第85話
儂がジャダカーンに帰還すると、誰もが無事を喜んでいたが、これからの事を話すと全員が黙り込んでしまった。
まぁそうだろう。
勇者のクソ小僧が訳の分からん理由で、儂の腕を切り飛ばした上に、重犯罪者にしやがった。
しかも、逃げた奴等を兵士に追わせてる以上、兵士がここに来るのは時間の問題。
このままだと、町の存続の危機だが、この鉱山を捨てて移動したいかと言われれば悩む所だ。
儂の話を聞いた全員が悩んでいる。
「ゴゴラよ、もしもだが、このままここに留まったらどうなる?」
サンボが聞いてくるが、そんなん答えるまでも無いだろう。
あの勇者の性格からして、全員奴隷にされて休みなく働かされるか、試し斬りの的にされるか、ヴェルシュ帝国との戦争で肉盾にされるだろう。
どの道、碌な扱いにはならんだろうな。
エルフ達など、目も当てられんだろう。
カチュア達がファースを説得出来れば良いんだが……
内心溜息を吐きながら、逃がし屋に依頼するには大量の金が必要になるので、各家から金を掻き集めさせる。
逃がすのは女子供を優先し、それ以外は商業ギルドと連携して国外脱出をする。
更に、ここまで儂等をコケにしてくれた勇者には、儂等からの嫌がらせとしてここには何も残さん!
魔導炉も魔石を外し、剣の鋳型も全て持ち出し、残っていた製品は全て鋳融かしてインゴッドにして持っていく。
そこまで持てんじゃろうって思ったろうが、先に到着していた彼女がそこそこな収納量の収納魔道具を作っておった。
しかも箱型である為、怪しまれずに馬車とかに装着する事が出来る。
後は、カーバルトのエルフ達を待つだけだ。
「話は分かった……だが、我々がここを放棄するのは……」
ファースが難しい表情を浮かべている。
ゴゴラが身を挺して私達を王城から逃がした後、私は仲間と共に先に里へと戻り、直ぐにファースと話し合っているのだが、現場を見ていない彼には信じられない事だろう。
だが、あの勇者はこの里にある迷宮で仲間を見捨てた、という事実もある。
元々、カーバルトに住むエルフ族は、戦禍から逃げて来た者達の末裔でもある。
その時の森はまだ小さく、長い時間を掛けて今の森まで大きくした。
その苦労して大きくした森を捨てなければならないなど、認めたくないだろう。
しかし、このままだと確実にこの里は滅ぶ事になるだろう。
更に言うと、奴隷にされたゴゴラを救助してくれた彼が言うには、勇者が逃げた私達を兵士に追わせているらしい。
勇者の思い付きで、渡り魔獣を狩り尽くそうとする準備によって出発が遅れているだけで、王都の状況から見て、それなりに早く出発して来るだろう。
逃がし屋を利用するにしても、今まで迷宮で稼いだ分があるので、金額は問題無いだろう。
そもそも、この里の迷宮で採掘出来る水晶は、コレから採掘出来なくなる。
希少価値が高くなるから、更に高く売れるだろう。
「里長、あの勇者は確実にやってきますよ。 そうなってからは遅いんです」
「……しかしなぁ、先祖から引き受けた森を捨てるというのは……」
「森はまた作れば良いんです。 でも、このままだと一族全員が絶える事になるんですよ?
その言葉でも、ファースは悩んでいる。
どっちにしても、里長であるファースにとっては苦しい決断となる。
しかし、彼は決断した様だ。
「一族を絶やすよりかはマシか……分かったが、どうすればいいんだ?」
「まず、彼が迷宮を攻略して討伐するまでに里から逃げる準備をして、攻略終了後にジャダカーンに移動し、そこで逃がし屋と一緒にバーンガイアに逃げるという事になります」
ここで問題になるのは冒険者ギルドだが、あのギルマスは私達が逃げて来た事で察したのか、現在は治安維持という名目で、信用している冒険者だけを里の周辺に配置し、それ以外は補給と言う名目で王都へと送っている。
冒険者ギルドにしろ、世界中にあるギルドと言う組織は、別に国に所属している訳ではなく、必要に応じて撤退を決めたりする事がある。
今回の場合、確実に追手の兵士が来るので、逃げても追及はされないだろうが、どういうつもりなのか。
迷宮に入って手当たり次第、採掘と魔獣を狩りまくる。
王都の商業ギルドのギルマスが、まさかこんな依頼をしてくるなんて思ってもみなかったな。
この国でも有数の稼ぎ頭でもある迷宮の討伐依頼なんて、本来は指名手配されても可笑しくないが、今回は裏から手を回して犯人は見付からず、更にその原因を作ったのが勇者の暴走であるとして糾弾する予定になっている。
更には、カーバルトとジャダカーンの住民全員が逃げてしまうという不祥事もオマケで追加だ。
勇者は言い逃れしようにも、複数の面々がいる中でゴゴラを重犯罪奴隷にし、逃げたドワーフとエルフ兵達を兵士に追わせ、例え差し出したとしても、周囲への見せしめとして全員を奴隷にするつもりであり、その命令書も、どういうルートを使ったのかは分からないが、あのギルマスは入手している。
そして迷宮を討伐した後、手に入れた大量の素材は秘密裏に商業ギルドに流す事で、正体を隠して見逃す事が話が通っている。
取り敢えず、4階層までは駆け足で駆け下り、そこからはじっくりと攻略を行う。
と言っても、ツルハシを振るうだけで敵が砕け散るので最早、ただの作業なんだが。
5層ではモンスターハウスも利用し、大量の素材を集めていくのだが流石に弱い。
まぁ普通の冒険者が対処出来るレベルかどうかは、この場合横に置いておくが……
そうして6層部分に到達。
基本的にはこれまでと変わらないが、この6階層での一番の特徴は、部屋が3つしかないという点だろう。
つまり、5層と繋がっている階段部屋と、迷宮主がいるボス部屋、ダンジョンコアと報酬がある最終部屋の3つになるのだが、ここの迷宮主はずっと放置されていた事で、どこまで強くなっているのかは不明なのだという。
迷宮主と言うのは、倒されてもダンジョンコアが無事であれば、時間をかけて何度でも復活する事が出来るが、逆に放置し続けたらどうなるのか?
実は過去にヴェルシュ帝国で実験された事があり、ランクも価値も低かった迷宮を放置した所、迷宮主がただのゴブリンソルジャーだったのが、ゴブリンエンペラーと言う災害級魔獣にまで進化していた。
その時は、大量の冒険者と兵士を迷宮に送り込み、迷宮が溢れ出る前に何とか討伐出来たという。
そして、ここの迷宮主は、普通であれば『
ボス部屋前で一旦休憩し、体調も準備も万端にした後、思い切って扉を開けた。
部屋の中央に巨大な水晶が釣り下がり、その奥側に小さい玉座の様な物が置かれ、水晶で出来たような透明度の高い剣を構えている人型が見える。
どうやら、蜘蛛型から人型になっているようだな。
言うなれば、『スパイダー〇ン』って所か?
今回はツルハシじゃなく、ハンマーで粉砕するつもりで、一気にその蜘蛛男に突っ込む。
ぎこちない動きで、俺を迎え撃とうとしたようだが鈍い!
防御されるよりも早く、振るったハンマーが蜘蛛男の頭にぶち当たり、粉々に砕け散って吹き飛んで壁に衝突、その衝撃で四肢が有り得ない方向に曲がっている。
が、ギチギチと音を上げながらまだ動こうとしている。
再び粉砕する為に飛び出そうとした瞬間、背筋にゾクリと悪寒が走り、一気にその場から横に跳ぶと、今まで俺がいた所に水晶の槍が何本も突き刺さった。
「おいおい、マジかよ……」
そこには、天井に釣り下がっていた巨大な水晶に切れ目が入り、超巨大な水晶蜘蛛が天井から床に降り立つ姿だった。
いや、コイツはヒュージなんてサイズじゃねぇぞ!?
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