第104話




 更に季節は流れて……と言っても、ほんの一ヶ月程度じゃが冬到来。

 と言っても、そこまで冷え込む訳でも無く、かと言って涼しい訳でも無く、微妙な気温じゃ。

 裁判騒ぎから村に帰り、アレコレと冬支度をしたのじゃが、ぶっちゃけ、ワシは何か特別な事をした訳では無い。

 と言うのも、村では村人達も随分と回復した事で冬支度は早々に終わり、更に町の建設に携わる作業員の為に補給がちょくちょく来るので、今年は何かが不足するという事は無い。

 気を付けるのは病気とか怪我くらいかのう。

 そう思って、村人達以外にも衛生の徹底を指導し、予め風邪薬やらを調合しておいたのじゃが、まぁ予想外の事では建設現場で、急に視察に来た貴族達の中に腹を下す者が出たくらいじゃ。

 その腹を下した貴族も、作業員の忠告を無視して、まだ半生だった兎肉を食した事による食中毒。

 大慌てで治療したのじゃが、療養中にヴァーツ殿が来てその貴族はドナドナされていったのじゃ。

 なんでも、視察と言う予定はそもそも無く、この貴族達は建設で発生しておる利権で甘い汁を吸おうと画策し、様子を見に来たらしいのじゃ。

 そもそも、この貴族連中はルーデンス領では無く、隣の元スメルバ領の貴族達で、現在は領主不在の為に国預かりの状態で稼ぎが減った為に、こんな阿呆な事を思い付いたらしい。

 まぁ後の判断は国がするので、ワシ等にはあまり関係無いのじゃ。

 そして、町を囲う壁の建設は恐らく、来年の夏頃には終わる予定となっており、その時期を目途に住民を募集してどんどん内側に家を建てていくのじゃが、一部の建物は既に建築が終わっておる。

 それこそ、町長の屋敷や商店などの公共施設、ゴゴラ達ドワーフ達が住む家や神社、そして教会。

 教会の方はまだ土台だけじゃが、壁が出来上がる頃には完成する予定らしい。

 正直、胡散臭い教会にはお帰り願いたいのじゃが、ソバンのやった事を『勝手にやった事で、教会は関係無い』と言われてしもうたら、強く出る訳にもいかず、止む無く許可を出したのじゃ。

 教会建設に関しても、一般の作業員は敷地内には入れず、教会所属の専門家と言う連中がやっておる。

 要注意じゃな。




「で、ベヤヤは何しとるんじゃ?」


 小屋の裏手、ベヤヤの寝床になっておる洞窟の脇に、何故か材木やらレンガが大量に積み上がっておる。

 因みにコレは全てベヤヤが集めた物で、ワシは一切手伝っておらん。

 そのベヤヤは材木を爪で傷を付けて、器用に穴を開けたり削ったりしておる。

 と言うか、最近、ずっと同じ作業しとるのう。


「ガァ(趣味)」


 そうか、趣味か。

 いや、ベヤヤの趣味て……

 手を貸そうかと思ったが、楽しそうにやっておるし、ここはベヤヤに任せるとしようかの。

 しかし、本当に何を作るつもりなんじゃろ?

 そんな事を考えつつ、ワシはワシでエルフの森でコワの実を精米する作業をする為、一旦離れるのじゃ。




 最近ニンゲンが沢山いる所で、新しい美味いモノを喰ってから、色々と作りたい物、試したい事が増えた。

 ただ、その為には俺の寝床で使える物が無い。

 あのちっこいのが使ってるのは小さ過ぎる。

 となりゃ、作れば良いだろうって思って、ニンゲンが住処を作ってる所を見て覚える。

 後は材料集めだが、森の木を切った後、すぐに使うのは駄目らしい。

 住処を作ってたヒゲモジャが、『切った後、長期間乾燥させなきゃ使えん』とか言ってたからな。

 じゃぁどうするって話だが、俺にはあのちっこいのがくれた能力がある。

 寝床から結構離れた場所で、森の木々を薙ぎ倒し、ついでに襲って来た豚面共も叩きのめして、首の鞄に押し込んで寝床に戻り、取り出した木に対して『乾燥しろー乾燥しろー』と念じると、じわじわと切った所から水が出て来る。

 よし、上手くいった。

 残りの木からも同じ感じで水を出し、全て乾燥させる。


 ベヤヤがやったのは、『超能力』スキルの中にある『念動力』と言う力で、木の中にある水分を押し出しただけだが、本熊はそんな事は気が付いてもいない。


 その後は、寝床の壁で大体の形を決め、次に必要な物を探す。

 具体的には、粘土とツナギ。

 粘土は川の近くで大量にある場所があるから、そこから集めて、川底から砂も集める。

 で、ツナギに関しては全く分からんから、ヒゲモジャに聞こう。


「あ? ツナギ?」


『アレ』


 俺が指差した先では、別のヒゲモジャ達が桶の中でネッチャネッチャと、かき混ぜてる泥みたいなモノがある。

 それを見て、ヒゲモジャが『あぁ、モルタルか』なんて言ってるが、アレってモルタルってのか。


「モルタルは石灰石と砂、水がありゃ作れるが……ここら辺にゃ石灰石はねぇからな……」


 ヒゲモジャが唸って、何を作るのか聞いてきたんで、コレから作る予定のモノを話したら、条件付きでモルタルの材料を譲ってくれた。

 条件も、完成したら俺も呼べって事だったから問題無い。



 ちっこいのが耳長のトコに行ってる間に、寝床の脇に加工した木を立て、穴同士を組み合わせる。

 ちゃんと地面と触れる部分にも石を当てて、地面とは離して腐らない様にしたが、ヒゲモジャ達は何か塗ってたな。

 後で聞くとしよう。

 住処を作ってる時に、ヒゲモジャが釘とか使わない方法をやってたのを真似てみた。

 屋根も乗せて壁も付けて取り敢えず、ガワは完成。

 次はメインだ。


 まずは大量のレンガに一つ一つ爪で魔法陣を刻んでいく。

 コレはちっこいのが偶にやってる事で、あのちっこいのに会いに来る耳長の女から教えて貰った奴だ。

 その削った所に虹色魔石を削った粉を刷り込んで、上から俺のマナで焼き付ける。

 それをただひたすらやっていく。


 ……飽きて来たな……今いくつやったっけ?


 見回せば、俺の周りには大量のレンガ。

 ……これだけありゃ足りるかな?

 足りなきゃまた作るか。

 そう思って、床に一つずつ並べてまずは全体のサイズの確認。

 大き過ぎず小さ過ぎず、俺のサイズに合う様に幅や奥行きを決める。

 一番外側は根元が三重、天辺を二重の予定だが、なんか床の部分がデコボコしてるな……

 これだと完成してもデコボコになっちまう。

 足踏みして地面を均し、取り敢えず平坦にした後、レンガを並べて再確認。

 その後は、ヒゲモジャから貰ったモルタルを作って積み上げていくんだが、もう日が暮れる。

 後の作業は明日だな。


 取り敢えず、ちっこいのが戻ってくる前に庭先で火を起こし、鞄から色々と材料を出す。

 この前ニンゲンが沢山いた所で、トマトとか言う物を貰ったんだが、煮ても焼いてもそのままでも美味い。

 他にも大量の野菜をザクザクと切り、保存食のベーコンも切って鍋の中で炒める。

 しばらくしたら水も入れて、調味料をちょいちょいと入れて……よし、完成。

 同時にフライパンでパンも焼いて、鉄串でタレに漬け込んだオーク肉も焼いておく。

 あのちっこいのと黒髪、意外と喰うからなぁ。

 俺用にもう少し作っとくか。


 しばらくしたらちっこいの達が帰って来た。


「また腕を上げとるのう……」


「……どこに向かってんだが……」


 ちっこいのが何か言ってるが、美味いんだし別に良いだろ。

 んー今回のタレはちょっと木の実の匂いが強いか?

 炒りも少し弱い感じだな……もう少し強めに炒ってみるか。


 その後は、片付けて寝床で寝る、前に寝床の魔導ランプの下で、さっき思い付いた事を俺用のペンで書き留める。

 このペンはヒゲモジャに頼んで特別に作って貰った奴で、指の間に挟んで使う。

 明日は朝からずっとレンガ積みの予定だから、ちっこいの達にはパンに野菜と肉を挟んだのを渡しとけば良いか。

 あぁ、風味の違うタレで焼いたのを使えば、味が変わって良いかもしれねぇ。


 そんな事を書き込んだ後、魔導ランプを消して寝る。

 明日に完成させられたら良いな。

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