第92話




 逃げて来たエルフが住んでおる森は順調に拡張を続けておる。

 外側には広葉樹を配置し、住居がある中心部付近には、果樹を植えてエルフが使う魔法により、成長を促進し、初の収穫は森の神に捧げるとかで、地面に穴を掘り、そこに果樹の一つと小さな種を一緒に埋めて、全員で祈っておる。

 某インチキ教会と同じで、エルフ独自の神なのかと思えば、実際にはエルフ族を担当しておる童女神殿の眷族の一人らしいのじゃ。

 というより、その眷族がおったから、天界での食糧事情が何とか保てたらしいのじゃ。

 エルフが森の神へと捧げる為に果樹と種を植えるのじゃが、植えた種が芽吹き、実を付けるとそれが天界へと送られておるらしい。

 確かに一つ一つは少ないかもしれんが、エルフ族の数はそれなりにおり、森の神への捧げ物として初の果樹以外に、年に一度は収穫祭の様な事もしておるらしく、それでそこそこの量が捧げられておる。

 ただ、それでも流石に全員が毎日食べる量には届かぬので、嗜好品としてたまーに食べていた程度らしい。

 神は食べずとも良いとはいえ、流石に何も食べぬというのは結構な苦行らしく、こうした捧げ物は嬉しいと言っておった。


 なので、瑠璃殿と一緒にエルフの森へと赴き、エルフの中から次代を選ぶ事にしたのじゃ。

 そうして、数人のエルフが選ばれ、瑠璃殿と共に完成した神社へと迎い入れる事になったのじゃ。

 因みに、神社はゴゴラ達、ドワーフ達の手により既に完成しており、瑠璃殿達が生活を始めておる。

 モデルは平〇院鳳〇堂だったりするのじゃが、上から見ると、四角の形になって、中央に舞を踊る為の石舞台が設置され、最奥には注連縄しめなわを施された巨大水晶が御神体として設置されておる。

 選ばれた数人のエルフ以外にも、見所がある者がおれば迎い入れる予定なのじゃが、まぁコレは瑠璃殿達にしか分からぬ事なので完全に任せる事になるのじゃ。

 最近では、瑠璃殿達が無病息災や無事故を祈っておるせいなのか、建築現場での事故や怪我が減ったと噂になっておる。 

 教会が神社にちょっかいを出そうにも、神社の建築素材は全て不燃材として加工しておるから燃えんし、暴漢に襲わせようと思っても、瑠璃殿達は全員護身の心得を持っておるので普通に強いのじゃ。

 そうしておるうちに、偶然、荷物運びを受けておった駆け出しの冒険者が訪れ、運気上昇のお守りを一つ購入した所、帰りに狼型の魔獣に襲われたが倒れた拍子に剣先が偶然、飛び掛かって来た魔獣の右目に突き刺さり、そのまま貫通して絶命させ、その魔獣がそこら辺を縄張りにしていたが、強者を嗅ぎ分けて弱い駆け出しだけを襲うという厄介な奴だったらしく、偶然とはいえ倒した事で一躍有名になり、これで自信を持ったのか、難しい依頼も受けて順調に腕を上げているという。

 その冒険者曰く『本当に効果があるかは分からないが、俺は効果があるって信じてるよ』と言った所、順調に冒険者が訪れる様になったという。

 うむ、この駆け出し冒険者じゃが、本当に偶然で決してサクラでは無いのじゃ。

 と言うより、町がまだ完成しておらぬのに、勝手に外部の者に売ったら本来は拙いのじゃ。

 今回は、偶然、瑠璃殿達が目を離しておった時に、エルフの一人が間違って売ってしまったのじゃ。

 当然、瑠璃殿達から怒られはしたが、若者の命を救ったという事で、御咎め無し、にしたかったのじゃが、その話が広まってやって来てしまった追加の冒険者達に売る訳にもいかず、かと言って売らぬという訳にもいかず、最終的に1日の個数を限定して売る事にしたのじゃ。

 それも、大量の水晶玉が入った箱の中から、金色の水晶玉を手にした者だけに販売する方式にしたのじゃ。

 それを建設中の町の外に設置し、一人一回、一個だけ取り出し、金色なら購入権利を得て、無色なら残念ながらお帰り頂くのじゃ。

 なお、すり替えたりするのは絶対に無理じゃ!

 何故なら、この金色水晶玉は、うちのクモ吉が作った水晶から作った物じゃから、同じ物は作り様が無いのじゃよ。

 日が昇った後、冒険者の目の前で3つある箱の中に無色の水晶玉をザラザラと入れ、金色の水晶玉を3個、それぞれの箱の中に1個ずつ入れて振って混ぜる。

 そして、一人ずつ水晶玉を引いていく。

 当然、瑠璃殿達が監視しておる上に、最近では兵士の中にが結成されておるらしい。

 まぁうん、頑張ってほしいのじゃ。

 なお、当の売ってしまったエルフは罰として、毎日どうしても手垢で汚れてしまう水晶玉を洗っては磨く作業をする事になっておる。

 コレばかりは仕方無いのう。




 そして、バートとノエルは、兄上とベヤヤを相手に訓練の毎日じゃ。

 ノエルは兄上に挑み続けておるのじゃが、真剣を使っておるノエルに対し、兄上が使っておるのは、木剣。

 しかも、子供が遊びで使っておる物と同じ物じゃ。

 それで一歩も動かず、ノエルの繰り出す剣技を全て捌き、逆に巻き取って剣を弾き上げ、ポカリと一撃を当てておる。

 バートは単純にベヤヤと体術で戦っておるのじゃが、当初の様にいきなりぶっ飛ばされる事はなくなったのじゃ。

 あの隠れ家で経験を積んだ事で、ベヤヤの攻撃をほぼ全て受け流し、逆にベヤヤに一撃を叩き込んでおるが、その程度ではうちのベヤヤはビクともせんのじゃ。

 ベヤヤの攻撃がクリーンヒットしたかと思えば、逆方向へと跳んでダメージを最小にする等の技術力の向上が見えるのじゃ。

 更に、魔導拳・改から炎を纏い、拳の魔石が光のラインを引きながら、流れる様にベヤヤに攻撃を加えておる。

 手数は圧倒的にバートの方が多く、小さいながらもベヤヤにダメージを与えておるようじゃ。

 このまま続けば、いずれバートが勝つじゃろう。

 まぁ、最終的にはタフネスの差により、バートが先に倒れるんじゃがな。

 ぶっちゃけ、今のベヤヤに体術のみで勝てるのは、兄上とワシだけじゃろう。

 いや、ヴァーツ殿なら、良い勝負は出来るかもしれんのう。



 そして、最近は王都からも何度か便りが来るのじゃが、差出人は主にエドガー殿で、内容もポーション工場に関する事じゃ。

 工場は順調に稼働し、現在は中品質を中心にして生産し、王都でポーション生産をしておった面々を雇って練度を上げつつ、販路を広げておるそうじゃ。

 で、予想通り、係われなかった貴族馬鹿共が、雇われなかった調合師を利用して工場の真似事を始めたのじゃが、まぁ大失敗。

 薬草を集める所まではどうにかなるのじゃが、一番の問題はその先、コボルト豆じゃ。

 エドガー殿はコボルト豆に付いては、耳にタコが出来る程、取り扱いに注意するように説明したのじゃが、雇われなかった調合師はそう言った説明を中途半端に聞いておったようで、真似事を始めた貴族の領地でコボルト豆が大増殖。

 その貴族の所では大麦を中心に栽培しておったのじゃが、大増殖したコボルト豆により大打撃を受けてしもうた。

 そして、人力でやっておるのでミスも続出、苦労して出来たのは低品質かゴミ。

 更に、ワシ等が警戒しておった薬草に似た毒草を使ってしまい、それに気が付いた時には広く販売してしまった後で、どうにもならん状態となり、遂に宰相の耳に入って営業停止、その賠償で大損害となったそうじゃ。

 当然、でエドガー殿のポーション工場に対して妨害をしようとする貴族マヌケもおったのじゃが、孤児達が薬草の仕分けをしておるので擂り潰す前に弾かれ、納品時を狙って襲撃計画を立てて襲撃して返り討ちにあったり、直接、エドガー殿を脅して権利を奪おうとしたら、工場が稼働した事で供給が始まった美容パックを待ち望んでいた奥様方が結託、エドガー殿を守る為に、奥様方が自分の護衛の中で余裕のある者達を護衛として派遣するまでとなっておる。

 元々の護衛依頼を受けて行動を共にしておったイクス殿達も、最近では護衛依頼を減らして、王都周辺で討伐依頼や採集依頼を受け、更には新人冒険者に対して講習を引き受けたりして忙しいらしいのじゃ。

 なんともやる気を感じるのう。



 そして、他に来る手紙の方がちょっと問題なのじゃ。

 差出人は二人おり、一人はマグナガン学園の学園長で、その内容が、現在建築中の町に対し、実地研修として治癒師の学生を派遣したいとの事なのじゃ。

 当然、ヴァーツ殿の所にも手紙は行っており、現在、準備を進めておるそうじゃ。

 では、何故にワシの所にも手紙が来ておるのかと言えば、その引率として来るのがニカサ殿で、その応対をして欲しい、と言う事じゃった。

 そして、そのニカサ殿じゃが、相談事があるという事で時間がある時に実地研修の場に来て欲しいとの事。

 別にワシとしては問題は無いのじゃが、相談とは一体なんじゃろうか?


 後日、ヴァーツ殿から正式にマグナガン学園からの研修生が数名、建設現場にやってくる事が関係者達に通達されたのじゃ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る