第98話
取り敢えず、法を守る彼等に逆らっても無駄なので、大人しく自宅から出るのじゃが、ベヤヤの姿を見て、彼等が剣に手を掛けておる。
まぁ知らねば無理も無いのじゃろうが、ちゃんと関係各所には報告はいっておる筈なんじゃが……
「あー取り敢えず、魔法陣の窃盗とか、無断使用とかに心当たりはないんじゃが……」
一応言ってみたのじゃが、此方の言い分は聞く耳を持たぬようじゃ。
そんな訳でワシは拘束されそうになったのじゃが、そんな所にヴァーツ殿が合流した事で、拘束はされずに済んだのじゃ。
どうにも、ワシの拘束命令が出た事が陛下からヴァーツ殿に知らされ、大急ぎでやって来たらしいのじゃ。
じゃが、ワシへの疑惑は晴れぬようで、ヴァーツ殿の手前、拘束はせぬが王都にある裁判所への出頭命令が出されてしまったのじゃ。
これに従わぬ場合、罪状が重くなり、全財産の没収や重犯罪奴隷にされてしまうのじゃ。
取り敢えず、相手が言う『魔法陣の窃盗』や『無断使用』に付いてじゃが、本当に心当たりがないんじゃよねぇ……
しかし、ここ最近で使った魔法陣じゃろうから……
もしかして、『マナ吸収』の魔法陣じゃろうか?
と言う事は、訴えたのはシュトゥーリア家かの?
「……よし、その喧嘩、買ったのじゃ」
「何の話だ何の」
ワシの決意に兄上が呆れた様に言うが、シュトゥーリア家のやった事を説明すると、溜息を吐いておる。
ちょっと忘れておったけど、シュトゥーリア家はバートを害した上に、試作だった魔導拳を盗んで、その技術をまるで自分達が開発したような事を言っておるらしいのじゃ。
今回の魔力阻害症の治療に使われておるペンダントの『マナ吸収』の魔法陣は、元々自分達の物で、盗まれた物だと主張した訳じゃな。
この様子だと、陪審員とかにも
まぁ問題無いじゃろう。
取り敢えず、喧嘩を買いに王都へ向けて出発するとしようかのう。
そうして、のんびりと王都へとやって来たのじゃが、あの時の事件で壊れた建物や道は全て元通りになり、道には人々の賑わいで溢れておる。
ヴァーツ殿の先導で、まずはポーション工場に併設されておる販売所に来たのじゃが、まぁこちらも冒険者で溢れておった。
エドガー殿に聞けば、中品質のポーションを購入していく者達が後を絶たず、一人の購入数を制限しておるらしく、この混雑具合に拍車を掛けておるのが、特別販売されておる美容パックの販売状況なのじゃ。
なんでも、買っていくのが女性客ばかりでなく、男も買っていく為に在庫がガンガン無くなっておるらしい。
多分、女性へのプレゼント目的なのじゃろうのう……
そして、今回ワシがやって来た理由を話したのじゃが、その理由を聞いて憤っておった。
『私の方でもちょっと調べてみます』と言っておったが、多分、貴族の奥様方から情報を集めるのじゃろうな。
取り敢えず、ワシの方は問題無いとは言っておいたが、はてさて、どうなるかのう。
そしてやって来た裁判所なのじゃが、見た目は無骨な白い建物で、入り口の上には、巨大な秤が書かれた紋章が描かれておる。
さて、それじゃ行くかのう。
意気揚々と中に入り、受付で話を聞くのじゃが、相手は既に王都の一級ホテルに宿泊して待っておる状態だったらしいのじゃ。
まぁ今日、今すぐ始めても問題無い事を伝えたのじゃが、相手が来てから始まるというので、ワシ等も何処かで宿泊する事になるんじゃが……
ベヤヤをどうするかのう……
そう思っておったら、普通に王城へと招かれ、ベヤヤは中央の庭で預かって貰えることになったのじゃ。
こちらとしては助かるのじゃが、問題無いのじゃろうか?
聞けば、ヴァーツ殿の所におる料理長が、王城の料理長の部下だった頃があり、ベヤヤの料理を絶賛しておったのを聞きつけ、実際に料理を味わってみたいと言う事らしいのじゃ。
まぁワシは止める理由も無いので、ベヤヤの判断に任せておくのじゃ。
そうして、王城の一室で寝泊まりしておると、仲が良さげなお姫様とジェスター殿も来て会話にも花が咲き、今回の訪問理由を聞いて唖然としておったのじゃ。
そして、もしもの時は力になりますから、というお姫様のありがたい言葉も貰い、遂に、シュトゥーリア家との直接対決の日になったのじゃ。
法廷でワシへと向けられる視線は、大半が好奇な視線じゃ。
中央にワシが立ち、左側にヴァーツ殿達、そして右側におるのがシュトゥーリア家の面々じゃな。
まぁ何というか、バートは母親似なんじゃな。
そして始まった裁判なのじゃが……
まぁつらつらとシュトゥーリア家が有利な証言を読み上げておる。
簡単に言ってしまえば、ワシが夜な夜な非道な実験をしておって、シュトゥーリア家で研究開発しておった魔法陣に興味を持って盗ませた、というのがシュトゥーリア家の主張であり、ワシによく似た姿の童女が、シュトゥーリア家が管理しておる領地で何度も目撃されており、しばらく前に研究員の一人が、魔法陣を保管しておった筈の金庫の鍵が開いて中身が盗まれているのを発見、調査しておったら、治癒師ギルドでその魔方陣が使われたペンダントが使用されておる事が判明し、治癒師ギルドが盗んだと訴えを起こそうとしたのじゃが、そこでワシが関わっておる事が判明し、こうしてワシを訴えたという事じゃ。
「以上の事から、この魔女と名乗る者に対し、当家は受けた損害の賠償と、謝罪を要求するものとする!」
一際偉そうな男がそんな事を言っておるが、そもそもワシ、王都とルーデンス領しか行った事ないんじゃが?
バートに聞けば、シュトゥーリア家の領地は、ルーデンス領とは完全な真反対の位置にあり、ルーデンス領がクリファレスに接しておるのに対して、シュトゥーリア領はヴェルシュに近い位置にあるらしいのじゃ。
それじゃワシが行った事なんて無いぞ?
「まず、いくつか言いたいのじゃが……」
「静粛に! 被告に発言の許可は出してはおらぬ!」
一際高い位置におるハゲのおっちゃんがそんな事を言っておるが、いや、ワシが反論も出来ぬの?
ヴァーツ殿の方を見てみるが、平然としておる。
どうやら、この後、ワシかヴァーツ殿が反論する場があるようじゃな。
「では、被告の弁護だが……ルーデンス卿、発言を許可する」
剥げたおっちゃんの言葉でヴァーツ殿が立ち上がって一礼すると、まずは『その盗まれた魔法陣とは何か?』とシュトゥーリア家に聞いておる。
最初は『当家の機密だ!』『話す必要はない!』と言っておったが、周囲がざわつき始めたのを見て、流石にワシを訴える内容が『中身は教えぬが魔女が魔法陣を盗んだのだ!』と言うのは無理があると思ったのか、最終的に『受けた魔法を分解し、吸収する魔法陣だ!』と答えたのじゃ。
よし、コレでまずは確認は出来たのじゃ。
ヴァーツ殿の視線を受けて頷き、次の質問へと移っていくのじゃ。
開発者も同席しておるので、まず、どうやって魔法陣を閃いたのか、どうしてそんな魔法陣を作り出そうとしたのか聞いたが、『それは~……そう、天啓を受けたみたいに閃いたんです』とか、『えっと……魔法を受けた時、この魔法を相手に返せれば、とか……』と、凄いしどろもどろになっておったのじゃ。
いや~この錬金術師は大根役者も良い所じゃのう……
さて、こうなるともう終わりにした方が良いじゃろう。
「では、儂からは最後に、王宮におる近衛魔法師団に、両家の魔法陣の裁定を願い出たい!」
この発言に、部屋が一瞬静まり返った後、ザワザワとどよめきが広がって行ったのじゃ。
近衛魔法師団と言うのは、この国における魔術が関わる物に対して絶対的な権力を持った集団であり、サーダイン公爵が率いておる近衛騎士団や、宰相殿が秘密裏に管理しておる暗部等、王と国を守る3本柱の一つじゃ。
何より、これ等が忠誠を誓っておるのは王と国に対してである為、親しかろうが絶対に私情を挟まないのじゃ。
そんな所に魔法陣の裁定を願うなど、本来は絶対に思い付かないというか、思い付いても実行するだけの胆力は無い。
しかし、こっちにおるのはヴァーツ殿じゃし、願うだけの胆力は十分にあるのじゃ。
当然、シュトゥーリア家の面々が『そんな恐れ多い事が出来る訳が無い!』と喚いておるが、それを決めるのは裁判官じゃろう?
「静粛に! 静粛に! ……申し訳ありませんが、ルーデンス卿の発言は却下します。 現状、近衛魔法師団は多忙である為、依頼を出しても受理される事は……」
「良い、それは儂が許可しよう」
傍聴席からそんな言葉が聞こえて来たかと思うと、人々が一斉に左右へと別れ、その場に跪いておる。
それもそのはずで、そこにおったのは王城におる筈の陛下と、宰相殿、サーダイン公爵に……あと一人は誰じゃ?
ワシと似たローブを着ており、全身に護符やアミュレットを付けておるという事は……話に出ておった近衛魔法師団のトップじゃろうか?
「マルクス卿、直ぐに調べて貰えるだろうか?」
「陛下の命とあらば」
そう言ってマルクス卿と呼ばれた男がスススと歩いてくると、ヒラリと柵を飛び越えてワシの隣に立ったのじゃ。
その顔は、ワシに似た銀髪に緑色の瞳をしておる。
ううむ、親子と思われるかもしれんのう。
なんじゃ、なんかじーっとワシの方を見ておるけど、何かワシの顔にでも付いておるのか?
「……では、両家はその魔法陣を此処へ」
マルクス殿がワシをジーっと見た後、左右に向けて言い放つ。
すると、シュトゥーリア家の錬金術師が、フラフラと杖の様な物を提出しておる。
ふむ、言葉にマナを乗せておるから、耐性が無い者は催眠に近い状態となって自然と従ってしまうようじゃのう。
一方で、カチュア殿はしっかりした足取りで、治療にも使われておるペンダントを提出しておる。
「それでは調べさせて貰いますので、しばらくお待ちください」
そう言うなり、マルクス殿の右目に魔法陣が現れ、杖とペンダントをそれぞれ手に取ってじぃっと見ておる。
どうやら、あの魔方陣は鑑定と言うより、調査の為の魔法陣のようじゃな。
その様子を、この場におる全員が静かに見ておる。
しばらくそうして、マルクス殿が二つを見比べておったが、大きく溜息を吐いて二つを机に置いたのじゃ。
「……調査を終えます。 結論から述べても?」
マルクス殿が陛下の方を見ながら訪ねると、陛下の方も大きく頷いておる。
そして、両家の方を見回した後、裁判長であるおっちゃんの方を見上げる。
「調査の結果だが、この二つには共通点が見受けられぬ! よって、この二つに使用されている魔法陣は別個の技術で作り出された物であると、近衛魔法師団、副師団長であるマルクス=エル=アマノリアが証明する!」
その一言で会場のざわつきは最高潮を迎えたのじゃ。
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