第79話
迷宮で問題発生の報を受け、急いで迷宮に走る。
そして、到着して詳しい話を門番の兵から聞くと、迷宮の中に勇者パーティーの一人が取り残されているらしい。
しかし、肝心の勇者パーティーの姿が見えない。
もしや、救助の為に迷宮に戻ったのか?
「いえ、その・・・・・・勇者パーティーは・・・・・・王都に戻られました……」
「……は?」
兵の言葉に思わず声が漏れてしまった。
ぇ? 仲間を見捨てて帰ったって事か?
なんでも、その取り残された者は、勇者パーティーの制止を無視し、迷宮の奥でモンスターハウスのトラップを発動させ、その結果、現れた大量の魔獣に飲み込まれた為、生存は絶望的。
その為、勇者パーティーは王都へと帰還したと言うらしい。
その報告を受けて、『なんて事をしてくれたのだ』と頭を抱えてしまった。
正直な事を言えば、この報告が本当なら自業自得と切り捨てる事も出来るが、もし、虚偽の報告だった場合、救援を送らなければ此方の問題にされてしまう。
「それで、場所は・・・・・・」
「報告が正しければ、5階層の最奥だそうです」
「よりにもよって5階層か……」
水晶迷宮は全部で6階層になるが、5層が一番凶悪な階層になる。
と言うのも、モンスターハウスだけでなく、通路から部屋に至るまで、擬態状態の魔獣が数多く隠れている階層なのだ。
熟練者でもこの階層に行く場合、必ず複数のパーティーで挑む必要がある。
何で勇者パーティーはそんな所まで行ったんだ!
「ファース様、如何いたしましょう。 5階層となると……」
「里にいる戦力で5階層で活動出来るのは・・・・・・」
「今ですと、サボォークのメンバーだけです」
サボォークは、この里に出入りしているドワーフ達のリーダーだ。
両手持ちのポールアクスを武器に、水晶迷宮を活動拠点にしている為、水晶迷宮だけで言えばトップパーティーの一つだ。
他にも5階層に到達出来るパーティーはいるにはいるが、『5階層に到達出来る』のと『5階層で活動出来る』のでは話が違う。
勇者パーティーが迷宮を占有する前は、他にも5階層で活動していたパーティーはいたのだが、勇者パーティーが占有してしまった為、装備のメンテナンスや休暇として里から離れてしまっている。
そもそも、あの勇者パーティー、そう言うベテラン達を先導役として紹介しようとしたら『自分達は強いからそんなのはいらない』『そんなのを押し付けて素材を横取りするつもりだろう』と拒否しやがったのに、こんな事を起こしやがった。
「……サボォーク達を呼んでくれ、意見を聞きたい」
私の指示で、酒場にいたドワーフ達が迷宮前にやってくる。
若干酒臭いが、ドワーフを完全に酔い潰す様な酒は置いていないので問題はない。
「つまり、ワイらだけでそのド阿呆を探してこいっちゅう訳か?」
「
「流石に5階層をワイらだけで探すんは無理や。 少なくとも、あと2チームはおらんと」
腕組みしたサボォークがかなり訛った言葉で答えてくれるが、彼の言う通り、分かっている情報は5階層の奥、と言うだけで何処にいるかが分からない以上、探し回る必要がある。
それを1パーティーだけでやるのは無理がある。
そんな事は言っている私自身も分かってはいるのだ。
「冒険者連中も入れりゃ数は揃う。 が、アイツ等の腕じゃなぁ……」
迷宮は人数を揃えれば良い、と言う訳でもない。
今残ってる冒険者達は、主に3階層までしか攻略した事が無い面々。
それも、3階層までは、ここの冒険者ギルドにちゃんとした地図があり、誰でも閲覧したり、書き写す事が出来るようになっていて、行きも帰りも安全なルートを事前に決められる。
だが、4階層からは定期的に迷宮の通路が変化し、罠もある為、相応の判断と対応が求められ、3階層までしか行かない冒険者では5階層なんて行ける筈もない。
「ジャダカーンの応援もすぐ来るっちゅう訳やないし……」
サボォークの言う通り、応援は頼んだが、少なくとも3日は掛かるだろう。
それから迷宮に入り、5階層までに2日は掛かる。
そして、5階層を隅々まで探索するには1日、つまり、最低でも6日掛かってしまう。
もしも、奇跡的にモンスターハウスから逃亡していたとしても、食糧も道具も無い状態で、迷宮内を6日間も生き残るなど不可能だ。
だが、サボォーク達だけでは救助など無理だ。
そうして我々が悩んでいると、冒険者ギルドから緊急の呼び出しが掛った。
私とサボォークが冒険者ギルドに向かうと、機密会議で使用される個室に通される。
「お待たせしました。 ファースさん、サボォークさん」
その部屋にやって来たのは、ここの冒険者ギルドの代表でもあるギルドマスターのアーダイル。
50代の人族で、ボサボサの髪に無精髭が伸びて、ヨレヨレになったシャツを着ている。
見た目はかなりだらしないのだが、仕事は出来るのだ。
勇者パーティが迷宮を占有するという話が出た際、エルフ族の女達を全員里から離し、離れられない女達はギルドの臨時職員として採用し、部屋の中で持ち込まれた水晶や魔獣素材のチェック作業をさせて、勇者達の視界に入らない様に手配していた。
その為、勇者が里にやって来ての第一声が『男ばっかじゃん!』『聞いてた話と違うじゃねぇか!』と、若干騒ぎになったが、危険な迷宮がある場所ですから、とこの男は納得させていた。
「アーダイル、こんな時にワイらを呼んだっちゅうのは・・・・・・」
「サボォークさん、再確認ですが、今の状態で迷宮に突入するのは無理ですよね?」
アーダイルの言葉にサボォークが黙る。
「ファースさんにも再確認ですが、救助にしろ何にしろ、早く対処しないと国から苦情が来て大変な事になりますよね?」
そう、今まではエルフが管理している森だからとして、エルフである私が里長となって管理をしているが、今回の件で問題有となれば、管理者と言う名目で、国からの監視者が送り込まれるだろう。
だが、対処したくとも出来ないのが現実だ。
「そこでなんですが、
アーダイルがそう言うと、机の中から紙を取り出し、それを私達に見せる。
そこに書かれていたのは、とある人物に対してのバーンガイアの王都にあるギルドからの返信。
冒険者ギルドには、魔獣対策としてギルド間で連絡を取り合う魔道具があり、緊急やこう言った調査をする際に連絡が取れるようになっている。
ただ、その仕組みは完全に非公開になっており、国に対しても明かしていない。
「この人が提案として、先行調査する代わりに、後で中の水晶を採掘しても良いならやっても良いって言っとるんですよ。 登録した所に問い合わせしたら、実力も申し分無しと言うか、寧ろ任せた方が良いって感じなんですわ」
「この報告通りなら、確かに任せた方がええな。 寧ろ、ワイらの仲間に欲しいわ」
「この名前は、確かカチュアの紹介状を持って来た男だな……」
この男の提案は、救助に向かった後、優先して水晶を採掘させて欲しいと言う、ある意味で採掘の優先権の許可だが、そこまでして水晶が欲しいのか?
確かにここの水晶は、国内外を問わず、需要は高いがそこまで急ぐ理由が分からん。
分からんが、要求としては別段困る内容ではない。
まぁ根こそぎ採掘していくというなら困るが、カチュアからの紹介状を読む限り、そこら辺は大丈夫だろう。
一応、取り過ぎないようにと忠告はしてはおくがな。
そうして先行調査として、一人の男が迷宮へと送り出される事になり、後日、応援と合流したサボォーク達が続けて迷宮へと潜る事になった。
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