第97話




 そうして半年、ジェスター殿の経過観察をしたのじゃが、全くの問題無しと言う結果が出たのじゃ。

 人工的に再現したマナの膜も、安定して体内マナを一定に保っておるし、過剰分はちゃんと自然放出されておる。

 魔法も普通に使えるようになったと言う事で、これまでの遅れを取り戻すべく、サーダイン公爵が魔術師の家庭教師を雇ったという話も聞こえてくるようになった上に、陛下がお姫様とジェスター殿の婚約を発表、更に、治癒師ギルドに対して魔力阻害症の治療を全面的に認め、国内に限らず、国外であっても犯罪者でなければ受け入れて治療を行う事を同時に発表したのじゃ。

 治癒師ギルドでは、治療費として金貨一枚と言う費用を請求し、もし個人で払えぬ場合は、治療を行った者が住む国や領主に対して請求する様に徹底しておる。

 他にも、治療に使う魔道具は国外への持ち出しを禁止にしており、治療中は治癒師ギルドが所有する大型治療院に入院する事になっておるのじゃが、まぁ予想通り、持ち出しをする為に脱走を企てて失敗して拘束されておる者が続出したのじゃ。

 中には、堂々と賄賂を使って盗もうとする不届き者もおったのじゃが、ニカサ殿が持ち込んだという事になっておるのに、そんなもの賄賂が通用する訳も無く、拘束されて徹底的に背後関係を調べられる事になっておるのじゃ。



 そう言うゴタゴタが王都では起きておる様じゃが、ワシはエルフの森でのんびり作物の品種改良をしておる訳じゃ。

 目下の目標は、コワの実の味を安定させる事じゃ。

 コワの実は、中にお米の粒が入っておる大きな木の実じゃが、粒の味はそれぞれ実によってバラつきがあるのじゃ。

 偶にとても美味しいのがあったり、それなりの味じゃったり、全く駄目じゃったりと、開きが凄いのじゃ。

 なので、実の半分を使って試食し、味がとても良かった物をエルフ族が使える成長促進の魔法で成長させ、受粉させて実を付けさせたら、また試食して~と繰り返しておるのじゃ。

 それなりの味は、そのまま皆の食事に使われ、駄目な物は家畜の餌として使われておる。

 なお、それなりの味の物じゃが、そのまま炊いて食べるのではなく、ベヤヤによって色々と姿を変えておる。

 焼きおにぎりに始まり、炒飯、パエリア、ライスペーパー、フォー、クッキーにアイス等、この料理熊、割ととんでもない料理技術を持ち始めとるのう……

 しかも、どれも作られるうちに非常に美味くなっておると来たものじゃから、文句も言えん。

 今も、エルフの子供達に囲まれて、米粉ならぬコワ粉で作った菓子クッキーを一緒に作っておる。

 調理に使う道具も、逐一ドワーフに注文しておるので、どんどんレパートリーが増えていっておる。



 そして、コワの実栽培の隣では、甜菜やイチゴの栽培も行われておる。

 こちらも、エルフの魔法で成長を促しておるのじゃが、今は人力じゃが、コワの実も含めて本来は受粉の為にはとある昆虫が必要になるのじゃ。

 それがミツバチ。

 この異世界のミツバチを見せて貰ったのじゃが、ぶっちゃけ地球のミツバチと見た目の大差はなかったのじゃが、非常に知能が高い。

 と言うのも、まず、人には見付けられぬ場所に隠れておる上に、追跡に気が付くと、あの手この手で追跡を撒いてしまうそうじゃ。

 その中でも悪質なのが、ワザと魔獣の群れがいる方へと誘導するというモノで、過去にそれで冒険者が多く被害にあっておる。

 その為に、この世界では自然のミツバチ由来の製品は非常に高い値段で取引されておる。

 前にエドガー殿が美容パックにハチミツを使わせてくれたのじゃが、アレは養蜂で作られた物で、そこまで値段は高くないのじゃ。

 なんでも、養蜂で作られたハチミツと、自然のハチが作ったハチミツでは、味に大きな差があるらしいのじゃが、生憎、天然物は食べた事が無いので分からぬ。

 まぁその内食べられるじゃろうと考えつつ、エルフの数人と共にハチを飼い慣らして、品種改良が終わった後の受粉作業の為に準備をしておる訳じゃ。


「美味い!」


「……コレがあの臭い実の中身……」


「どうやったらこんな味に……」


 エルフ達もうちの料理熊の料理の虜になりつつあるのう。

 後は、香辛料とかが手に入ればよいのじゃが、こっちはエドガー殿の様な行商人達に頼むしかないのじゃが、種や苗を手に入れられるじゃろうか……

 因みに、そんなエルフ達の一番人気はライスペーパーを使った生春巻きで、ドワーフ連中は酒に合うオーク肉を煮込んだ角煮じゃったりする。

 なお、ドワーフが酒を飲んでおったのを見た美樹殿が、蒸留と言う濃縮法を教えてしまった為、今ではそれの道具を作っておる。



 他にも、エルフの知識には驚かされる事がある。

 その中でも一番の驚きが、スライムの活用法じゃ。


 前にも説明したと思うのじゃが、スライムと言うのは、体内に核を持つゲル状の魔物なのじゃが、色々な作品では主に雑魚に書かれておる。

 基本的には雑魚なのじゃが、数が揃ったり、長く生きておる個体ともなると事情が変わってくるのじゃ。

 まず、数が揃えばそれだけで核が見えなくなり、脅威となるのじゃ。

 そして、長く生きておる個体ともなると、自身の体の一部を囮にしてこちらを騙そうとしてくる程、知能が高い様子を見せるのじゃ。

 そんなスライムじゃが、エルフが育てておる雑草の様な草を焼いた際の匂いに集まる習性があり、それを利用して捕獲して中の核を破壊し、残ったゲル状の部分を発酵させると、まるでトリモチの様になるのじゃ。

 そして、それを使って罠を作ったり、矢の先に付けて獲物を捕獲したり、戦地で急遽ギリースーツを作る場合に使ったりと、用途が広いのじゃ。

 因みに、スライムはよく、何でも食べて分解する、と思われておるのじゃが、ぶっちゃけ、明確に好き嫌いがあって、基本的に動植物等を好むのじゃ。

 よく、トイレとかで排泄物とかを分解する為に利用されておるが、分解などせずに壁を伝って逃げ出してしまう。

 ネズミ返しみたいな物を付けても、普通に壁に貼り付いてしまうので無意味なのじゃ。

 まぁ中にはそういうモノを好む個体もおって、それが下水道等で放置されて増えておるから、勘違いされておるようじゃが、基本的には人が食べる様な物を好むようじゃの。



 そうして、アレコレやりながら、町の建設も見ておるのじゃが順調じゃのう。

 この調子なら、来年には壁が完成して、住民を迎え入れる事が出来そうじゃ。 

 ヴァーツ殿とも話したのじゃが、町の代表は既にヴァーツ殿の所で運営の相談をしており、ワシの方でやっておる農作物の品種改良や、色々と作っておる魔道具にしてもちゃんと報告して、収益化に繋げておる。

 他にも、アレコレとやっておるのじゃが、何気に一番稼ぎ頭になりそうなのは、ベヤヤの料理かもしれん。

 何せ、噂話を聞きつけて領主邸のコック長がやって来て、ベヤヤの料理を食べて感動し、レシピの幾つかを覚えて帰っておるくらいじゃ。

 その内、レシピ本を作って売りに出したら凄いヒットしそうじゃの。

 もしくは、弟子でも育てて、町でレストランでも作るかの?



 そんな事を考えつつ日々を過ごしておったら、ワシの自宅周りを完全武装した兵士達が取り囲んでおった。

 その兵士達の付けておる紋章は、中央の天秤に杖と剣が乗せられておる物で、確か法なんかを守る国の特殊な部隊じゃなかったかのう。

 一応、名誉職とはいえ貴族になってしもうたので、一応、この国の主要な貴族や重要な者達の紋章は一通り調べてはいるのじゃ。

 そんな法の番人とも言える者達が、ワシの自宅を取り囲んでおる。

 ベヤヤが威嚇の唸り声を上げておるが、此方から手を出すのは駄目じゃぞ。

 取り敢えず、あちらの言い分を聞いて、どういう事なのか聞かねば。


「魔女に告ぐ! 他家の開発した魔方陣の窃盗及び、無断使用の罪で拘束命令が出ている! 大人しく出てこい!」


 先頭に立っておった兵士が、手に持った書状を広げて読み上げておる。

 魔法陣の窃盗と無断使用とな?

 これは、とんでもない大騒動がやってきたのう。

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