第57話
俺は二人と別れ、まずは冒険者ギルドの討伐支部に向かい、拘束していた男を預かってもらう。
その際、この男は重犯罪の貴重な証人だから絶対に逃がさない事と、もしかしたら暗殺される可能性もあるので、絶対に職員以外は会わせない様に釘を刺しておく。
コレでもし逃げられたり、暗殺されたりなんて事になったら目も当てられない。
そして、ギルド内にいる冒険者連中がかなり騒いでいるので、受付嬢に何があったのかを聞くと、郊外の墓地で何かが出たらしく、通り掛かった冒険者がソレを目撃、ギルドに急いで駆け込んで現在、支部にいる冒険者達により討伐隊を組んでいる最中だという。
もしや、ソイツはレイヴンが言っていた奴か?
レイヴンは『ベヤヤを連れて行け』と言っていたし、ここにいる冒険者に対処出来る様な相手じゃないって事か?
この王都で活動している冒険者は多いし、中には個人でAランクになった冒険者もそれなりの数がいるとはいえ、魔女様が連れているベヤヤのような
そのベヤヤを連れて行けと言われた以上、郊外の墓地にいるのは最低でも災害級クラスの化物って事だ。
こりゃ、早く行かねぇとヤバイかもしれん。
「それじゃ、騒ぎが収まったら回収しに来るんで」
「はい、イクス様もお気を付けてください」
受付嬢に後を任せ、急いで郊外へと走る。
もし、冒険者チームが参戦したら壊滅的被害を受けちまう。
郊外にある木こり小屋に到着すると、ハンナとジェシーがベヤヤの目の前で何かを擂り潰したり、刻んでいたりしていた。
二人の隣には、数個の甕が置いてあり、刻んだり擂り潰した物をその中へと入れているんだが……何してんだ?
「……このくらいで良い?」
「ガァ、グァッ(おう、それで終わり)」
「フヒッ……キノコも終わった……」
二人の様子を見るに、ベヤヤが使っているチョウミリョウの作り方を教えて貰っているみたいだな。
まぁ良いか、別に毒物を作ってる訳じゃなさそうだし……
「二人共、緊急事態だ、郊外に災害級が出たらしい!」
俺が不思議そうな顔をしている二人に事の次第を説明。
即座に二人はポーチに甕を収納、各々の武器を手にする。
ベヤヤも同じように、置かれていた道具を首から下げた鞄に収納すると、場所の説明もしていないのに一気に走り出して行った。
って、何処に行くんだ!?
「ちょ、おぉぉい! 場所分んねぇだろ!?」
『嫌な奴の気配があるトコに行きゃ良いんだろ!』
俺が止めようとしたらベヤヤからの念話が届いたんだが、野生の勘って奴か?
進行方向は間違いなく郊外の墓地の方角だった。
慌てて二人と一緒にベヤヤを追い掛ける事になった。
先を走るベヤヤが進行方向の木々を薙ぎ倒していくけど、はえーのなんの……
ほぼあっという間に、郊外の墓地に到着しちまったよ。
王都にある郊外の墓地は基本的に平民や、身元が分からない者達が葬られている場所だ。
なお、貴族なんかは、邸宅の敷地内や教会の専用墓地に埋葬されている。
そこには、全身白い服を纏い、白いベールを被った何かが立っていた。
その手には、あの魔女様が持っていたような
アレを目にしてるだけで体の芯から冷えていく感覚に、冒険者をやっているなら絶対に養うべき危機感を感じ取る感覚が、馬鹿みたいに警鐘を鳴らしまくってる。
あぁコレは駄目だ。
災害級魔獣にも強さによってランクがある。
エンペラーベアは災害級の中では実は下位に位置し、龍なんかが上位に食い込んでいる。
そう、龍が上位に食い込んでいるという事は、龍以上にヤバイ奴がいるって事だ。
嘗て、そう言った魔獣に対して、人類は決死の戦いを挑み、勇者と呼ばれる存在が見事討ち取った、と言う伝説が存在する。
災害級魔獣の中でも最上級に位置する魔獣の事は、『天災級魔獣』と呼称する事になっていて、対峙した奴が言うには『見た瞬間に分かるんだよ、あぁ俺は終わったってな』と見た瞬間に分かってしまうらしい。
「アァぁ?」
「跳べぇっ!」
ベールで見えないが、ソレの視線がこっちを向いた。
瞬間、俺にゾクリとした感覚が走り、叫んでその場から一気に横に飛ぶ。
その時に後ろにいた二人も一緒に巻き込んだ状態で、だ。
そして、先程まで自分がいた場所を見て、ゾッとした。
地面が大きく抉れて、消滅してやがった。
奴が術を発動したとか腕を振るったとかじゃない。
ただ、此方を見ただけだ。
「ガァァァッ!」
硬直していた俺達に構わない様子で、ベヤヤが突っ込んでいく。
ソレの視線が向かってくるベヤヤの方に向いた瞬間、ベヤヤが地面に腕を突き立てたと思ったら、一気に地面を捲り上げたぁ!?
キュボッと音がしたかと思ったら、捲り上げた土壁に大穴が空いている。
そして、その穴が開いた土壁をベヤヤが殴り付ける!
当然、土壁がそのパワーに耐えられる筈も無く、砕け散ってソレに降り注ぐ。
ただ、チリン、と音がしたと思ったら、まるで壁があるかのように、ソレの目前で土砂が止まっている。
おいおい、防御も完璧かよ……
「……ボス、アイツ、視線の攻撃は厄介だけど、防御はあのベルでやってるみたいよ」
「それに、同時には……出来ないっぽい……」
ハンナとジェシーが墓石の一つに隠れて若干震えながらだが、ソレとベヤヤの戦いを見ていて気が付いたようだ。
つまりアレは、絶大な攻撃力と鉄壁の防御を持つが、攻撃と防御を同時にやる事は出来ないって事らしい。
なら、やり様はいくらでもあるな。
「二人共よく聞け、まずは……」
二人に俺が考えた作戦を伝える。
自分で言っといてなんだが、結構無茶な作戦だ。
だが、俺の説明を聞いて、十分勝機があると判断したようで頷いた。
「ベヤヤ! 一旦下がって態勢を立て直せ!」
ソレの背後から魔女様から貰った剣を思い切り振り下ろすが、やはり、チリンと音がして何かの壁に阻まれ、ソレの首が俺の方に向かってグリンっと向けられる。
瞬間、剣先に感じていた壁の感覚が消えた。
てか、どんな首してんだ!?
だが、これこそが俺らが狙ってた事なんだよ!
俺の顔の左右を何かが風切り音と共に通り過ぎ、ソレのベールに突き刺さり巻き込みながら剥ぎ取っていく。
「我が手に集いて灯りを灯せ!『ライト』!」
ジェシーが、本来は夜や洞窟とかで使う小さな灯りを灯す生活魔法を発動させた。
ただし、効果時間を極端に短くし、光量を最大まで引き上げた特殊な奴だがな!
当然だが、ベールで効果は薄れるだろうと、俺達は予想していた。
だから、俺が攻撃し、防御の為の壁を出現させた瞬間、ハンナが持っている矢の一つで、直上の果実や衝撃を与える為の鏃の先が二股に別れている特別な矢を使い、あのベールを引っぺがす。
ベヤヤとの戦闘の様子を見ていた際、ソレに視力が無いとは考えられない事がいくつかあった。
まず、ベヤヤと絶対に近距離戦をせず、必ず一定の距離を保っている事、そして、持っているロッドから氷の矢やら風の刃やらを撃ち出しているが、その着弾するタイミングが絶妙なのだ。
ベールが剥ぎ取られた瞬間、俺にはその眼が見えた。
黒い、何処までも黒く吸い込まれそうな巨大な瞳孔。
その瞳孔が発生した目晦ましの光で一気に収縮した。
「ぶった斬れぇっ!『シャープブレード』!」
その瞬間を逃さず、剣の切れ味を倍加させ、威力を上げる剣士の技の一つである『シャープブレード』で袈裟懸けに斬り抜く!
だがコイツは浅い!
「アァァァァあ……」
ヤバい、踏み込みをミスった!
収縮した瞳孔が元に戻っていく。
「ガァァァァッ!!」
だが、その視線による攻撃が来ようとした瞬間、背後からベヤヤの体当たりが炸裂し、ソレを天高く打ち上げる。
そして、ベヤヤがその場に二本足で立ち上がると、体を捻って拳を握り締めて力を貯め始め、体からオーラが立ち昇っていくのが見える。
……これ、俺らもヤバくないか?
「おぉぉぉっ! 二人共逃げろぉぉぉっ!」
慌ててベヤヤが殴る方向とは別方向へとダッシュ!
コレはアレだ、
準備動作が長い上にその間は動けないって問題があるんだが、発動すると攻防共に凄まじい上昇効果を受けられる。
ただし、使う奴の技量によっては、立ち昇る『
その証拠に、ソレが魔法を撃ちまくり、視線による攻撃を繰り返しているが、全てオーラに阻まれてベヤヤには届いていない。
そして、遂に、ソレがベヤヤの目の前に到達した。
「ゴァァァァァッ!!」
ベヤヤからしてみれば、ただ力を籠めてぶん殴った、ただそれだけの事である。
ヂリンッと、今までの澄んだ音とは違う鈍い音が響き、ソレの体を圧倒的なオーラによる暴力が通り抜けていく。
当たり前の事だが、『闘気纏い』で振り抜いた拳から繰り出された威力は、通常よりも遥かに強力になる。
ベヤヤの放った拳の一撃は、ソレの全身を一瞬で消し飛ばしただけでは飽き足らず、延長線上にあった墓や地面、果ては、王都を長年守っている巨大な石壁すらも消し飛ばしていた。
「ガァ!(ヨシッ!)」
相手が吹き飛んだのを見て、ベヤヤは喜んでいるようだが、俺は別の意味で頭を抱えた。
なお、当然、大騒ぎになったのは言うまでもないよな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます