第61話
カツーンカツーンと、石の床に複数の足音が響く。
現在、ワシとニカサ殿は騎士に連れられて、王城のどこかを歩いておる。
まぁワシは目隠しされた上に、騎士に背負われておるので、今どこを歩いておるのかは分からんのじゃが。
と言うのも、ワシ等が向かっておるのは、王城内でも限られた者しか知らぬ特別な牢。
当然、部外者であるワシが場所を知ってはマズイというワケで、目隠しして背負われておる。
まぁ背負われておるのは、ワシの歩幅が小さ過ぎて、歩く速度に付いていけなかったからなのじゃがな!
ニカサ殿は『目隠しなどせんでも、あの場所は知っとるわ!』という事で、目隠しせずに歩いておる。
暫く騎士の背で揺られておると、ガチャリと扉を開ける音がしたので、どうやら特別牢に付いたようじゃな。
「もう目隠しを取っても大丈夫です」
騎士に言われて目隠しを取ると、そこは入ってきた扉以外だと、奥に別の扉があるだけの窓すらない密室。
灯りは魔導ランプが壁に数個あるだけで、他には中央に机に椅子があるのみじゃ。
まぁ特別牢に繋がっとる部屋じゃから、飾り気も何もあったもんじゃないのは分かるんじゃが。
そして、奥の扉から飾り気のない白の貫頭衣を着たソバンが連れて来られた。
手錠などで拘束はされていないのじゃが、その首には黒い首輪が填められておる。
あの首輪は、魔力阻害の首輪となっており、装着されると本人は魔力に関係する行動が一切取れなくなる、という魔道具じゃ。
つまり、今のソバンは一切、魔法が使えぬ状態、と言う訳じゃな。
「フンッ誰かと思えば……」
「意外と元気そうじゃの、あんな肉塊になっておったとは思えんのじゃ」
ワシがそう言うとソバンの表情が歪む。
そして、騎士達に押される様に椅子に腰掛けさせられておる。
こうしてワシがコヤツに会いに来たのは、別に心配しておったからと言う訳では全くなく、色々と聞きたい事があったからなのじゃが、どうせ素直に答えてくれるとは思っておらん。
護衛として騎士もおるが、別にどうとでもなるからのう。
「……これより見せるは無限の夢の果て『
こっそりと魔法を発動すると、キラキラと光の粒が部屋の中で舞い吹雪く。
徐々に、ソバンの眼から光が失わていくのじゃが、騎士もニカサ殿も慌てておらぬ。
と言うより、周囲は全く気が付いておらぬ。
「まず、お主に聞きたいのは、あの時、何をしたのかという事じゃ」
「……我等枢機卿には限られた者だけが、使徒へと至る方法を授けられる。 我等が神の御業にて使徒となり、迷える者達を導くのだ……」
「その方法が、この魔石に似ておるモノがその方法じゃと?」
「……我等は『使徒の卵』と呼んでいる。 いつから、何処から齎されたのかは分からぬ……」
ふむ、使徒の卵と言うのじゃなコレ。
何せ、鑑定しても、相変わらずバグっておったのじゃ。
___________________________
名前:uw@z;a@[
品質::@9sm;
状態::pokse8ax.o
___________________________
こんな感じじゃ。
しかも、この『使徒の卵』とかいう魔石モドキ、異常に頑丈。
ソバンが吐き出した物と、肉塊スライムに寄生されておった男が残した物と二つあるのじゃが、二個とも傷一つ付かぬ。
それこそ、王都の外壁すら消し飛ばしたベヤヤの全力の攻撃でも、まったくの無傷だったのじゃ。
なお、試した場所は、あのテント型の隠れ家の中じゃ。
他にも、ワシがいつものように、魔石に魔力を送り込もうとしたのじゃが、完全に弾かれて無理だったのじゃ。
例えるなら、蓋のされた瓶に水を入れようとしても入れられぬ、と言う感じじゃな。
魔石を喰うベヤヤも、この魔石モドキに付いては『なんか気味悪ぃからいらねぇ』って言っておったし。
「この二つ以外に卵はあるのか?」
「……儂が与えられたのは、その二つだけだ……あの男が研究して複製したが、似て異なるモノしか出来なかった……」
ふむ?
複製したのはあの錬金術師の男じゃろうが、コレを複製出来たという事は、相当腕は良かったのじゃな。
さて、次に聞かねばならぬのは……
「何故、使徒化すると肉塊になるんじゃ? 」
「……我等が神は数多の瞳で地に住まう者達を見続け、その身を燃やして光を与え続けておるのだ! 断じて肉塊などではない!」
おぉぅ、この話題は教会の関係者に対しては禁句かのう。
しかし、多くの眼で人々を見て、自らの身を燃やして光り続けておるから、見た目があーなっても仕方無い、という事なのか?
後で教会についても調べぬといかんかもしれんのう。
「さて、最後に聞きたいのじゃが、教会の目的、と言うか使徒化して何をしようとしておるのじゃ?」
「……教会の目的は……我等は使徒となり、忘れ去られた神の道を探し、忘れられた神をこの地へと降臨させ、神の奇跡で世界を操作する事、その為には下々の者共がいくら果てようが、我等の知った事ではない……この国は、その為の足掛かりにしたに過ぎぬ……」
「……まぁ、聞く事は聞けたからもう良いかの……」
そう呟いて、指をパチンッと鳴らすと、ソバンの眼に光が戻っていく。
魔法による催眠状態から元に戻ったのじゃが、気が付いておらぬようで辺りをキョロキョロと見回しておる。
催眠中、本人は一番望む相手と夢心地で会話しておるのじゃが、その状態から一気に現実に戻るのじゃから、混乱するじゃろうな。
それに、何を話しておったかは覚えておらぬから、周囲にバレる事も無いのじゃ。
騎士に引っ立てられて、ソバンが再び奥の扉から奥に連れて行かれる。
「あぁも強情だと先は長くないだろうね」
「……ま、仕方無いと思っておくのじゃ」
ニカサ殿が若干呆れた様に言うが、ニカサ殿達には、ワシがいくつかの質問をしたが、ソバンはそれに一切答えなかった、と言う風に見えておった筈じゃ。
本当の質問の内容は、下手をすれば命を狙われる内容なのじゃ。
それなら、最初から知らぬ方が惚けられるじゃろう。
この後、通常はソバンは死ぬまで、この明かりも射さぬ暗い牢獄で一生を過ごす事になるのじゃが、捜査に協力すれば、名誉の死が賜れる。
有り体に言えば、毒杯が用意されるのじゃ。
まぁ、あの様子では協力する事は無いじゃろうが、まさかとは思うが、教会の暗部とかそういうモノが救助してくれるとでも思っておるのじゃろうか。
恐らくと言うかほぼ確実に、教会が態々ソバンを助ける事はしないじゃろう。
ソバン達、教会がやろうとした事は、簡単に言えば、王族を排除し、この国を乗っ取ろうとした、という事じゃ。
つまり、教会としてはソバンを救助したり助命の進言などすれば、国の乗っ取りと言う行為を教会の総意として捉えられてしまう事になる。
教会としては、『ソバンが単独でやった事だから教会は関係ない』と言う事にして、トカゲの尻尾切りをするじゃろう。
寧ろ、ソバンを助けるより暗殺した方が良いじゃろうって考えるじゃろうな。
果たして、ソバンがそれに気が付けば、協力もするようになる……のかのう?
さて、この後は、兄上と冒険者達と協力して、教会に残っておるかもしれぬ肉塊スライムを探査し、生き残っておれば殲滅じゃな。
まぁ、ソレが無くとも何故か教会に行くように言われておるのじゃが、何かあるのかのう?
そして、ワシは帰る時も行きと同じで目隠しをし、騎士に背負われての移動になったのは言うまでもない。
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