第68話




 教会で祖父神様や童女神様との邂逅から戻り、現在は王城で『何故か』着飾っておる貴族達に囲まれておる。

 なんでも、『今回の件は流石に褒章無しと言う訳にはいかん』という事で、こうして、貴族達に囲まれておる訳じゃ。

 奇病騒ぎの褒章に関しては、教会がバッシングしておった上に、あの時点ではまだ姫様の命を教会が握っておったから、表立って褒章を与える訳にはいかなかった、と言う王都側の事情があったのじゃ。


 ぶっちゃけ、今おるのは謁見の間じゃ。

 そこでワシはいつものとんがり帽子を胸に当てた状態で、赤絨毯のど真ん中で片膝を付き、そのワシがやった事をつらつらと集まっておる貴族達に説明しておるのは、この国におる宰相殿じゃ。

 確か名前は……バーボンだかザーボンだか、そんな名前じゃったな。

 そんな宰相殿が言っておる内容に、周囲の貴族達がザワついておる。

 まぁそうじゃろうのう、見た目こんな幼女が数々の問題と国の危機を救っておった等と言われても、困惑するしかないじゃろう。

 その中で、ワシに向けられておる視線は主に、好意的な物と敵対的な物と二通りに別けられるのじゃ。

 好意的な視線は主に陛下派閥の王派じゃろうな。

 逆に、一際険しい目を向けておる者達は、多分、失脚しまくっておる教会派の連中じゃろうのう。

 いや、別にワシがお主らに対して直接何かやった訳じゃなかろうに、ワシを恨んでも仕方無いじゃろ……

 そうは思っても、口には出さぬよ?

 ここで言った所で、どうせ逆ギレするだけじゃろうからな。


「……以上の功績から、陛下から魔女殿とここにはおらぬがレイヴン殿に対し男爵位を授ける」


 ……おおぉっと?

 爵位を貰った所でワシが困るんじゃが?

 そう考えておるのじゃが、ここで断るというのも問題になるのじゃ。

 そして、この場に兄上がおらぬのは、壁をぶっ壊したベヤヤを王都に入れる訳にもイカンと言う訳で、一緒に小屋の方におるからじゃ。


「陛下、数々の功績を立てても魔女殿はまだ幼子ですぞ。 名誉貴族の説明も無しに判断など出来ぬでしょう」


「それもそうじゃな、功績が多過ぎて、魔女殿がまだ幼子と言う事を忘れてしまっておったわ」


 返答に困っておったら、参加しておったヴァーツ殿が助け船を出してくれたのじゃ。

 まぁ見た目は幼女じゃが、中身はオッサンなのじゃけど秘密じゃからのう。

 よし、このまま忘れてくれれば最適なのじゃが、流石に忘れんじゃろうなぁ……


「ちょっといいかい、アタシからも話があるよ」


 そうしておったら、貴族の列の中から白衣を着たニカサ殿がそんな事を言いながら前にやって来たのじゃ。

 確か、ニカサ殿は治癒師の中でも特別な位置におるから、貴族では無くともこういった催しに参加する事が出来る、とは聞いておったのじゃが、参加しておったのじゃな。


「ニカサ殿、今は……」


「アタシの話はすぐ終わるよ、それに一々説明して回るのが面倒だからね」


 そう言うと、ワシの隣にニカサ殿がやってくると、周囲におる貴族達の顔を見回しておる。


「まず、アタシは現時点で治癒師としては引退を宣言するよ」


 ニカサ殿の爆弾発言に、周囲の貴族達がザワついておる。

 理由としては、ニカサ殿は凄腕の治癒師として活動しておったが、今回の件で、この国の治癒師の腕はあまりにも低いとし、後進を育成する為に現役から退いて育成を行うという。

 まぁこうしておる現在も、王都内では今回の騒動で出た怪我人の治療が行われておるんじゃが、全然追いついておらんのが現状じゃ。

 今までは、何だかんだと教会の人間が治療を行っておったせいで、治癒師の腕はあまり必要とされておらんかったが、今回の件で教会の人間が使えぬとなった際に、今の治癒師の腕では治療が全く追い付いておらん。

 なので、稼働したばかりのポーション工場で作ったポーションを、エドガー殿達がほぼ無償でバラ撒いておる。

 それで何とか繋いでおるような感じじゃ。


「で、アタシは王都のマグナガン学園の治癒師科の特別講師として、後進を育てる事にしたよ」


 その言葉で、貴族達の中におったヨボヨボの老人が頭を下げておる。

 どうやら、あの老人がくだんの学園のトップのようじゃな。

 ……ニカサ殿の性格からして、苦労するじゃろうけど頑張って欲しいのじゃ。


「ニカサ殿、後進育成の為とは言え、ギルドに何の説明も無く急に引退するなど、後任はどうするおつもりです!」


 そんな事を言ったのは、恐らく治癒師ギルドのギルマスなんじゃろうな。

 見た目は青髪の女性で、年齢は……30代から40代前半くらいかのう?

 まぁ流石に、この女性の言い分も分かるのじゃ。

 ニカサ殿クラスの治癒師が、何の相談も無しに急に辞めるなんて、周囲からすれば堪った物じゃ無いじゃろう。


「そこは安心しな、少なくとも王都の怪我人の治療が終わるまでは活動してやるよ。 で、アタシの後任としては、このお嬢ちゃんを指名する」


 そうして問答無用と言う感じでワシに渡されたのは、ニカサ殿が持っておった金色に輝くアミュレットじゃ。

 特級治癒師の証らしく、持っておれば貴族に対して治療を拒否する事も可能。 

 当然、かなりの腕が無ければ認められぬ物なのじゃが、ワシの場合、十分過ぎる功績もある上に、秘密ではあるんじゃが、姫の病気呪いを治療した事も上げられるのじゃ。


 しかし、女性は納得しておらぬ様子。

 まぁそこは部外者であるワシが口を出すものではないので、ニカサ殿に任せるのじゃ。

 アミュレットに関しては、一応、ニカサ殿と治癒師ギルドとの話し合いが終わってから、という事でニカサ殿に返還しておいたのじゃ。


「取り敢えず、後日、魔女殿には改めて説明した方がよろしいでしょう」


「うむ、それでは皆の者、今日は忙しい所集まって貰った礼として、ささやかだが、軽食を用意しておいた。 楽しんでいって欲しい」


 宰相殿と陛下がそう言った所で、全員が順次、別の部屋へと移動。

 では、ワシもそっちに行こうとした所、ヴァーツ殿と宰相殿に捕獲され、別室へと移動となったのじゃ。

 解せぬ。



「さて、ここならば誰にも話が漏れる事は無いのでな、詳しい話をしようじゃないか」


 ランレイ王がそう言うなり、頭を下げた。

 周囲におった宰相殿やヴァーツ殿、姫様も止めぬという事は、コレは最初から予定しておった事じゃな。


「すまない、爵位など本来は不要なのだろうが、やった功績が多過ぎて、コレばかりはどうしようもなかった」


 なんでも、金銭で払う事も検討したらしいのじゃが、ベヤヤが吹っ飛ばした壁の再建に、壊れた建物の修復、まだまだ多い怪我人の治療と、とにかく金が掛かる。

 しかし、功労者に対して何かを与えなければ、国としての体裁が立たぬ。

 そこで、金銭では無く爵位を与え、貴族の優遇措置の恩恵を享受させれば良いのでは?となった訳じゃ。

 ただ、名誉貴族である為、ある程度は煩わしい事は少ないだろうとの事。

 ふむ? 普通の貴族とは違うのかのう?


「名誉貴族ってのは、一代限りしか認められない貴族でな、下手に貴族を乱立させない為の物なんだよ」


 まぁそう貴族がポコポコ誕生しておったら、管理しとる国としても困るじゃろうしのう。

 ヴァーツ殿が詳しく説明してくれた内容を纏めると、


1:名誉貴族を任命出来るのは基本的に陛下のみ。


2:一代限りで、子には引き継がれない。


3:治めるべき領地が無い場合、税を納める必要は無い。


4:寄り親となる貴族の庇護下で、正式な貴族となるべく励む。


5:正式な貴族になるには、名誉貴族に任命された後に功績を積んで、伯爵以上の複数の貴族が推薦した場合、貴族として陞爵する。


 と、言う感じじゃ。

 つまり、今回の場合、ワシの寄り親は当然ヴァーツ殿になり、ヴァーツ殿の元で功績を積んでいけば、いずれ正式に貴族になれると言う訳じゃな。

 と言うのも、もしもヴァーツ殿の元で研鑽を積んで功績が認められた場合、最低でもヴァーツ殿、宰相殿が推薦してくれる上に、陛下の派閥の貴族達が後押ししてくれるだろうとの事なのじゃ。


 いや、普通に貴族になんぞなったら権力闘争に巻き込まれるじゃろうから、お断りなのじゃが……

 ワシはのんびり田舎でスローライフがしたいのじゃ!

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