出来れば、その付近にある筈の背骨を破壊して半身不随にする事が出来る。

 そうすれば、無力化させる事も可能になるのじゃ!

 が、ワシ等の予想を裏切り、黄金龍は尻尾でヴァーツ殿を弾き飛ばし、殴られた頭を振り戻して空中におった兄上を頭突きで吹き飛ばし、ワシの撃ち出した岩塊をなんと、片手で握り止めたのじゃ。

 黄金龍の手の中で超高速回転しておる岩塊が、ギャリギャリギャリと凄まじい摩擦音を響かせておる。

 ウッソじゃろ!?


『成程、コレを狙っていたのか……』


 メキリと音がして、超圧縮した岩塊が握り潰されたのじゃ。

 しかも、アレだけ摩擦音がしておったのに、掴んでおった手の平には一切の傷が見えぬ。

 アカン、『グラビトン・レールガン』が通用せぬとしたら、ワシの手持ちの魔法じゃと、広範囲を巻き込んでしまう滅龍魔法しか残されておらんぞ……


『この程度で、我に挑む等、我も舐められたものだ』


 さて、この時点でワシ等に黄金龍を無力化する方法は無くなってしもうた。

 それに、ワシのポーションで何か対処出来る様な物を作れたとしても、黄金龍へと摂取させる方法が無い。

 簡単に言えば、と言う状態じゃ。


「ふっざけんじゃねぇ! 俺はまだ戦えるだろうが!」


「止せっ! 誠一郎止まれ!」


 そんな事を言って、剣聖殿の制止を無視して、馬鹿が黄金龍に突っ込んで行くのじゃ。

 が、そもそもな話、この馬鹿は何を勘違いしておるんじゃ。

 黄金龍はそれを見る事も無く、尻尾で地面を薙ぎ散らし、大量の土砂を馬鹿に浴びせて吹っ飛ばしておる。


『我への不敬もさる事ながら、お前の様な雑魚が、この我に挑む事自体が不愉快だ』


 黄金龍の明らかに不機嫌な念話が届く。

 まぁそうじゃろうのう……

 黄金龍としては、ワシ等は本気で戦っておる所に、何故か実力も伴わない者がちょくちょく手を出してきておる感じじゃもん。

 そりゃ余計に不機嫌にもなるじゃろう。


「唯の踏み台のイベントボスの筈だろ! 何でこんなクソ強いんだよ!?」


「いい加減にしろ! イベントってこれはゲームじゃないんだぞ!」


「あぁ!? 俺よりクソ弱ぇお前が指図するんじゃねぇよ!」


 ホント、この馬鹿はいい加減にして欲しいのう。

 まぁその間に兄上とヴァーツ殿が、事前に隠し持たせておったポーションで回復出来ておるから、まだ良いのじゃが、この調子じゃと邪魔で仕方がない。


「ギャォォォォン!」


 しかし、二人の口論の結果を黄金龍が待つ事も無く、凄まじい咆哮を響かせる。

 それで気を取られた剣聖殿を差し置いて、馬鹿が再び黄金龍へと剣を構えて突っ込んで行く。

 そして、先程と同じ様に斬りかかろうとしたので、黄金龍も同じように翼で叩き落とそうとしたが、馬鹿は空中で体制を変え、翼目掛けて剣を構えておる。


「同じじゃねぇんだよ! バァガッ!?」


 振り下ろされた翼目掛けて、馬鹿が剣を振り抜くが、全く通用せずにそのまま地面に叩き落とされておる。

 空中で踏ん張れる訳も無いんじゃから、斬り付けた所で叩き落とされるのは当たり前じゃろ……

 そして、地面に叩き付けられた後、横薙ぎに振るわれた尻尾で吹っ飛ばされたのじゃ。


『面倒だ、諸共吹き飛ぶが良い』


 そんな念話が聞こえたと思ったら、黄金龍がその翼を大きく動かしてその身を空中へと浮かべ始めておる。

 それは非常にマズイのじゃ!


「絶対に飛ばしたら駄目じゃ! 手が出せなくなる!」


 ワシが叫ぶが、黄金龍の翼が巻き起こす風圧が凄まじく、ワシは勿論、兄上やヴァーツ殿も膝を付いておる。

 相手が空中におるなら滅龍魔法を叩き込めるチャンスじゃと思うじゃろ?

 まず、そんな暇は無い。

 この後、黄金龍がやる事は単純な事じゃ。


『諸共吹き飛べ愚か者共』


 そうして、空高く飛び上がった黄金龍の周辺に、様々な色に光り輝く球体が無数に出現したのじゃ。

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