第103話




 裁判も終わり、ルーデンス領へと戻って、エルフの森にて貰った野菜の苗やら種を渡す。

 他にも、町の一角では家畜を育てる区画も作られ、ソフトホーンカウと言う牛によく似た魔獣の飼育が始まったのじゃ。

 このソフトホーンカウじゃが、ソフトホーンと言うだけあって角はあるのじゃがふにゃふにゃで、すんごく弱い。

 これでは他の魔獣に餌として狙われるじゃろうが、弱い代わりにとんでもなく美味いミルクを出すのじゃ。

 つまり、人等に守ってもらう事を前提とした魔獣なのじゃな。

 将来的にチーズ製造も見据えておるのじゃが、この異世界では凝固剤は何を使っておるのか聞いてみたら、普通に木の実の一つにそう言う作用があるようで、チーズ作りをしておる地域では、各家庭に一本植えて、それぞれで味や風味が変わるそうじゃ。

 一番、味も風味も良い物は王宮御用達になるらしく、色々と工夫しておるそうじゃ。

 取引用の苗も売っておるらしいので、それも後で注文しておこうかのう。


 他にも、卵が欲しいのじゃが、こっちに関しては未だにどうするか考え中。

 と言うのも、卵と言うのは鳥型の魔獣から得られるのじゃが、この世界の鳥型魔獣はほぼ全てが飛ぶ上に、卵を毎日産む訳ではないので、飼育は難しいのじゃ。

 畜産を考えた際に、鶏によく似た魔獣がおるのかヴァーツ殿に聞いて見たのじゃが、そう言う魔獣によく似た魔獣はおるが、とてもじゃないが飼育は出来ない程危険なのだという。

 その魔獣こそ『コカトリス』であり、ニワトリの体に蛇の尻尾を持っておる。

 ただし超狂暴で、鶏の方は石化の魔眼持ち、蛇の方は大型魔獣でも麻痺する程の毒持ち。

 ぶっちゃけ、危険過ぎて飼育は出来ぬ感じじゃ。

 昔、従魔師テイマーがテイムし、安定供給を考えようとしたらしいのじゃが、結局は失敗。

 その為、卵が欲しい場合は冒険者に依頼し、入手する必要があるらしく、貴族くらいしか気軽に食べられないらしいのじゃ。

 ううむ、ワシのポーションで従えられたとしても、それを定期的にするのは無理じゃし、かと言って探すのも無理じゃな。

 何か良い方法は無いかのう……




 そんな事を考えつつ、自宅の小屋に戻るのじゃが、ここでも一つの問題が残っておる。

 それが、美樹殿なのじゃ。

 王都でのピザやら毎食の食事やら小屋の内装を見て、ワシが転移者の一人じゃないかと疑い始めておる。

 兄上は黒目黒髪じゃから余計じゃな。

 ただ、ワシの容姿があまりにも日本人離れしておる上に、この容姿の娘はあのバスに乗っておらんかったから、今のところは確証はないが怪しんでおる、という感じじゃ。

 コレに関しては、バレた所でも問題無いのじゃが、ポーション師の効果はあまり広めたくはないのじゃ。

 なので、ワシが地球人であるとバレない様に、いつものように存在せぬ『先代』を最大限利用する事にしたのじゃ。

 まぁ具体的には、ズタボロになったレシピ本を作っておいたのじゃ。

 当然、レシピの余白スペースに地球に関する情報を書いておくのじゃが、内容的には十数年前の事ばかりを書いて置いたのじゃ。

 これでワシが地球の知識を持っておっても、ある程度は誤魔化せるのじゃ。

 まぁ将来的には話すつもりではあるのじゃが、今では無いのう。


 取り敢えず、美樹殿を呼び、誤解を解く為に偽装した『先代のレシピ帳』を見せておくのじゃ。

 美樹殿がワシの手渡した随分ぼろっちいレシピ帳を見て、ワシが地球の料理を作れる事には納得してもらったのじゃ。

 他にも、先代から地球の知識を聞いておる、と言う事で地球のアレコレを再現しようとしておる事も話し、その中で銃の事も聞いたのじゃ。

 兄上曰く、美樹殿も作っておるらしいしの。

 そして見せて貰ったのじゃが、美樹殿の銃はワシが作ろうとした炸薬式では無く、圧縮空気を使うエアガンタイプじゃった。

 そして、実際に撃ってみたのじゃが、プシュッと小さい音がして離れた的を撃ち抜いたのじゃ。

 うむ、やはり、エアガンタイプじゃと弾速はおっそいのう……

 それに、威力も低い。

 ワシの作った試作品で何とか撃てる物じゃと、撃ち抜くというより、的が砕け散るからのう。

 というか、コレは威力が低過ぎる様な気がするんじゃが……

 そこら辺を聞いて見たのじゃが、美樹殿は他人を傷付ける様な武器を作るのは嫌いなようじゃ。

 それなら、別に非殺傷武器を作れば良いのでは無いのかのう?

 確か、塩の塊とかを撃ち出すとかあったのではなかったかの?

 そうじゃ、良い事思い付いたのじゃ!

 早速、図面を引いて美樹殿に見せてみるのじゃ。


「えーっと、つまりコレって、『グレネードランチャー』ですよね?」


「名前までは知らんけど、コレなら色々と便利に出来るじゃろ?」


 正式名称は『擲弾発射器てきだんはっしゃき』なのじゃが、ワシのはイメージ的にはでっかいリボルバーって感じじゃの。

 本来は、榴弾やガス弾を撃ち出す物なのじゃが、美樹殿の為に撃ち出す弾はかなり特殊な物になるのじゃ。

 それこそが、エルフ達が使っておるスライムを活用したトリモチ弾じゃ。

 エアー式で弾を撃ち出し、当たった場所で炸裂して、べったべたのトリモチを撒き散らして相手を拘束する。

 そして、このトリモチじゃが、極低温まで冷やすと簡単に剝がせるから安全じゃし。

 これなら、相手を害する事も無く無力化出来るのじゃ。

 まぁ当たり処によっては死ぬかもしれんけど、そんな事言っておったら何も出来んからのう。

 しかし、そう考えるとこのトリモチ弾は結構使える物じゃの。

 ムっさんが試しておるにも試してみるかのう。

 取り敢えず、グレネードランチャーは美樹殿用に作るとして、エルフ族にも矢の先端に装着出来るタイプを作って試して貰うとしようかの。

 もし上手い具合に運用出来れば、ゴゴラ殿辺りに増産を頼んで、この町で本格運用するのも良いのじゃ。

 そう思ったのじゃが、ワシが作った試作のグレネードランチャーは上手く回転機構が機能せんかったので、止む無く単発式にし、回転機構はゴゴラ殿にお願いしたのじゃ。

 まぁ、流石にワシにも分からぬ事はあるのじゃよ。



 そんな事をしながら、町の建設にも手を貸しておる中で、神社の方で動きがあったのじゃ。

 動きと言っても悪い事では無く、冒険者の一人が下位職の剣士から、中級職の重剣士にクラスアップしたのじゃ。

 しかもこの冒険者、王都の方でクラスアップする為に教会に行って、高い御布施を払ったにも係わらず失敗しており、今回は偶々、資材輸送の護衛でやってきて出来上がりつつあった町を見ていた最中に神社に訪れ、エルフ娘の一人にお参りの作法を教えて貰い、御賽銭として銅貨を投げ入れた後に両手を合わせて祈った所、淡く発光してクラスアップに成功したのじゃと言う。

 コレに付いては単純な事で、今までは童女神シャナリー殿を信仰しておらぬ教会では、童女神殿や眷族殿達には知らせが行かず、偶々、見ておった時にのみ、クラスアップが行われておったのじゃが、神社の場合は、童女神殿を信仰しておるのじゃから知らせが行き、即座に判定してクラスアップする事が出来るのじゃ。

 ただ、コレが噂になると人々が押し寄せて来る事が予想出来たので、瑠璃殿と話し合ったのじゃが、『真面目にやっていないとクラスアップ出来ませんから、そこまで心配する事は無いですよ』と瑠璃殿が言った通り、それから何人も神社に訪れ、賽銭を投げ入れて祈っても、クラスアップ出来る者と出来ぬ者が、大体半々くらいの割合でおったのじゃ。

 因みに、神社で売っておるお守りに関してじゃが、当初は御神体の前に置かれた台に積み上げた小さい木札に、瑠璃殿達が祝詞を読み上げて、ほんの僅かな運気上昇や病魔退散等と言った効果を付与していたのじゃが、今は瑠璃殿達が監修してエルフ娘達がやっておる。

 瑠璃殿曰く、この付与はちょっと特殊な物であり、彼女達の様に選ばれた者が真摯に祈る事で付与出来るらしいのじゃ。

 当然、瑠璃殿達が合格を出さねば、売りには出されぬし、もしもそんな物が出た場合、一から修行のし直しとなるのじゃ。

 それと、そのお守り争奪戦対策として使っておった水晶玉じゃが、無事に役目を終えて、今ではお守りの一つとして売りに出されておる。

 無色透明の物は肌触りの良い布で巾着を作り、身を護る効果を記した護符と共に入れておる。

 ただ、うちのクモ吉が作った金色水晶に付いては、数が無いのでお守りでは無く、瑠璃殿達が身に着ける装飾品として再利用されておる。

 クモ吉も頑張って水晶玉を作ろうとしておるが、もう少し大きくなってたくさん作れるようになったら、お守りの一つとして売りましょう、と瑠璃殿も交えて説得しておいたのじゃ。

 まぁ後何年掛かるか分からんがのう。

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