第80話




 冒険者ギルドで書き写した地図を元に、即行で薄暗い迷宮を3階層まで駆け下りていく。

 道中、何回か小型の魔獣と遭遇したが、鞘を付けたままの剣でぶっ叩いて弾き飛ばした。

 本来は倒したのを確認し、有用な素材を剥ぎ取ったりするのだが、今回は時間が無い。


 ここの冒険者ギルドに、先行調査の代わりに採掘しても良いなら、と提案はしたが、まさか通るとは思わなかった。

 それだけ、今回の件を早く解決したいのだろうが…… 

 これはアレだろう、勇者は仲間がやった事だ!なんて言ってたらしいが、実際は勇者が踏んで仲間を囮にして見捨てたってのが真相なんだろうな。

 これまでに聞いた勇者の性格からして、自分のミスは止めなかった他人のせいって感じだろうからな。


 曲がり角を曲がった瞬間、目の前には水晶で出来た人型が右腕を振り被っていた。

 それをすり抜ける様に相手の左側を通り、通り抜ける瞬間に顔面を掴んでそのまま地面に叩き付ける。

 水晶ゴブリンと呼ばれているこの迷宮独自の魔獣で、全身が水晶で出来ている為に非常に固いのだが、衝撃には弱い為、打撃系の攻撃であっさりと倒す事が出来る。

 シュウシュウと音を立てて、頭部が砕けた水晶ゴブリンが溶ける様に消えていく。

 迷宮の魔物の大半は、倒すと一部を残して残りは迷宮に吸収される。

 これが所謂、ドロップ品と呼ばれる物であり、素材だったり武具だったりアイテムだったりするのだが、今回は水晶で出来た牙が数個残ったが、回収する事無く走り抜けて行く。

 時間が無いからな。


 そして、3階層を駆け抜け突破し4階層に到着。

 ここまでに掛かった時間は、体感で大体半日くらいか?

 これからは魔獣だけでなく、罠にも気を付けなければならないので、探索時間は伸びるだろう。

 まぁこっちには迷宮でもルートを断定する方法があるんだがな。

 教会で隠し部屋を見付ける時に使用した『音響探知ソナー』を使ってまずはルート確認。

 予想はしていたが、やはり下の階層は見る事が出来ないようだ。

 コレに付いては、迷宮と言うのは時空間が捻じ曲がっているような場所である為、その階層に到着しなければ探知出来ないのだろう。

 それでも、4階層のルートは分かったので、最短ルートを駆け抜ける。

 因みに、罠に関しては床の一部が盛り上がっていたり、壁の色が違ったりとよく見れば分かる物ばかりだったが、後に、薄暗い迷宮の中でそんな僅かな違いを見抜ける訳ないだろう、と言われた。



 4階層からは出てくる魔獣も水晶ゴブリン以外に、水晶蛇や水晶狼などの凶悪な魔獣が増え、中でも一番厄介な水晶蜘蛛が現れ始める。

 なので、擬態している可能性がある水晶には触れず、出て来る魔獣を一撃で葬りながら、次の階層に繋がる階段に向かう。


 『音響探知ソナー』唯一の弱点は、把握する際に魔力波動も発生する為、擬態している魔獣を目覚めさせてしまうという事だ。

 お陰で現在、階段の手前で水晶蜘蛛の集団を片付けている真っ最中。

 流石に30匹以上がワラワラと集合している中、武器を片手に突っ込みたくはないのだが、ここを突破しなければ階段に辿り着けない。

 別に魔法使えば良いじゃんって思うだろ?

 この水晶蜘蛛、他の水晶魔獣と違って、魔法に対する耐性が異常に高くて、生半可な魔法じゃ倒せないのに、倒せるような魔法なんてこんな閉鎖空間で使ったら、こっちまで被害が出てしまう。

 ただ、衝撃とかに対する耐性は低いから、ぶん殴れば倒せる。

 なので、聞いた対処法では群れから数匹を引き剥がし、盾持ちが耐えてる間に、周囲の仲間がハンマーやツルハシでぶっ叩いて倒す。

 だが、俺の場合は、ソロだし時間も無いって事で、採掘用にを両手2刀流状態で持って、その中を駆け抜けて倒しながら進む。

 当然、このツルハシも見た目は普通のツルハシだが、ただのツルハシな訳が無い。

 『効率上昇』『耐久度上昇』『重量軽減』『範囲拡大』『使用時体力増加』と、採掘で必要な能力が付与されている。

 それを振るう度に、水晶蜘蛛が粉々になって吹っ飛んでいく。

 帰り道でもここは通るから、一匹も残せない。

 この水晶蜘蛛、モンスターハウスから勇者パーティーを追い掛けて来た奴等の残りか?

 どう考えても、ここら辺を根城にしていました、なんて数じゃない。

 そんな事を考えつつ、一匹残らず殲滅完了。

 残ったドロップ品は勿体無いが拾わず、そのまま5階層に突入する。

 さて、何処にいるのやら。





 ギチギチギチギチと耳障りな音が聞こえ、ハッとしながら手に持った魔道具にマナを送り込む。

 薄暗いダンジョンの中で、蒼白い膜が広がって群がっていたクリスタルスパイダー達を押し退けていく。

 だが、余りの数にその膜もほんの僅か広がっただけ。

 私が結界の魔道具で足止めをしている間、皆が攻撃を行って殲滅すれば良かったのに、結界を張って受け止めたのに、攻撃もせずに皆逃げてしまった。

 当然、押し寄せるモンスターの圧力に勝てる筈も無く、私は壁際に押し退けられ続け、今では完全に身動きが取れなくなっている。

 結界の魔道具は少しずつその効力を失っていく。

 一応、予備で複数持ってはいるが、全部使い切る前に私自身のマナが持たない。


 多分、最初から私をここで見捨てるつもりだったんだろうな。

 私が魔道具しか作れないと分かってから、仲間内からも『役立たず』って言われ、保護して貰ってる国からは、戦争に使える兵器の開発を要求されていた。

 戦争なんて冗談じゃない!と、要求を突っ撥ねたいが、よりによって、勇者の誠一郎が『銃でも爆弾でも適当に作っときゃ良いじゃん』って王様の前で言っちゃったせいで、私に対して銃と爆弾の試作を優先するようにと命令されてしまった。

 銃なんて、銃弾が発射される原理は分かるけど、構造なんてただの女子高生が知ってる訳ないじゃん!

 そんな事を言う訳にもいかず、取り敢えず、錬金術の腕を上げないと無理だと言って時間稼ぎ。

 そうして、色々な魔道具を作ってこの国から逃げるつもりだった。

 今使っている結界の魔道具も、元々あった物を私が改良した物だ。

 元々は一度起動すると、装着している魔石のマナを使い切るまで起動しっぱなしで、途中でマナを追加する事も出来ない物だったが、私が改良した物は、途中で切る事も出来てマナの追加も出来るので、便利になっている。

 これ以外にも、空調や空気清浄機みたいな魔道具を作り、商業ギルドに登録したのでお金はそれなりにある。

 今回は、通信用の魔道具を作る為に高純度の水晶が必要になったので、採掘する為に来たのだが、不思議と他の冒険者さんや鉱夫さんに出会わなかった。

 そして、高純度の水晶が出るのは奥になるという事で、5階層まで降りて採掘をしていたが、急に奥から誠一郎達と、それを追う大量のクリスタルスパイダーが押し寄せて来たので、咄嗟に結界を張ったのだが、誠一郎達は、そのまま逃げて行ってしまった。


「……あーぁ……こんなトコで終わり……か」


 思わず呟いてしまうが、もう体内のマナ残量が殆ど無いのを感じる。

 体内のマナを全部使い切ったら、結界魔道具のマナもすぐに尽きて、この大量のクリスタルスパイダーによって、私は殺されるだろう。

 あの日、同級生達と一緒にバスに乗っていたら、神様によって異世界に飛ばされた。

 その時の私は進路の事でちょっと荒れていて、選べた職業クラスの中にクラフト系と呼ばれる職業があった。

 元々、色々な物を作るのが好きだった私は、地元にある工場に勤めたいと思っていたが、両親は猛反対。

 説得するのにも苦労していた時に、今回の異世界転移だ。

 もちろん、私はクラフト系統の一つを選んで異世界に来て、将来的にはお店を持てたら、なんて思っていた。

 だが、現実は貴族の政治の道具にされ、今度は戦争で使う大量虐殺の魔道具を作らされようとして、時間稼ぎをしていたら、ダンジョンで見捨てられた。


 もし死んだら、神様に文句言ってやろう。


 そんな事を思っていたら、遂に体内のマナが枯渇する際の、激しい頭痛が私を襲った。

 同時に、結界の魔道具が発していた光が不安定に明滅を始め、結界の膜が波打ち始める。

 もうこれが私の限界。

 そして、遂に結界の魔道具が限界を迎え、膜が消滅した。


「頭下げてろぉ!」


 そんな言葉が聞こえたと思った瞬間、私の目の前にいた大量のクリスタルスパイダー達は横薙ぎに吹き飛ばされていった。

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