第91話




 山にある自宅に美樹殿とカチュア殿を迎え入れ、地下室へと案内する。

 そして、地下室らしからぬ広さを見て唖然としておる。

 ぁ、当然、水晶鏡は別の部屋に移動してあるのじゃ


「ど、どうなってるんですか、ココ……」


「確かに階段を下りましたから地下ですよね? ぇ? でも太陽も空もあるし……」


 ふっふっふ、この地下室は空間拡張で広くして壁には強化魔法陣を刻んで強化し、天井は幻影、太陽は照明魔道具で再現しておるのじゃ。

 そして、この二人をここに招いたのは、ちゃんとした理由がある。

 と言うのも、ちょっとある物を作っておるのじゃが、ワシ一人では良い案が思い浮かばんのじゃよ。


「と言う訳で、これなんじゃがの?」


「はい?」


「ちょっと待ってください、何でこんなの作ってるんですか? これってですよね?」


「ゃー先代が『こんなのがあるんだぞー』って言っていたのを思い出しての、ちょっと作ってみようと思ったんじゃが、想像以上に難しくてのぅ……」


 バラバラ状態ののパーツを一つ手に取り、二人の前でプラプラと揺らす。

 完成すれば浪漫の塊なんじゃが、試作品は起動すらせんかったのよ。

 流石に難しいのじゃ。


「うーん、こう言うのって、ファンタジー世界にあって良いんでしょうか?」


「『ふぁんたじー』が何かは知らんのじゃが、魔道具に係わる物なら知恵を出し合えば上手くいくと思うのじゃよ」


「そうは言いますけど、結局、最終的にはアレですよね? 人で実験もしないと駄目ですよね?」


 ぉ、美樹殿は分かっておるね。

 そう、完成したら最終的には人が使って試さねばならぬのじゃが、実はうってつけの奴等がおったのじゃよ。

 バートやノエル、勿論ヴァーツ殿や兄上でも無く、当り前じゃがベヤヤでも無い。

 それになら何の問題も無いからのう。


「あ、それと、これとは別件なのじゃが、カチュア殿にはもう一つ協力して欲しい物があるのじゃ」


「?」


 カチュア殿が不思議そうな表情を浮かべておるのじゃが、コレからやるのはシュトゥーリア家の愚か者共に対しての制裁に係わる事なのじゃ。

 そうして取り出したのは一枚の巻物スクロール

 巻物には複数の魔法陣が書かれており、二人がそれを覗き込んでおる。


「んーと……コレは、吸収と放出と安定に増幅に……?」


「……魔法を障壁で分解して、マナを吸収、安定化させて増幅、それを一方向に放出して……」


 美樹殿は分かっておらぬようじゃが、カチュア殿は瞬時に書かれておる魔法陣の仕組みを紐解いておるようじゃ。

 コレは魔導拳に使われておる物を書き上げた物なのじゃ。

 ただ、これは余りにも杜撰なので改良したいんじゃよね。

 しかし、ワシが改良してしまっては、シュトゥーリア家が言い掛かりを付けて来た際に、似通っていては向こうの思う壺なのじゃ。

 なので、カチュア殿に協力してもらうのじゃ。


「それで、私は何をすれば?」


「うむ、ワシが魔法陣の効率的な刻み方を教えるのでな、この魔法陣を改良して欲しいのじゃよ」


 カチュア殿に普段通りの魔法陣を刻む方法を見せて貰ったのじゃが、針の様な細いノミを使って、ハンマーでコツコツと打ち付けて刻み付けておった。

 成程のう、確かに金属に刻み込む場合には有効な方法じゃな。

 バートにも与えた特殊なインクで描く方法もあるんじゃが、インク式じゃと掠れたりして効果を失ってしまう可能性はあるのじゃ。

 じゃから、インク式は魔法陣を描いた後、魔石や他の素材と接着するのじゃが、まぁ比較的壊れやすい部類じゃな。

 そして、ノミで直接刻み込むと、どうしても線が太くなるんじゃよね。

 なので、カチュア殿達には、マナを操って魔法陣の形を作り出してスタンプする方法を教えたのじゃ。

 こうすると、素材に魔法陣が焼き付けられ、その部分にマナの流れが作られて、半永久的に残り続けるのじゃ。

 二人はクラフト系の職業クラスじゃから、覚えられるじゃろう。

 そう思いながら、二人にどうやってマナを操り、魔法陣を作り出すかを教え込んだのじゃ。


 それから僅か数日で二人はマナを使って、複雑な魔法陣を刻み込む事が出来るようになり、二人で協力して魔法陣の改良に着手したのじゃ!


 ……いや、ワシの方の研究も協力して欲しいんじゃけど!?




 取り敢えず、ワシはワシでちょこちょこ研究をし、偶に二人にも手伝ってもらって、ある程度の形が出来上がり、遂に起動実験まで漕ぎ付け、人を使って試す所まで来たのじゃ。

 なので、協力者実験台(予定)がおる場所へと赴いたのじゃ。

 やって来たのは、新しい町の建設現場の一つであり、最も過酷な壁作りの現場じゃ。

 ここでは、国中から集められた岩を魔道具で割り、設計図通りに人力で一つずつ積み上げていくのじゃ。

 ワシが魔法でやっても良いのじゃが、何から何までワシがやってしまったら、ワシが没した後、修復やら修繕する際に困るのじゃ。

 まぁ何も手を貸さぬのもアレじゃし、岩の採掘場から運ぶ量を増やす為にワシは収納袋を提供した事くらいじゃ。

 という訳で、この場におるのは基本的にむさい男共ばかりなのじゃ。


「このクソガキィッ!」


 そう言って来たのは、一際体躯が大きいムっさんじゃが、ワシの手前でずっこけて痙攣を始めておる。

 うーむ、何度見ても拘束の魔道具は強烈じゃのう。

 そう、この場におる半数以上が犯罪を犯した元犯罪者達で、全員、拘束の魔道具を使って奴隷となっておる。

 そして、罪の重さによって働く場所を決めており、重犯罪者程、とてつもなくキツイ仕事をする事になっておる。

 そう言う意味では、外壁作りは最もキツイ仕事じゃな。

 なお、昔は鉱山労働もあったのじゃが、こっちは普通にドワーフ族の独壇場で、下手に犯罪者を送っても効率は上がらぬという結果になっておる。

 なので、近年では道作りや開墾作業等に使われておるのじゃ。


 そして、この痙攣しておるムっさんは、随分と前にここで悪さを働いておった盗賊団のムッさんじゃ。


「だ……誰………が……ム…っ……さ……んだ………」


 おぉ、拘束の魔道具で喋れん筈なのに凄い根性じゃな。

 そうしておると、監督しておった兵士の一人が駆けて来たのじゃが、丁度良いのじゃ。

 その兵士に監督官の所へと案内して貰い、あのムっさんの作業態度を聞いたのじゃが、悪態は付いておるが、そこそこ真面目にやっておるらしい。

 ほー意外じゃのう。

 じゃが、それなら丁度良いのじゃ。

 現場監督にムっさんをちょっと借りたい旨を話し、その内容も、新しい魔道具の被験者実験台と説明したのじゃ。

 まぁ、説明中に腕が飛んだり脚が千切れたりするかもしれんが、と言ったら顔が引き攣っておったが、まぁそうなってもワシなら治せる改造するから問題無いのじゃ。



 まぁそう言う訳で、本日より宜しくなのじゃ、ムっさん1号!


「誰が1号だ! それとムっさんじゃねぇ!」


 ムっさんの首と両手両足に黒い腕輪を付けておるが、アレが拘束の魔道具で、他人に危害を加えようとすると、瞬時に作動し、麻痺して動けなくなるのじゃ。

 まぁ名前はどうでも良いのじゃよ。

 ムっさんには今日から

 一応、朝から夜までと、就労時間は決めるがの。

 まぁ期限は未定じゃが、完成すれば歴史に名が残るかも知れんぞー?(多分)


「クソッ……テメェに係わってから碌な目に合わねぇ……」


 命の危険も無く、一日三食、規則正しい生活が出来とるんじゃから満足じゃろうに。

 これがクリファレスとか、ヴェルシュとかじゃと、あっという間にあの世行きじゃぞー?


「……ケッ、それで俺は一体何すりゃ良いんだ?」


 うむ、ムっさんにはここにあるを使って、使い心地をレポートして欲しいのじゃよ。 

 これが駄目とか、こっちは良いとか、そんな些細な点でも構わん。

 とにかく、使って使って使いまくって、ぶっ壊すくらい使い倒して欲しいのじゃよ。


「あ? そんなんで良いのか?」


 うむ、あ、コレは試作品じゃから、そこら辺は気をつk。


「ギャァァァァッ!? 腕がっ! 腕がぁぁっ!!?」


 ぁーうん、コレは引っ張るパワーが強過ぎた様じゃな。

 ほれ、腕を治して調整するから大人しくせい。



 こうして、しばらくの間、地下室で毎日ムっさんの悲鳴が響き渡る事になったのじゃ。

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