第70話
えーこちら王都から村へと帰還中の、ベヤヤの背で揺られておる幼女なのじゃ。
はい、結局『名誉男爵』と『特級治癒師』のイベント回避に失敗して、兄妹揃って名誉男爵、ワシは特級治癒師に、兄上は特別にBランクスタートの冒険者になったのじゃ。
異世界転移モノだと冒険者ギルドで登録してると、強面の先輩冒険者に絡まれてソレを返り討ちにして、『アレ、なんかやっちゃいました?』ってイベントがあるんじゃが、ふっつうにスムーズに登録、帰れてしもうたのじゃ。
と言うのも、イクス殿達がギルマスや受付嬢に対して事前に連絡しておったのもあるのじゃが、墓地や教会での戦闘を見ておった冒険者が広めたのもあるんじゃろう。
で、それで絡まれる事無く、スムーズに登録出来てしもうたんじゃな。
ワシも登録しようとしたんじゃが、普通に年齢制限で引っ掛かって登録不可だったんじゃがな!
特例とかで登録出来るかと思ったんじゃが、普通に『特例なんて作ったら悪用されるから絶対に駄目』と最もな事を言われたので、大人しく登録可能な年齢まで待つのじゃ。
この世界の冒険者ギルドに登録可能な年齢は、最低でも15歳なので大体5~6年くらい必要じゃな。
……先は長いのう……
そして、特級治癒師に関してじゃが、ニカサ殿達の話し合いは結局、ニカサ殿に軍配が上がったようで、次の日には金のアミュレットがワシ等が泊っておった宿に、複数の手紙と一緒に送られてきたのじゃ。
手紙の差出人は、ニカサ殿、薬師ギルド、王城となっておる。
ニカサ殿のは、特級治癒師としての活動についての基本的な事が書かれており、基本的には自由にして良く、緊急時の治療限定だが王族でも従わせる事が出来る、との事。
更に言うと、薬師ギルドからは優先的に薬草とかを融通してもらう事が出来るらしいのじゃが、やり過ぎれば当然、資格を剥奪されると書かれておった。
後は、ニカサ殿が学園で講師をするにあたり、もし手紙を出すならモナーク宛では無く、学園宛にするようにとも書かれておった。
で、薬師ギルドからは、ワシが新たな特級治癒師となったので、近いうちにワシが活動しておる村に向けて調査員を送って、適切に活動できるかの調査を行う、と言う内容じゃった。
これは単純で、もしもワシが不毛の砂漠みたいな場所に住んでいたりして、薬草を優先的に融通するなんてやっておったら、あっという間に薬草なんて枯渇してしまうのじゃ。
その場合、優先的に融通はされるのじゃが、数に限度が設けられるらしい。
まぁあの村なら問題無いじゃろうし、そこまで貴重な薬草を使う事は無いじゃろう。
一応、自宅に戻ったら、貴重な薬草とかを調べて自宅での栽培を考えておるけどな。
最後の王城からは、ワシ等の貴族名鑑登録に関しての事で、ワシはいつものブドウの房に杖と言う紋章を使うとして、兄上の方は決まったらヴァーツ殿経由で登録するように手配する、と言う内容じゃった。
流石に、兄上の紋章が決まるまで王都に滞在する、と言う訳にもいかんので、急遽このような方法を取る事になったのじゃ。
候補としては、鞘から抜き掛けておる炎の剣、東洋の細長い龍、フェンリル等々、結構候補は出たんじゃが、どれも悩ましいという事で決まらなかったのじゃ。
まぁコレは兄上の問題になるんで、ワシには決められん。
ちなみに、ワシはベヤヤの背に乗っておるが、兄上達は3台の馬車に分乗しておる。
何故3台?と思うじゃろ?
先頭の馬車にはヴァーツ殿に仕えておる使用人達が乗っており、次の馬車にヴァーツ殿夫妻とバートの一家が乗り、最後尾の馬車に兄上とノエルが乗っておるのじゃ。
何故、
部下もおらぬワシ等の為、陛下が特別に騎士団に所属しておる彼女を派遣し、将来的に騎士団を設立するかもしれないので、今のうちからノウハウを学ばせよう、と言う感じなのじゃが、実際は、彼女を通じて王都への連絡をスムーズにする為の存在なのじゃ。
彼女を同行させておれば、魔女ではあるがこの国の貴族としてワシの身分も保障される、と言う感じじゃな。
つまり、同行しておらんかったら保障されんって事なのじゃが、まぁ変に動き回るつもりはないので、問題は無いじゃろ。
エドガー殿やイクス殿達は、王都でのポーションをバラ撒いておる関係上同行出来ぬが、王都での混乱が収まったらまた行商でやってくるらしいのじゃ。
そうして、王都へ行く時と逆に進みながら、懐かしの村へと戻ったのじゃが……
「な、なんじゃこりゃぁぁぁっ!?」
ワシが村の様子を見て絶叫したのは悪くないと思うのじゃ。
なにせ、ワシが村を後にして2ヶ月ほどしか経過しておらぬのに、その規模が3倍以上に膨れ上がっておったのじゃ。
最早、これは村とは呼べん、町と言っても差し支えないのじゃ。
と言うか、何故にこんな短期間で大きくなっとるんじゃ!?
「流石の魔女様でも驚きましたか?」
「ヴァーツ殿! 知っておったな!?」
「はっはっはっ、そりゃここら辺を管理しておるのですから、連絡は受けておりましたから知ってはいましたぞ!」
ここまで大きくなっていたのは予想外でしたがな! とヴァーツ殿が言っておるのじゃが、これ、防衛とか考え直さんと駄目じゃろうな。
他にも、町を守るための外壁やら、水路の敷設やら……やる事いっぱいじゃの。
そして、どうしてこんなに大きくなったかと言えば、隣のスメルバ領から領都であるルーデンスに大量に難民が押し寄せてしまい、受け入れられるだけの街や村等へと割り振った結果らしいのじゃ。
で、何故にそんな難民が流れて来てしまったのかと言うと、スメルバ領を治めておったスメルバ伯爵の一族が全員失踪、領の運営が出来ずに末端から崩壊、比較的大きい街はともかく、小さい村はどうにもならずに全員が村を放棄して、近隣の領地へと逃げ出したのじゃ。
「で、儂としましては、この町の管理運営を魔女様達にお願いしたいのですよ」
「なぬ!?」
「おいおい、俺もかよ」
ヴァーツ殿が言うには、今後の事を考えるとヴァーツ殿が管理するより、近くに住んでおるワシらが運営した方が管理するにも楽なのじゃそうじゃ。
ただ、正式に町にするにあたり、職人達は手配してくれるそうじゃ。
そりゃ流石に職人がおらん状態で、ド素人が町を作るなど考えたくないのじゃ。
こちらに来てから地震は体験してはおらんが、元日本人としては地震で建物倒壊の恐怖は味わいたくないのじゃ!
「と言う訳でー、村長、久方ぶりじゃのう」
「おぉ、魔女様、やっとお戻りになられましたか!」
村長の表情を見る限り、相当苦労したようじゃな。
まぁ元々は小さな村一つを管理しておっただけなのに、今では小さな町になって、新たな住民と、元々の住民との軋轢もあるじゃろうし、気苦労も増えたじゃろう。
取り敢えず、ヴァーツ殿と一緒に村長宅で村長を労い、今後の事を相談する事になったのじゃが……
「正直な事を申せば、ここまで大きくなってしまうと、儂には管理出来ません」
村長がそんな事を言っておるんじゃが、まぁ心中お察しするのじゃ。
新しくやって来た難民じゃが、それなりに大人しくしておったのは最初だけで、現在は村民用にと用意してあった剣鉈を持ち出し、勝手に森や山に入っておるらしい。
その度に、勝手な事はしない様にと言っておるらしいんじゃが、主に若者連中は聞かぬらしい。
しかし、村長以上に住民の事を分かっておる人物もおらぬし、何とかせぬとのう……
「取り敢えず、村長には引き続き頑張って貰うしかないのじゃが……そのクソ戯け共はどうしてくれようかの」
「大変だ村長! とうとう馬鹿共がやりやがった!」
3人でうーんと唸っておったら、村の若者が村長宅へと突撃してきたのじゃ。
急いで若者に連れられて広場へと向かうと、そこには剣鉈を持った若者数名と、地面に寝かされて治療を受けておる子供がおったのじゃ。
「一体何があったんじゃ!」
「お、俺らが訓練してたら、そこのガキが急に出て来て……」
「そ、そうだ! 俺達は悪くねぇ! 急に出て来たガキが……」
若者連中がそんな事を言っておるが、ワシのやる事は変わらん。
子供の元へと急ぐと、恐らく母親であろう女性がボロ布で押さえておるが、右胸の当たりから血がじわじわと広がっておる。
「ベヤヤ! そこの戯け共を見張っておれ!」
「ガァ!(おぅ!)」
ベヤヤがその場で立ち上がって
それだけで、全員震え上がっておるが、まだまだこれからじゃぞ。
「ま、魔女様、う、ウチの、ウチの子が……」
「よし、これなら、まだどうにかなるのう」
母親が泣き腫らした顔をこちらに向けるが、傷の具合から見て、かなりの出血はしておるがまだコレなら大丈夫じゃ。
失った血はどうにもならぬが、この傷ならまだ治癒出来る範囲。
これが心臓とか頭とかの致命的な場所だった場合、惜しくも間に合わず、という事も考えられたのじゃが、何とか一安心じゃな。
と言うか、ワシが王都に向かう前に、治療用のポーションは渡して置いたハズなのじゃが、もしかして全部使い切ってしまったのかのう?
取り敢えず、ワシが持っておるポーションで治療するのじゃ。
さて、後はこの
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