第101話
まぁちょっと時間の掛かる作業もあったのじゃが、ワシの持っておる収納袋の一つに丁度良いのがあったから問題は無いのじゃ。
その間に、材料をサクサクと切って準備しておく。
まぁ簡単に言ってしまえば、作ろうとしておるのはピザじゃ。
収納袋の中の時間を加速させて、ピザ生地を寝かせる時間を短縮し、出来上がった生地にトマトソースを塗って、具材を並べてチーズを乗せて、予熱してあっつあつにした窯に放り込んで焼き上がりを待つのじゃ。
因みに、ワシが調理しておるのは城の中にある調理室じゃ。
流石に、庭に窯は無いし、かと言って作るのはどう考えても問題じゃからのう。
ピザを窯から出す為のでっかいヘラも、その場で作ったのじゃ。
しかし、このでっかいヘラ、確か名前はあったはずじゃが、何て名前だったかの……
そして、ジュゥジュゥと音を上げる料理が庭にあるテーブルに運ばれる。
「あっつ、うまっ!」
「ほう、これは面白い食感ですな」
「チーズを温めるとこんなに伸びるのですね」
「今までこんな料理を食べた事は無いな……」
「こっちでピザが食べられるなんてっ!」
各々が感想を言いながら取り合う様にピザを食べておる。
まぁ若干一名は感動して涙しておるが……
で、それとは対照的に
「つまり、師匠はこの料理には際限が無く、具材の数だけ存在する、と?」
「ガァ、グァ、ゴグァ」
「成程、食材の組み合わせは大事ですからな、しかし、それでも研究し甲斐があるというモノです」
「グァ!」
うむ、あっちはあっちで話が進んでおる様じゃな。
そして、料理長がしれっと弟子入りしとるけど、良いんじゃろうか……
ピザの具材は本当に組み合わせ次第で際限が無いからのう、どんどん試して欲しいのじゃ。
まぁ、どうしても凄いカロリーじゃから、そこら辺は気を付けて欲しい。
そんな様子を見ながら、ワシは新たなピザを焼くのじゃ。
お姫様が次に会った際、丸くなっておったら大変じゃからのう……
別れ際にさり気なく、太りやすい料理じゃから、気を付けるようには言っておいたのじゃが、もし研究するなら、訓練で消耗する兵士や騎士に振舞うと良いのじゃ。
ただ、どうしても味が濃くなるじゃろうから、そこら辺は要調整じゃろうな。
そうしたにこやかに過ごしている王城とは対照的に、とある屋敷では凄まじい事になっていた。
「ぬがぁぁぁぁっ!」
部屋の中で男が叫びながら、椅子を蹴り飛ばし、机の上にあった調度品を払い飛ばし、最後には、机をひっくり返してしまう。
そこまでやって、息を荒げてはいるものの、やっと男が大人しくなった。
「……クソッ! 失敗するとはっ!」
親父の目論見が見事に外れ、あのルーデンス領から金をせしめる事も出来ない所か、まさかこっちの魔道具の欠点を見抜かれてしまうなんて予定外も良い所だ。
というより、陛下達がいたのが最大の計算外だった。
それに、魔道具の買い付けがキャンセルされたのも痛過ぎる。
「それより親父、コレからどうするんだ?」
「ハァハァ……どうする、だと? どういう意味だドラーガ」
既に王城からの注文があるだろう、と考えてかなり無茶な生産をしてたのに、それが全て無駄になってしまったからシュトゥーリア家としても大赤字。
更には、魔道具の材料を借金してまで買い揃えてしまい、その支払日も迫っている。
このままだと、かなり不味い事になる。
「取り敢えず、ここに戻る前に魔道具の生産は停止させる命令を出したから、残った材料を売り捌けば、借金はどうにか待ってもらえるかもしれないが、このままだとゴダーンの話じゃヤバイって……」
「何がヤバイ、だ! 王家に目を付けられた上に、騙そうとした等と言われておるのだぞ!」
そう、一番の問題はそこだ。
あの後、別室で宰相様に国を騙そうとした疑惑を掛けられ、親父と共に必死に弁明したのだ。
一応、そんなつもりは無かったと分かってはもらえたようだが、傍聴席にいる愚民共から噂として広がるのも時間の問題だろう。
そうなる前に、何とか功績を上げなければ……
「……旦那様、エンゴ様がお見えになりましたが……」
「何? 支払いはまだ先の筈だが……」
エンゴと言うのは、『ベータリア商会』と言う最近頭角を現してきた巨大な商会であり、今回、魔道具を作る為に、この商会から結構な額を借り入れて、魔石やミスリル等を調達している。
親父の言う通り支払日はまだ先の筈だが、そんな商人が何の様だ?
取り敢えず、ズタボロになった部屋に通す訳にもいかないので、別室に待たせて置き、親父は息を整え、身嗜みを直してから、エンゴの待つ部屋に向かった。
「支払い日を早くするだと!?」
「はい、申し訳ありませんが、少々込み入った事がありまして、資金を工面する必要が出たのですよ。 あぁ、こちらの事情ですので、全額返済では無く、半分ほど返済をして頂ければと思いましてね」
エンゴがそう言いながら、短い顎鬚を撫でている。
若干浅黒い肌に短い茶髪だが、その顔付きは堀が深い。
言われた親父の方を見ると、額のあたりに血管が浮き出始めている。
「急にそんな事を言われても、今は少々……」
「えぇ、存じておりますよ。 何でも、王家に詐欺を疑われているとか……」
コイツ、どれだけ耳が良いんだ。
殆どさっきの事だぞ!?
「ですので、こちらとしても無理に現金でとは言いませんよ。 流行り廃りはありますが、屋敷の調度品などで補填させて頂きますので」
「そ、それは……」
親父が言葉に困っている通り、この屋敷の調度品はそこまで高い訳じゃない。
かと言って、領地にある屋敷の調度品を売り払う訳にもいかない。
しかし、ここで払わないと、当家は借金も払えない、と他の貴族から陰口を言われてしまう事になりかねない。
「ふむ、では、こう致しましょう。シュトゥーリア領の一部に、我が商会への土地と大型倉庫の建設を許可して頂きたい」
当然、御禁制の品を売り捌く為の物では無く、そこを足掛かりに各地へと商品を運ぶ為の、所謂、商品の集積場を作るのが目的だと言う。
ただ、中には取り扱い注意の品もあるので、それなりに土地も大きく欲しいと言うのだ。
最初からソレが狙いだったな?
エンゴが地図を取り出して、希望の所を幾つか指し示すが、何処も別段、領地を守る上での要所では無い。
それどころか、街道からも若干外れている所が多い。
なんでも、そう言う所が穴場で、移動の際に混雑したりしないそうだ。
商人の考えている事はよく分からん。
結局、王都にほど近い土地と、倉庫建設の許可を出す代わりに、当家の借金のほぼ全額をチャラにさせた。
親父は借金がほぼ無くなった事で安堵していたが、問題はこの後、謹慎が解けた後に貴族社会でのシュトゥーリア家の立ち位置が微妙な所になってしまったのを、何とかして戻さねばならない事だ。
その為には、新しい魔法か魔道具を開発するなりして、何とかイメージを上げねばならない。
業腹だが、あの魔道具師に何か考えさせねば……
そう思っていたのだが、俺の予想を裏切り、あの魔道具師を乗せた馬車が魔獣に襲われ、行方不明となったと、数日後に当家に知らせが届いた。
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