第59話




 謎の声に導かれて、礼拝堂に向かっているのだが、明らかに肉塊スライムの数が少ない。

 この先に本体がいるのだから、もっとこう、通路にもみっちりと末端スライムがいると思ったんだが……

 しかし、ここまで一匹も出会わないとなると、罠なんじゃないだろうかと勘繰ってしまうが、手掛かりも無い上し、それに、罠であったとしても食い破ればいいだけだ。


「さて、到着はしたが何だこの気配……」


 礼拝堂の扉は閉じられているが、中から漏れて来る気配は、ねっとりべっとり、肌に張り付いて舐め回すような不気味さ。

 あぁ、こりゃ想像以上にヤバイな。

 末端のスライムを排除している間、イクスとノエルの二人と別れた事を後悔していたが、この気配から察するに、二人が居たら逆に危なかったな。

 扉に手を掛け、ゆっくりと中を覗いてみる。

 うん、一番奥にある司祭とかが礼拝する教壇の所に何かいる。


「おや? 来ないのですか?」


 そう聞こえて来たのは、やや若い男の声。

 どうやら、向こうにはバレてるようだな。

 まぁアレだけ暴れてれば当然と言えば当然か。

 こうなっちまうと、コソコソ隠れても仕方無い。

 堂々と扉を開けた。


「ようこそ教会へ、我々は貴方を歓迎しm」


「あぁ、そんな建前はいらんいらん、こっちはとっとと大元倒してぇんだ」


 そう言った瞬間、反射的にその場から横に跳ぶ。

 先程まで俺が立っていた所に、肉塊スライムの一部が鋭利に尖って突き刺さっていた。

 扉の後ろの壁に張り付いていたようだが、おいおい、分離した末端も操作出来んのかよ。

 となると、コイツ、本体から分離してもある程度は、本体と繋がっているって事か?


「随分と物騒な歓迎だな」


「物騒とは心外ですねぇ……アレだけ私達の子供達を葬ってくれたんですから、当然でしょう?」


「……随分とやんちゃなガキどもだな、ちゃんと子育てしてたのか?」


「うちの方針はがモットーですので」


 こうして話してはいるが、先程から俺の周りにはボトボトと肉塊スライムの末端が落ちてきて、そこから針山の如く鋭利な突起を突き出しまくっているのだ。

 コレはイキイキとって言うか、放任してんじゃねぇの?

 そんな事を考えながら、針山ごと斬り飛ばす。

 てか、どんだけいるんだよコイツ。


「しかしまぁ……随分と子沢山な事で」


「素晴らしいでしょう? 子供達は弱いかもしれませんが、我々がいる限り尽きぬ戦力、いずれ圧し潰すでしょう」


 病的なまでに蒼白い顔色をした男が笑いながら言っているが、冗談じゃねぇぞ。

 確かに、俺クラスからすれば末端は弱い部類だが、一般人やイクスクラスの腕だと苦戦するぞ。

 それが引っ切り無しに襲い掛かってくるってのは、絶望しかないぞ。

 しかし、本体は何処にいんだ?

 見る限り、この場には俺以外はあの男しかいないが……

 ……いや、まさかとは思うが………

 しかし、何度気配を探っても、末端以外に存在する気配はあの男だけだ。


「成程、大元でもあった訳だ」


 見た目、何の特徴のない男だが、その気配はこの部屋から感じる禍々しい気配と同じ類のもの。

 つまり、見た目とは随分と違うようだ。

 末端の攻撃を回避し、男目掛け椅子の一つを蹴り飛ばす。

 普通なら、その場を飛び退くか、防壁を張るか、何かしらで迎撃する。

 だが、男がやったのはどれも違った。

 ドブンッと音が響き、椅子が男の体に突き刺さってる。

 そして、椅子が徐々に体内に吸い込まれていく。

 まさかのってのは……


「擬態、もしくはそれに準ずる能力か」


「酷いですねぇ、彼女が痛がってるじゃないですか」


「どんな思考してんだよ……」


 男の服が裂けて上半身が見えたんだが、胸から腹部に掛けて、あの肉塊スライムが張り付いている。

 まぁ大元が見付かったなら、後は刻むだけなんだが……


「まぁさっさとその気持ち悪い奴ごと始末するか……」


「彼女の様な偉大なる神々の使徒様に対して、なんと失礼な」


『失礼ね! そんなの使徒になんてしないわよ!』


 頭に響いた声を無視、一瞬で男に接近し剣を振り抜く!

 が、腕が硬質化して防がれ、逆の拳で攻撃されたのを、ステップで回避する。

 斬撃と拳が打ち合う度に火花が散り、背後に左右から末端からの棘攻撃も来る。

 男自体、末端自体は強くないのだが、全周囲から攻撃が絶え間なく来るんで手古摺っている。

 唯一の救いと言うか楽な点は、男に融合してる大元が攻撃して来ないって所だ。

 融合している大元は、末端を生み出す事は出来るが攻撃能力などは持っていないようだな。

 つまり、この肉塊スライムの大元は、自分自身を守る為に他の生物に寄生し、その上で宿主を何かしらの催眠や洗脳で自分を守らせるように操作しているんじゃないか?

 じゃなきゃ、あんな肉塊が神の使徒?とやらと言われても、信じられん。


「とはいえ、どうすっかな……」


『ちょっと! 貴方の力なら、そんな奴さっさと倒せるでしょ!』


 呼吸を整える為に一旦後ろに引き、ボヤいていると、またしても頭の中に声が響く。

 あのな、大体アンタの正体は分かってるが、こっちは連戦に次ぐ連戦で回復手段やら全部使い切ってるんだ、無茶言うな。

 マナがもう尽き欠け、精神力もカラなんだよ。

 少なくとも、マナが半分以上なきゃ流石に無理!


『分かったわ、半分あれば良いのね!』


 頭の中の声がそんな事を言った瞬間、俺の足元に金色に輝く魔方陣が現れる。

 ちょっ確かに半分も回復すりゃ良いとは言ったが、地上の事に干渉したらマズイんじゃないのか!?


「なっ、それはまさかっ、神の祝福ですと!?」


 男がその様子を見て驚愕しているが、俺自身だって驚いてるわ!

 恐らくだが、頭の中に響いてた声の正体は、この世界の女神様なんだろうな。

 理由は不明だが、何らかの理由で俺の頭に声を送ってるんだろうが、詳しい話は後だ。

 良い事なのか悪い事だろうが、とにかく、俺のマナは回復出来た!


「そんな馬鹿な! 使徒と共にあるハズの私達では無く、何故、下賤なる者などに!」


「よくは分からんが……死んだら自分で聞いてみるんだなっ『虚空』!」


 発狂したように叫んでいる男と、寄生している肉塊スライムを共に刺し貫く。

 その発生した穴に吸い込まれる様に、男も肉塊スライムも引き摺り込まれていった。

 しかし、空間魔法を応用してるとはいえ、まるでブラックホールみてぇな技だな……

 そんな事を思っていると、カツンと音がして、教会の床の上に赤黒い魔石が落ちていた。

 どうやら、やっと大元は倒せたようだ。




「ハァ……で、一体あんたは誰なんだ? まぁ予想は付くが……」


 一旦礼拝堂から脱出し、完全に安全だと判断出来る場所に移動してから、改めて呟くようにして聞いてみる。

 多分、頭で考えるだけで聞けるんだろうけども、改めて言葉にした方が確実だ。


『予想が付いてるのに聞くのね』


「あぁ、今まで接触すらなかったって疑問はあるが、一応な」


『そりゃ当り前よ! 私が直接声を届けられる範囲なんて限られてるの! 教会とか清浄な場所とかに来ないと、ロスが激しくて全然届かないのよ』


 そんな事言っても、俺は知らんよ。


『それなのに、あなた達はぜっんぜん教会に来ないし!』


 少なくとも、そう言う苦情は俺じゃなくて、あっちに言って欲しい。

 俺に決定権は無いんだ。

 と、いう事は今回は丁度良かったって事か?


『えぇそうね。 それでなんだけど、今回の騒動が終わったらちゃんと教会に来るように伝えてちょうだい。 大事な話があるのよ』


 まぁ、どうせ末端を殲滅し終えたかの確認をしなきゃならんから、別に構わんが……

 一体何の話なんだ?


 そんな疑問がふつふつと湧きながら休憩していたら、イクス達が応援の冒険者連中を連れて来た。

 よし、コレで多少は楽できそうだ。


 合流した冒険者達に、肉塊スライムの注意点を説明し、俺は教会の入り口に座り込んだ。

 やっと、本格的に休憩できそうだ。

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