第96話




 体内の魔法回路を調べる為に、魔法回路を染色するという案を考え付いたのじゃが、そもそも、どうやって魔法回路を染色するか、という話じゃ。

 簡単なのは対象の人物に異なるマナを流す方法じゃが、自身のマナと違うマナと言うのは実は下手をすれば毒になってしまうのじゃ。

 ここら辺は輸血と同じじゃな。

 なので、今回の場合、まずはジェスター殿のマナパターンを調べた後、それとは若干異なるマナを流す事にするのじゃが、これは変換機を作れば良いのじゃ。


 取り敢えず、まずはマナパターンを調べる為の魔道具を作るのじゃが、デザイン的には腕時計型が良かろう。

 ベルトに魔法陣を刻んだ丸い金属板と、動力の魔石を装着して1日装着して貰えれば、体内のマナパターンを記録してくれるのじゃ。

 後は、マナ変換機とそれを増幅して体内に流す為の魔道具と、それを見る為の魔道具じゃが、これ等はあっさり作れたのじゃ。

 ぶっちゃけ、酸素供給機とスキャン装置じゃからな。

 ちゃっちゃっと作り、ジェスター殿に説明してから記録装置を付けて貰って記録した後、変換機で僅かに変質させ、マスク型のマナ供給機を付けた状態でベッドに寝て貰い、その脇に置いてある表示装置でジェスター殿の体内にある魔法回路を表示させる。


「……うむ、成功なのじゃ!」


「コレは凄いね、魔法回路ってのはこういう風に広がってたのかい……」


 ニカサ殿が感心した様に呟いておる。

 水晶版に映されておるジェスター殿の魔法回路は、胸の中央部にある大きい球を中心にして全身に広がっておる。

 ふむ、しかしコレを見る限り、魔法回路に異常がある様には見えんのう。

 もし、途中で詰まっておったり、阻害する何かがあるのであれば、そこが動脈瘤の様にになっておる筈じゃ。

 しかし、大きい球から伸びる紐の様な物は何処も綺麗じゃ。

 コレは常人のデータも欲しい所じゃな?

 という訳で、現地人としてバート、ノエル、異世界人として美樹殿の3人を追加で調べたのじゃ。



 その結果、魔力阻害症のメカニズムが分かったのじゃ!


 3人は胸の中央部にある球から紐の様な魔法回路が全身に伸びた後、体表にマナが薄く何層もの膜を作っておったのじゃ。

 単純な話、3人は『マナの服』を着込んでおる状態なのじゃが、ジェスター殿は、その『マナの服』がズタボロの穴だらけ状態で、体内のマナがどんどん漏れてしまっておる状態だったのじゃ。

 つまり、魔力阻害症と言うのは、正確には『魔力常時漏洩症』とも言うべき物なのじゃ。

 注意しなければならないのは『魔力欠乏』と違って、魔力欠乏は急激な魔力の消費で引き起こされる物じゃが、この場合は、常に魔力が漏れておる状態なのじゃ。

 そして、それを体はと認識しておるから、本人に自覚は無く、漏れておるから魔法も発動させる事が出来ぬ。

 そして、マナが濃い場所に行くと、少なくなった体内マナがそれに当てられ、体調を崩してしまうのじゃ。

 簡単に言えば、異常を感じ続けておると、いつしかそれを正常じゃと誤認してしまうのと一緒じゃ。

 そして、このの度合いが個人個人で違う為、魔法を使えるか使えぬかが変わるという事じゃ。


 では、マナの膜が穴だらけになってしまう原因なのじゃが、残念じゃがこっちは全く分からぬ。 

 じゃが、これなら治療法はあるのじゃ。

 ただ、その治療法をやる場合、ジェスター殿の父親であるサーダイン公爵に話を通さねばならぬ。

 と言うのもその治療法が、ジェスター殿の体に直接魔法陣を刻むという方法じゃから、流石に大貴族のお子さんに無断でやっちゃうのは大問題になるのじゃ。


 ニカサ殿が大慌てで魔力阻害症の治療法に関する資料を纏め、実地研修の生徒を引退しておった黒鋼隊の魔導士の一人を捕まえ、強引に引継ぎをして王都に戻って行き、マグナガン学園の学園長と一緒にサーダイン公爵を連れて戻って来たのじゃ。

 息子の治療が出来ると聞いて、サーダイン公爵も大慌てで来た様じゃが、軍のトップじゃと聞いておるが、仕事は大丈夫なんじゃろうか。


 そこら辺は陛下も把握しておるが、家族の将来に係わる事なので、快く送り出してくれたらしいのじゃ。

 ただ、急いで戻ってくれると助かるのも事実との事。

 そして、道中にニカサ殿から治療法の説明は受けており、悩み続けておったのじゃが、最終的に治療を了承したのじゃ。

 ただ、治療時に立ち会う事は了承したのじゃ。

 流石に心配じゃろうからのう。



 そうして出迎えたサーダイン公爵じゃが、年齢は50程で、赤目に金髪をオールバックの様に撫で付けた筋骨隆々のおっちゃんなのじゃ。

 うむ、ヴァーツ殿と良い勝負じゃな。

 そう言うと、サーダイン公爵は笑いながら否定しておった。

 流石に龍殺しと比べれば自分は木端も良い所だ、と言っておったのじゃが、そんなもんかのう。


 取り敢えず、ジェスター殿も交えて治療法の説明じゃ。

 今回の治療法じゃが、単純に体表のボロボロになったマナの膜の上から、別の膜を張るという物じゃ。

 そしてそれを維持するマナは体内のマナを使うのじゃが、マナが漏れて少なくなっておるので、最初のうちはカチュア殿達が作った、『マナ吸収』の魔法陣を使って漂っておるマナを吸収して維持する予定じゃ。

 『吸収』の魔法陣を刻んだペンダントを付け、体内のマナを増やした後、マナの膜を維持する魔法陣を体に刻む事で、マナが漏れる事を防ぐ、と言うのが今回の治療法なのじゃ。

 後は、経過観察も必要じゃが、別段問題無いとは思っておる。



「では、まずはコレを身に着けておくのじゃぞ」


 ジェスター殿に渡したペンダントには、魔法陣の中央に動力として小さい魔石を付けておる。

 注意事項としては、まずは当たり前じゃが魔力の使用は一切禁止。

 体内のマナは徐々に増える状態にしておるので、魔法陣を刻むのは胸の中央部にあった、大きな球の真上じゃ。

 恐らく、この球が魔法回路の大元であり、魔獣で言う所の魔石の場所なのじゃろう。

 次に、しばらくは要観察として、研修から王都に戻ってもニカサ殿の診察は受ける事も徹底したのじゃ。


 そうして、ペンダントを付けて体内のマナを増やし続けたのじゃ。

 最初は漏れる量が多かったのじゃが、3日目辺りで増え始め、1週間後には十分な量になったのじゃ。

 それを確認し、サーダイン公爵同席の元、ジェスター殿に魔法陣を刻む治療を施す事になったのじゃ。



 今回使用するのは、ジェスター殿の皮膚の色に合わせたインクじゃ。

 コレで魔法陣を刻めば、余程よく見なければ分からぬから安心じゃろう。

 ジェスター殿に麻酔の様な薬をニカサ殿が処方して眠らせ、サーダイン公爵がベッドの上に寝かせる。

 刻む魔方陣を間違えたらとんでもない事になるので、灯りの魔法で魔法陣を作って、それをなぞる様に刻んでいく。

 地味に時間が掛るのじゃが、コレは慎重に行うのじゃ。


 何度も確認し、一文字も間違いが無いのを確認してから、魔法陣の一番外周の円を繋いで起動するのじゃ。

 フワッと引き寄せられるような感覚を感じた後、ジェスター殿の体が徐々に蒼白い色の膜に包まれ、完全に包まれた後、無色透明となって消えたのじゃ。

 うむ、これで成功した筈じゃ。


 後は、眠っておるジェスター殿をサーダイン公爵に任せて、ワシ等は退室し、今後の事を話し合うのじゃ。

 まず、経過観察の結果次第じゃが、この方法で治療可能となれば、魔力阻害症は不治の病では無くなる。

 ただ、それには、カチュア殿が作った『マナ吸収』とワシが作った『マナの膜を作る』と言う魔法陣を公開しなければならぬのじゃ。

 ワシは別に問題無いのじゃが、カチュア殿と美樹殿の方は聞いてみぬと分からぬので、呼んで説明すると、快く快諾してくれたのじゃ。

 と言う事で、半年ほど余裕を持たせてジェスター殿の経過観察で確認した後、マグナガン学園と治癒師ギルドの連名で、魔力阻害症の治療法の一つとして発表し、バーンガイア国の治癒師ギルドにて治療を開始する事となったのじゃ。

 それに伴って、変換機と診察に使うマナ供給機、表示装置を幾つか作って寄贈しておいたのじゃ。

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