幼女な魔女と森の熊さん ～異世界でポーション創ってのんびりスローライフがしたいのじゃが？～

第120話

　黄金龍の周りに浮かぶ様々な色の光の球体、態々鑑定せんでも分かる。

　あの球体一発で、ここら辺を吹っ飛ばす事が出来る様な威力の筈じゃ。

　つまり、コレからは一方的に黄金龍が上から延々と撃ちまくるだけ、と言う事になるんじゃ。

　防御しようにも、アレだけ多くの属性弾ともなれば、対魔法防御で対処出来るレベルを超えておるし、迎撃しようにも、一発の威力が相当なモノじゃから、生半可な攻撃魔法では呑まれて終わりじゃ。

「降りてきやがれっ卑怯だぞ！」

　馬鹿が騒いでおるが、卑怯も何も一番最初、お主は騙し討ちした事を忘れたのか……

　そう呆れてしまったのじゃが、光球の一つが発射され、その馬鹿の目の前に着弾、巨大な爆発を起こしたのじゃ。

「『守護の盾』！」

　剣聖殿が馬鹿を守る為に間に入ったのじゃが、二人共吹っ飛ばされとる。

　光球は相当な威力ではあると予測しておったが、まるで巨大な爆弾が爆発したような状態じゃ。

　そして、剣聖殿はズタボロになって、あちこちから煙を上げておる状態じゃが、馬鹿の方はバリンバリンと何かが砕ける音が響いて地面を転がっておる。

　どうやら、鎧の方に何か仕掛けがされておる様じゃな。

　持っておった剣も、爆風で弾きとんでおるし、あの様子では、剣聖殿はこれで戦線離脱じゃな……

「ヒィッ！？」

　馬鹿が剣聖殿の状態を見て、悲鳴を上げておるが、黄金龍がそんなのを待つ訳も無いのじゃ。

『我が器を盗んだ事を後悔しながら滅ぶが良い』

　黄金龍からの念話を受けた瞬間、周りに浮いていた光球が発射されたのじゃ。

　こうなれば……

　コレからやるのは、ワシですら限界を超えた魔法になる。

　当然、そんな事をすればワシに待っておるのは……

　じゃが、ここで迷う暇は無いのじゃ！

「おい、何する気だ！？」

「『マルチロック』！ バレル展開！」

　飛来する光球全てをロックオンし、黄金龍もロックオン、更にワシの周りに大量の空間重力バレルを展開させる。

　光球がそこまで速くは無いのが唯一の救いじゃが、数が数なので連射しておるのでは間に合わぬ！

　アイテムボックスから、超圧縮した岩塊をバレルにセットし、黄金龍には強化ミスリルで作っておいた特殊な砲弾をセット！

「兄上！ 後は頼むのじゃ！ 『マルチ・グラビトン・レールガン』！ 斉射ァッ！」

　瞬間、音の壁をぶち抜いた凄まじい炸裂音が響き渡り、無数の岩塊が光球に着弾、空中で凄まじい爆発を起こして迎撃の成功はしたのじゃ

　が、ワシはそれどころでは無くなっておる。

　発動した瞬間、ワシの頭の中でブツリと何かが切れるような音が聞こえた気がし、凄まじい頭痛と、全身を引き裂かれたかのような激痛が走り、思わず意識が飛び掛けたのじゃ。

　じゃが、此処で意識を飛ばしてしまっては、魔法が中断されて迎撃に失敗してしまう。

　何とか杖を使って倒れぬ様にしたが、視界が赤く染まり、吐き気も込み上げて来る。

「うぇ･･････」

　堪えられずに吐いてしもうたが、真っ赤じゃ。

　それだけでは無く、鼻や目からも血が流れ出ておる……

　やはり、限界を超えてしもうたら、こうなるか……

　ワシの体内マナは、使ったら瞬時に回復するようになっておるが、今回のは一度に使用したマナの量が大幅に超えてしもうた事が原因じゃ。

　例えるなら、体内マナがプールに満水状態の水だとするならば、人が一度に使えるマナの量は、そこから掬い取ったバケツの水と言った感じじゃ。

　ワシの場合、バケツで掬い取っても瞬時に回復するのじゃが、『グラビトン・レールガン』はちょっと特殊で、プールそのものの水を消費して使う事になる。

　そんな物を、マルチ化して同時に使用し、回復量を大幅にオーバーしてしもうた結果、反動（リバウンド）でワシの体内から無理矢理にマナを搾り取られた事で、ワシの体内はズタズタになってしもうた。

「魔女様！」

　ヴァーツ殿がこっちに向かって走って来ておるが、黄金龍の方はどうなっておるんじゃ。

　何とか見上げるのじゃが、その下顎付近に傷が見えておる。

　後々で知ったのじゃが、あの光球に紛れて、黄金龍がブレスをぶっ放そうとしていたらしく、それをワシが撃ち込んだ強化ミスリル砲弾によって、カチ上げられてワシ等に撃ち込むのは失敗したが、その余波が町の方へと飛来して、教会の展開した結界を吹っ飛ばしたらしい。

『……貴様は危険だ、ここで確実に消すとしよう』

　黄金龍の口元に、再び光が集まり始めていくのが見えるのじゃが、ワシは最早、魔法回路のダメージにより魔法を行使する事が出来ぬ。

「………！ …………！？」

　ヴァーツ殿が何か言っておる様じゃが、鼓膜にも異常が出ておるのか、もう耳が聞こえぬ。

　なんとかヴァーツ殿に支えられておるが、意識を保っておるのも限界に近い。

　兄上もこちらに走っておるが、それがワシの見た最後じゃった。

　あの馬鹿、限界を超える魔法を使ったせいで、体内がズタボロになっちまった。

　急がねぇと、マジで命が危ない。

　ヴァーツが何とかアイツの体を支えてるが、黄金龍もまたブレスの準備をしてやがる。

　残念だが、上空にいる相手を叩き落とす方法は、俺には無い。

　アイツを何とか回復させなきゃならんが……

「レイヴン殿！ 回復ポーションか何か持っておらぬか！？」

「上級ポーションだけだ！ コイツを飲ませておいてくれ！」

　クソッ欠損状態を治せるレベルのポーションでも、魔法回路の損傷だと気休め程度にしかならねぇぞ。

　まぁそれよりも、黄金龍をどうにかしねぇと、結局は同じなんだが……

　そんな事を考えていたら、遠くからドドドと足音を響かせて、ベヤヤが此方に走って来ているのが見えた。

　……よし、ベヤヤがいるなら、どうにかなるか？

「ベヤヤ！ 俺を奴の所に殴ってぶち上げろぉっ！」

　ヴァーツに上級ポーションを渡し、ベヤヤに向かって走りながら指示を出す。

　普通、ベヤヤに殴られたら両脚粉砕骨折なんて目じゃないレベルの怪我をする事になるだろうが、そこは考えがある。

　途中、勇者が持っていた剣を回収し、ベヤヤの目の前で跳躍。

「グガァッ！」

　ベヤヤが拳を握り固めて、思い切り振り抜いたが、ベヤヤが殴ったのは勇者が使っていた剣の腹。

　凄まじい殴打音が響き、俺の体が黄金龍目掛けて吹っ飛ばされる。

　勇者の剣を盾代わりにして、直接のダメージを回避はしたが流石はベヤヤだ。

　多分、こりゃ骨にヒビが入ったな……

　だが、それを気にする暇も無い。

　黄金龍のブレスは、いつ発射されても可笑しくない状態だ。

「竜の牙が如く噛み砕け！ 『咢（アギト）』ォォォッ！」

　アイテムボックスから予備の剣を取り出し、二振りの剣に全精神力を通して、黄金龍の首目掛けて挟み込む様に振り抜く！

　黄金龍がブレスを発射した瞬間、丁度、下顎の根元に直撃し、その首を大きく上に跳ね上げさせる事に成功した。

　が、そのカウンターとして黄金龍の左拳により、俺自身も殴られて地面へと叩き落とされた。

「ガフッ……」

　地面にめり込む形で叩き落とされ、体中がいてぇ……

　だが、空に見える黄金龍は、再びブレスの準備状態に入っている。

　動こうと起き上がろうとするが、全身ボロボロの状態で上手く動く事が出来ない。

　クソッ……これじゃ間に合わねぇ……

　だが、例え間に合ったとしても、もう一度、同じ事は出来ない。

　この状態では、何とかアイツを回復させなければ、どうにも出来ないだろう。

「ガァァァッ！」

　ベヤヤの咆哮が聞こえた瞬間、地面から白い何かが黄金龍へと伸び、黄金龍に直撃して爆発を起こした。

　一体なんだ！？

　アイテムボックスから上級ポーションを取り出し、ボロボロの体を修復して駆け出した。

　そして、ヴァーツ達の所に合流したら、唖然としているヴァーツと、オロオロとしているベヤヤがいた。

　それ以上に、混乱している様子なのが黄金龍だ。

『馬鹿な、何故、我以外の神獣がここにいて人間など守っている！？ 古き盟約を忘れているのか！？』

　神獣に盟約？

　黄金龍意外にこの場にいるのは、俺達以外にはいないが……

『まさか、その小娘が今代の巫女なのか！？』

　よく分からんが、どうやら、これ以上の戦闘は回避出来そうだな……