第83話
王都シルヴィンドは里から乗合馬車を使って3日の位置にある。
そこまで遠いと言う訳では無いが、天候によっては長くなる。
まぁ、俺達も大雨で止むを得ず一回停車して1日潰れた訳だ。
「お客さん方、やっと到着しましたぜ」
御者のオッサンが御者席からそう言うと、バーンガイアの王都と同じ様に巨大な外壁が見える。
壁には複数の門があり、そこには入る為の長蛇の列。
この長蛇の列、貴族には専用の門があり、そっちではスムーズに入る事が出来る様になっている。
貴族をこの列に並ばせて、トラブルでも起こさせたら面倒な事になるしな。
そうして俺達の番になり、『見えるくん』によって判定された後、門を通過。
門の内側にある馬車の停留所に停車して、御者に残りの金額を払って、やっと自由に動けるようになる。
この後は、従魔を売買している店舗に行って話を聞いて買えたら買い、その後は商業ギルドのギルマスに手紙を届ける予定だ。
この手紙は、あの彼女が無事である事を知らせても平気な相手と言う事で、彼女が事の経緯を書き纏めたものだ。
ついでに、ギルマスクラスであれば『逃がし屋』の情報を持っているかもしれない、という考えもある。
従魔を取引している店舗は王都の外壁付近にある。
元は魔獣である従魔が暴れたりしたら危険なので、基本的に住宅街や貴族街から離れた場所に店が置かれているのだ。
馬型やら犬型やら猫型と言った魔獣が檻の中に入れられている。
……大型の鳥型が一切見えないんだが?
「それで、本日はどのようなご用件で?」
店長がやって来たので、今回の目的である渡り魔獣と飛べる従魔に付いて聞いて見た所、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
そして、とんでもない事が発覚。
数日前、勇者が王都へと帰還した後、対ヴェルシュ帝国対策として航空兵力を増やす事になり、国中に対して、渡り魔獣を含む飛行可能な従魔の販売を禁止、現在売っている従魔は全て国預かりとなってしまい、所有者に対しても、国に提供する事になってしまったという。
しかも、現在野生で残っている渡り魔獣は、ヴェルシュ帝国に渡さない為に全て討伐。
既に昨日、新品の剣を掲げた勇者が先頭に立って出発したらしい。
大雨が降らなければ先に出発して間に合ったかもしれないが、1日経過してる時点で追い付くのは難しいだろう。
帰り際に店長が、渡り魔獣の卵と言って、関係無い魔獣の卵を売りつけようとする詐欺も起きているので、注意した方が良いと教えてくれた。
礼を言い、今回は諦めるしかないと考えて、次は商業ギルドへと向かう。
ここの商業ギルドは平民が住む住宅街と、貴族達が住む貴族街との境目にあり、内部も平民と外部用、貴族用と完全に分断されている。
まぁここまでの王都の雰囲気を見た限り、顔を合わせた所で碌な事にならないだろうから、この形が一番マシなんだろうな。
外部窓口でギルマス宛の手紙を預かっており、内容的に直接手渡ししなければならないと伝え、その際に、手紙とは別に用意していた小さい包みを渡して、返答を待つ。
あの包みは別に賄賂と言う訳では無く、中に入っているのは彼女の私物の一つで、多忙なギルマスに絶対会う為に考えた方法として、俺が関係者だと分かるという事で預かった物だ。
案の定、直ぐに個室へと案内され、そこでしばらく待たされると一人の女性が入って来た。
ギルドの制服を着ているが、眼光は鋭く、短く切り揃えた茶髪を小さいヘアピンで留めている。
「さて、率直に聞くが、これはどういう事だ?」
互いに椅子に座って一応の自己紹介を済ませると、商業ギルドのギルマスである『ミレーネ=ランダイン』が、小さな包みを机に置いた。
あの包みの中身は、ギルマスが付けているヘアピンと同じ物で、彼女がギルマスと友好の証として送った物であり、彼女が持っている物以外で、同じ物は存在しない。
それには答えず、手紙を差し出した。
ミレーネがそれを受け取り、内容を読んでいく。
そして、読み終わる頃には頭を抱えていた。
そりゃ、戦争に使うから殺戮兵器を作れと言う国に協力しなかったから、迷宮の奥地で見捨てられましたので、この国から出て行きたいので協力して欲しい、なんて書いてあったらそうなるな。
「かなり面倒な事になっているようだな……」
「今の所無事ではあるが、さっさと逃がさんと拙いんでな、『逃がし屋』に付いては?」
「……勇者の馬鹿共が暴れた影響で、各地でこの国から逃げ出そうとしてる民が多くてな……ちょっと値は張るが腕の確かな奴の方が良いだろう」
支払いに関しては彼女の口座と、魔道具で世話になっているからと言って、ギルマスのミレーネが出すという。
逃し屋との連絡方法に付いては、安全の為に面倒な手順を踏む必要があり、直ぐに行動を起こせる訳ではない。
彼女を匿っているのは、ゴゴラ達の住むジャダカーンで、逃がす場所はバーンガイアのルーデンス領。
そこに俺の妹が住んでいる村があるので、彼女に手紙を持たせる予定だ。
「それじゃ、確かに伝えておくよ、そっちへの連絡はどうしたら良い?」
内容が内容だけにメモなど取らずに、ミレーネはコメカミの辺りを叩いて記憶した様だ。
そう言えば、滞在中の宿を決めてなかったな。
なら、この近くにギルド直営の宿屋があるからそこに逗留すると良い、という事で『銀の天秤亭』と言う宿屋にチェックインする事になった。
宿の質としては、可もなく不可も無くと言った所で、最低限の安全と防犯は確保されている宿だった。
次の日、王都の中を散策する。
市場にはそれなりに活気はあるが、新鮮な葉野菜は少なく根菜や果樹などが多い。
戦争でそこら辺の農地の一部がやられたのだろうな。
他にも、魔道具屋を覗いてみる。
そこでは火を付ける為の魔道具や、手持ち式の扇風機の様な魔道具、使うと一定範囲に
店主に聞くと、主に買うのは冒険者で、野営での面倒な火起こしとかで使っているのだという。
確かに、火おこしの度に魔法を使うより、スイッチ一つで火おこし出来るのは便利だな。
サンプルとして、手ごろな価格の魔道具をいくつか購入しておく。
その際に、彼女が作った銃に付いても聞いて見たが、店主は知らず、知っているとしたら国のお抱え錬金術師くらいだろう、と言っていたので、恐らく銃は完成して無い様だ。
他にも市場で根菜を幾つか買い、武具屋にも寄って短剣や魔獣の革を入手する。
今回、冒険者ギルドに関しては近付かない。
何せ、戦争で一旗上げようなんて考えている冒険者達の元締めだ。
一癖も二癖もある連中ばかりだろう。
そう考えながら歩いていると、急に一際大きな建物が見えた。
王都シルヴィンドにある教会。
バーンガイアの王都にあった教会より一回り程大きく、装飾もきっちりとされていた。
ただ、その門は閉ざされており、門の位置には斧槍を持った僧兵が立っている。
住民に聞いた所、月に一度、教会内部で害虫退治をする為、一時的に閉鎖するのだという。
「あぁぁぁっ!閉鎖日今日だったのかよ!」
「クラスアップがぁぁっ!」
「バーカ、そんな簡単にクラスアップなんて出来ないだろ」
教会の門の所で数人の冒険者連中が騒いでいる。
なんでも、教会で祈るとクラスアップ出来る、なんて話があるらしく、冒険者連中がクラスアップ目的で定期的に訪れるのだという。
この教会が崇めている神って実在しないハズだよな?
……バーンガイアに戻ったら調べるか。
そうしていくつかの店舗や食堂を巡りながら2日が経過。
最後に訪れたのは、バーンガイアでは所有が禁止されている奴隷の販売所。
バーンガイアでは、犯罪者とかを奴隷にするが、全て国が所有しており、個人で所有するのは禁止されている。
借金で首が回らなくなった場合も、国が一時肩代わりし、その借金額が正当な物かを調査した後、国の労働者として農地などで働いて返す事になる為、詐欺師が活動し辛い国だ。
だが、戦争をしているクリファレスとヴェルシュでは話が違う。
奴隷は軍によって定期的に購入され、適当な装備を付けて敵陣に特攻させたり、新薬の実験台にされてりする。
酷い部隊では奴隷を肉盾として運用している、なんて事もある。
そんな奴隷たちを見ると、全員、目に光が無く、黒い首輪が填められている。
あの首輪で自意識を完全に遮断している為、奴隷はどんな扱いをされても文句すら言わない。
そんな中、一人の奴隷が目に入った。
その奴隷は全身を包帯で巻かれ、右腕を肩辺りから失い、両足と左腕には巨大な鉄球が鎖で繋がれている。
「……ゴゴラか?」
そう呟いたが、反応は無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます