第71話




 と言う訳で、現在、ワシ等の目の前には正座しておる若者クソ戯け共がおるのじゃが、全員顔がボッコボコに変形しておる。

 あ、ワシと兄上は手を出してはおらんし、ベヤヤがやっておったら原形など留めんよ?

 やったのは同行しておったヴァーツ殿じゃ。

 鉄拳制裁として、容赦なくボッコボコにしておった。

 まぁワシ等の誰も止めんかったけどな!


「さて、言い訳を聞いておこうかの?」


 取り敢えず、このクソ共の言い分を聞いたのじゃが、村の中で剣鉈を使って戦闘訓練をしておった所、急に子供が飛び出て、運悪く刺さってしまった、と言っておったのじゃが、見ておった村人が言うには、パイクラビットを狩って馬鹿騒ぎをして、調子に乗って村の中で剣鉈を振り回していたら、鞘を固定していたボタンが外れた上に、手から剣鉈が滑り、子供に刺さってしまった、と言うのが本当の所のようじゃ。


「う、嘘じゃねぇ! 本当に訓練したら、そこのガキが……」


「ヴァーツ殿、悪いんじゃがワシが運営する町に、こんな馬鹿共はいらんから放り捨てても良いかの?」


 ギャースカ騒いどる戯け共を無視し、ヴァーツ殿にそんな提案をするのじゃが、正直、こういう馬鹿共は言っても聞かぬし、今回はどうにかなったが、間に合わずなんて事になったら、ミンチより酷い目に合わす自信があるのじゃ。


「……儂もそうしたいですが、放り捨てても盗賊になるだけでしょうな」


「なんなんだよ! ちっせぇガキが偉そうにしやがって!」


「あー、ヴァーツ殿、貴族に対しての暴言の場合、どこまでんじゃ?」


「あ?」


「貴族にもよりますが、良くて犯罪奴隷、悪ければその場で……」


 そう言って、ヴァーツ殿が片手でクビを掻っ切るジェスチャーをする。

 成程のう。

 その様子を見ておった馬鹿共の顔色が、見る見るうちに赤から青へと変わっていくのじゃが、別にこの場で打ち首にするつもりはないのじゃ。

 取り敢えず、この馬鹿共は全員犯罪奴隷として、王都へと送って貰う事にしたのじゃ。



 そして、ギャースカ騒いでおった馬鹿共は、その日のうちにヴァーツ殿が領都へと引き連れていき、住民にはワシが事情を説明、以降はワシと村長が中心となって運営していく事も説明したのじゃ。

 あれ兄上は? と思うじゃろうが、しばらくしたら従魔探しに出掛けるそうなのじゃ。

 ワシがベヤヤを連れておるのが羨ましいのかのう?


「いや、出来れば空を飛べる奴が欲しいんだよ」


 成程、確かにベヤヤは飛べぬし、兄上が飛べる従魔を手に入れるのは良いかもしれん。

 ベヤヤには超能力サイキックスキルがあるんじゃが、それでも自在に空中を飛び回るというのは出来ぬからのう。


 ヴァーツ殿達は領都へと戻った後、バートが職人連中を集めてから連れて来るとの事なので、それまでに石材や木材、鉄材等の材料は集めながら、町の設計をしておくのじゃ。

 まぁこの設計なんじゃが、素人が考えた物じゃから本職に見せて参考程度にしてもらうのじゃ。

 で、村長と話しながら設計をしてみたんじゃが、どうして円形の町が多いのかが良く分かったのじゃ。

 と言うのも、四角や多角の町と言うのは、防衛を考えると実はサイズによっては不向きなのじゃ。

 地球にある五稜郭の様な物は防衛向きなんじゃが、アレはあのサイズだから出来る事であって、内部に一つの町が収まるサイズともなると、デカすぎるんじゃ。

 他にも、この世界には魔法があるんで、地球と違って少人数で道具も杖一本だけで、大火力を叩き込めるという事もあり、突き出した部分は遠距離から集中砲火を浴びてしまうんじゃよ。

 魔法は防御魔法で防御すれば良いと思うじゃろうが、これの維持費が結構馬鹿にならぬ額になるし、外壁の形状が複雑になれば内部の移動にも時間が掛る上に、外見に比べて内部の居住性が少なくなるのじゃ。

 なので、内部での移動やらも考慮し、そう言ったバランスを考えると円形の町になっていくのじゃな。


 後は、単純に魔物や魔獣の問題じゃ。

 この辺は、前からベヤヤが縄張りにしておる山があったから、そこまで被害らしい被害はなかったのじゃが、ヴァーツ殿がこの地を開拓し始めた頃は、そりゃもう被害が多かったらしいのじゃ。

 更に、地域的では無く世界的な規模じゃと、そうなる原因は様々じゃが、大規模な魔物の群れによっていくつもの村や町が滅んでおる。

 なので、防衛を考える上では、対人戦以外にも、大規模魔獣戦も考慮せねばならぬ。


 後は、資材じゃな。

 材木は植林場に成長促進のポーションを使えば問題無いのじゃが、問題は石材なんじゃよなぁ……

 実は町の外壁を作れるだけの石材が手に入る場所は、ルーデンス領ではそこまで多くなく、今から新たに採掘を始めても出来上がるのはウン年後、とかになりかねぬ。

 魔法で石材を作るとも考えたのじゃが、それじゃとワシが居なくなった後に困る事になるからのう。

 取り敢えず、外壁用石材の手配はするが、優先は住民の住居じゃ。

 いつまでもテント生活などさせては問題じゃろうからの。


「取り敢えず、新たな町としてこの範囲を囲うと考えて……」


「ここに畑がありますので、こっちはどうでしょう?」


 あーでもない、こーでもない、と村長と話し合うんじゃが、やはり、旧来の畑を一部潰すしかないという事が分かったのじゃ。

 まぁコレは仕方無いのじゃが、潰す畑の持ち主にはちゃんと補償をし、新たな畑を開墾して収入が得られるまでは、ちゃんと面倒を見る事にするのじゃ。

 後は排水路などの上下水道や、住民の衛生面の徹底なのじゃ。


 まぁ衛生はどうにかせんと、大変な事になるからのう。

 住民達も、前回の奇病騒ぎで大変な思いをしておるので、ワシの話と説明をちゃんと聞いておる。

 この世界には石鹸は無いのじゃが、その代替品はあるのじゃ。

 代表的な所で、ムクロジの実と木を燃やして出来た灰。

 ムクロジは結構有名じゃが、実は木灰も洗浄力を持っておる。


 科学的な話をすると、ムクロジにも木灰にも『サポニン』と呼ばれる成分が入っており、それが洗浄作用を持っておるのじゃ。

 地球でも昔は木灰を使っておった時期もあるしのう。 

 ちなみに、木灰の成分はアルカリ性なので、実は石鹸は手持ちの材料で作れたりするのじゃけども、今は忙し過ぎるのでちょっと後回しにする予定なのじゃ。

 まぁ山に行けばムクロジとかは普通に余りまくっておるし、早急に困るという事は無いハズじゃ。


 住民に、手洗いやうがい、トイレや水場利用の注意点、傷を負った場合の処置などなど、些細な傷でもどんな危険性があるのかを説明する。

 将来的には、定期的な体調チェック体制も整えたいとは思っておる。

 所謂、健康診断じゃな。

 と言っても、コレはワシ一人の手に負える事ではないので、王都におるニカサ殿に手紙で相談する事になる。

 まぁ出来たら良いのうって感覚じゃな。



 そうして、本日は終了。

 久方ぶりの山にある我が家に戻ったのじゃ!

 あ、ノエルは村の方で泊っておる。

 と言うのも、『家族水入らずで過ごした方が良いでしょう』、とノエルに勧められた為じゃ。

 出掛ける前に掛けておいた結界を解除し、久方ぶりの我が家に入るのじゃが、まぁ若干埃っぽく感じるので、まずは掃除じゃなー。


「さて、それじゃ今後の事を話し合う家族会議の開幕じゃ~」


「会議をするまでも無く、これから個別に活動するんだろ?」


「それも考えておったんじゃが、コレからやる事を考えると、ある程度の方針は決めておいた方が良いかと思っての?」


 まず、ワシの行動はこれからも変わらぬ予定じゃ。

 兄上は飛べる従魔を探し、手に入れた後は世界中を旅しみようか、などと言っておったが、ちょっと、ワシから頼み事があるのじゃ。


「タイミングはそれなりに早くで良いので、大型の水晶を手に入れて欲しいのじゃ」


「いつもみたいに錬金術で作れないのか?」


 作れるか作れないかで言えば作れるのじゃが、今回はちょっと事情があるのじゃ。

 出来る限り、自然に誕生した水晶が欲しいのじゃよ。


「あぁ、あの童女神様との約束か?」


 うむ、童女神シャナリー様と最後に交わしたお願いが認められたのじゃが、いくつか条件があり、その中でも『純度の高い大型の自然水晶を手に入れるように』と言われておるのじゃが、コレはワシには手に入れる手段が無いのじゃ。

 他にも、大型魔獣の角やマナ伝導率の高い金属、魔樹トレントの素材などを集めねばならぬのじゃが、この辺りでは手に入らぬモノを頼む事にしたのじゃ。


「まぁ俺は構わんが、あの商人は頼れないのか?」


 エドガー殿の事じゃろうが、流石に無理じゃろう。

 王都の復興作業でどれだけ時間が掛るか分からぬし。

 それに王都から戻る際にも見たのじゃが、まだまだ怪我人は多かったからのう。

 工場をフル稼働するにしても、材料となる薬草やコボルト豆の油の供給が追い付かぬような状態じゃったから、ワシが持っておる薬草と油を渡しておいたのじゃ。

 この状況で吹っ掛ける訳にはイカンじゃろうから、格安にはしておいたのじゃ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る