第100話
さて、そもそも、どうしてベヤヤが飯テロなんぞしておったのかって話なんじゃがの。
と言う訳で、時はすこーしだけ巻き戻るのじゃ。
その日、前にも行った事があるオウトとか言う所に、ちっこいのと一緒に行く事になった。
なんでも、ちっこいのに対して馬鹿が何かやったらしいんだが、よく分からん。
ただ、俺がそのオウトとか言う所に入って大丈夫なのか?
前は森の中で待たされたし。
そう思ってたら、なんか一番でっかい石造りの家?で待つ事になった。
ここの庭で俺は待機してるように言われたんだが、何もすることが無いから暇だ。
いや、する事が無いというか、何かしたら騒ぎになるから大人しくしていて欲しいって、一緒にいたでっかいのに言われた。
まぁただ寝て待つってのもアレだし、鞄の中でも整理するか。
そう思って、首から下げている鞄の中からいつも使っている道具を出して、作りかけだったチョウミリョウがまだあった事に気が付いた。
大き目の甕の蓋を開けると、ふんわりと香ばしい匂いがする。
コレに酒とか色々と混ぜて煮れば、味が更に良くなるのでは?
思い立ったら即行動。
でも失敗したらショックで寝込む自信があるから、チョウミリョウは半分だけ使う。
ただ、勝手にやったら怒られそうだから、近くにいた兵士に許可を貰う。
そうしたら、庭の隅に砂利が敷き詰められた場所があって、そこでならやっても良いと言われたので、ありがたく使わせてもらおう。
鞄の中には、こういった外でも使える様に、手ごろな石がいくつも入れてある。
それを上手く積み上げて竈を作るんだが、この時に鉄板を一枚、間に挟んでおく。
ちっこいのが言うには、地面で直火するのは駄目だって話だ。
なんでも、そんな事したら、地面にいるビセイブツ?が焼け死ぬらしい。
まぁ俺でも背中の上で火なんて焚かれたら熱いからな。
その鉄板の上に、細い木の枝を敷いて炭を積み上げ、
細い枝から炭に火が移ったら、鉄の棒でガリガリと炭の山を崩し、均一になる様に均す。
その状態で安定するまでしばらく放置し、その間に、ちっこいのが作った巨大エプロンを身に着け、水が入ったでっかい甕を取り出して両手を洗い、ちっこいのから貰った、ショウドクエキとか言うスースーするポーションでショウドクする。
これは料理の前には必須な事だ。
俺は平気でも、ちっこいのみたいなニンゲンは腹が弱いから、こうしないと後で大変な事になるらしい。
そして、炭が安定したら、チョウミリョウを半分入れた鍋を上に設置する。
温めつつ、コレに混ぜる物を考える。
まず、酒は確定、次に炒った木の実、他に何か良い物あるか?
そう言えば、ちっこいのがワザと焦げさせる事もあるって言ってたことがあったな。
それで匂いが良くなるとか。
確か……め、めい……なんとか反応って言ってたな。
取り敢えず、酒を少し注ぎ込み、少し辛味がある炒った木の実を粗く擂り潰して鍋に入れる。
そして、ちょっとだけ小さい炭を追加して火力を上げる。
ジクジクと鍋の中でチョウミリョウが泡立つのを見ながら、ヘラで焦げ過ぎない様にかき混ぜる。
ここで必要以上に焦がし過ぎたら失敗する。
そうならない様に、鍋を持ち上げたりして、炭からの距離を調整して丁度良い塩梅を保ち続ける。
更に、ちっこいのが作って絶賛してた川魚を使ったダシ?と言う奴もちょっとだけ注ぐ。
うん、良い匂いになってきた。
私は王城の料理を一手に担う料理長である。
王族だけでなく、来客や王城勤めの兵士達の食事も私が担当している。
王城勤めの兵士でも、ほぼ全員が貴族の関係者で美食揃いなので、毎日が忙しく大変なのだ。
なので、下手な料理は作れず、常に向上心を忘れない事を心に決めているのだが……
えぇぃ! 昼の献立を考えているのに先程から漂ってくるこの匂いは何だ!
独特の香ばしい香りがするのに、私の頭の中ではこの匂いに近い匂いが無い。
若干、ヴェルシュ帝国で流通している『
と言うより、誰だ一体!
そう思いながら私室を出て、鼻を頼りに通路を進む。
そうしたら、中庭の隅にある砂利置き場に白い塊が何かをやっているのが見えた。
砂利置き場は、中庭にある花壇や噴水に使う砂利を一時的に保管している場所だが、そこからこの香りが漂ってくる。
中庭にくると、その白い塊の正体が分かった。
魔熊のエンペラーベア。
それが何故か竈に置かれた鍋を、ヘラでクルクルとかき混ぜているのだ。
……聞いた事がある。
前に、ルーデンス卿の所に行った弟子が、『料理をする魔熊がいて、その料理が絶品だった』と絶賛していた。
コイツがそうか!
「ここで何をしている!」
「グァ?」
私がそう言うと、白いエンペラーベアが鍋を持ったまま振り向いた。
その鍋の中にあったのは、妙に黒い液体だが、とんでもなく香ばしい香りを放っている。
「と言うより、こんな香ばしい香りを撒き散らすな! 非常に困るのだ!」
見ろ、中庭の見張りをしている兵士なんて涎が出ているんだぞ!
と言うか、この香りは凄まじいまでに空腹を訴えかけて来る。
お陰で昼の献立を考える前に、自分の食事を優先しそうになっている。
コレは非常に不味い事だ。
「グゥ(悪い)」
急に頭に声が響いた。
どうやら、このエンペラーベアが『念話』の様な物を使っている様だが、アレは『
まぁソレでも、意思疎通が出来るのはありがたい。
取り敢えず、エンペラーベアに、その香りのせいで献立が決まらず、困っている事を伝える。
そうしたら、どうやら煮立てるのは終わったから、あとは粗熱を取って漉したら完成なので、これ以上の香りが広まる事は無いらしい。
それを聞いて安心したというか、名残惜しいというか……
しかし、問題なのは昼の献立だ。
この香ばしい香りのせいで、メインが決まっていない状態なのだ。
「ガァ、ゴグァァ?(ふむ、タマゴあるか?)」
「卵? 一応あるが……」
エンペラーベアが少し考えて、何故か卵を要求してきた。
卵なんて焼くか茹でるかするくらいしか使い道が無いが……
そう思いつつ、食糧庫から卵の入った籠を持ってくる。
エンペラーベアがその中から3個手に取り、慣れた様子でカップの中に割り入れ、これまた器用に鉄の棒でかき混ぜていく。
そこに鞄の中から小瓶を数個取り出して、それを少しずつ加えて更にかき混ぜる。
更に鞄からフライパンも取り出して、竈の上に置いて熱して小瓶の一つをそこに少量流し込んだ。
どうやら、あれは油のようだな。
そして、そこに一気に卵液を流し込んだ。
ここからは最早早業としか言いようがない。
カチャカチャと掻き回しつつ、竈から放したり、逆に近付けたりして火力を調整し、半熟状態になったら火から離してトントンと取っ手の辺りを叩いて器用に巻いていく。
そこに皿を取り出し、フライパンに被せてひっくり返した。
出来上がったのはオムレツ。
エンペラーベアが出来上がったオムレツを私に差し出した。
まさか、コレをメインにしろとか言うのでは無かろう?
確かに形も良く、表面は焦げすらない完璧なオムレツだが、流石にコレは……
そう思いつつも、受け取って一口食べてみた。
「う、美味い!?」
半熟具合も完璧だが、何より味が、味が深いのだ。
この味の深みの正体は、卵液に混ぜたあの小瓶の中身か?
塩味以外に甘味や独特な味が奥深さを作り出し、まるで、このオムレツだけで完璧にメインとして問題が無い程の味がある!
手に持っていたフォークが皿にカツンと当たる。
ハッもう無いだと!?
卵3つを使ったサイズのオムレツが、あっという間に無くなってしまった。
「ガゥグァ(それでどうだ?)」
「……充分です!」
エンペラーベアが満足そうに頷くと、『何人分必要になる?』と聞かれたので、最低でも王族に出す分と、文官の数名分が必要になる事を伝え、それ以外のメニューも聞かれたので、昼は軽めに主食としてパンに、副菜としてサラダや果実、飲み物は果実を絞った物やワイン等を出す予定だと伝える。
そうすると『味の濃いシチューの様なスープはあるか?』とも聞かれたので、昼には出してはいないが、前日に多少味の濃いシチューは出し、それが多少は残っている事を伝えた。
こうした残った料理は、我々が食べる事もあるのだが、基本的にはそのまま廃棄される事が殆どだ。
「ガ、グァゥ(それ、見せてくれ)」
調理場からシチューを小鍋に移し、エンペラーベアに見せると、小さじの様なスプーンで一掬いして味を確かめている。
そして頷くと、先程と同じ様に卵液を作ってオムレツを作り始めた。
だが、その卵液に加えた小瓶の中身の量が変わっている。
そして、出来上がったオムレツに小鍋のシチューを少量掛けた。
「グァ(出来たぞ)」
差し出されたオムレツを受け取る。
最早、私はこのエンペラーベアに対し、尊敬の念を抱いていた。
差し出されたオムレツを食べなくても分かる。
小瓶の加えた量を変えたのは、掛けたシチューの味に合わせて、オムレツ自体の味を調えたからだ。
私は、遂に師と呼べる存在に出会ったのかもしれない!
その後、人数分のオムレツが作られ、それを時間停止機能がある収納袋に納めながら、私はそんな事を思っていた。
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-遂に100話になったのう-
-一体何の話よ-
-これまで読んでくれてありがとうございます。 今後もよろしくお願いします!-
-アンタは誰よ!?-
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