第74話
渡り魔獣の生息域に付いての詳しい情報は、調べて後で宿に持っていくという事になった。
さて、本来の目的は従魔探しだったが、もう一つの目的も果たすとするか。
「じゃ、表向きの話は此処までにしてだ……アイツを貴族にしたり、町一つを任せるなんてどういうつもりだ?」
この言葉で、ヴァーツが黙る。
名誉とはいえ貴族にしたり、町一つを任せようとしたり、功績から考えれば当然かもしれないが、あの見た目と年齢では突っかかる奴もいるだろう。
「やはりその話か……まず、大前提としてだ、魔女様を含めてまだ正式な貴族にはなっておらん」
ヴァーツが言うには、年齢の事もあり流石に名誉貴族とはいえ、直ぐに貴族にするのは無理があるとして、仮登録状態で現状維持をしているらしい。
町長にしても、提案はしたが全面的に受けられる事は無いと判断し、ちゃんと町長候補を選んで調整している最中だという。
その町長候補も、アイツが町長職を引き受けた場合は、その補佐として付けるつもりだったらしい。
「それじゃ、俺も」
「あ、お前は無理じゃ」
「何でだ!?」
「なんでも何も、冒険者登録しておったら、褒章としてランクを上げるように口利きをすれば良かったんじゃが、あの時点では冒険者登録しておらんかっただろ? そうなると褒章としては金が候補になるんじゃが、功績が多過ぎて金額が膨大過ぎるんじゃよ。 結果、名誉貴族として登録するのが一番になってしまうんじゃよ」
俺の功績としては、教会の悪事を暴露し、王都の教会を中心にして現れた肉塊スライムとその大元を倒した事だな?
この程度だぞ?
そう思って言うと、ヴァーツが溜息を吐いて頭を振りながら説明した。
実は俺が考えている事と、世間が考えている事には随分と乖離があった。
まず、教会の悪事を暴露した事は、諜報戦を行っている暗部にも出来なかった事であり、この事で教会を糾弾する事が出来ている。
次に、肉塊スライムだが、末端であっても相当な強さで、教会を中心に街中に広がり、兵士や冒険者の多くが対応したにも係わらず、当初はかなりの被害が出ていたが、俺が大元を倒した事で、いわば末端からの情報を得て指令を出していた指揮所が潰された形になり、全体の能力が低下、兵達と冒険者でも対処が出来るようになった事で、被害の拡大を防いだ形になる。
後は、郊外に現れた謎の人型魔獣?に関しての功績。
こっちは元々イクス達が対応した事だが、イクス達にベヤヤを連れて行けと指示を出していなければ、恐らく、あの一体だけでも王都は壊滅していただろう、と言うのがヴァーツの予想。
イクス達から聞いた内容では、視線だけで物質を消滅させたり、物理攻撃を強力なレベルで無効化するような相手だ。
ヴァーツの予想では、恐らくはアンデッドの中でも相当な上位魔獣じゃないだろうかと言っているが、俺の予想では恐らく、ソイツはアンデッドでは無く、複数の魔獣を混ぜ合わせた
教会はホムンクルスを作れるほどの技術力を持っているのだから、魔獣を組み合わせるなんて朝飯前だろう。
それを墓地の中で仮死状態なり、封印状態で埋めておいたのだろう。
しかし、アレに関しては、外壁の破壊で相殺したと思っていたのだが……
「儂はこの国の貴族だ。 優秀な者がおれば、身内として囲おうとするのは当然の事じゃろう?」
「……まぁそりゃそうだが……」
「それに、魔女様も含め、儂の勘が言っておるのだよ、『この縁を繋いだ方が良い』とな」
ヴァーツの言う勘と言うのは、実は馬鹿に出来ないモノだ。
第六感とも呼ぶ事もあるがこう言ったモノは、長い経験による無意識の判断とも言われている。
ヴァーツの場合は、戦場を転々としていた事で培った経験による判断だろう。
コレばかりは、勝ち様がない。
「それじゃ忠告だが、縁を繋ぐ相手の身内を怒らせるような真似はしない方が良いんじゃないか?」
その言葉で、ヴァーツの後ろにいた執事が僅かに眉を動かしたのを見逃さない。
先程から、何かに舐め回されるような不快な感じがしていたんで、俺に対して『鑑定』を使っていたんだろう。
鑑定は相手の情報を見抜く事が出来るが、感覚が鋭い相手の場合だと使っているとバレる危険性がある。
相手の情報を黙って見るなんてのは、冒険者同士であれば殴り合いになる事もあるくらいだ。
それでも、表立って問題になっていないのは、単純な話で、鑑定スキルを持っている奴が少ないのと、スキルを持っている事を明かしていない為だ。
元々が希少価値の高いスキルと言うのもあるが、為政者からすれば自身の勢力に取り込んでおきたいし、敵側からすれば、対象を害しにくくなるので先に
どちらにせよ、危険極まりないので鑑定持ちは大抵、周囲に明かさずに暮らしているか、権力者や組織に保護されている。
「大変に申し訳ございません」
「スマンな、戦場からの癖の様な物でな、強者だと無意識に調べようとしてしまうようだ」
ヴァーツが片手を上げると、謝罪をしながら執事が頭を下げ、部屋から退室していく。
戦場ではどんな些細な情報でも価値がある為、強者の可能性があれば、即座に鑑定し、その情報を元に調べて対処方法を考える。
そうして、戦場を生き残って来たのだ。
「まぁ良いだろう、次からは考えてからやってくれ」
無意識でやってしまったと言われても、俺には確認しようがないからな。
後の事を考えておけば、ここは譲っておいた方が良いだろう。
それに、どうせ見えてないだろうからな。
レイヴンとの面会を終え、執務室の椅子に深く腰掛ける。
そんな儂の前には、あの時同席していた執事であるライナスが立っていた。
ライナスは儂が黒鋼隊を設立して、活動を始めた頃の初期メンバーの一人であり、鑑定スキルを駆使して戦場を駆け抜けた重要人物でもある。
「旦那様、申し訳ございませんでした。 鑑定している事を見抜かれるとは……」
「アレ相手では仕方無い。 それで、何か見えたのか?」
儂の言葉に対して、ライナスの表情が歪む。
それだけで、鑑定が失敗して何も見えなかった事が分かる。
確かに、戦場でも偶に鑑定を弾くような相手もいたが、大抵は複数を同時に鑑定したりしてしまう事で失敗する事が殆どで、個人を鑑定しようとして失敗する事は無かった。
「名前はレイヴン、年齢が19、それしか見えませんでした……」
やはり
これは予想していた事だが、魔女様だけでなく、その兄と言うのもやはり尋常な相手では無いようだ。
仕方無いとはいえ溜息交じりにもなるが、ライナスに渡り魔獣の情報を集める様に指示を出しておく。
しかし、あの男はまだまだ若い。
確かに、儂は魔女様に恩義を感じておるし、もし何かを頼まれれば協力は惜しまぬ。
だが、同時に儂はバーンガイア国と言う国を守る貴族でもある。
彼女のあの力を他国に渡す訳にはいかぬ。
その為には、何かしらの条件を彼女に課せば、勝手にその場で全力を尽くすように行動するだろう。
そもそも、魔女様はかなりのお人好しであり、頼まれれば最終的には引き受けてしまうような性格だ。
調べれば調べる程、魔女様のお人好し振りが分かる。
そして、最も気になるのは彼女達の出自だが、裏で調査しているが未だに謎だ。
先代の魔女に引き取られていたという話だが、あの魔女様の先代に当たるのだから、相当な実力者であるはずだが、その情報は皆無。
情報の隠蔽を徹底していたのか、まるで急に現れたかのようだが、そんな事は有り得ないだろう。
その数日後、彼に渡す情報を纏め上げ、それを手紙に書き上げて宿の方に届けさせる。
その際、勝手に鑑定した事へのせめてもの侘びも込めて金貨を10枚程同封し、宿の請求も領主邸に回すように書いておいた。
そして、レイヴンはクリファレス王国へと旅立って行った。
「あ、しまった……」
「どうかなさいましたか?」
「いや、クリファレスに行くなら、今はアレがいるから注意した方が良い、と伝えるのを忘れていた……」
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