第63話




 旅館の一室で家族連れ、と言われても違和感がないこの状況。

 祖父神様が茶を啜り、その隣に座っておる座敷童神が茶菓子を摘まんでおる。


「さて、まずは名乗るのが礼儀なんじゃろうが、儂の名前は人の発音できるような物ではないのでな、祖父神でも創造神でも、好きなように呼んでくれて構わんよ」


 あぁ、やっぱり祖父神様は創造神様じゃったか。

 なんとなーくじゃが、そんな気はしていたのじゃ。

 何せ、世界同士の衝突を調整できるような存在なのじゃから、普通の神とは思っておらんかった。


「そして、こっちの子じゃが、今お主達がおる世界を管理しておる女神になるのじゃ」


「この世界を担当してる女神の『シャナリー』よ。 少しは敬いなさい」


 見た目、親近感が沸くのじゃが、金髪の童女が和服を着ておるから、どう見ても座敷童にしか見えんのう。

 と言うより、こういう女神様ってもっとこう、ボンキュッボンッ体型の美人さんってイメージなんじゃが……


「そりゃ、この子はまだ神としては昇格したてのひよっ子じゃからな。 見た目もまだまだ幼いままなのじゃよ」


「前任者がやらかしまくって、未だに調査修正調整って大変なんだからね!」


 祖父神様がそう言いながら、童女神様の頭を撫でておる。

 ふむ、昇格したてとな?

 さらに、童女神様が言っておるが、


「どういうことなのじゃ?」


「地球で暮らしておったお主達は、この世界に来て、直ぐに疑問に思ったのではないのかのう?」


「……職業クラスやスキル、魔法はあるのに、レベルやステータスの数値が存在せん事かの?」


 ワシの言葉に、祖父神様が頷いておる。

 こういう異世界にあるものでのド定番、レベルやステータスの数値化は自身の強さを客観的に見る事が出来る便利なシステムなのじゃ。

 これがあれば成長度合いの把握も楽じゃし、どれだけ努力したかの目安にもなるのじゃが、この世界には無いという事で、把握する事が難しくなっておる。


「元々この世界にも、レベルやステータスというモノはあったのじゃ。 だが、前任の神がとんでもない事をやらかしおって、撤廃する事になったんじゃよ」


「ハッキリ言っちゃうと、その時に前の文明は完全崩壊、今の文明は新しく誕生した全く違う文明よ」


 童女神様がそう言うが、『各地に太古の文明の名残はあるけどね』とも呟いておる。

 恐らく、その『太古の文明の名残』と言うのは、所謂、世界中にあると言う物だったり、そこから出て来るドロップ品なのじゃろう。

 前にエドガー殿に聞いた事があるのじゃが、ダンジョンから手に入る魔道具の中には、現代では考えられ無い様な機能を持った魔道具が出現する事があるらしいのじゃ。

 例えば、ワシは気軽にアイテムボックスを使っておるが、内部の時間停止機能と収納数無限という似たような収納袋があるのじゃ。

 収納袋自体はそこそこ見つかったりするのじゃが、容量が小さかったり、内部の時間経過がそのままだったりしておったりと、あれば便利じゃが劇的に便利ではない、というモノが多い。

 じゃが、時たま、時間経過がゆっくりになっておったり、容量が極端に大きかったりするものが出る事があるのじゃ。

 通常、魔道具は付与されておる魔法を解析し、別の物に解析した魔法を付与すれば増産出来るのじゃが、こういった現代では考えられ無い様な魔道具は、大抵解析できぬことが多い。


「ふむふむ、つまり、レベルやステータスと言った便利な物を撤廃せねばならん程の事を、前任の神はやらかしたって事じゃな?」


「やはり、聡い子じゃな、その通りじゃよ」


「ただ、世界の根幹を成すシステムの一つだから、魔法やスキルなんかの一部は残ってるんだけどね」


 童女神様が落雁の一つを口に放り込み、茶を飲む。

 しかし、前任者は一体、どんな事をやらかしたんじゃ?

 世界の根幹を成すシステムを変えねばならぬなんて、相当なやらかしじゃないと無理じゃろ?



「これが、儂等が管理する世界達になるのじゃ」


 祖父神様がそう言って指を軽く回すように振ると、一瞬で部屋の中が暗くなり、無数の光の粒が現れる。 多分、この光の粒、一つ一つが世界なのじゃろうが、まるで星空じゃな。

 試しに、その一つの光を覗き込むが何も見えぬ……


「流石に肉眼で見る事は出来んよ」


 祖父神様がそう言いながら、一つの光を摘まんで目の前に持ってくると、それが大きくなっていき、その世界の様子が見えて来たのじゃ。

 と言うか、この世界は……


「そう、地球がある世界じゃな」


 そこでは忙しなく人々が歩き、笑ったり泣いたり怒ったりしながら人々は暮らしておるのが見えるのじゃ。

 ふーむ、こうしてみると、地球も良い世界なんじゃのう。


「それぞれの世界の輝きが違うのは、発展度合いか?」


「もう少し複雑なんだけど、概ねその通りよ」


 兄上が無数の光を眺めて、童女神様に聞いておる。

 確かに、それぞれ星々の光には強弱の違いがあるのじゃ。

 地球世界の光はそこそこの強さじゃな。


「世界がスタートした時点では、どの世界も基本、条件は同じなの。 世界を構成する材料とかもね」


 その中で、唯一例外だったのが、地球世界。

 魔法やスキルが無い世界である為、その分のリソースを別の事に割り当てる事が出来たのだ。

 地球の神々は、その余ったリソースを人の想像力、発展力に割り当てた。

 結果、地球人は他の世界の人に比べ、が大きくなった。

 魂の器が大きいという事は、その分、多くのリソースを貯め込めるという事であり、魔法やスキルがある世界であれば、異常に強くなれるのだ。

 そんな強くなる下地が出来ている地球人の存在は、他の世界からしてみれば垂涎の的で、多くの異世界で起きた問題を解決をする為、地球人を召喚する事が流行ってしまった。

 当然、そんな事を何度もされたら地球世界に利が無く、本来は堪った物ではないのだが、地球世界はその分、送り出す世界と魂を厳選し、送り出す世界から見返りにリソースを受け取る事にした。

 こうして、世界同士でリソースを流し合うのも、世界の発展に必要な事である。


 融通し合うのが普通であるが、そうでない方法も存在する。

 それが、世界同士の次元衝突により、相手のリソースを一方的に奪っていく方法。

 本来、衝突は回避すべきものだが、こうしてリソースを奪い取る事を目的にぶつける神もいるのだ。

 その際、ぶつかった部分から相手の世界に戦力を送り込んで、世界の文明を滅ぼして奪う、なんて事も出来る。


 ここまで説明すれば分かるじゃろう。

 前任の神がやらかしたトンでもない事。



 他の世界に対し、異世界転移してレベルやスキルを上げまくって強化しまくった地球人を送り込んで、リソースを奪いまくった上に、結果として物凄い数の世界を崩壊させたのじゃ。

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