第89話




 はい、お久し振りの幼女なのじゃ。

 現在、ワシはエルフの集団を連れて、新しく作られる予定の町の近くにあった森の一つに来ておる。

 というのも、兄上の話じゃと、このエルフ達は元々クリファレスの森に住んでおったが、勇者が横暴過ぎた上に、一族全員が奴隷にされそうになったので逃げて来たのだという。

 条件として、新しく出来る町の近くにある森に住まわせると言う事で、ヴァーツ殿と相談して、今いる森に来ておるのじゃが、ちょっとこの森は小さいのう。

 まぁ後で植林して、大きくすれば良いかの。


「と、言う訳で、ちょっと小さいとは思うんじゃが、この森なんかどうかのう?」


「……はい、木からも力強さを感じますし、森が小さいのは後で木を増やせば良いだけですので」


 カチュアと名乗ったエルフの女性が、木の一つに手を添えて何かを確認しておる。

 エルフ族はワシ等人族とは感性が違うのじゃろうからよく分からんが、エルフにとっては何か大事な事でもあるのじゃろう。

 一応、ワシ等としての要求としては、果樹園でも運営してもらい、町で売って貰えれば良いのじゃ。

 ヴァーツ殿とそう提案したのじゃが、彼等はそれ以外にも、薬草の栽培やら魔法陣の研究やらもしたいと言うので、無理のない範囲でなら、と認めたのじゃ。

 しばらくして、ここの森は倍以上に広がり、その中にエルフの大集落が出来た上、バーンガイアでも有数の果樹と薬草の一大生産地となったのじゃ。


 しかし、兄上も思い切ったのう。

 クリファレスに飛行型魔獣を入手しようと出掛けて行ったのに、まさかエルフとドワーフの集団を連れて帰ってくるなど。

 しかも、転移者の一人も混ざっておる。

 彼女の名前は『遠藤 美樹』、高2の17歳じゃという。

 なんでも、勇者とは幼馴染であり、やらかす度に御小言を言っていたらしいのじゃ。

 それはこっちに来てからも変わっておらず、ストッパーとなっていたらしいのじゃが、迷宮で見捨てられた事で、国に戻っても今度は直接暗殺される可能性があるとして、今回の大脱走に参加したのじゃと言う。

 因みに、職業クラスは『魔道具錬成師マギクラフター』と言う珍しいモノで、魔道具なんかを作れる特殊職じゃな。

 聞けば、エアコンやら冷蔵庫やら、クリファレスで色々作っておる様じゃ。

 ほうほう、エアコンとか冷蔵庫なんかは確かにワシには無い発想じゃな。

 物に時間停止の魔法陣を刻んでおけば良いだけじゃったから、冷蔵庫系は作っておらんかった。

 後で個人的に色々話したいのう。


 で、兄上は何か用かの?


「いや、お前から頼まれてた水晶を持って来たんだが、こんなの何に使うんだよ」


 領主邸から戻って来た兄上が、呆れ顔で水晶が入っておる収納袋をいくつか机に置いたのじゃ。

 おぉ、そうじゃそうじゃ、コレでワシ等が考えておる事が実行出来るようになるのじゃ。

 聞けば、サイズが分からんかったから、小中大と特大とそれぞれに分別してあるらしい。

 これ以外にもあるらしいのじゃが、そっちは兄上が向こうの商業ギルドと専属供給の契約しておるらしいので、そっちは流石に諦めるしかないのう。


「で、今度は何をやらかす気だ?」


「やらかすとは心外じゃのう。 前に気になった事があっての、そこら辺を解消する為の準備じゃよ」


 説明しながら、収納袋に入っておる水晶を取り出すのじゃが、特大は本当に大きいのう。

 うむ、これならにしても問題無いじゃろう。

 となれば、後は建物じゃが流石にこれは分からんので、ちょいちょいと小細工する必要があるのう。


「……よく分からんが、また何かやるんだな?」


「まぁこれはワシだけじゃなく、の面々も納得の事じゃから大丈夫じゃろ」


「あぁ、最後のお願いって奴か?」


 その為に、まずは小屋に戻らねばならぬ。

 という訳で、ワシとベヤヤは一足先に戻るのじゃが、兄上はどうするのじゃ?


「今更、放り出していく訳にはいかねぇだろ、しばらくはこっちで対応しとくわ」


 あ、美樹殿に関してはワシの方で引き受けるが、後で村の方に来るように説明しておいて欲しいのじゃ。

 色々と意見も聞きたいしのう。



 そうして、ワシはベヤヤの背に乗り、久方ぶりに我が家へと戻ったのじゃが、休む暇は無いのじゃ。

 地下室へと移動し、収納袋から中と大を取り出してサイズを再確認。

 ふーむ、中は1mちょっとくらいのサイズじゃから、大の方を使うとするかのう。

 大は2m程の大きさなのじゃ。

 風魔法で表面を研磨し、完全にまっ平な水晶の一枚板を作った後、その一枚板に強化オリハルコンで土台を作り、表面に複雑な魔法陣をいくつか刻んでから密着させ、魔樹トレントを削り出して枠を作って超豪華な姿見の鏡の完成!

 と言っても、これはただの鏡では無く、ワシ特製の虹色魔石を土台の上下左右の4ヶ所に設置して、外部からマナを吸収するように魔法陣を土台に刻む。

 これで本当に完成なのじゃ!


「あーあー、聞こえるかのう?」


『…………-解-、聞こえています。 完成したのですね?』


 ワシの問い掛けに答えたのは、天界におる筈のサポーター殿の声じゃ。

 よし、成功なのじゃ!


『直ぐにシャナリー様をお呼びしますので、お待ちください』


 サポーター殿がそう言って暫くすると、童女神シャナリー殿の声が聞こえたのじゃ。


『貴方、本当にやっちゃったのね……まぁこっちも提案した側だからアレだけど……』


「うむ、取り敢えず、計画の第一段階は成功したのじゃ。 で、早速なんじゃが……」


『はいはい、予想は出来てるけど、直ぐに試すわね』


 4ヶ所に装着した虹色魔石を確認し、十分なマナの量である事は確認済み。

 そうして、しばらく待つと、鏡の表面が一瞬波打ち、鏡の中から一個の菓子が出て来たのじゃ。

 その菓子は何時ぞや天界で見た落雁じゃな。

 そう、これこそワシが童女神殿達に願った物で、天界におる面々を地上へと案内する為の『転移ゲート』なのじゃ。

 コレを作った理由も単純で、天界あっちに行った際、出されたのは茶と落雁の様な菓子。

 聞けば、昔は捧げ物やお供え物があって、天界でも色々と食べられたのじゃが、今では完全に忘れられてしまっており、ああ言った物しか食べられないのじゃと言う。

 なので、此方と天界を繋いで美味しい料理を食べさせてやりたい、と思ったのが一つと、インチキ神を崇拝するのもアレじゃろう。

 この世界の神様である童女神殿を崇拝出来る様にする為、今回の転移ゲートを作ったのじゃ。

 これ以外にも色々とやる必要はあるのじゃが、まずは大前提の一つは完成なのじゃ。

 直ぐに魔石を再確認すると、4ヶ所あるうちの1つの色が弱くなっておるだけじゃな。

 うむ、これなら大丈夫じゃな!


童女神シャナリー殿、成功したのじゃが、効率は悪いんで改良する必要はあるのじゃ」


『了解よ。 それじゃ普段は閉じておいた方が良いわね』


「まぁしばらくは1日一人ずつ送って貰えれば良いのじゃ」


 もしも途中でマナが尽きたらどうなるか分からんからのう。

 今回はある意味で急ぎなので、ワシがマナを追加で充填し、天界からサポーター殿を含む侍女数名を派遣して貰ったのじゃ。

 流石に割烹着の格好は不釣り合いなので、こちら風の服に着替えて貰ってから、建設現場に向かい、教会が確保した土地とは反対側の土地を押さえたのじゃ。

 本音を言えば、新しく作る町から教会は叩き出したいのじゃが、『ソバンが勝手にやった事で、私達は無関係です』と言われてしもうたら、ワシ等は事情を知っていても表沙汰には出来んから強く拒否も出来ん。

 なので、今回の件も含めて、町からは出て行ってもらう事にしたのじゃ。

 そして、建築に関しては、サポーター殿が製図した物を、兄上が連れて来たゴゴラと言うドワーフに頼む事になったのじゃ。

 そうしたら、『釘を使わぬ建築など考えた事も無かったわい!』と喜んでおり、快く引き受けて貰えた上に、サポーター殿が連れて来た他の侍女殿達と一緒にどういう技術なのかの説明を受けておる。

 さて、ワシは設置する御神体やら装飾やらを作るとするかのう。

 他にもやる事山盛りなのじゃ!


 まぁワシはこの後、童女神殿に沢山の食事や保存可能な保存食を献上する予定なのじゃが。

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