第82話




 彼女が俺の背で寝始めたのを感じつつ、3層の中を駆け抜けていく。

 恐らく、4層を突破した事で緊張が途切れたんだろうな。

 しかし、これからどうするか……

 このまま外に出ると、生存が国にバレて確実に彼女が狙われる事になる。

 別に無関係なのだから、地上に送り届けて後は知らん顔しても良いんだが、彼女の発想を失うのは勿体無くもある。

 道中で聞いた話では、関所に設置されていた判定の魔道具も、彼女が地球にあったCTスキャンの装置から発想を得て、元々あった魔道具を改良して作った物らしい。

 他にも、地球にあった道具なんかを魔道具で再現しようとしていたらしい。

 まぁ、ネーミングセンスがちょっと……いや、かなり独特なんだが……

 例えば、結界を発生させる魔道具が『結界くん』、判定の魔道具なんて『見えるくん』と言う名前を付けていた。

 因みに、武具だが、ショートソードに小さい盾のバックラー、体の動きを阻害しない革の部分鎧に、水平二連式のソードオフショットガンエアガンが収納袋に隠してある。

 銃に関しては後で改めて話を聞く必要はあるが、もしもクリファレスで銃の一大生産でもして、一般兵でも手軽に入手出来るような事態にでもなっていたら、ちょっと面倒な事になる。

 まぁそこまで強いって訳じゃないが、周囲から撃たれまくったら鬱陶しい事この上ないという理由だ。


 取り敢えず、落っことさない様に注意しながらどんどん迷宮を進み、遂に2層から1層に繋がる階段を発見。

 ここら辺になると比較的安全なので、一旦休憩の為に彼女を壁際に降ろし、俺自身は手持ちの収納袋から握り飯と干し肉、水筒を取り出して栄養補給。

 彼女の方は空腹よりも完全に睡魔の方が強いようで、流石に救助した階層で食事を与えるのは危険過ぎるので、目覚めたら食事を与える予定だがいつ目覚めるやら……

 

 そうして長めの休憩をしていたら、階段の上の方から話し声が聞こえ、複数の足音が聞こえて来る。

 どうやら、応援が到着してサボォーク達が救援の為にやって来たらしい。

 短剣を引き抜き、階段の一番下で灯りの魔法を使い、その光をチカチカと反射させて合図を送る。


「おぉ、ホントに見付けたんか!」


 サボォークが巨大なポールハンマーを担いで、階段を下りて来た。

 金属鎧で完全武装状態なのだが、不思議と金属のガチャガチャ音がしていないが、多分工夫されているのか、何か魔法的な処置が施されているのだろう。

 サボォークの仲間と応援者パーティーは、此方の合図を受けたから1層に繋がる階段の所で陣を組み、安全を確保している。

 そして、サボォークが確認の為にやってきたという訳だ。

 当初の予想より日数が早かったが、どうやら、エルフが早馬と専用の馬車を使って迎えを出し、応援のドワーフを途中で回収したらしい。

 ただ、この方法は馬への負担がかなり掛かるので、本来ならやりたくはないようだ。


 やってきたサボォークに事の経緯を説明し、今後どうするかを話し合うのだが、流石に腕を組んで唸っている。

 一番の問題は彼女を匿う場所が無い点だ。

 このまま里で隠しておく事も出来ないし、黒目黒髪である彼女を長時間連れての移動は出来ない。

 しかし、彼女の才能を失うのは惜しい。


「サボォーク、もう大丈夫なのか!」


「ぁ、いかんいかん、上の連中を待たせとった」


 サボォークが階段を駆け上がり、一人のドワーフを連れて戻ってくる。

 スマン、金属鎧で全身隠れてるから、どっちがどっちだか分からんのだけど……


「こっち、ワイのアニキで、タボォークっちゅうんや」


「サボォークの兄、タボォークだ」


 そう言いながら握手をする。

 そして、先程も話した彼女をどうやって匿うかを話し合う。

 まず、このまま地上に戻るのは却下、何処に国の監視の目があるか分からんし。


「そうなると、偽装する必要があるな」


「しかし、アニキ、偽装するっちゅうても、結局何処に隠すんや?」


 サボォークの言う通り、偽装したとしても結局は匿う場所が問題だ。

 一番早いのがこのまま迷宮内で匿う事だが、それにしたって限界はあるし、また勇者パーティーが水晶採掘に来ないとも限らない。


「ジャダカーンで良いだろう。 幸い、ゴゴラ達が国からの依頼を受けておったから、しばらくは来ないじゃろ、その間に王都でに依頼して逃がせば良い」


「なんだ、その逃がし屋ってのは?」


 タボォークが聞きなれない名称を言ったので聞いて見ると、クリファレスの王都にある裏組織の中には、国から目を付けられた相手を国外に逃がす専門の組織があるらしい。

 所謂、地球で言う所の『夜逃げ屋』みたいなもんで、その規模が国から逃がすってデカくなっただけだ。

 連絡方法についてはいくつかあり、酒場で特定の酒を注文をするとか、情報屋に合言葉で伝えたり、貴族みたいな相手から連絡をして貰う等々、連絡が出来るらしい。

 ただ、金額は結構掛るらしいが、彼女曰く、商業ギルドで色々と魔道具を売って収入を得ていたらしいから、払えん事も無いだろうし、逃がす先なんてバーンガイアのアイツのトコくらいしか思いつかん。

 そうなると、次に必要なのは、この場からどうやってジャダカーンまで移動するかだ。

 担架を作って、それで移動させるにしても、まさか里からジャダカーンまで担架で運ぶなんて不自然だし、彼女が死んでいた場合、遺体は王都に送るべきなので、間違いなくバレる。

 そこの所を指摘すると、タボォークがニヤリと笑みを浮かべる。


「それなら任せろ、考えがある」


 タボォークがいそいそと階段を昇って行き、上にいる他のメンバー達と何やら話し合っている。

 しばらくして、数人のドワーフと共に戻って来た。


「そこの娘っ子がそうだ」


「んが、問題無いべ」


 共に来たドワーフ達が、それぞれ持っていた収納袋から色々な道具を取り出し始め、床に並べては、あーでもないこーでもないと言い始める。

 その様子を見ながら、タボォークが作戦と言うか考えを話してくれた。



 まず、彼女をこの場で脱出させてジャダカーンに匿い、逃がし屋を使ってバーンガイアに国外逃亡させる事は確定。

 その為にはこの迷宮から脱出しなければならないが、ここで救援に来たドワーフ集団が重要になる。

 ドワーフ族と言うのは基本的に小柄だがマッチョな体型で、髭と言うか全体的に毛量が多い。

 そして、その筋力パワーによるに肉弾戦を得意とする為、全身金属鎧と重装備になりがちになっている。

 今回は迷宮に救援と言う事で、どれだけの期間迷宮に入っているか分からないので、全員が予備の鎧やら武器、メンテナンス用の道具を持ち込んでいる。

 そして、彼女はドワーフと比べても然程、身長に差が無いくらい小柄。

 なので、予備の武具を手直しして軽量化した上で、全員から少しずつ髪の毛を切って、炭で染めて髭として兜に装着し、彼女に装備させる事で、見た目をドワーフ族に偽装する。

 ただ、身長は誤魔化せるが、ドワーフは樽みたいな体型なので、そのままだと鎧がブカブカですぐにバレる。

 流石に『太れ』とは言えないので、布を巻いて誤魔化す事に。

 まぁ熱が籠って熱いだろうが、里を出るまでの我慢だから、とサボォークが説得していた。


 さて、武具の調整は直ぐに済むんだが、流石に即出て行ったら怪しまれる。

 ちゃんと探索したと思わせる為、最低でも1週間は迷宮に滞在する必要がある。

 その間に、救援の為に来たドワーフの一人が連絡係になり、里長のファースには話を通して、協力をしてもらう。

 と言う事で、その間、動く予定が無い俺は、自分の予定を済ませたいんだが良いか?


「水晶の採掘だったか? 別に構わんが……」


「ぁ、もし最奥まで行っても、コアだけは破壊したらアカンよ?」


 サボォークが言うには、迷宮の最奥には迷宮の心臓部であるダンジョンコアがあり、破壊されると迷宮はゆっくりと崩壊してしまう。

 そして、準備と対処がし易いこの里の迷宮は、貴重な収入源でもある為、勝手に討伐するのは禁止されている。

 こういう討伐が禁止されている迷宮と言うのは、クリファレスにはそれなりにあるらしい。

 なお、バーンガイアでは別に迷宮の討伐は禁止はされていないだけだが、討伐は余程の理由が無ければされていないだけで、ヴェルシュではどんな迷宮でも討伐されて、ダンジョンコアが研究の為に持ち帰られている。

 ダンジョンコアは破壊しない事を約束し、ツルハシ片手に5階層まで戻り、壁から突き出ている水晶を手当たり次第に採掘していく。


 いや、頼まれたのが『大きい水晶』ってだけで、どのくらいのサイズが必要なのかは聞いてないんだよ。

 だから、手の平サイズくらいの小さい物から、3mはあるような大きい物まで、採掘して収納袋に放り込んでいく。

 それ以外にも、珍しい色付きの水晶も採掘しておいた。


 そうして一週間、迷宮で過ごした俺達は迷宮から脱出、ファースに『救助者は発見出来ず』と報告し、救援として来ていたタボォーク達はジャダカーンへと帰還し、俺自身はクリファレスの王都『シルヴィンド』へと向かう事になった。

 さて、逃がし屋と接触した上で、最低でも情報が手に入ると良いんだが……

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