第90話




 『美味しいぃぃぃっ!』


 水晶鏡の向こうで童女神シャナリー殿の声が聞こえてくるのじゃ。

 あの後ベヤヤの協力の元、大量の食事を作って、簡易の祭壇を作って童女神殿に捧げたのじゃ。

 メニューとしては、胃にも優しく、干せば長期保存も可能な便利素材でもある『うどん』なのじゃ。

 流石に鰹節はまだ見付けてないので、鮎みたいな川魚を干して燻して、鰹節の様にした物を使ったのじゃが、中々美味しく出来たのじゃ。

 醤油はいつも通りポーションで作った物じゃが、ちゃちゃっと注いだ液体を作り続ける樽型魔道具も作って捧げておいたのじゃ。

 まぁ理からは外れまくっておるが、使うのが神々じゃし、大目に見て欲しいのじゃ。

 なお、うどんの麺に関しても、布の上からベヤヤに踏んでもらう事で、しっかりとしたコシが出来て大変に美味!

 それをワシの魔法で乾燥させて、順次、天界に送っておるのじゃ。

 他にも、漬物やてんぷらとかも作って送っておるのじゃ。


 まぁ作っておるのはベヤヤじゃが……


 ワシも水晶鏡の前で一緒に食べておるのじゃが、童女神殿の隣には祖父神様の姿も見えるんじゃが……

 まぁ……別に良いかの。


「という訳で、定期的に食事と食糧を送るのは問題無いのじゃ」


 こうして、正しい神へと奉納する事が出来る事が証明出来たので、計画は次の段階に進むのじゃ。

 食後に、今後の計画を童女神殿とサポーター殿と話し合うのじゃ。

 しかし、流石に人前で『サポーター殿』と呼ぶのもアレじゃし、呼び名を決めても良いかのう?


『別に問題はないわよ。 名付けで影響を受けるのは魔獣とかだけだから、この子達には影響無いし』


 童女神殿の許可も得たので、名前を考えるのじゃが、ここはやっぱり、和名の方が良いじゃろう。

 そうして、少し悩んだのじゃが、髪の色から『瑠璃』と命名したのじゃ。


「では、次じゃが、御神体はコレなのじゃ!」


 そう言いながら取り出したるは、超特大の水晶柱!

 長さは6m程、幅2m程のぶっとくてでっかい水晶なのじゃ。


『いくら何でもデカすぎよ』


「こういうのは、大きければ大きい程良い物なのじゃ。 それにも考えたらこのくらいは必要になるのじゃ」


『んー……だとしても、入るかな?』 


「まだ設計段階じゃし、半分以上は地面に埋まる予定じゃから大丈夫じゃろ」


 多分の。

 取り敢えず、御神体はこれでヨシ!

 そして、何を売り出すのかじゃが、コレもある程度は決まっておる。

 後は、アレじゃな、クラスアップの問題じゃ。


 今まで、クラスアップは自動で行われておると思っておったのじゃが、実はそんな事は無く、逐一天界が判断して上げておったのじゃ。

 ただし、その為には教会へと訪れて、偶々天界から見ておる必要があるのじゃ。

 信仰しておる神がちゃんとおれば、教会に入って祈れば、天界でそれを感知して瞬時にクラスアップをさせるかの判断が出来るのじゃが、今は存在もせぬ神に祈る為に、天界では感知出来ず、偶々見ておらぬ限り、判断が出来ぬ状態になっておるのじゃ。

 じゃから、クラスアップ出来ぬ者が極端に多いのじゃ。

 なので、ワシはこの問題を解決する為に妙案を思い付いたのじゃ。


 それこそ、瑠璃殿達を初代とした神社建設計画なのじゃ。

 もちろん、瑠璃殿達は次代の教育をして、次代を決めたら天界へと帰る予定となっておる。

 まぁ、ファンタジー世界にガチ和式建築を作るのはどうかと思うのじゃが、流石に天界の様子を見た上に、教会の胡散臭さを見ておると、同じ教会にしてしまうのはどうかと思うのじゃ。

 それに、崇めるのが童女神殿じゃし……


 取り敢えず、売る物も神社にちなんで、ほんの僅かに御利益を上げてくれるお守りとかの予定じゃ。

 これはワシが作るのではなく、最初は天界におる此方に来ない侍女殿達が準備し、次代が育ってきたら其方が準備する予定となっておる。

 他にも色々と考えたいのじゃが、まぁ最初のうちはこの程度じゃな。

 童女神殿との通信を切り、ベヤヤと共に上に戻り、早速瑠璃殿に御神体となる水晶柱を見せ、設計に組み込んでもらう。

 その後は、バートとノエルに美樹殿と瑠璃殿を紹介し、瑠璃殿に関しては先代の知り合いで、ワシの事を聞いて隠れ里からやってきた、という事にしてあるのじゃ。


 こうして、新しい町の一角に、何故かガチ和風の神社がでーんと誕生する事になったのじゃ。



 そして、ワシは腕を組んで、机の上に置かれておる水晶の一つを睨んでおる。

 ……この水晶、さっき動いてなかったかのう?

 水晶のサイズ分けをしておったのじゃが、目を離した隙に、水晶の一つが置いた場所から動き、机に視線を戻した瞬間、コロンと水晶の一つが転がったのじゃ。


「見間違いじゃったかのう……」


 木の枝でコツコツと水晶を突くのじゃが、変化はないのじゃ。

 鑑定しても、唯の水晶としか出んのじゃが、もしやこれは…… 

 もしも考えておる事が正しければ、コレはめっけもんかもしれん。


「ベヤヤー、ちょっと来て欲しいのじゃ」


「ガ?(なんだ?)」


 のそのそとベヤヤがやって来たのじゃが、瞬間、机に乗っておった水晶がピョンと飛び跳ねて、机に置いてあったワシのとんがり帽子に潜り込んでいったのじゃ。

 あーやっぱり……


「グァア?(なんだなんだ?)」


「水晶の中に入り込んで、擬態しておる魔獣の一種じゃよ」


 鑑定しても、水晶を殻にしておるから水晶としか判定されず、隠れている間は仮死状態にでもなっておるから、収納袋にも入ってしまう。

 ただ今回は、圧倒的な捕食者であるベヤヤが来たので隠れるよりも逃げる事を選択したのじゃろう。


「取り敢えず、何もせんから大丈夫じゃよ~」


 そんな事を言いつつ、この子をテイムするのじゃ。

 小さい抵抗を感じたのじゃが、別段危険性は無いと感じたのか、無事にテイム成功したのじゃ。

 そうして、帽子の下からテトテトと小さい水晶蜘蛛が出て来たのじゃ。


 その水晶蜘蛛は、黄色い水晶を殻の様にしており、脚とかにある甲殻は金色に輝いておるが透き通ってもおる不思議な色合いじゃ。

 鑑定としてはただの水晶蜘蛛なんじゃが、普通の水晶蜘蛛は水色か灰色なのじゃ。

 うむ、間違いない、コレは特殊個体じゃな。

 何故、これがめっけもんなのかと言えば、この水晶蜘蛛と言う魔獣は、餌を食べて巣を作る際、糸を出す部分から糸だけでなく、特殊な液を出して水晶を人工的に作り出す事が出来るのじゃ。

 これは、背負っておる水晶を大きくする為の機能で、いわば巻貝の貝殻と同じ原理で成長する為のものなのじゃ。

 そして、この時に作り出される水晶の色は、大体甲殻と同じ色になるのじゃ。

 つまり、今回の場合であれば、作られる水晶の色は透明度もある金色になるのじゃ。

 まぁまだまだちっさいので期待は出来ぬが、成長すれば十分な量を期待出来るのじゃ。


「クモ吉、頑張って成長するんじゃぞ~」


 命名、特殊水晶蜘蛛のクモ吉、性別は雌雄同体。

 将来的には神社で水晶をお守りにして売りにでも出すかのう。

 そして、命名の影響で腹部の水晶に、ワシのシンボルである葡萄と杖のマークが現れておる。


 当初、餌は干し肉を与えておったのじゃが、ワシ等の眼を盗んで茹で上がったうどんを盗み食いし、大層気に入ったのか、クモ吉が持てる超小型の収納袋に茹で上がったうどんと、麺つゆ、小さいお椀を入れて、ちまちま食べる様になっておる。

 それ以外にも、ベヤヤが喰っておる虹色魔石も食べておるので、将来どんな個体になるのか非常に楽しみじゃ。


 次の日、ワシの帽子の中に隠れて移動し、皆に紹介したのじゃが、過半数から引かれてしもうた。

 うーむ、可愛いと思うんじゃがのう……

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