第94話
カチュア殿が作った新しい魔法陣をミスリルの板に刻み、動力としてオークの魔石の一つを装着して、ミスリルの糸を伸ばして、離れた所からファイアーボールを撃ち込んで、魔法陣を遠隔起動。
瞬間、蒼白い魔法陣が展開され、魔法陣にファイアーボールが直撃した瞬間に、赤いマナに分解されて魔法陣に吸い込まれていく。
そして、今度は赤い魔法陣が現れ、そこからファイアーボールが発射された。
「成功じゃな」
ワシの言葉で、カチュア殿と協力しておった美樹殿が手を取り合って喜んでおる。
二人が協力して製作した魔法陣を見たのじゃが、ワシが作った魔法陣よりも効率を落とした代わりに、範囲と容量を大きく、吸収速度を速めておった。
つまり、大きい魔法を一撃だけ貯めるより、そこそこの魔法を何発も貯められる様にしたのじゃな。
そして、吸収速度を上げた事で分解されたマナをほぼ全て吸収出来ておるから、追加でマナを送り込む必要も無く、複数の魔法を吸収しておれば、他の魔法からマナを流して強化も出来る様にしておる。
この他の魔法からマナを融通して強化する案は、美樹殿の発想じゃな。
そして、個人的に感じておる事じゃが、美樹殿は誰かを害する可能性のある技術を作るのに抵抗がある様じゃ。
作っておるのが生活を便利にする物ばかりで、戦闘関連は結界装置等の防御方面ばかりなのじゃ。
コレばかりは日本人じゃと難しいじゃろうのう。
まぁ中には大した抵抗も無く、転移初日から他人を害する事が出来る
まぁ自己防衛の為に、ある程度は戦えるようになってもらわんと困るんじゃが、これこそ本人の気持ち次第じゃからワシにはどうにもならん。
「コレで、
「……あの、やっぱりそれはどうにもならないんですか?」
恐る恐ると言った感じで美樹殿が言うが、コレばかりはどうにもならんじゃろう。
どうやった所で、この技術は兵器に転用出来てしまうからのう。
と言うより、どんな技術でも結局は使い手次第じゃし。
極端な話、ワシ等が使っておるペンにしろ、箸にしろ、使う者が使えば他人を殺傷する事が出来るのじゃし。
寧ろ、ヴァーツ殿や兄上クラスにもなれば、パチンコ玉サイズの小石一つでも凶器じゃ。
普通の兵士が身に着けておる板金鎧程度、簡単に貫通させて来るからのう。
美樹殿には、今は無理じゃろうがその内覚悟は決めねばならぬ事、自身がやらねば自身の裏におる誰かを守れぬ事になると説明したのじゃが、難しいじゃろうのう。
地下室のムっさんは、相変わらずのようじゃ。
一日中、何かしらをやって大怪我をし、それを美樹殿達によって治療されて、再び何かしらの大怪我を負って、の繰り返し。
そうして、色々と意見を出してくるのじゃが、本当に細かい所まで指摘して来るのじゃ。
主にワシへの嫌がらせ目的なんじゃろうが、こういう問題への意見出しと言うのは、実は仲が良い者では無く、思いっきり自身を嫌っておる相手を利用すると、どんな些細な点でも指摘してくるので、探すのが楽になるんじゃよね。
そうして、色々と手直ししていって、遂にはムっさん以外にもテスト出来る様な状態にもなったのじゃが、まぁまだムっさんにデータ取りをして貰うのじゃ。
ハァ、と思わず溜息が出てしまう。
クリファレスからバーンガイアに逃がして貰った後、新しく出来る町の住民として匿って貰う代わりに、私が持っている知識を使って便利な魔道具を作って手助けしようと思ったのに、この町、近くに魔女って子供がいて、その子が凄く優秀。
私が作る魔道具もすぐに理解して、改良案を出したりするし、何より、私を助けてくれた彼の妹さんらしくて、凄く強いのだという。
その証拠と言うか、彼女の
誠一郎も、その遠征には参加してたけど、別の場所にいたから知らなかった!なんて言ってたけど、実際は遠征に参加してた他の女の子とイチャイチャしてて、武器も無かったから出て行けなかっただけだったんだよね。
結果的に言えば何とかなったけど、もしも進藤君がやられていたら、遠征に参加した人達全員が危険に晒された事になっていた。
それに浅子から聞いた話だけど、誠一郎と進藤君は既に盗賊の討伐任務で人を殺した事があるらしい。
ただ、進藤君はそれで一日塞ぎ込んでいたらしいけど……
「……どうしよう……」
『ウギャァァァッ!!』
悩んでいたらドゴーンと凄い音がして、ムっさん?の叫び声が聞こえて来た。
はぁ、どうしよう。
そんな事を考えつつ、あの子から預かっていたポーションがたくさん入っている鞄を手に、ムっさんの所に駆け足で走って行った。
「あぁっクソッ! こんなんいつまでやんだよ!」
ムっさんを救助してポーションを掛けたけど、この人もよくやるよね。
聞いたら、過去に山賊行為をしていてあの子に倒されて捕まり、重犯罪奴隷って特別な奴隷となってこの町の壁建設に送られてきて、あの子に見付かってこうして、新型魔道具の実験台にされてしまっている。
血も涙も無い、と思うかもしれないけど怪我をすれば、こうして私やカチュアさんがポーションで回復させてあげられるし、食事も特別に配給されて、仕事の時間も厳格に決まってる。
不便なのはしょっちゅう大怪我はするし、この地下室から出して貰えないって所くらい。
そう思っていると、チリリリと腰に付いていたベルが鳴ってお昼の時間だと教えてくれた。
取り敢えず、お昼御飯にしよう。
休憩所に行くと、ベヤヤが鞄から今日のお昼御飯を出している所で、カチュアさんは既に席に座っている。
私も着席して、離れた所にムっさんが座る。
「今日は、丼ものか~」
ホカホカ御飯に、薄切りにしたオーク肉とタマネギの様な野菜を煮込んだ牛丼モドキ。
ただ、牛丼と違って汁とかが工夫されているのか、割とあっさり目で結構多く食べられる。
もくもくとご飯を食べるけど、やっぱり私が関わった技術で、将来的に多くの誰かが傷付く事が気になってしまう。
「それで、何を悩んでるんです?」
カチュアさんがもう食べ終えたのか、私の方を見て聞いて来た。
そう言えば、カチュアさんは昔から魔法陣を武具に刻んでいるって聞いてるけど、そう言うのは気にならなかったのかな?
そんな事をカチュアさんに聞いて見るが、不思議そうな表情をしていた。
確かに、日本人じゃないカチュアさんにはピンとこないかもしれないけど、そう言うのと無縁だった私には凄い悩む事なんだよ。
「美樹さんの境遇から考えれば難しいでしょうけど、私はそう言う事は考えませんでしたね。 そもそも、考えているような余裕はありませんでしたし……」
そう言えば、カチュアさんの故郷はクリファレスのダンジョンがあった場所な上に、エルフ族は奴隷として狙われるって話だから、自衛の手段が無いと大変だったんだろう。
「寧ろ、やらなきゃ駄目な場面でそんな事を悩んでいたら、死んじゃいますよ?」
「いや、それは……分かってるんだけどね……」
「フンッ、やらねぇって選択肢があるだけ良いじゃねぇか。 こちとら、やるしかねぇってやってたら、山賊になって今じゃこんなんだぞ」
ムっさんがそう言うけど、それにしたって山賊になるのは違う様な気がするの。
これは領主のヴァーツさんが調べさせた所、このムっさん達は元々、開拓村の一つが凶作で喰うに困り、全員が餓死する前に、生き残れる若者だけを集め、比較的裕福な村を襲っていたのが始まりらしい。
ただ、最初の頃は喰うに困る程の相手は狙っていなかったが、長い間、凶作が解決されなかった結果、徐々に狂暴化していったらしい。
その結果、あの子に退治されて、こうして多くの人を救う為の実験台になっているのだから、人生って分からないものだよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます