第87話




 鬱蒼とした森の中をファース達に指示を貰いながら突き進み、僅か半日で森を突破し、そのままジャダカーンに到着する。

 確かにこりゃ案内が無けりゃ無理だ。

 ただの雑草かと思ったら、踏むと超強力な毒を噴出させる毒草とか、触れただけで貼り付いて寄生して来る寄生植物とかがわっさわっさと生えていた。

 ジャダカーンに到着するとゴゴラ達に歓迎され、逃がし屋は既に代表達と話しをしており、現在は人数分の金額を払っている状態らしい。

 それじゃ、それに追加として水晶迷宮で手に入れた財宝の山をゴゴラに渡す。

 これで更に逃がし屋に頼めるだろう。


 そもそも、何故にこうしてドワーフとエルフに対して優しくしているのかと言えば、単純に彼等の技術力が欲しいからでもある。

 ルーデンス領で新しい町が出来る関係上、優れた鍛冶技術を持つドワーフ、植物全般に強いエルフと言う両種族が居れば、将来的に更なる発展が見込める様になる。

 まぁ将来を見据えた打算的考え方だな。



 そうして、代表とファースが逃がし屋に追加の金額を払うと、逃がし屋の交渉役が目を丸くしていた。

 そして、コレだけあれば9割近くの住民を逃がすだけの金額にはなるだろう、と言うので、商業ギルドの護衛役以外を全員逃がすように依頼し、領主のヴァーツ宛に俺から事情と受け入れを頼む様に一筆書く。

 ミレーネが追加で頼んだ事で、逃がし屋の人数は多いのかと思ったが、今回は10人ほどしかいないという。

 というのも、全員が納得した上でちゃんと指示に従う事を徹底しているので、引率者の人数を多くする必要はないのだ。

 その中に、意外な顔を見る事になった。


「……成程、やけに詳しいと思ったが……」


「おっと、旦那、ここじゃ名前はタブーですぜ?」


 そこにいたのは、黒いターバンやマスクで顔を隠しているが、クリファレスの関所を超える際に一緒にいたナグリであった。

 どうやら、彼はただの冒険者では無く、各地の情報を集めている逃がし屋の諜報員の様だ。

 だから、関所の魔道具や情報に詳しかったんだな。


「確実に逃がせよ?」


「『逃がし屋』でも腕利きを集めたんでね、信用してくだせぇや」


 ナグリがそう言いながら、用意された馬車の一つに足を掛ける。

 見た目はただの馬車だが、車軸も車輪も太く、悪路用に特殊な改造が施されているようだ。

 それが何台も用意されており、中には女子供や老人達が押し込まれている。

 その護衛として、エルフ兵が馬に乗り、ドワーフ兵はチャリオットタイプの馬車に乗っている。

 宵闇に紛れて逃がし屋達は出発し、商業ギルドに向かう俺達も別ルートから王都の商業ギルドに向かう。

 さて、無事に到着すれば良いんだが……




 勇者様の命令により、我々はカーバルトのエルフ達を捕縛する為に来たのだが、どうにも様子がおかしい。

 途中、剣を交差させた冒険者ギルドのマークが付いた馬車とすれ違い、カーバルトがある筈の森に到着したのだが、何処にも道が無いのだ。

 試しに、部下の一人が森の外の道から続くであろう場所から入ってみるが、しばらくしてギャーッという叫び声が聞こえたかと思ったら、森の中からズタボロになった兵士が放り出された。

 一体、何があったのかは分からないが異常事態である。

 兵士達に、入り口を探させる為に周囲を走らせる指示を出したが、一日掛けて分かったのは、何処にも入り口が無いという事と、不用意に入ると死にはしないがボロボロにされる、と言う事だけ。

 止むを得ず、勇者様から預かっていた試作品の通信用の魔道具を起動する。

 そして、指示を受けようとしたのだが、帰って来たのは『役立たず』だの『使えねぇ』と言った罵倒であったが、その通りなので、通信用の魔道具の前で頭を下げ続ける。

 最終的に『面倒だから周囲から燃やしちまえ』との指示を受け、詳しい作戦を聞くと、一ヵ所だけ安全な場所を作り、それ以外の部分を燃やせば、その安全な所に逃げて来るだろう、という。

 成程、言われてみれば当然の考えではある。

 ただ、手持ちの物資では足りないので、数人の兵士を王都に戻し、商業ギルドで大量の油を購入させる。

 油の到着を待つ間、森を囲むように部隊を展開しておき、逃げられない様にしておく。


 4日後、商業ギルドから大量の油を乗せた馬車が到着し、金は緊急と言う事で後で請求させるように指示を出す。

 そして、馬車の一部はそのまま通過しようとするので呼び止めると、乗っていた若造が商業ギルドのギルドマスターからの依頼で、ルーデンス領に出来る新しい町へ向かう為の商隊であるという事が書かれた書状を持っていた。

 同行している護衛は、若造の冒険者以外にはドワーフ族や人族で、エルフ族はいない。

 馬車の中を見たが別に怪しい物は無く、ドワーフが道中で使用する可能性がある矢を作っているくらいだ。

 別に問題は無いと判断し、我等は我等の作戦を遂行する為、馬車を出発させた。


 森の外周に大量の油を撒き火を付ける。

 確かに、生木や下草は燃え辛い物だが、燃えやすい油を定期的に散布すれば、構わず燃えていく。

 が、その直後、兵士の一部が不調を訴え始め、更に別の兵士達が急に錯乱し、燃え盛る森の中に突っ込んでいった。

 最初は訳も分からなかったが、不調を訴えた兵士は下がらせ、錯乱した兵士達は他の兵士が取り押さえてその場から引き離した。

 どうやら、森の中には特殊な毒草が自生しており、それが燃える事で毒ガスを発生させているようだ。

 それ以外にも、燃えた木の実が弾け飛び、兵士の一人が大怪我をした。

 まさか、木の実が鉄の板金鎧を貫通するなんて思ってもみなかった。


 結局、下手に燃やす事も出来ないという事で、全員が周囲にある木を切りながら進む事になった。

 里に到着するまでに、どれだけの時間が掛るかは分からないが、下手に行動すると部隊が崩壊しかねない。

 コレばかりは時間を短縮する為、王都に追加で魔術兵の派遣をお願いする事にした。




 呼び止められた時はドキリとしたが、此方は正規の手段で依頼を受けているので、怪しまれる事は無い筈だ。

 大量の油を積んだ馬車を置いて、俺達の方はそのまま出発する。

 しかし、まさかとは思うが、あの森に火でも放つつもりか?

 エルフが住んでいる森と言うのは、はっきり言えばブービートラップの宝庫であり、知らなければ酷い目にあうだろう。

 その中には、当然、火を付けられた場合の罠も存在している。

 恐らく、とんでもない事になるだろうが、俺には関係無い事だからな。

 馬鹿共が酷い目に合うだけだ。


 商業ギルドの馬車は関所を無事に通過し、遂にバーンガイアに入国する事が出来た。

 ルーデンス領の新しい町の事も聞いたが、今の所、変わった所は無いらしく、住民も募集中だという。

 まぁ直ぐにドワーフが町の建設に係わる様になるだろうから、建築は加速するだろう。

 それにしても、ゴゴラ達は無事に突破出来たんだろうか……

 心配にはなるが、今はナグリ達の腕を信じるしかない。


 そうして、内心は急ぎたかったが、のんびりと道を進んで数日後、領都に到着して直ぐに領主であるヴァーツに面会を依頼すると、直ぐに会いたいという返事。

 商業ギルドのミレーネからの手紙を持って領主邸に向かうと、そこにはヴァーツ以外にゴゴラ、ファースとナグリが一緒にいた。

 どうやら、無事に逃げ切れたようだ。


 ゴゴラに聞いた所、他のドワーフ達は既に町の建設現場に行っており、エルフ達は町の近くにある森の一つを自由にしていいという許可を得て、アイツがそれに協力しているらしい。

 で、転移者の彼女だが、エルフ達と一緒にアイツの所に行っているらしく、最終的には新しい町で暮らすようになるが、今は生活基盤を整えている最中らしい。

 さて、残る問題は勇者がどう動くだが、全く読めんからなぁ……

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