第60話




 王城の一室。

 そこでは今まさに、死闘と呼べる戦いが行われていたのじゃ!


「ヴァヴァッヴァァァッ!!」


 無数の眼玉をギョロギョロと動かしつつ、肉塊となったソバンが暴れ回っておる。

 攻撃方法は無数の眼玉による衝撃波と、周囲に発生しておる無数の魔法弾の乱射。

 魔力弾の乱射は魔力障壁を展開して防御しつつ、衝撃波は兎に角回避する!

 と言うのも、衝撃波は魔力障壁をすり抜けて来るのじゃ。

 これは、衝撃波を一番最初に一発貰ってしまったので判明した事なのじゃ。

 いや、あれは焦ったのじゃ。

 事前に魔力障壁を展開しておったが、それで阻めなかったという事は、あの眼玉から放たれる衝撃波は魔力を介していない、という事なのじゃが、どういう原理なのかわからん。

 なので、衝撃波は回避の一手なのじゃ。


「じね゛ぇジネ゛ェェェェッ!!」


 最早、にソバンの意思があるとは思えんが、はてさて、どうしたもんかのう……

 ソバンの手際から、黒幕と言うにはお粗末過ぎるし、かと言って、黒幕を聞き出そうにも、コレではのぅ……

 ギョロリと眼玉がワシの方を見ておる。

 部屋の中を逃げ回っておるが、逆に部屋の中であるからこそ、被害はコレだけで済んでおるとも言えるのじゃ。

 もし、コレが外じゃったら、無差別に衝撃波を放たれて、被害はとんでもない事になっておったじゃろう。


「しっかし、ホントにどうしたもんかのう……」


 実は、既に何度か攻撃を当てたのじゃが、あっという間に再生されて、効果が殆ど無かったのじゃ。

 当てた瞬間は眼玉も潰れるので、多少は安心出来るのじゃが、うじゅうじゅと復活したら眼玉が増えるという嬉しくないオマケがあったので、今は攻撃は控えて回避に専念しておる。

 大抵の場合、あの肉塊の何処かに致命的な弱点があって、そこをピンポイントで攻撃する事で倒せる、と言うのが定石なのじゃが……

 そんなお話の中に登場するような、主人公的な閃きやら、偶然弱点を発見するような運はワシには無い!

 じゃが、そんな事を言ってる場合ではないのも事実。

 うーむ……ソバンがこうなった原因は、恐らく、変異する前にあの飲み込んだなのは確実。

 ワシの使った変化ポーションに似ておるようなモノなんじゃろうが、そうだとしても何でまた肉塊なんじゃ?

 筋肉ムッキムキになるとか、それこそ龍にでも変化するとかならまだ分かる。

 じゃが、変異した姿は何故か眼玉が無数にある肉塊。

 再生能力やら、眼玉からの衝撃波は厄介じゃが、こうして逃げ回れておる以上、そこまで強力と言う訳でも無い。


「『マルチ・アイスショット』!」


 ワシの周りに現れた氷の飛礫が、肉塊に向かって飛来し、当たった部分の眼玉を凍り付かせる。

 消し飛ばしたりすると眼玉は増えるが、凍り付かせた場合はどうじゃ?


「い゛だい゛イ゛ダイ゛い゛だい゛ぃ゛!!」


 肉塊が震えて凍り付いた部分を落とそうとしておるが、流石に剥がれ落ちたりはせぬようじゃな。

 取り敢えず、全部凍り付かせてみるか?

 しかし、それでも問題の先送りにしかならんし……

 そうして悩んでおると、メリメリと音が聞こえて来たので、肉塊の方に視線を戻す。


「げっ」


 何と、肉塊から触手が伸びており、凍り付いた部分を無理矢理に引き剥がし始めておる。

 このままじゃと、また眼玉が増えてクソ面倒な事になるのじゃ!

 もう、王城への被害は無視して、大規模魔術で消し飛ばすしかないかのう……


「よ゛ぐも゛じどに゛む゛がっでぇぇぇっ!!!」


 後で怒られるの覚悟するしかないか……

 自然と溜息が出るのじゃが、何か忘れておるような……

 凍り付いた部分を引き剥がし終え、ブジュルブジュルと音を立て、肉塊が盛り上がりつつ再生を始めておる。


「ぎざま゛ざえ゛だお゛ぜれ゛ばぁああっ!!」


 肉塊がそんな事を言っておるのじゃが、ワシを倒したとしても元に戻れんのじゃ意味が……




 ……そうじゃよ、別に無理に倒す必要は無いんじゃ。


「ワシもいい加減ウンザリしておるのでな、次で終いにするぞ」


 そう言うと、ワシの手元に光り輝く剣が現れる。 

 まぁ単純に、アイテムボックスから取り出しただけなんじゃがな!

 そして、ステップを踏みながら衝撃波を回避しつつ、一気に肉塊へと接近、その切っ先を肉塊へと突き立てる!


「ががっだな゛ぁぁあぁっ!」


「……終いじゃよ」


「っ!? な゛ぜな゛ぜな゛ぜぇだあぁぁあああ!?」


 そう呟き、肉塊から剣を引き抜いてアイテムボックスに収納しておると、肉塊が震えながら叫んでおる。

 肉塊は震えるだけで、衝撃波も来ない上に魔力弾も放たれぬ。

 そして、ドロドロと溶け始めたのじゃ。


「ぶぎぃばぁぁああ!?」


 肉塊が苦し気にのた打ち回っておる。

 そして、ブヨブヨした肉塊の中から、変異した筈のソバンが現れてきたのじゃ。


「では改めて、天誅!」


「ぶぎゃぁぁっ!」


 バコンとロッドをソバンの頭へと振り下ろし、完全に意識を刈り取ったのじゃ。

 流石に、樽の如き体系の脂ギッシュな中年の全裸など、見たくも無い。

 魔女の情けとして、下半身に毛布を掛けておいてやるがの。





 その後、庭でホムンクルスはバートとヴァーツ殿に討伐され、郊外の墓地に現れたモノもベヤヤが外壁ごと?消し飛ばし、教会でも元凶?が討伐された、という事を聞いたのじゃ。

 取り敢えず部屋を変え、陛下達と今回の件を話し合う。


「ソバンは現在、近衛魔法師団にて完全拘束し、魔術も使えぬ様に特別な拘束具を装着しております!」


「教会の地下にいた男も、現在、取り調べを続けております!」


 そう騎士達が報告してくれる。

 ソバンは意識を失っておる間に、ワシが呼んだ騎士によって完全拘束され、今は王城の何処かにある地下牢にぶち込まれておる。

 そして、イクス殿達が拘束した教会の地下室におったという男も、別の部屋で騎士達によって尋問されておるのじゃが、本人は『ただ単に研究をしていただけ』と言い張っておるそうじゃ。

 協力者の若者が教会で回収した『サンプル』じゃが、王族の誰かの『心臓』で、それを元にあのホムンクルスに王族しか使えん筈の魔法を使える様にしたようじゃ。

 そんな腕があるなら、真面目にやっておれば稀代の天才として歴史に名を遺せたじゃろうに・・・・・・

 まぁ、結局は国家転覆に繋がっておったのじゃから重罪じゃのう。


「さて魔女様、娘とニカサ殿から話は聞きましたが、儂に黙っていなくても良かったではないですか!」


「そうは言うがの、先に教えておったら隠せんじゃろ?」


 王の性格を鑑みるに、隠し事が出来んタイプと見ておる。

 なので、黙っておったのじゃが……


「……取り敢えず、娘を救って頂いただけでなく国すらも救って頂きまして、父としてだけでなく王としても感謝致します」


 そう言った王と、姫が揃ってワシに頭を下げたのじゃ。

 当然、周囲にいた宰相殿や騎士達は大慌て。

 王族が平民に対して頭を下げるなど、本来はやってはならない事なのじゃ。


「別にワシは気にしてないのじゃよ、治せたから治し、救えたから救っただけじゃし、それに……」


 そう言いながら、ワシは背後におった黒髪の若者に視線を向ける。

 じゃが、フンッと鼻を鳴らしてそっぽを向いたのじゃ。


「今回は運も良かっただけじゃしの」


「所でなのですが、そちらの若者は誰なのですかな?」


「この者は……ワシのじゃ、偶々近くにおったので協力して貰ったのじゃよ」


「「兄!?」」


 自己紹介は後でしてもらうとして、ワシ的には真っ先にやる事が一つある。

 ゴソゴソと鞄から、いくつかの袋を取り出して正面にある机に置く。


「取り敢えず、ベヤヤがぶっ壊してしもうた壁の修理代の足しにして欲しいのじゃ」


 宰相殿が中身を確認、おぉ固まっておる。

 あの袋の中身は、ワシが作った強化ミスリルのインゴットなのじゃ。

 重量としてはインゴット1本で1キロで、一袋に5本入っており、それが5袋あるのじゃ。

 値段として考えるなら、相当な価値になるじゃろうし、十分、修理代にはなると思うのじゃが……


「あ、ありがたく頂戴致します……」


 宰相殿がそう言いながら、袋を抱きしめて騎士達と共に部屋から出て行ったのじゃ。

 その後は、今後の事についてアレコレと軽く話し合ったのじゃ。

 まず、イクス殿達冒険者には、王城から金貨が支払われる事になったのじゃが、支払う金額はコレからギルマスと応相談との事。

 教会については、一時的に閉鎖されるのじゃが、恐らく聖王教会からすぐに後任が送られてくるじゃろうとの考えなので、それまでに内部を徹底的に調査する事に。

 ソバンに関しては、引き渡し要求が来たとしてもと言う扱いになっておるので、このまま地下牢で残りの一生を過ごす事になるじゃろう。


「それで魔女様、最後に聞きたいのですが、ソバンは化物になっておった筈じゃが、どうやって元に戻したのですかな?」


「さての、それこそワシは秘密なのじゃ」


 ワシはそう言って煙に巻く事にしたのじゃ。


 あの時、ソバンはナニカを飲んで変異したのじゃ。

 ならば、

 そう思い至り、ワシはとあるポーションを創り出したのじゃ。

 それが『飲んだ者を1日前の状態へと巻き戻す』と言う効果のポーション。

 その『巻き戻しポーション』を、特別製のにセットし、突き刺した瞬間に内部に噴射。

 これによって、ソバンの変異した身体を元に戻したのじゃ。

 まぁ服までは元に戻らんから全裸になってしまったがの。


 コレに関しては、永久に誰にも言う事は無いのじゃよ。

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