第105話




 はい、うちの料理熊が遂に自分専用のオーブン窯を作りおった。

 そして、ベヤヤのサイズじゃから、ワシ等には大き過ぎるのじゃ。

 窯は壁と屋根がある小屋の中にあるので、雨が降っても大丈夫。

 というか、小屋の造りが釘を使わぬ方法で建てられておるという事は、この料理熊ベヤヤ、神社の建築を見て覚えたという事かの。

 その完成した窯に、薪を入れて火入れをし、王城で食べたピザをベヤヤが焼いておる。


「グァー(出来たぞー)」


 ベヤヤがでっかいヘラで焼き上がったピザを皿に乗せ、机に運んできた。

 具材は基本のサラミが乗った物や、ゆで卵にジャガイモを刻んだ物、ベーコンや野菜が乗った物等、多種多様じゃ。

 それを美樹殿がピザカッターで切って、その場におった全員で食べる。

 うむ、普通に美味い。


「コイツぁ良い! 酒に合うな!」


 ゴゴラ殿がいつの間にやらジョッキ片手に、サラミのピザを食べておる。

 その隣では、ファース殿とカチュア殿がゆで卵とジャガイモのピザとベーコンと野菜のピザを食べておる。


「……これは、また美味しいですね」


「急に卵が欲しい、と言われた時は何事かと思いましたが、こう言う事だったのですね」


 そう、卵は貴重品で食べる場合は採取依頼を出さねばならぬ。

 今回はエルフ達に卵の採取をお願いし、小振りじゃが大量に手に入った。

 それを茹で上げ、チマチマと殻を剥いて切った物を使ったのじゃ。

 しかし、コレでベヤヤの料理に幅が一気に広がったのじゃ。

 今まではパンを焼くにもフライパンを使っておったんで、小さめのパンしか出来んかったが、窯が出来た事で、食パンみたいな大きめのパンを作る事が出来るようになったのじゃ。

 他にも、肉を焼いたり、卵事情を解決出来れば菓子作りも出来るようになる。


「グァ、ガグァ?(あ、注文良いか?)」


「ん? なんじゃい?」


 ベヤヤが新しいピザを持って来たと思ったら、ゴゴラに何か話し掛けておる。

 そして、首の鞄からメモ帳を取り出して、ゴゴラに見せておる。

 それを見たゴゴラがうーむ、と唸っておるが、何をしとるんじゃ?


「一体どうしたのじゃ?」


「おぉ、この熊がのう」


 ゴゴラ殿が言うには、ベヤヤが新しいフライパンや鍋を欲しがっておるらしい。

 まぁ確かに、今の調理器具はベヤヤのサイズからしてみると小さ目じゃからのう。

 注文しようとしたのは、ベヤヤの体のサイズに合わせた大き目の物じゃな。

 そのくらいなら問題無いじゃろう。

 あ、そう言えば、私もちょっと新しい武器を頼みたいんじゃった。


「ハァ!? こんなん誰が使うってんだ!?」


 ゴゴラ殿がワシの渡した仕様書を見て声を上げておる。

 大丈夫じゃ、それを使うのはちょっと特殊な奴なのでな。

 取り敢えず、最低でも剣と盾、槌と槍は欲しいのじゃ。


「……まぁ頼まれりゃ作るが……本当にコレで良いのか?」


 後日、ゴゴラ殿が手が空いた時に、注文した物を作ってくれる事になったのじゃ。


 因みに、この場におらぬ瑠璃殿や童女神シャナリー殿にも、ピザは作ってアイテムボックスに収納して、後日、神社から奉納しておいたのじゃ。



 そしてその神社では、現在、エルフ娘達による特殊な大結界を張る練習が行われておる。

 普通、結界はマナを注いで障壁を発生させる物で、そのマナの量によって結界の強度が決まるのじゃ。

 それこそ、腕がある者なら、魔法を介さない物理でも阻む事が出来る障壁を展開出来るのじゃ。

 しかし、それで発生させられる結界の範囲は限られており、精々が人一人と言った状態。

 じゃが、今エルフ娘達がやろうとしておるのは、神に対して限定された範囲を結界で覆って貰う様に願いを込め、その為に舞を披露して奉納する、というモノであり『神楽』とも呼ばれておる。

 神楽舞を披露したりするメインとなるエルフ娘達以外は、舞台の周囲で祈りながら、持った鈴鉾からマナを舞台に送り続ける。


 その為、生半可な練習では無く、実戦さながらの緊張感を持って練習が行われておる。


 エルフ娘の一人である、リュミー殿が左手に持っておる鈴が沢山付いておる神楽鈴を鳴らし、文字通り舞う様に舞台上で踊っておるが、時たま、それを監督しておる瑠璃殿が止めて注意し、それを直してまた踊っておる。

 その隣では、シオーネ殿が難しい本を読み上げておる。

 アレは神楽舞を奉納する際に読み上げるモノで、一言一句間違わずに言わねばならず、更には完全暗記をしなければならない。

 声量と記憶力が良いシオーネ殿が担当となっておるが、それでも苦労しておるようじゃ。

 そして、最後の一人であるストラ殿じゃが、彼女は三味線の様な楽器を担当となっておる。

 実は、この3人の中で一番難しいのがストラ殿の楽器であり、この楽器はただの楽器では無く、音を鳴らすには常にマナを流し続ける必要性があるのじゃ。

 ストラ殿は3人娘の中で一番のマナ保有者じゃったが、それでも、当初は一曲弾き終えると、完全にダウンしてしまう程の消耗で、ヴァーツ殿から教えられた流転法を使って、マナの総量を増やしておるが、それでもまだまだ辛いようじゃ。

 なので、リュミー殿やシオーネ殿の様に瑠璃殿が兼任して担当しておるのと違って、彼女には専属で先導者が付いておる。

 それが『紅葉』殿と言う赤髪に赤目、長身の女性眷族殿じゃ。

 ストラ殿の専属となってから、毎日、ストラ殿の体調をチェックして、流転法の訓練から私生活に至るまで、極力付き添っておる。

 そして、彼女の訓練は過酷じゃ。

 マナを増やす為とは言え、流転法で疲れた所に、更にマナを消費させる。

 実は、これが一番効率の良い方法なのじゃが、この方法は一歩間違えると命の危険があるのじゃ。


 と言うのも、この世界では自然回復以外で、マナポーションみたいなマナを回復させるような方法が基本的に無いのじゃ。

 よく、ファンタジー作品では、マナを回復させるポーションや、他人に自身のマナを譲渡する事があるのじゃが、この世界ではマナは血液の様な物で、自分のマナ以外のマナが体内に入ると拒絶反応が出て危険なのじゃ。

 なので、体内のマナが枯渇してしまった状態になると、安静にするしかなく、限界以上まで使用した場合、ほぼ確実に死んでしまう可能性が高いらしいのじゃ。

 前に兄上が童女神殿に回復させてもらった事があるのじゃが、アレは神様だから出来る事であって、人間であるワシ等には不可能じゃろう。

 一応、マナの回復を早める方法として、現在エルフの森で育てて貰っておるとある果実を口にする事で、体内マナを活性化させられる事が分かっておるのじゃが、育成が難しく今の所増産が出来ておらん。

 その果実が、林檎の様な果実なのじゃが、実が洋梨の様に柔らかく味が桃に似ておる。

 エルフ達はこの果樹を、『エリクスの実』と呼び、特別な日に食しておったらしいのじゃ。

 当然、逃げてくる前の森にもあったらしいのじゃが、逃げてくる際に全て引き抜き、こっちの森に植林しておるのじゃが、流石に疲弊しておるらしく、今年は実が数個付いただけじゃった。

 ワシの方でも、木の根元に成長を強めるポーションとなる栄養剤を与えたのじゃが、効果が発揮されるのは来年じゃろう。


 他にも、瑠璃殿と共に建設中の壁に向かって、結界の終わりとなる目印になる様に、クモ吉の金色水晶をこっそりと埋め込んでおく。

 コレで何か起きた場合でも、神社で神楽舞を奉納する事で町を無事に守る事が出来るのじゃ。

 まぁそんな事は早々起きぬじゃろうけどな!


 お気楽にそんな事を思っておったのじゃが、まさか本当にこの大結界が必要になるなど、この時のワシは思ってもみなかったのじゃ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る