第108話




 兄上とノエルが模擬戦をし、バートと美樹殿がワシの魔法理論を聞き、カチュア殿が地下室でテスト中のムっさんが怪我をした場合の治療兼監視作業。

 これがここ最近のワシらの基本の日常じゃが、コレにアレコレと予定がくっ付いたりして変わる事もあるのじゃ。

 後は、ワシと兄上はノエルにバーンガイア国の法や、国際的に覚えておかねばならぬ最低限の法を教えて貰っておる。

 一応、名誉とはいえ貴族なんじゃし、覚えて置かんと不味いからのう。


 あ、料理熊ベヤヤは最近、弟子になりたい料理人が続々とやって来て、それの対応をしておる。

 と言っても、面接したり、直接会ったりとかはしておらぬ。

 一言、『弟子になりたければ兄弟子の許可を貰ってこい』と追い返しておる。

 つまり、ベヤヤの弟子になりたいなら、王城におる料理長か、ヴァーツ殿の所におる料理長のどっちかに会って、弟子にしてくれるように頼み込む必要があるのじゃ。

 ベヤヤ曰く、『本気で弟子になりたいなら、これくらいやれんだろ』と言っておるけど、どっちもハードルが高いのう……

 そもそも、やって来ておる者達の中で、本気でベヤヤの弟子になりたいと思っておるのは、ほんの一握りだけで、大半はベヤヤの珍しい料理を覚えて有名になろうとか、珍しい料理で稼ぎたいとかそんな連中ばかりじゃ。

 取り敢えず、本気で弟子になりたいと思っておる者達が、王城やヴァーツ殿の所に行って迷惑を掛けてもアレなので、もしそう言った輩が来ても邪険にせぬように先に手紙を出しておいたのじゃ。


 なお、本当に王城の料理長相手に直談判をしに行った者達が数名おったが、ベヤヤの弟子になる前に料理長の所で修行させられておる。

 なんでも、やって来たのは料理人と言うより、成人になったばかりの若い連中ばかりで、基礎すら儘ならんと言う事で、料理長の所でまずは基礎から勉強する事になっておる。

 このまま真面目にやっておれば、ちゃんとベヤヤに推薦してくれるそうじゃが、どうなるかのう。



 他にあった事と言えば、エドガー殿からの手紙で、エドガー殿のポーション工場で早速、ちょっかいを掛けた馬鹿共が出たのじゃ。

 王都での活躍を見て、金の匂いを嗅ぎ付けた馬鹿がポーション工場の利権を手に入れようとして、従業員を買収しようとして失敗、それならばと、孤児院から通う孤児を誘拐して脅迫しようとしたが、護衛に付いていた冒険者により返り討ち、そこから芋蔓式に犯人と係わっていた貴族達が捕縛されておる。

 なお、その中にはエドガー殿のポーション工場を真似て、自分の領地でポーション工場を建設しておった者達もおり、ワシが危惧していたコボルト豆の爆発的な大増殖で畑が全滅してしまい、その逆恨みで協力しておったらしい。

 他にも、薬草の中に毒草や効果のない雑草を混ぜたりもしておったらしいが、孤児達が頑張って選別しておったので、問題は無かったのじゃ。


 そして、その誘拐犯を返り討ちにしたのは、エドガー殿の護衛冒険者でもあったイクス殿達じゃ。

 ランクが上がった事もあり、ここ最近、イクス殿達はエドガー殿の護衛依頼以外にも依頼を率先して受けており、順調に実力を上げておるらしいのじゃ。

 何より、イクス殿には『蒼炎のイクス』と言うカッコいい二つ名が付いたのじゃ。

 依頼を何度もやっておるうちに、実力が上がった事で剣の封印が解除されたんじゃな。

 今は、自在に剣身に蒼い炎を纏わせ、それで相手を焼き斬っておるらしい。

 ジェシー殿とハンナ殿にも二つ名があるのかと思ったのじゃが、教えては貰えなかったのじゃ。

 近々こっちに来る用事があるとの事なので、その時にでも聞いて見るかのう。




「つまり、自然放出されているマナを直接身に纏う事で、ある程度は防御にも転用出来るって事ですか?」


「そうじゃな、簡単に言えば、『拳闘士グラップラー』とかが使える『闘気纏い』の、僅かな防御力を残して、攻撃力上昇は捨てる感じじゃの」


「なぁ、それって意味あるのか?」


 まぁ防御力として見るなら、微妙に感じるじゃろうな。

 しかし、あるのとないのでは、随分と違うのじゃよ。


 本日の授業内容は、対魔法に関してじゃ。

 魔法を使うのであれば、魔法の対処法も学ぶ事で、より良い選択が出来る様になるのじゃ。

 例えば、『火球ファイアーボール』と言う魔法は、『水の壁アクアウォール』と言う防御魔法で簡単に防ぐ事が出来るのじゃ。

 もしも、『火球』しか使えぬという魔法使いがおった場合、絶対に『水の壁』を使う魔法使い相手には勝てぬ、という事になってしまうが、ここでどうすれば、『水の壁』を『火球』で突破するのか、という事を考える。

 簡単なのは、『火球』に注ぎ込むマナの量を増やせば良いのじゃが、数発分を一発に籠める事になるので、効率は非常に悪いし、壁の向こうにおる魔法使い本人には殆どダメージを与えられる。

 難しい所では連発して、相手が壁を作るより早く相手に叩き込むというものじゃが、詠唱しておるんじゃ間に合わぬし、ワシの様に詠唱時間を短縮したり破棄したりするスキルは、習得するのが難しい為に現実的では無いしのう。

 では、どうすれば良いのかと言えば、『火球』そのものを改良すれば良いのじゃ。

 例えば、『火球』を超加速させ、完全に消失する前に壁を突破させる方法、一つの『火球』を複数に分割して突破させる方法、直線でしか飛ばぬ軌道を変えて迂回させる方法等、色々と方法はあるのじゃ。

 つまり、そう言った対処法を知っておれば、例え防御魔法を使われたとしても、相手にダメージを与える事が出来る。


 さて、そんな中でも魔法回路を持っておれば、人体からはマナが常時放出されておるのじゃが、コレは単純にマナが常時補給されておる状態なので、どんどん体内のマナが押し出されておるからじゃ。

 これは勿体無いと言う事で、この常時放出されておるマナを利用するのじゃ。

 参考にしたのが、『拳闘士』とかの『闘気纏い』と言うスキルで、コレは使用者の体内のマナを活性化させ、一気に身体能力を引き上げるという効果があるのじゃが、活性化させる際に一時的に体を停止させる必要があるのじゃ。

 その際、活性化したマナが体から放出される事で、使用者を放出したマナの密度によって保護しており、使いこなせれば相当な防御力になるのじゃ。

 なので、ワシが考えたのは自然放出されておるマナも、同じ様に防御に転用出来るのではないかと思ったのじゃ。

 実際の所、自然放出されるマナだけでは、防御力そのものは気休め程度じゃが、コレの狙いは別にあるのじゃ。


「防御力と言う点では、ほぼ意味は無いのう。 じゃが、ワシが狙っておるのはマナによる影響の軽減、もしくは無効化じゃ」


 端的に言えば、マナによって引き起こされる影響対策じゃ。

 マナで魔法的なダメージを受けるならば、体の表面にマナの防御層を作っておれば、そこで防ぐ事が出来るのじゃ。

 他にも、珍しい所で『』と言う物があるのじゃが、こっちの対策にも多少はなるのじゃ。

 そもそも、魔眼と言うのは魔法と違ってマナを直接操れるという一種の体質で、時たま、ひょっこりと産まれるのじゃが、かなり面倒な相手なのじゃ。

 そもそも、マナを変換して発動させておる魔法と違って、魔眼は直接マナを操って現象を引き起こしておる。

 他にも、『魅了チャーム』や『催眠』と言った悪影響を防ぐ手立てになるのじゃ。

 こういった精神に影響を及ぼす物は、精神力を鍛えておる者には効果は薄いのじゃが、そんな簡単に鍛えられるような物じゃないからのう。

 その点、この防御膜を作る方法なら、そこまで難しい物でも無く、慣れれば無意識に形成して維持出来るのじゃ。


 そう説明し、まずはバートと美樹殿が習得に向けて練習する事になったのじゃ。

 そうしてアレコレやりながら過ごしておったら、イクス殿達がやって来て再会し、完成間近の町を案内してる最中、完全武装の兵士達がやって来て、割ととんでもない情報が齎されたのじゃ。

 鳥型魔獣を使った緊急伝達により、ルーデンス領とクリファレスとの国境にあった関所が壊滅、クリファレス軍の一団がここに迫っておるらしい。

 春になればクリファレス側からも行商がやって来るのじゃが、それが途絶え、村長と「遅いですねー」と話しておった矢先の急報。

 そして、それに対応する為、ヴァーツ殿率いる部隊と王都から応援の軍がここに向かっておるらしい。


 そのクリファレスの部隊と言うのが、かの悪名高き『勇者』が率いる部隊なのじゃ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る