第111話
グリフォン部隊は無力化に成功したんで、次は後方で指示を受けれずに立ち往生しておるクリファレス兵達じゃな。
まぁ取り得ず、左翼と右翼の部隊を前進させるのじゃが、先程の勇者がぶっ放したマナの放出を警戒しなければならないのじゃ。
守れん事は無いのじゃが、連発されたら面倒じゃし。
そう思ったんじゃが、どうもグリフォン部隊をあっさり無力化された事にショックを受けたのか、勇者の阿呆の動きが止まっておる。
あ、兄上に蹴り飛ばされたのじゃ。
「クソッ! どうなってんだ!?」
蹴られた場所を触ると、そこの部分だけがベコリと凹んでいる。
オリハルコンで作らせた特注の鎧だぞ、嘘だろ!?
その蹴り飛ばした相手を睨みつけるが、あの野郎、剣を構えてすらいねぇ。
それ所か、左手を腰に当てて、完全に油断してやがる。
あのグリフォン部隊が、まさか一方的に撃墜されるなんて予想外過ぎて呆けちまったから、攻撃なんて喰らっちまったが、追撃すらしてこねぇ。
「おい! コイツにチャージしとけ!」
近くにいた部下に剣を投げ付け、予備の武器を取り出す。
俺でも使える様に改造させた収納袋から取り出したのは、デザインが気に入っている短剣だ。
どうしても威力はかなり落ちるが、コイツなら手数は倍以上、威力は手数でカバーすりゃ良い!
防げるなら防いでみろや!
両手に短剣を逆手で構え、男に向かって突っ込む。
左右の短剣をフェイントも交え、連続で繰り出すが、そのどれもが掠りもしない。
しかもこの野郎、片手で捌ききってやがる。
ってか、俺は勇者だぞ、最強なハズだろ!?
「……この程度か……」
そんな呟きが聞こえたと思ったら、目の前から、野郎の姿が消えた。
そして、再び腹の部分に凄まじい衝撃を受けた。
また、蹴り飛ばされたと分かったのは、あの野郎から随分と離れた所で、起き上がった衝撃で、腹部の鎧部分がガランと剥がれ落ちたからだ。
アイツの方を見たが、まるで俺への興味を失ったかのように、剣を鞘に戻して、ジジイと戦ってる進藤の方に歩いて行ってやがる。
あの野郎、俺に手古摺ってるからって、
卑怯な野郎だ!
「ヴァーツ殿、スマンがアレの相手を代わってくれ」
「何? しかし、勇者の相手は……」
「……警戒しただけ無駄だった、あの程度なら、ヴァーツ殿でも余裕だ」
は?
誠一郎と黒髪の青年が戦い始めたが、俺自身は目の前の老兵に目が釘付けになっている。
生きる伝説とも言われている超有名人で、クリファレスでも人気があり、剣士であれば一度は憧れる『龍殺しのルーデンス』。
老いてなお現役と言うのも頷ける程、鍛え抜かれた体躯に、黒く鈍く光る鎧を着込み、ミスリルと思われる剣と、黒い
目を逸らせば一瞬で斬り捨てられる、そんな自覚がある。
「では、剣聖殿、暫し儂の相手をして貰おうぞ!」
そう言った龍殺しの攻撃は、そのどれもがまるで嵐の様だ。
最初に振るわれた剣の一撃を受け止め、カウンターで斬り返そうと思ったが、受けた瞬間、余りのパワーと速度に斬り返すのは不可能と判断して、刃を受け流して回避に動いたが、それすらも読まれ、剣を受け止める形となり、間合いから逃がしてもくれない。
数度、剣同士で打ち合い、相手のパワーを利用して何とか間合いから離脱したが、着地と同時に、今度は此方から龍殺しに向かって一気に跳び、剣を振るう!
真っ向から振り下ろすが、コレは当然フェイント、本命は此処から変則的に引き貫く突きだ。
だが、流石は龍殺し、それすらも読み切られて、逆に間合い深くに入り込まれた。
こうなっては、剣を引いて突きを出す事も出来ない。
一瞬、左手に短杖を握っているのが見え、そのまま龍殺しの左側に体を捻じり込んでそのまま、背目掛けて剣を振り下ろす!
あのまま剣を振り下ろしていたら、恐らく、あの短杖で殴りに来ただろう。
だが、振り下ろされた剣は、龍殺しの掲げた短杖に受け止められていた。
くっ、あの短杖もミスリル製か!
と言うより、両手で振り下ろした俺の剣を、左手で持った短杖だけで受け止められるとか、どれだけ鍛えてるんだ!?
「フンッ!」
「流石、強い!」
間合いを取って剣を改めて構える。
不謹慎かもしれないが、今、凄く楽しい。
命のやり取りをしていて、一歩でも間違えばどちらかの命が失われる事になるのに。
なのに、とても気分が高揚して、こんな戦いをずっと続けていたい、なんて考えている自分がいる。
どう考えても、勝ち目の薄い遥か格上相手に、自分の技が何処まで通用するのか、とことん試してみたい。
「ふぅ……そう言えば、名乗っていませんでしたね。 『進藤 勝也』、クラスは『剣聖』」
「ほぉ、礼儀正しいのう。 儂は『ヴァーツ=ルーデンス』、クラスは『轟魔剣士』」
互いに名乗り、もう一度龍殺し、いや、ヴァーツ殿に俺は挑む!
剣を下段に構え直し、一気に間合いに突っ込み、一気に無数の連撃を叩き込む。
フェイントも含めて放つが、ヴァーツ殿の凄まじい所は、受けたら確実に致命傷になる攻撃だけを弾き回避し、受けても致命傷とは程遠い攻撃はそのまま受けている。
しかも、その受けた攻撃も鎧によってダメージにすらならない。
コレは、完全に経験の差だろう。
悔しいが、俺の実力じゃ時間稼ぎにしかならないだろう。
誠一郎がこっちに来てくれれば……
「ヴァーツ殿、スマンがアレの相手を代わってくれ」
そんな風に考えていたら、誠一郎の相手をしていた筈の青年がやって来た。
だが、その言葉遣いは、『苦戦したから代わってくれ』と言う感じじゃない?
なんか、物凄く呆れているような感じだ。
「何? しかし、勇者の相手は……」
「……警戒しただけ無駄だった、あの程度なら、ヴァーツ殿でも余裕だ」
青年が大きく溜息を吐いている。
確かに、青年は強いだろうが、勇者である筈の誠一郎の相手なんだから、苦戦していた筈。
誠一郎の方を見ると、青年の言動に唖然として、言われたヴァーツ殿も悩んでるし。
「……代わってくれるなら、
「むぅ、それを出されると断れんな……分かった」
今度はヴァーツ殿が溜息を吐いて、剣を引いた。
どうやら、あの青年はヴァーツ殿を脅せる材料を持っていたようだ。
だが、ヴァーツ殿でも余裕と言うのは一体?
勇者の相手をしていたんだから、この青年の方が強いって事なのに……
「……何で、俺の方に?」
「? この戦場で一番強い相手に最大戦力を当てるのは普通だと思うが?」
俺の呟きに、不思議そうに青年が答えてくれるが、だから、この戦場での一番最大戦力って、剣聖の俺じゃなくて、勇者の誠一郎だろ?
そんな事を考えていたら、『あぁ』と青年が何かに気が付いたようだ。
「
そんな事を言って青年が溜息を吐いている。
いや、それでも勇者は強いと思うんだが……
実際、
その後も、突っ掛かって来た冒険者も倒し、盗賊団も壊滅させたりして、実力は十分な筈。
だが、この青年が言う事を信じるなら、『勇者』より『剣聖』の方が強いってことになるんだが……
「それに、ヴァーツ殿と長時間斬り合えるだけで大したものだぞ」
そう言ってヴァーツ殿と戦っている勇者の方を横目で見ると、誠一郎が吹っ飛ばされていた。
斬り合っていたから分かるが、ヴァーツ殿のパワーは相当なレベルでも、別に受け流せない程じゃなかった。
一体どうなって誠一郎が吹っ飛ばされてるんだ?
「アレを見る限り、どうせ『勇者は何もしなくても最強』と勘違いして、何もしていなかったんだろう、嘆かわしい……さて、休憩は出来たか?」
青年がそこまで言って剣を構えた。
どうやら、ヴァーツ殿と戦って消耗していた体力の回復を待ってくれていたらしい。
普通なら、こんな短時間で回復はしないが、『剣聖』には『流水の型』と言うスキルがあり、ある程度の静止状態を保っていれば、短時間の間に体力や疲労を回復出来る。
だが、さっきの言葉は一体どういう意味だ?
まるで、『勇者は最強じゃない』っ意味に聞こえるんだが……
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