第65話




 祖父神様の語ってくれた内容に、内心唖然とするしかないのじゃ。

 一柱の神と一人の男が引き起こした悲劇。

 そりゃ、レベル制もステータスも撤廃するのじゃ。


「比較的マイルドに言っておるが、実際にはもっと酷かったからのう」


 祖父神様、アレでマイルドって、実際はどんだけ酷かったのじゃ……

 まぁ、多分じゃが、前の文明も男の手で崩壊してたんじゃろうな。

 それにしても……


「しかし、そうなると、今のこの世界には神獣や聖獣はおらんのか?」


「いるわよ。 いろんな所に隠れてたりするから、まだ全部は見付かってないだけ」


 童女神シャナリー様がそう言うのじゃが、どんなのがおるのかおう。

 やっぱり、祖父神様の話に出て来た、世界を飲み込む大蛇ヨルムンガンド神をも嚙み殺す獣フェンリル神より生み出された最古の龍エンシェントドラゴン世界を支える大亀アクーパーラとかいるんじゃろうか?

 まぁ、どれもこれも、実際に発見しておったら大ニュースになるじゃろうから、まだ発見されておらんのじゃろうな。


「フェンリルとエンシェントドラゴンは確認されてるわよ。 どっちも大人しい性格だから、手を出さない限り平気よ」


「それってつまり、手を出したら駄目アウトって事じゃろ」


「当たり前でしょ。 何処の世界でも、攻撃されたら反撃するのは生物としての本能みたいなモノだもの」


 そりゃそうなんじゃが、地球では過去に無抵抗主義なるモノもあったからのう。

 しかし、祖父神様が語ってくれた内容には、色々と疑問点があるのじゃ。


 そもそも、人類の祖先が生まれた原始時代から、近未来までは軽く考えても数千年は掛かっておる。

 男の寿命を考えると、明らかに何倍もオーバーしておるのじゃが、世界を隔てると時間の進み方も違うのじゃろうか?

 そこら辺を祖父神様に聞く。


「まず、時間経過についてじゃが、それぞれの世界によって違う、としか言えんが、そこまで劇的に差がある訳ではないのう」


 ふむ、となると、単純に男の寿命が伸びた、という事じゃろうか?


「いくつもの世界を渡り、レベルとステータスが異常成長したのもあるのじゃが、何柱もの神々を害した事で現人神と言う存在になったせいで、実質、老化しなくなったのじゃよ」


「人の人生で現人神になるなんて、普通は無理なんだけどね」


 つまり、戦えば戦う程に異常成長してしまうという特徴のせいで、異常な成長をした結果、その能力は神に匹敵、もしくは神を超える力を持ってしまった為に、人の身でありながら神へと至ってしまった訳じゃな。

 で、童女神様が言う感じからすると、男が神へと至ってしまった事は、例外中の例外なんじゃな。

 という事は、普通の手段で神へと至る事も出来るのかのう?


「可能と言えば可能だし、不可能と言えば不可能よ」


 条件は教えられないけどね、と童女神様が言うので、至る道はあるが、相当に難しいんじゃろう。

 地球世界で言われておったのは、確か徳を積むとかじゃったかのう……

 アレ、コレは天国へ行く方法だったかの?


「それより、あの教会の奴等が言ってた使ってのは何なんだ?」


 兄上がそう聞くと、祖父神様達の表情が曇る。

 この様子を見る限り、係わってはおらぬようじゃが……

 使徒と言うのは、地球で言えば、基本的に神に仕えておる眷族や、神から直接何かを命じられた人達の事なんじゃが、こっちの世界ではどうなんじゃろ?


「まず、先に言っておくが、アレは儂でも、コヤツの眷族でもない」


「と言うより、私も創造神様も、あの教会が信仰してる神?なんて知らないもの」


 何ともありがちな話じゃのう。

 恐らく、適当な神をでっち上げて、金集めを始めたのが始まりなんじゃろうな。

 しかし、教会では神聖魔法とかいう魔法を使っておるらしいのじゃが、それは神様とかは関係無いのかのう?


「あの世界に神聖魔法なんて無いわよ。 ただの水とか光とかの属性魔法とかで癒しの力を持ってる物をそう呼んでるだけだもの」


「つまり、現状、聖属性と言うのは無いと?」


「無いわね。 あ、だからって創ったら駄目だからね!」


 チッ、童女神様に釘を刺されてしまったのじゃ。

 確かに、ワシのポーションであれば創り出す事が出来るじゃろうが、そんな事したら、確実に教会勢力に目を付けられるじゃろう。

 と言うより、今でも目を付けられかねんじゃろう事を多々やっておるし……


「あなたがやらかす度に、こっちじゃ調整するのに大変なんだからね!」


「む? どういう事じゃ?」


「スキルよスキル! こっちでも把握出来ないようなスキルを作るのって大変なんだからね!」


 重力魔法とか滅龍魔法とかは、地球ではラノベとかで良く出るから分かりやすいかもしれんが、こっちの世界じゃ重力とかの概念は無いじゃろうからのう。

 それを考えれば、良く作れたものじゃの。


「仕方無いから、創造神様に頼んで、地球の神々にも協力して貰ってるのよ!」


「しかし、ワシのクラスの利点じゃしのう……」


 ポーション師の『どんな物でもポーションとして作る事が出来る』と言うのは強い、いや、言葉の意味を理解しておる者が使ったら、とんだバランスブレイカーになるじゃろう。

 下手な言い方をすれば、どんな作品の主人公でも真っ青の能力を得る事も可能になるのじゃ。

 まぁワシはそんな事はせんけどな。


「生命創造はともかく、自重しとるようじゃし、まぁ問題は無いじゃろう」


「しかし、創造神様……」


「もし自重せずにやらかしまくってるようじゃったら、対処せねばならぬ、とは思っておったが、問題無いじゃろう」


 ワシ、自重して正解じゃった。

 『ヒャッハー、これで最強だー』って思った事が無い、と言えば嘘になるのじゃが、そこは謙虚な日本人。

 そう言う事をしておれば、同時に面倒事が肩を並べてやって来るじゃろう。

 実際、もう面倒事には巻き込まれておる気がするしのう。


「さて、あのを出してくれんかのう?」


 祖父神様に言われた通り、ワシのアイテムボックスからソバンが吐き出した魔石?を机に置く。

 どうやら、アイテムボックスは使えるようじゃな。

 ワシの鑑定で名前すら読み取れず、魔力を流しても一向に入れる事が出来なかった謎の魔石。

 それを、祖父神様と童女神様が眺めておる。

 やはり、神の眼で見ると情報が分かるんじゃろうか。


「ふむ、これは……」


「……間違いありませんね」


「「わからん!」」


「わからんのかい!」


 てっきり、話の流れから前任の神様とかが関わっておるのかと思ったんに!


「神の持つ力の波動は独特でな、神が関わっておればその神の波動を感じる事が出来るんじゃが、コレからは前任の神の波動を感じんのじゃよ」


「そうなると、他の神が干渉してるって事になるんだけど……この世界って他の世界から見たら木端の世界の一つって状態だから、悪巧みなんてしても利点なんてないんだけど……」


「それじゃ、コレは一体なんなのじゃ?」


「単純な事を言えば、なのじゃが……こんな物をどうやって手に入れたのか……」


 祖父神様達が分からん事を、ワシが悩んでも仕方無いのじゃ。

 取り敢えず、コレからワシはどうするべきなのかのう?


「む? お主は別に好きなように生きて良いんじゃよ。 もしも、他の神や前任の神が関わっておった場合は、それは儂等が対処すべき案件じゃからな」


 神の問題は神が対応する問題であって、下界におる人間に頼る事はしない、と言うのが神々の中では常識となっておるらしい。

 偶に、それを無視してやらかす神もいるらしいのじゃが……

 しかし……


「ほぅ、とな!」


「あ! ちょっ! 限度って物があるんだからね!?」


 祖父神様に許可も得られたという事で、ある程度の自重はするが、これからも好きなように生活するのじゃ!

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